2019年07月01日
雑感。6月日銀短観と自由貿易
G20で「自由貿易の基本原則を確認」とした安倍首相が、その舌の根も乾かぬうちに韓国への徴用工判決に対する対抗措置を発表しました。韓国に対する優遇を外す、というだけなので、自由貿易とは関係ない、とでも考えたのなら早計です。そもそも特定の国に優遇を与えていること自体が、それを受けられない国からみれば特権であり、自由貿易の原則から外れるのです。そして日本が貿易を外交の道具にする、と見なされれば、日本の自由貿易の姿勢にも疑義が生じるので長期的にもマイナスでしょう。韓国がWTOへの提訴をチラつかせますが、負けたら日本が2連敗となる。何でそんな賭けを、このタイミングでするのかもわからない。外交オンチの安倍政権が立てた戦略、相変わらずのチグハグ感で、正直首を傾げざるを得ません。
6月日銀短観、大企業製造業の現状判断DIは7と前回より5pt悪化です。中小企業も-1と7pt悪化するなど、日本の製造業の低迷が顕著です。5月の鉱工業生産指数が105.2と2.3%上昇し、小康とみられただけに意外な数字です。ただ6月は低下する見通しでしたし、そもそも在庫の積み上がりが寄与しているとみられ、消費税増税前の駆け込みを想定した動きもあり、その押し上げがあっても大して寄与しなかった。また先行き判断DIは大企業で横這い、中小企業で4pt下落など、製造業には当面、期待できないことが分かります。
非製造業では大企業の現状判断DIは23と前回より2pt改善、中小企業は10と2pt悪化です。これを受け、内需が底堅いなどという人もいますが、大きく上昇したのは物品賃貸と宿泊・飲食です。つまりGW特需と夏休み期待が乗っかった。卸売りと小売りも改善はしていますが、不動産が悪化しており、増税前の駆け込みとも考えにくい。先行き判断DIをみると、大企業が6pt悪化、中小企業が7pt悪化するなど、9月でも駆け込み需要がのりそうですが、そうでないと判断していることになる。日本経済は瀕死の状態で、安倍政権は増税を模索している。外交オンチであり、経済オンチであることが、この時点でも明らかです。
ナポレオンと同じ時代に活躍した独国人のフィヒテは、通商と交易によって平和が保たれるのではなく、諸国家の衝突する商業利益が諸々の戦争の本当の原因、とする『封鎖商業国家論』を著述したことで有名です。国民は国産品を是とし、もし外国産品が欲しい場合でも、内製によってそれを賄うべき、とします。彼が傾倒したカントが、『永久平和のために』で通商と交易による国際平和をめざしたのとは、真逆の態度といえます。
カントは永久平和の条件として、常備軍の撤廃、民主的な法治国家、国際法、国際平和機関だとしましたが、その中の常備軍の撤廃ができていないから、世界は混乱状態にあるのか? それとも民主的な法治国家とは名ばかりだからなのか? 国際法に抜けがあるからか、国際平和機関が有名無実化しているせいか。いずれにしろ永久平和とは程遠い世界だということは、間違いないでしょう。その結果、自由貿易すら形骸化し、フィヒテ流の封鎖商業国家をめざす国が増えている現実が、哲学に現実が近づくような印象すら与えます。
むしろ日本は(名目上)常備軍はないのですが、民主的な法治国家という点に疑義があるため、フィヒテ流の方針に近づいている、といえるのかもしれません。フィヒテの時代は英仏の圧力にさらされ、独国が厳しい時代であり、フィヒテは反動分子といった側面でみられがちで『ドイツ国民に告ぐ』などをみると、独国民を礼賛して反ユダヤ主義を唱える、ナチスの先駆と捉えられることもあります。ただ、教条主義に陥ると似た主張になるという点では、興味深いといえます。世界が今、封鎖商業国家になろうとする中、日本もそれに倣うのは政権の態度としては整合的といえ、その点でも興味深いといえるのでしょうね。
6月日銀短観、大企業製造業の現状判断DIは7と前回より5pt悪化です。中小企業も-1と7pt悪化するなど、日本の製造業の低迷が顕著です。5月の鉱工業生産指数が105.2と2.3%上昇し、小康とみられただけに意外な数字です。ただ6月は低下する見通しでしたし、そもそも在庫の積み上がりが寄与しているとみられ、消費税増税前の駆け込みを想定した動きもあり、その押し上げがあっても大して寄与しなかった。また先行き判断DIは大企業で横這い、中小企業で4pt下落など、製造業には当面、期待できないことが分かります。
非製造業では大企業の現状判断DIは23と前回より2pt改善、中小企業は10と2pt悪化です。これを受け、内需が底堅いなどという人もいますが、大きく上昇したのは物品賃貸と宿泊・飲食です。つまりGW特需と夏休み期待が乗っかった。卸売りと小売りも改善はしていますが、不動産が悪化しており、増税前の駆け込みとも考えにくい。先行き判断DIをみると、大企業が6pt悪化、中小企業が7pt悪化するなど、9月でも駆け込み需要がのりそうですが、そうでないと判断していることになる。日本経済は瀕死の状態で、安倍政権は増税を模索している。外交オンチであり、経済オンチであることが、この時点でも明らかです。
ナポレオンと同じ時代に活躍した独国人のフィヒテは、通商と交易によって平和が保たれるのではなく、諸国家の衝突する商業利益が諸々の戦争の本当の原因、とする『封鎖商業国家論』を著述したことで有名です。国民は国産品を是とし、もし外国産品が欲しい場合でも、内製によってそれを賄うべき、とします。彼が傾倒したカントが、『永久平和のために』で通商と交易による国際平和をめざしたのとは、真逆の態度といえます。
カントは永久平和の条件として、常備軍の撤廃、民主的な法治国家、国際法、国際平和機関だとしましたが、その中の常備軍の撤廃ができていないから、世界は混乱状態にあるのか? それとも民主的な法治国家とは名ばかりだからなのか? 国際法に抜けがあるからか、国際平和機関が有名無実化しているせいか。いずれにしろ永久平和とは程遠い世界だということは、間違いないでしょう。その結果、自由貿易すら形骸化し、フィヒテ流の封鎖商業国家をめざす国が増えている現実が、哲学に現実が近づくような印象すら与えます。
むしろ日本は(名目上)常備軍はないのですが、民主的な法治国家という点に疑義があるため、フィヒテ流の方針に近づいている、といえるのかもしれません。フィヒテの時代は英仏の圧力にさらされ、独国が厳しい時代であり、フィヒテは反動分子といった側面でみられがちで『ドイツ国民に告ぐ』などをみると、独国民を礼賛して反ユダヤ主義を唱える、ナチスの先駆と捉えられることもあります。ただ、教条主義に陥ると似た主張になるという点では、興味深いといえます。世界が今、封鎖商業国家になろうとする中、日本もそれに倣うのは政権の態度としては整合的といえ、その点でも興味深いといえるのでしょうね。
この記事へのコメント
1. Posted by 知廉 2019年07月02日 01:07
カントは、アイロニーではなく真面目な態度として、常備軍の撤廃や国民国家の主権譲渡による世界政府の成立の条件を問うていると思います。
啓蒙主義と言われますが、それは、人々が道徳的に啓蒙される事で、永久平和が実現されるという話しでは決してありません。
彼が非社交的社交性と呼ぶ戦争、それもカタストロフ的な世界大戦を経験する事で、自然史的に実現される来たるべき世界ということなのだと思います。
黙示録的な革命というか、マルクスの共産主義にも近い理念なのかもしれません。
まあ、かなり文学的でニヒリズムにも近接してしまいそうですが、哲学的な理念としては面白いと思います。
啓蒙主義と言われますが、それは、人々が道徳的に啓蒙される事で、永久平和が実現されるという話しでは決してありません。
彼が非社交的社交性と呼ぶ戦争、それもカタストロフ的な世界大戦を経験する事で、自然史的に実現される来たるべき世界ということなのだと思います。
黙示録的な革命というか、マルクスの共産主義にも近い理念なのかもしれません。
まあ、かなり文学的でニヒリズムにも近接してしまいそうですが、哲学的な理念としては面白いと思います。
2. Posted by 介護福祉士・時々立憲民酒党の代表 2019年07月02日 08:01
何故、今なのか…これも安倍信者に対するパフォーマンスだと思います。あと参院選に対するパフォーマンスでしょう。
3. Posted by 管理人 2019年07月02日 23:03
知廉 さん、コメント有り難うございます。
カントは『啓蒙とは何か』などの著述もありますから、啓蒙主義とみなされることもありますが、どちらかといえば理系への傾倒、自然科学研究にみられるように、系統立てた理論的な面が強く、本気で世界への平和を考えた結果、となるのでしょうね。ただ『永久平和のために』が、彼の晩年の作であり、彼は少しずつ思想を補完しながら社会との整合を図った面を考え合わせると、当時の社会として達成されるべき永久平和の形、として考えるのがよいのかもしれませんね。
個人的にはマルクス的というより、やはり啓蒙主義的な部分が強く、彼が述べる『善い意志』の実現をめざすための形でもあるのかな、と感じます。ドイツ哲学では欠かせない人物ですが、その清廉な態度からも、未だに愛好家が多いことも頷けますね。そのカントにみとめられ、世に出たフィヒテも封鎖商業国家を、啓蒙認識よって達成しようという意図が透けてみえるので、ドイツ観念論の初期には、カントやフィヒテのような啓蒙が重要視されており、その枠からは抜け出ていないのかもしれませんね。
ただ現実の世界では、やはり本当の自由であったり、平和というのは皮肉の中でしかないのですから、そういう意味では哲学に現実が近づこうと、最終的な意味での答えはだせない、ということかもしれませんね。
カントは『啓蒙とは何か』などの著述もありますから、啓蒙主義とみなされることもありますが、どちらかといえば理系への傾倒、自然科学研究にみられるように、系統立てた理論的な面が強く、本気で世界への平和を考えた結果、となるのでしょうね。ただ『永久平和のために』が、彼の晩年の作であり、彼は少しずつ思想を補完しながら社会との整合を図った面を考え合わせると、当時の社会として達成されるべき永久平和の形、として考えるのがよいのかもしれませんね。
個人的にはマルクス的というより、やはり啓蒙主義的な部分が強く、彼が述べる『善い意志』の実現をめざすための形でもあるのかな、と感じます。ドイツ哲学では欠かせない人物ですが、その清廉な態度からも、未だに愛好家が多いことも頷けますね。そのカントにみとめられ、世に出たフィヒテも封鎖商業国家を、啓蒙認識よって達成しようという意図が透けてみえるので、ドイツ観念論の初期には、カントやフィヒテのような啓蒙が重要視されており、その枠からは抜け出ていないのかもしれませんね。
ただ現実の世界では、やはり本当の自由であったり、平和というのは皮肉の中でしかないのですから、そういう意味では哲学に現実が近づこうと、最終的な意味での答えはだせない、ということかもしれませんね。
4. Posted by 管理人 2019年07月02日 23:09
介護福祉士・時々立憲民酒党の代表 さん、コメント有り難うございます。
安倍氏が「自由貿易が大切」ではなく、「貿易は外交の武器になる」と言っていれば、とても整合的なのですが、そうでないから矛盾が生じる。特に今回、菅官房長官が「信頼関係が崩れたから」と述べており、要するに信頼関係を崩す→徴用工問題→制裁、という構図が現れてきます。この場合、WTOでみとめられない可能性があり、日本が敗訴する恐れが強いのですね。それでも今回の制裁に至ったのは、参院選前の保守層へのアピールでしょう。
日本への影響は軽微、という人もいますが、韓国経済が失速すれば、軽微どころでは済まず、それこそアジア通貨危機の再燃という恐れもでてくる。結果的に、韓国が中国へと接近し、中国マネーで復活するとなると、朝鮮半島の構図さえ変化する可能性がある。そこまでの想像力もないからこそ、安倍政権はこんなバカげたことも平気でできてしまう、というのが残念な点なのでしょうね。
しかし一般人に対しては、日本も結局はトランプ氏を責められない、貿易を武器につかう国だ、という認識が高まり、逆効果でしかありません。まぁ、そこまでの想像力もないから、こんなことをして喜ぶぐらいのことしか安倍政権はできない、ということかもしれませんね。
安倍氏が「自由貿易が大切」ではなく、「貿易は外交の武器になる」と言っていれば、とても整合的なのですが、そうでないから矛盾が生じる。特に今回、菅官房長官が「信頼関係が崩れたから」と述べており、要するに信頼関係を崩す→徴用工問題→制裁、という構図が現れてきます。この場合、WTOでみとめられない可能性があり、日本が敗訴する恐れが強いのですね。それでも今回の制裁に至ったのは、参院選前の保守層へのアピールでしょう。
日本への影響は軽微、という人もいますが、韓国経済が失速すれば、軽微どころでは済まず、それこそアジア通貨危機の再燃という恐れもでてくる。結果的に、韓国が中国へと接近し、中国マネーで復活するとなると、朝鮮半島の構図さえ変化する可能性がある。そこまでの想像力もないからこそ、安倍政権はこんなバカげたことも平気でできてしまう、というのが残念な点なのでしょうね。
しかし一般人に対しては、日本も結局はトランプ氏を責められない、貿易を武器につかう国だ、という認識が高まり、逆効果でしかありません。まぁ、そこまでの想像力もないから、こんなことをして喜ぶぐらいのことしか安倍政権はできない、ということかもしれませんね。