MAGNA HISTORIA

カテゴリ: 文学



読んだ。良かった。

何やら辛いことを抱えて帰宅した女性、辛くて悔しくて悲しくて、もう死にたいのだが、死神はそんな彼女を容易に死なせてはくれない。通り一遍の慰めの言葉もかけられるが、そんな生温い言葉は強い希死念慮を抱く彼女には通用しないし、その言葉の生温さに反駁する彼女の言葉の方が説得力がある。

死神は壁のすぐ向こうに存在し、彼女のすぐ近くにいるのだが、その壁は薄いようで決して破れず、彼岸に渡ることはできない。最後、とりあえずは少し冷静さを取り戻して彼女は眠りに就くが、果たしてこの「やさしい死神」が何か救いをもたらしてくれているのかというと、この本にもしも救われる読者がいるのならそれはそれでよいけれど、私には残念ながら結末が物足りなかった。結末の前までは割と好感が持てるのだが、結局、薄い壁の向こうに死神は寄り添っているのかもしれないが、さんざん泣いて怒って静かになって眠る彼女の問題は何も解決されていないし、死神が彼女の考えを変える何かを与えたようにも思われないし、最近はやりのように言われる「認知の歪み」といったものが修正されているようにも思えず、これではまた同じような問題が再発してしまわないだろうか、と思ったのだ。それなら果たしてこの死神は本当に「やさしい」のか。これからも過酷な人生を歩むことを止めさせてはくれないのだ。

主人公が常に死を思うことで死神と共にいる、それによってつまりは孤独ではない、ということになるのか……生きづらさを抱えながらもなお生きなければならない人々に、この本の結末で何かが与えられたらという期待があったのだが、私にはどうしても希望らしきもの、あるいは、この辛さとうまく付き合うヒントのようなものが見出せなかったので、そこが残念だった。だけれど、その前までのこの辛い人生の不条理と必死に戦ってきた、それでその辛さから絶望に泣き、怒る女性の主人公の描き方には大変心打たれる部分が多く、また、決して多くない言葉ながらも、必要十分な言葉によって主人公の思いがしっかりと伝わるように表現されているところがよかった。

印象に残る、大人の絵本であった。
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シュールレアリスムとして語られることの多いジュリアン・グラックのデビュー作を読んだ。シュールレアリスムのイメージを持って読んでも、ブルトンの小説よりもわかりやすく、自動筆記のような連想が働いて文章が展開するのではなく、表現しようとするイメージははっきりしており、そのための比喩が重ねられているという印象であった。冒頭からしばらくは風景描写がひたすら続き、意識の流れのような心地で幻想的な風景とこの作品の舞台となる城の様子が示される。そして、夢幻的光景の中で、主人公を含めた男性二人と女性一人の三角関係がもつれていき、悲劇的な結末に向かう。

具合の悪いときに、なぜか横になりながらこれをずっと集中して読んでいた。なぜかわからない。
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前作『夜にはずっと深い夜を』はページ全体が真っ黒になっているところが多かったため、ページをめくるのに皮脂がつくのが目立って気になるという欠点があった。それこそ、生写真を扱うような手つきで文庫本を読まねばならないから大変だった。それが今回改善された。凝った模様は施されているが、白くなった。

鳥居みゆきさんのお笑いネタ風の挿話もあるが、全体的には前作よりも幻想的な怖さが増しているように感じ、一日集中して読み耽った。ある人間のエピソードを語った後、今度はそこに現れた脇役の物語があり、さらにその中の脇役のエピソードが繋がったりと、網の目のように不気味な出来事が繋がっていく。鳥居さんはあらかじめ全体図を構想してからこの作品を書くのだろうか、それとも数珠つなぎのように書きながら繋がっていくのだろうか、色々な伏線が次々と回収されていく手際が見事だと感じた。
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なぜか最近この本を読んでいた。無意識のうちにこの本を取る心境だったのだろうか。

主人公ムルソーが、この世のなにもかも無意味と感じるその意識が徹底している。母が亡くなっても涙は流れず、翌日には海水浴に行ってしまう。無欲ではないので、好きな女性もいるのだが、だが、それも一体なんだというのか。事件を起こし、処刑を待ち、そして最後に激して発する彼の言葉に宿る説得力。彼の行動に一貫した動機を結び付けようと無駄な努力をする法律家や聖職者はイラつくばかりだが、ムルソーがこれほどまでこの世界を無意味と思うことがそんなに異常で不条理なのかというと、そんな言葉で片づく問題じゃないだろう。

生きることに空虚を感じている時に読むといいかもしれない。
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可愛らしいアニメ絵の表紙であるが、そして表題作は元々『ラブライブ!』を下敷きにした作品であるが、中身はドロドロ、原始的な生命のグロテスクな動き、捕食活動、そういった描写や科学蘊蓄だらけである。「実存主義的ワイドスクリーン百合バロックプロレタリアートアイドルハードSF」と書いてあるけれど、この原始的な生命活動の描写に百合とかアイドルという言葉から通常連想される雰囲気はほとんどなくて、非常に気持ち悪かった。が、この蘊蓄はすごい。それは確か。

他に収録されている「エヴォリューションがーるず」は「けものフレンズ」が下敷きにあり、声優を主題に取り上げている「暗黒声優」も収められている。どれもみな、元のモチーフは細胞レベルまで徹底的に解体され、別次元の世界へ行っている。

その理論的説明は圧倒的なので、そこは凄いけれど、かなりそのような蘊蓄重視であるのと、なにぶんグロテスクなのが辛かった。
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ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))
H・P・ラヴクラフト
東京創元社
1974-12-13



ラヴクラフトの名前を最初に覚えたのは大学生くらいの時だと思うのだが、実際に読む気になったのはここ数年のこと。クトゥルー神話云々というイメージができてきたのも、実際に読む前に、本田透氏の著作の中で言及されているのを読んでからだったと思う。その後、『這いよれ! ニャル子さん』が話題になって、知人らがその話をしているのを見かけたりするうちに、実際読んでみようかなと思うようになった。

好きな人は凄くはまっているラヴクラフト作品だし、その世界が神話化されて次々と色々な人達の創作に影響を及ぼしているのはわかる、が、自分がそこまで耽溺できるかというと、そういう感じでもない。が、しばらく読み続けてはみようと思っている。別個の作品それぞれに通底する世界観があって、たくさんの物語の断片が増殖して、壮大な神話化を遂げる仕組みは興味深い。

とりあえず、創元推理文庫の全集一巻を読んだ感じだと、この中では「インスマウスの影」が一番よかった。不気味な町で異形の存在に常に追われ続け、そこからの脱出劇がサスペンスとしてハラハラさせるものがある。
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読んだ。この頃はまだ震災間もない頃だったんだな。
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待たな終末―高橋睦郎歌集
高橋睦郎
短歌研究社
2014-10



以前『短歌研究』誌で本書が紹介されているのを読んで気になって購入、興味深く読んだ。私好みな作風が多く含まれていた。

12の章に分かれており、それぞれ『短歌研究』などの短歌誌を初出とするもの。気が付いたところを少し述べておく。

冒頭の章「歌さやぎ立つ」は父母への不信感が非常に強く、その中には残酷に子を殺す兎を読んだ歌もあった。その不信感がどこから来るのかを説明する体験として読めたのが「われには言葉」という章で、幼くして親を失ったトラウマが色濃く歌われている。そのように繋げて読むことがどこまで妥当なのかはわからないが、父母への呪詛をなぜここまで、という疑問が後者によって少し納得したのであった。

本書全体的に作者の非常に深い教養が滲み出ていて、衒学的でもあるのだが、西洋古典文学や歴史への造詣がスケールの大きな世界観を作り上げている。先の二つの章の間にある「時ぞ來迎ふ」など、人類史的規模の世界の中で歌っている。そして、中には私が前から考えていたことと近いことを詠み込んだものもあって、驚くこと幾たびかあった。

大学生の頃から私も短歌は詠んでいるが、所詮趣味程度のもので、大した何かを成し遂げるわけでもなく、またこの歌人のような語彙力も持ち合わせていないのだが、それでも「宙ただよへり」のような章の作品は、私が以前新人賞に応募した際の作品テーマに近いものがあって、僭越ながら、歌に詠む対象として興味・関心に類縁性があるのかもしれない、と思ったのであった。

自分自身と共有できる興味が多く、また気付くところ豊富で、面白く読んだ。
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そろそろ今年も終わるので、今年読了した本を振り返ってみた。特に良いなと思った3冊を絞ってみると、以下の通り。以下の番号は順位ではなく、順番を振っているだけ。


1.



ヴェールに隠された真理、というお決まりの表現は昔からずっとあるのだけれど、その起源から時代を経て変遷していく流れが簡潔に分かりやすく論じられ、ヴェールと真理の関係はとても興味深いテーマだと感じた。色々な分野と繋がる問題で、凄く示唆に富む一冊だった。


2.



これを書店で見つけて、中を開いた時はわくわくした。装丁が衝撃的なのはもちろんそうだが、中身も知的興奮を覚える作品が収められていて、同時に趣味的に合うところ多々あった。


3.



イギリスの小説というと18、19世紀の作品を読むことが多いのだが、珍しくロレンスの短編集を読んだところ、その時代の小説には望めない細やかな描写が多く、感心した。波乱万丈の大冒険が展開するわけではないが、現実的な生活の中にあり得る感情的な起伏が、ちょっとした言葉のやり取りや動作によって細やかに伝わってくる。その巧みさを改めて感じた。こういうのはやっぱり20世紀以降の文学にならないと難しいな、と感じた。だから、読んでよかったと思う。

他にもまあまあ面白かった本とか、考え方になるほどと思う哲学系の本などもあるのだが、面白さや知的満足感など総合的に判断して特に印象的な3冊を上げてみた。

さて、来年は何が読めるかね。
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「鴉」の制作過程を開陳して有名な「詩作の哲学」を含むポオの評論を9編集めたもの。ポオは雑誌の編集を務めて多くの書評も書いているのだが、結構な皮肉や辛辣な批評が含まれている。

「某氏への手紙」はコールリッジを称賛する一方で、ワーズワスは説教臭くて若い頃の情熱を振り返るばかりであるところを痛烈に批判。これは面白かった。

また、ディケンズ、ロングフェロー、ホーソーン、フェニモア・クーパーなど個別の作家、作品の書評を通してポオの審美眼に適う作品とはどういうものなのか、そしてそこからポオ自身の作品の理念も見えてくる。

文学論として一番面白かったのは「詩作の哲学」であった。詩は真実を語るのにふさわしいものではなく、美を表現するもの、とはっきり言明。最良の詩の長さ、テーマ、韻律などを語り、「鴉」は全て計算に基づいて最大限の効果を表すように書かれている、ということだが、そこまで本当に理詰めで書いたのかどうかと疑いたくなるくらい、完璧な計算通りに書いたという。
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