ハリー・クリストファーズ指揮ザ・シクスティーンの演奏で、旧約聖書の「サムエル記」に基づくヘンデルのオラトリオ「サウル」を聞いているが、素晴らしく感激する作品と演奏。

オペラ・セリア並みに劇的な展開が台本と音楽によって表現されており、傲慢で嫉妬深く怒りの収まらないイスラエルの王サウル(クリストファー・パーヴズのバス)、ペリシテ人との戦いで英雄としての功績を果たしたダビデ(セアラ・コノリーのメゾソプラノ)、サウルの二人の娘、息子、それぞれの個性の違いが際立っており、生々しい人間のドラマを見せられる。それぞれの人物がレチタティーヴォとアリアを次々と交代させ、目まぐるしく変化する喜怒哀楽が歌と音楽で盛り上がる。

人々からの評価が自分よりも高いダビデに対するサウルの激しい怒り、高潔なダビデ、サウルの息子でやたらダビデが好きなヨナタン、ダビデに対しては対照的な態度を示すサウルの娘メラブとミカルなど、それぞれの性格を独唱陣は鮮やかに歌い上げているし、オーケストラの音楽も壮大。そもそもの編成が豪華で、珍しくカリヨンが導入され、合間のシンフォニアがちょっとサザエさんのBGMみたいな雰囲気を醸し出している。金管はトランペット2本の他にトロンボーンが3本も入っている。ダビデは竪琴を奏でるので、ハープも登場。

ルース・スミスが解説で書いているが、17・18世紀イギリスにおける王位継承をめぐる争いがこのオラトリオの主題の背景にあるようだ。そこを歴史的になぞらえながら聞く面白さもあるだろうし、その知識がなくても、また旧約聖書の知識がなくても(そもそもオラトリオにおいては元の話に改変を加えることも珍しくない)、台本・演奏ともに演劇的に生き生きとしたものなので、CD3枚分の演奏に飽きずに聞き入ることができる。

個人的には、戦いの勝利を祝う合唱曲や怒り続けるサウルのアリア、また、終わりの方であっけなくサウルとヨナタンが死に、その後しばらく続く悲嘆の合唱とアリアの中、ダビデが歌う悲しみがヨナタンだけに向けられてサウルを無視しているのとかも面白い。魔女が預言者サムエルを呼び出す場面もある。