2017年04月10日
【舞台】 野良女(2017)
セックス飢餓、DV、不倫、歳の差交際、リストカット、元カレとの遠距離恋愛…。これでもかとばかりアラサー女の荒れ地での奮闘が描かれる舞台「野良女」。あまりの過酷な現実に放心状態の観客もいたが、私にはこれらが極端なケースだとは思えない。異性である女性とも性的なことも含めてぶっちゃけ話ができてしまう因果な性格のためかどうか、これらの諸問題をそれぞれひとつずつ抱える女性がこれまでの友達の中にいるので、現実に女性の身の上に起きていることだという切迫感があるのだ。男性の私でさえそうなのだから、女性にしたらあまりにも現実感があって感情が激しく揺さぶられるのではないだろうか。極端すぎたり、そこまで言うかという部分もあったりして笑ってしまうところもあるものの、全編を通してリアルがぐいぐいと突きつけられている真実味にあふれ、なおかつそこを乗り越えていこうとする「女」という生きもののたくましさ、そして幸せと不幸の単なる反転だけではない愛の乗りこなし方になぜか勇気までもらえる力強い作品に仕上がっていて秀逸だ。たった5日間の短い公演期間だったが、間違いなく今年の得がたい収穫のひとつになるだろう。
舞台「野良女」は4月5〜9日に東京・新宿1丁目のシアターサンモールで上演された。公演はすべて終了しています。
★舞台「野良女」の一場面。演劇的な工夫と趣向がいっぱい(提供写真)

【写真転載・無断使用厳禁】=ダウンロードできません
★舞台「野良女」公式サイト=公演はすべて終了しています
この舞台が成功を収めた背景には、はっちゃけたアラサー女たちを全編あふれる女優魂で表現し続けた佐津川愛美、芹那、沢井美優、深谷美歩、菊地美香の奮闘があることは明らかだ。
佐津川はキュートであどけないルックスで早くから注目されてきたが、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』や主役を務めた『渋谷』などの映画の例を挙げるまでもなく、屈折した部分を持ったくせのある役柄でその真価を発揮してきた演技派。沢井も「セーラームーン」などでの活躍をベースにさまざまな人生を生きる女性の悲しみや喜びを繊細に表現してきた実力を持ち、なおかつフレッシュな魅力も失っていない女優である。深谷は新国立劇場演劇研修所が生んだ期待の星であることは周知の事実だが、さらなる進化を目指して演技を磨いている逸材だ。菊地は「アニー」出身で「レ・ミゼラブル」にもメインキャストの一人として出演経験もあってミュージカルの王道を歩く一方、「デカピンク」として戦隊ものでも活躍する演技の幅を持つ。芹那は唯一無二のアイドルとしてのブレーク期を経て、舞台での活躍が続く注目の存在だ。
それに加えて注目しておかなければいけないのが、スタッフ陣の充実ぶりである。原作はドラマ化された「校閲ガール」や映画化された「花宵道中」などで知られる宮木あや子、脚本は「奇跡の年 ANNUS MIRABILIS」「解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話」の立て続けの公演で注目を集め直近の第61回岸田國士戯曲賞にノミネートされた演劇ユニット「趣向」の主宰オノマリコ、演出は30歳という若さで文学座の演出家として頭角を現している稲葉賀恵なのだ。
音楽を劇団鹿殺しの劇団員俳優で作曲家でもあるオレノグラフィティが務めていることも話題で、さらに言えば、文学座で初舞台を踏んだばかりの俳優でテレビでも活躍の場を広げている注目の池田倫太朗も、唯一の男性キャストとして「出演」している。
つまりキャスト、スタッフともに演劇好きの心を嫌というほどくすぐってくれる強力な布陣なのである。
物語に登場するのは、友達だったり先輩後輩だったりする5人の女たち。微妙な差はあるが、みんな30歳前後のアラサーだ。
★舞台「野良女」の一場面。週末ごとに集まる居酒屋がぶっちゃけトークの発信地(提供写真)

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鑓水清子(佐津川愛美)は、大学卒業後、就職できずに派遣社員をしている。2年間もセックスができていないのが悩みで、本人によれば「股間に苔が生えている」もよう。
桶川慶子(芹那)は、生命保険のセールスレディをしているが、どうやら彼氏からDVを受けているようで、いつもあざを作っている。不思議と不幸せそうには見えないのがアンバランス。
佐藤朝日(沢井美優)は、実家が裕福で、大学のミスコンは3連覇。現在は秘書として働き、すべてが完璧に見える。しかし最初の結婚には失敗していて、今は彼氏を掛け持ち状態。愛の不安定さが気になる存在だ。
壷井頼子(深谷美歩)は、正社員採用されて半年。仕事のなにもかもに振り回され、早くも転職を考えている。見合いもしているが、カナダ在住の元カレのことが忘れられない。ワーキングホリデーでカナダに行くにはもうあまり時間がない。30歳までしか行けないからだ。
横山夏実(菊地美香)は派遣社員としてがんばっているが、結婚していないと言い張っている彼氏が実は妻持ちだということに気付きながらも「不倫」を続けるトホホな状態。たくましそうに振舞っているが、手首の傷は不安定な精神を物語っている。
こんな5人がそれぞれに繰り広げる様々な愛の形が描かれていく。
鑓水は会社に出入りする他社の男性が気になるし、桶川はDVをやめない男性との関係性に悩んでいる。佐藤は姑で失敗した経験から彼氏の条件は「ママが死んでいてお金がある人」となるためどうしても歳の離れた男性と交際することになり、横山は不倫相手との不毛な日々に悩みを深め、壷井は局面を打開するのが自分の決断であることを分かっていながら迷いの中にいる。
★舞台「野良女」の一場面。桶川は明らかにDVに苦しんでいるのだが…。左から芹那、沢井美優(提供写真)

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とにかく、これらの愛が全編本音本音で描かれていくため、直截的な言葉のオンパレードになる。前出の「股間に苔」などカワイイ方で、「セックス」や「ヤリチン」などの言葉がパシパシと明滅し、女性のやりたい気分がほとんど遮断壁なしに舞台から客席へと飛び出してくる。
あこがれの女優が吐き出す言葉に照れて赤くなっている男性や、のめり込み過ぎて目から透明な液体が出ていることに気付かない女性もいて、客席に座る観客の心は舞台上以上に阿鼻叫喚の嵐。
佐津川は中でも、最もエロチックな言葉を吐き続ける役柄で、いきなり「セックスを2年もヤッテいない」鑓水の飢餓的窮状を訴える。ふつうどれほど演技だと割り切っていても、露骨なせりふを吐き続けると自分自身を傷つけてしまいかねない女優ならではのデリケートな心の動きがあるが、佐津川は度胸が据わっている。まるで自分自身を奮い立たせるように攻撃的に心の叫びを言葉にする。
★舞台「野良女」の一場面。鑓水の悩みは深い。左から深谷美歩、佐津川愛美、沢井美優(提供写真)

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沢井は、言葉のエロさというよりも、佐藤という役柄が持つ爆発的な女性性を体全体で炸裂させる。秘書っぽい派手な色遣いのミニで悩殺する姿にどぎつさを少しも抱かないのは、彼女自身が俳優として持つそこはかとない気品のせいか、それとも攻めているようでいてどこか人生に対して余裕を持っている佐藤朝日という役の持つ色合いのせいか。きっと両方が作用しているのだろう。
芹那は、地味な服が好きであまり性格も明るくない桶川という役柄もあって目立たない装いをしているが、女優として持つ華やかなエネルギーと隠しようもなくうかがえるスタイルの良さもあって、暗さだけが印象づかない。桶川がひどくねじれた状況からでも希望と呼べるものを見出していこうとする突破口を感じさせている。途中淫靡な魅力を醸し出す場面もあり、演技力の成長がうかがえた。
深谷は、5人の中では一番しっかりした性格の壷井を、強さの中に弱さも重ねながら造型している。そしてふとした瞬間を笑いに変えられるテクニックを持っているように見える。それはコメディエンヌだと言っているのではなく、人生の機微がそのまま笑いに転換、変換できる間の使い方やせりふの出し入れの間合いがもたらすものだろう。これは演出家との関係性の良さも影響しているのかもしれない。
菊地は、一番女性らしいものの、どこか一番危なっかしい決断を下してしまいそうな横山のタイトロープのような生き方を具体的な演技で積み重ねていく。この物語の核になっている5人の「友情」が最も交錯する場所にいる横山をきちんと構築してこそ、この物語は輝く。そこを菊地は丁寧に表現している。
★舞台「野良女」の一場面。苦しんでいる友達をどう救うかもひとつのテーマ。左から佐津川愛美、菊地美香(提供写真)

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それぞれの役柄の性の渇望は、マイクパフォーマンスで叫ぶようにして繰り広げられるほか、ホテルや彼氏の部屋などでの「行為」はなぜか実況中継されていたりもする。それに2人以上の心の葛藤や動きが同じ舞台の上で同時進行したり、男性の存在は洋服を作るときに着せる胴体だけが垂直のパイプにつけられた「トルソー」を黒子が操る形で表現されていたりするなど、演劇的な実験精神も活かしながら展開させている部分も多く、演劇の舞台としてもさまざまな仕掛けが楽しめる作品になっていたことも付け加えておきたい。
★舞台「野良女」の一場面。男性はトルソーで象徴させている(提供写真)

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舞台「野良女」は4月5〜9日に東京・新宿1丁目のシアターサンモールで上演された。公演はすべて終了しています。
上演時間は、1時間54分(休憩なし)。
舞台「野良女」は4月5〜9日に東京・新宿1丁目のシアターサンモールで上演された。公演はすべて終了しています。
★舞台「野良女」の一場面。演劇的な工夫と趣向がいっぱい(提供写真)

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★舞台「野良女」公式サイト=公演はすべて終了しています
この舞台が成功を収めた背景には、はっちゃけたアラサー女たちを全編あふれる女優魂で表現し続けた佐津川愛美、芹那、沢井美優、深谷美歩、菊地美香の奮闘があることは明らかだ。
佐津川はキュートであどけないルックスで早くから注目されてきたが、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』や主役を務めた『渋谷』などの映画の例を挙げるまでもなく、屈折した部分を持ったくせのある役柄でその真価を発揮してきた演技派。沢井も「セーラームーン」などでの活躍をベースにさまざまな人生を生きる女性の悲しみや喜びを繊細に表現してきた実力を持ち、なおかつフレッシュな魅力も失っていない女優である。深谷は新国立劇場演劇研修所が生んだ期待の星であることは周知の事実だが、さらなる進化を目指して演技を磨いている逸材だ。菊地は「アニー」出身で「レ・ミゼラブル」にもメインキャストの一人として出演経験もあってミュージカルの王道を歩く一方、「デカピンク」として戦隊ものでも活躍する演技の幅を持つ。芹那は唯一無二のアイドルとしてのブレーク期を経て、舞台での活躍が続く注目の存在だ。
それに加えて注目しておかなければいけないのが、スタッフ陣の充実ぶりである。原作はドラマ化された「校閲ガール」や映画化された「花宵道中」などで知られる宮木あや子、脚本は「奇跡の年 ANNUS MIRABILIS」「解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話」の立て続けの公演で注目を集め直近の第61回岸田國士戯曲賞にノミネートされた演劇ユニット「趣向」の主宰オノマリコ、演出は30歳という若さで文学座の演出家として頭角を現している稲葉賀恵なのだ。
音楽を劇団鹿殺しの劇団員俳優で作曲家でもあるオレノグラフィティが務めていることも話題で、さらに言えば、文学座で初舞台を踏んだばかりの俳優でテレビでも活躍の場を広げている注目の池田倫太朗も、唯一の男性キャストとして「出演」している。
つまりキャスト、スタッフともに演劇好きの心を嫌というほどくすぐってくれる強力な布陣なのである。
物語に登場するのは、友達だったり先輩後輩だったりする5人の女たち。微妙な差はあるが、みんな30歳前後のアラサーだ。
★舞台「野良女」の一場面。週末ごとに集まる居酒屋がぶっちゃけトークの発信地(提供写真)

【写真転載・無断使用厳禁】=ダウンロードできません
鑓水清子(佐津川愛美)は、大学卒業後、就職できずに派遣社員をしている。2年間もセックスができていないのが悩みで、本人によれば「股間に苔が生えている」もよう。
桶川慶子(芹那)は、生命保険のセールスレディをしているが、どうやら彼氏からDVを受けているようで、いつもあざを作っている。不思議と不幸せそうには見えないのがアンバランス。
佐藤朝日(沢井美優)は、実家が裕福で、大学のミスコンは3連覇。現在は秘書として働き、すべてが完璧に見える。しかし最初の結婚には失敗していて、今は彼氏を掛け持ち状態。愛の不安定さが気になる存在だ。
壷井頼子(深谷美歩)は、正社員採用されて半年。仕事のなにもかもに振り回され、早くも転職を考えている。見合いもしているが、カナダ在住の元カレのことが忘れられない。ワーキングホリデーでカナダに行くにはもうあまり時間がない。30歳までしか行けないからだ。
横山夏実(菊地美香)は派遣社員としてがんばっているが、結婚していないと言い張っている彼氏が実は妻持ちだということに気付きながらも「不倫」を続けるトホホな状態。たくましそうに振舞っているが、手首の傷は不安定な精神を物語っている。
こんな5人がそれぞれに繰り広げる様々な愛の形が描かれていく。
鑓水は会社に出入りする他社の男性が気になるし、桶川はDVをやめない男性との関係性に悩んでいる。佐藤は姑で失敗した経験から彼氏の条件は「ママが死んでいてお金がある人」となるためどうしても歳の離れた男性と交際することになり、横山は不倫相手との不毛な日々に悩みを深め、壷井は局面を打開するのが自分の決断であることを分かっていながら迷いの中にいる。
★舞台「野良女」の一場面。桶川は明らかにDVに苦しんでいるのだが…。左から芹那、沢井美優(提供写真)

【写真転載・無断使用厳禁】=ダウンロードできません
とにかく、これらの愛が全編本音本音で描かれていくため、直截的な言葉のオンパレードになる。前出の「股間に苔」などカワイイ方で、「セックス」や「ヤリチン」などの言葉がパシパシと明滅し、女性のやりたい気分がほとんど遮断壁なしに舞台から客席へと飛び出してくる。
あこがれの女優が吐き出す言葉に照れて赤くなっている男性や、のめり込み過ぎて目から透明な液体が出ていることに気付かない女性もいて、客席に座る観客の心は舞台上以上に阿鼻叫喚の嵐。
佐津川は中でも、最もエロチックな言葉を吐き続ける役柄で、いきなり「セックスを2年もヤッテいない」鑓水の飢餓的窮状を訴える。ふつうどれほど演技だと割り切っていても、露骨なせりふを吐き続けると自分自身を傷つけてしまいかねない女優ならではのデリケートな心の動きがあるが、佐津川は度胸が据わっている。まるで自分自身を奮い立たせるように攻撃的に心の叫びを言葉にする。
★舞台「野良女」の一場面。鑓水の悩みは深い。左から深谷美歩、佐津川愛美、沢井美優(提供写真)

【写真転載・無断使用厳禁】=ダウンロードできません
沢井は、言葉のエロさというよりも、佐藤という役柄が持つ爆発的な女性性を体全体で炸裂させる。秘書っぽい派手な色遣いのミニで悩殺する姿にどぎつさを少しも抱かないのは、彼女自身が俳優として持つそこはかとない気品のせいか、それとも攻めているようでいてどこか人生に対して余裕を持っている佐藤朝日という役の持つ色合いのせいか。きっと両方が作用しているのだろう。
芹那は、地味な服が好きであまり性格も明るくない桶川という役柄もあって目立たない装いをしているが、女優として持つ華やかなエネルギーと隠しようもなくうかがえるスタイルの良さもあって、暗さだけが印象づかない。桶川がひどくねじれた状況からでも希望と呼べるものを見出していこうとする突破口を感じさせている。途中淫靡な魅力を醸し出す場面もあり、演技力の成長がうかがえた。
深谷は、5人の中では一番しっかりした性格の壷井を、強さの中に弱さも重ねながら造型している。そしてふとした瞬間を笑いに変えられるテクニックを持っているように見える。それはコメディエンヌだと言っているのではなく、人生の機微がそのまま笑いに転換、変換できる間の使い方やせりふの出し入れの間合いがもたらすものだろう。これは演出家との関係性の良さも影響しているのかもしれない。
菊地は、一番女性らしいものの、どこか一番危なっかしい決断を下してしまいそうな横山のタイトロープのような生き方を具体的な演技で積み重ねていく。この物語の核になっている5人の「友情」が最も交錯する場所にいる横山をきちんと構築してこそ、この物語は輝く。そこを菊地は丁寧に表現している。
★舞台「野良女」の一場面。苦しんでいる友達をどう救うかもひとつのテーマ。左から佐津川愛美、菊地美香(提供写真)

【写真転載・無断使用厳禁】=ダウンロードできません
それぞれの役柄の性の渇望は、マイクパフォーマンスで叫ぶようにして繰り広げられるほか、ホテルや彼氏の部屋などでの「行為」はなぜか実況中継されていたりもする。それに2人以上の心の葛藤や動きが同じ舞台の上で同時進行したり、男性の存在は洋服を作るときに着せる胴体だけが垂直のパイプにつけられた「トルソー」を黒子が操る形で表現されていたりするなど、演劇的な実験精神も活かしながら展開させている部分も多く、演劇の舞台としてもさまざまな仕掛けが楽しめる作品になっていたことも付け加えておきたい。
★舞台「野良女」の一場面。男性はトルソーで象徴させている(提供写真)

【写真転載・無断使用厳禁】=ダウンロードできません
舞台「野良女」は4月5〜9日に東京・新宿1丁目のシアターサンモールで上演された。公演はすべて終了しています。
上演時間は、1時間54分(休憩なし)。


