古田新太
2017年01月22日
【舞台】 足跡姫 時代錯誤冬幽霊（2017）
十八代目中村勘三郎が突如、この世を去って４年あまり。芸の世界に空いた穴も、そして多くの人の心の中に空いた穴もいまだに埋められないままであるほど大きな存在だった勘三郎に対して、盟友、野田秀樹が捧げたオマージュは、単なる言葉やかたちではない。役者が血と汗と涙で舞台上に創り出す幻想のような物語の世界で、役者自身が肉体からふり絞る魂そのものによって贈られたオマージュである。NODA･MAP第２１回公演として世に送り出された野田の新作舞台「足跡姫 時代錯誤冬幽霊（あしあとひめ ときあやまってふゆのゆうれい）」は、勘三郎の身体を通って、その先にあるすべての表現者に対しての壮絶な激励にもなっていたように思う。
舞台「足跡姫 時代錯誤冬幽霊」は３月１２日まで東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウスで上演される。
★舞台「足跡姫 時代錯誤冬幽霊」公式サイト
野田には珍しく「勘三郎へのオマージュ」とあらかじめ謳って綴り出されたこの作品は、「勘三郎が生きていれば出たかったであろう芝居」でも「勘三郎という英雄をたたえる芝居」でもない。肉体を酷使しながら芸能を作り出す者の覚悟と情熱、そしてその先にある超越した創造の力を物語という世界で表現した空恐ろしいほどの芝居である。勘三郎がその生きざま、死にざまによって指し示した役者の業というものを登場人物総出で表現した作品なのである。
そこにしつらえられた役者たちのなんとも頼もしいこと。野田作品では「透明人間の蒸気」「ロープ」「パイパー」「THE BEE Japanese Version」「ザ・キャラクター」そして「MIWA」と中心的な存在を担ってきた宮沢りえ、そして「キル」「南へ」「エッグ」と立て続けの出演が目立つ妻夫木聡、「贋作 罪と罰」「ザ・キャラクター」「MIWA」と絶対的な存在感を示してきた古田新太。この野田作品の主翼とも言える３人に、いずれも映像から舞台まで縦横無尽の活躍を見せる佐藤隆太、鈴木杏が初参加。そして１２年ぶり３回目となる演劇界で引っ張りだこの女優、池谷のぶえが加わり、盤石の態勢を構築しているのだ。もちろん野田自身も重要な役どころを担い、勘三郎が企画した平成中村座やコクーン歌舞伎では相手役を務めるなど昵懇の仲だった中村扇雀もこの壮大な企てに参加している。
舞台となるのは、江戸時代の芝居小屋。三、四代目出雲阿国座（さんよんだいめ・いずものおくにざ）の看板踊り子である三、四代目出雲阿国（宮沢りえ）を中心に、人気の二番手、ヤワハダ（鈴木杏）、そしていずれも艶やかな肢体をくねらせる女たちが無心に踊っている。しかし当時、おんな歌舞伎は、幕府が厳しく取り締まっていて、街中での公演は御法度。伊達の十役人（中村扇雀）が、女たちをひっとらえようと河原に走り込んでくる。
ところがあらまあ不思議、いつの間にか女たちは一座の男たちが女形となって、素早い入れ替わりの術。役人がどれほど調べようと、女の姿はどこにもない。こんなふうに取り締まりを逃れながら、あちこちに出没していたのだった。幕府の思惑のようにはいかず、街中では大人気だったからだ。
突然穴掘りをしたくなる阿国の弟サルワカ（妻夫木聡）は、一座の座長、万歳三唱太夫（池谷のぶえ）によく思われていない。悪い奴ではないのだが、勇気も実行力もない。そこに付け込んだのが、幽霊小説家（古田新太）で無理やりゴーストライターになってしまう。そこで生み出されるのが「足跡姫」の物語。既に一座は追い出されてしまっているのだが、解剖がしたくて仕方がない謎の男、腑分けもの（野田秀樹）と、頭は良さそうだがいまひとつ実体のつかめない戯けもの（佐藤隆太）らも跋扈するややこしい展開の中で、事態は大混乱へと陥っていく。一座に残ったヤワハダたちとの闘いも激しくなっていく中、いよいよ「足跡姫」お披露目の時は迫っていく。
芝居は歌舞伎そのものの形式をとっていないが、下手（客席から見て左手）の舞台わきには歌舞伎の音楽を奏でる「下座（げざ）」の小屋があり、同じく下手には舞台から花道が延びている。さすがに後方の扉までという訳にはいかず、途中の通路までだが、これらをみるだけで既に歌舞伎の世界に入ってしまったように錯覚してしまう。
同じがやがやとした登場のシーンでも、この花道を通って誰かがやってくると注目度がまったく違い、芝居のいいメリハリもなっている。何百年もかけて洗練させていった歌舞伎の演出術の現代との融合である。
わちゃわちゃとした展開の中でもハッとするような静寂や幽玄の世界が挟み込まれると、それだけで厳粛な気持ちにもなる。まるで拍子木で清められた空間に時代が宿るようだ。
宮沢、妻夫木、古田、この３人が一座を引っ張っているのは間違いない。その中でも特に宮沢の求心力と言ったらない。阿国として妖艶な踊りを踊る様は美しさが例えようもない。さまざまな障壁にぶち当たってもそれを突破しようとする行動力は誰にも負けていないし、覚悟の決まった演技が続く。
妻夫木は一見情けないサルワカの成長を鮮やかに見せる。阿国のそして登場人物たちの覚悟が彼を一流のもの書きにしていくのである。
古田の悪びれなさも秀逸。いつしか誰もがこの幽霊小説家を頼りにしている。
後半、特に「足跡姫」が演じられる終盤は、涙をこらえている観客が多い。それは阿国を中心に、舞台に立つものが抱く思いを言葉にして全開していくためだ。もちろん勘三郎という名が実際に盛り込まれたせりふもあるが、それだからではない。宮沢が妻夫木が古田が話す言葉がいちいち勘三郎の生前の「覚悟」を想起させ、観客の心に刺さっていくからだ。虚構に生き、真実に踊る役者たちの姿の向こうに勘三郎の姿が二重写しになるからだろう。ここに至って、この作品が勘三郎へのオマージュであることの意味を誰もが見つける。
野田は自らの役、腑分けものに数え切れないほどの言葉遊びをさせ、全体のリズムをテンポよく動かしている。そして何と言っても効果的なのが、扇雀の演じる１０種類の役人である。本当に１０人とも違う人なのか、役割分担なのかははっきりしないが、その受け答えがいちいちおかしく、「幕府」や「権力」というものを一手に引き受ける役でありながら、人間的な面もたくさん見せて、芝居全体のいいアクセントになっていた。
【出演】
宮沢りえ、妻夫木聡、古田新太、佐藤隆太、鈴木杏、池谷のぶえ、中村扇雀、野田秀樹、秋草瑠衣子、秋山遊楽、石川朝日、石川詩織、大石貴也、上村聡、川原田樹、末冨真由、鷹野梨恵子、手代木花野、土肥麻衣子、西田夏奈子、野口卓磨、野村麻衣、花島令、福島梓、本間健太、前原雅樹、松崎浩太郎、的場祐太、モーガン茉愛羅、吉田知生、吉田朋弘
【Staff】
●作・演出＝野田秀樹●美術＝堀尾幸男●照明＝服部基●衣裳＝ひびのこづえ●作調（邦楽で三味線の曲に合わせる笛・小鼓・大鼓・太鼓などの囃しの奏法を定めること）＝田中傳左衛門●サウンドデザイン＝原摩利彦●音響＝zAk●振付＝井手茂太●映像＝奥秀太郎●美粧（キャラクター・衣装・ヘアメイクの総合デザイン）＝柘植伊佐夫●舞台監督＝瀬��将孝
舞台「足跡姫 時代錯誤冬幽霊」は３月１２日まで東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウスで上演される。
上演時間は、２時間４５分（休憩１５分含む）。
★チケット情報（東京公演）はこちら＝正確な残席状況は各自でお確かめください（全公演当日券が発売されます）
舞台「足跡姫 時代錯誤冬幽霊」は３月１２日まで東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウスで上演される。
野田秀樹、宮沢りえら、作り手と演者の舞台愛に胸が熱くなるNODA・MAPの新作『足跡姫』、ゲネプロレポート！ https://t.co/iqQFjHdSFS pic.twitter.com/Bqw9GijUxg
— SPICE[舞台情報メディア]／e＋ (@spice_stage) 2017年1月18日
★舞台「足跡姫 時代錯誤冬幽霊」公式サイト
野田には珍しく「勘三郎へのオマージュ」とあらかじめ謳って綴り出されたこの作品は、「勘三郎が生きていれば出たかったであろう芝居」でも「勘三郎という英雄をたたえる芝居」でもない。肉体を酷使しながら芸能を作り出す者の覚悟と情熱、そしてその先にある超越した創造の力を物語という世界で表現した空恐ろしいほどの芝居である。勘三郎がその生きざま、死にざまによって指し示した役者の業というものを登場人物総出で表現した作品なのである。
そこにしつらえられた役者たちのなんとも頼もしいこと。野田作品では「透明人間の蒸気」「ロープ」「パイパー」「THE BEE Japanese Version」「ザ・キャラクター」そして「MIWA」と中心的な存在を担ってきた宮沢りえ、そして「キル」「南へ」「エッグ」と立て続けの出演が目立つ妻夫木聡、「贋作 罪と罰」「ザ・キャラクター」「MIWA」と絶対的な存在感を示してきた古田新太。この野田作品の主翼とも言える３人に、いずれも映像から舞台まで縦横無尽の活躍を見せる佐藤隆太、鈴木杏が初参加。そして１２年ぶり３回目となる演劇界で引っ張りだこの女優、池谷のぶえが加わり、盤石の態勢を構築しているのだ。もちろん野田自身も重要な役どころを担い、勘三郎が企画した平成中村座やコクーン歌舞伎では相手役を務めるなど昵懇の仲だった中村扇雀もこの壮大な企てに参加している。
舞台となるのは、江戸時代の芝居小屋。三、四代目出雲阿国座（さんよんだいめ・いずものおくにざ）の看板踊り子である三、四代目出雲阿国（宮沢りえ）を中心に、人気の二番手、ヤワハダ（鈴木杏）、そしていずれも艶やかな肢体をくねらせる女たちが無心に踊っている。しかし当時、おんな歌舞伎は、幕府が厳しく取り締まっていて、街中での公演は御法度。伊達の十役人（中村扇雀）が、女たちをひっとらえようと河原に走り込んでくる。
ところがあらまあ不思議、いつの間にか女たちは一座の男たちが女形となって、素早い入れ替わりの術。役人がどれほど調べようと、女の姿はどこにもない。こんなふうに取り締まりを逃れながら、あちこちに出没していたのだった。幕府の思惑のようにはいかず、街中では大人気だったからだ。
突然穴掘りをしたくなる阿国の弟サルワカ（妻夫木聡）は、一座の座長、万歳三唱太夫（池谷のぶえ）によく思われていない。悪い奴ではないのだが、勇気も実行力もない。そこに付け込んだのが、幽霊小説家（古田新太）で無理やりゴーストライターになってしまう。そこで生み出されるのが「足跡姫」の物語。既に一座は追い出されてしまっているのだが、解剖がしたくて仕方がない謎の男、腑分けもの（野田秀樹）と、頭は良さそうだがいまひとつ実体のつかめない戯けもの（佐藤隆太）らも跋扈するややこしい展開の中で、事態は大混乱へと陥っていく。一座に残ったヤワハダたちとの闘いも激しくなっていく中、いよいよ「足跡姫」お披露目の時は迫っていく。
宮沢りえ「どこかで観てくれている勘三郎さんを感じて」本日開幕「足跡姫」 https://t.co/kLzhg40CYj pic.twitter.com/Jq2i8brVZO
— ステージナタリー (@stage_natalie) 2017年1月18日
芝居は歌舞伎そのものの形式をとっていないが、下手（客席から見て左手）の舞台わきには歌舞伎の音楽を奏でる「下座（げざ）」の小屋があり、同じく下手には舞台から花道が延びている。さすがに後方の扉までという訳にはいかず、途中の通路までだが、これらをみるだけで既に歌舞伎の世界に入ってしまったように錯覚してしまう。
同じがやがやとした登場のシーンでも、この花道を通って誰かがやってくると注目度がまったく違い、芝居のいいメリハリもなっている。何百年もかけて洗練させていった歌舞伎の演出術の現代との融合である。
わちゃわちゃとした展開の中でもハッとするような静寂や幽玄の世界が挟み込まれると、それだけで厳粛な気持ちにもなる。まるで拍子木で清められた空間に時代が宿るようだ。
宮沢、妻夫木、古田、この３人が一座を引っ張っているのは間違いない。その中でも特に宮沢の求心力と言ったらない。阿国として妖艶な踊りを踊る様は美しさが例えようもない。さまざまな障壁にぶち当たってもそれを突破しようとする行動力は誰にも負けていないし、覚悟の決まった演技が続く。
妻夫木は一見情けないサルワカの成長を鮮やかに見せる。阿国のそして登場人物たちの覚悟が彼を一流のもの書きにしていくのである。
古田の悪びれなさも秀逸。いつしか誰もがこの幽霊小説家を頼りにしている。
【動画】宮沢りえがストリップ？ NODA・MAP『足跡姫』〜時代錯誤冬幽霊〜 ゲネプロ映像！ https://t.co/GpMSQOgSEI pic.twitter.com/cDIjuTutpz
— SPICE[舞台情報メディア]／e＋ (@spice_stage) 2017年1月18日
後半、特に「足跡姫」が演じられる終盤は、涙をこらえている観客が多い。それは阿国を中心に、舞台に立つものが抱く思いを言葉にして全開していくためだ。もちろん勘三郎という名が実際に盛り込まれたせりふもあるが、それだからではない。宮沢が妻夫木が古田が話す言葉がいちいち勘三郎の生前の「覚悟」を想起させ、観客の心に刺さっていくからだ。虚構に生き、真実に踊る役者たちの姿の向こうに勘三郎の姿が二重写しになるからだろう。ここに至って、この作品が勘三郎へのオマージュであることの意味を誰もが見つける。
野田は自らの役、腑分けものに数え切れないほどの言葉遊びをさせ、全体のリズムをテンポよく動かしている。そして何と言っても効果的なのが、扇雀の演じる１０種類の役人である。本当に１０人とも違う人なのか、役割分担なのかははっきりしないが、その受け答えがいちいちおかしく、「幕府」や「権力」というものを一手に引き受ける役でありながら、人間的な面もたくさん見せて、芝居全体のいいアクセントになっていた。
【出演】
宮沢りえ、妻夫木聡、古田新太、佐藤隆太、鈴木杏、池谷のぶえ、中村扇雀、野田秀樹、秋草瑠衣子、秋山遊楽、石川朝日、石川詩織、大石貴也、上村聡、川原田樹、末冨真由、鷹野梨恵子、手代木花野、土肥麻衣子、西田夏奈子、野口卓磨、野村麻衣、花島令、福島梓、本間健太、前原雅樹、松崎浩太郎、的場祐太、モーガン茉愛羅、吉田知生、吉田朋弘
【Staff】
●作・演出＝野田秀樹●美術＝堀尾幸男●照明＝服部基●衣裳＝ひびのこづえ●作調（邦楽で三味線の曲に合わせる笛・小鼓・大鼓・太鼓などの囃しの奏法を定めること）＝田中傳左衛門●サウンドデザイン＝原摩利彦●音響＝zAk●振付＝井手茂太●映像＝奥秀太郎●美粧（キャラクター・衣装・ヘアメイクの総合デザイン）＝柘植伊佐夫●舞台監督＝瀬��将孝
舞台「足跡姫 時代錯誤冬幽霊」は３月１２日まで東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウスで上演される。
上演時間は、２時間４５分（休憩１５分含む）。
★チケット情報（東京公演）はこちら＝正確な残席状況は各自でお確かめください（全公演当日券が発売されます）
2016年08月25日
【News】 NODA･MAPの新作は「足跡姫」〜時代錯誤冬幽霊〜、宮沢りえ･妻夫木聡･古田新太が激突！（2016）
NODA・MAPは、新作「足跡姫」 〜時代錯誤冬幽霊〜（あしあとひめ ときあやまってふゆのゆうれい）を来年２０１７年１月１８日から３月１２日まで、東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウスで上演することを明らかにした。野田秀樹が親しい関係だった故中村勘三郎へのオマージュと位置付けた作品で、江戸時代を舞台にした「肉体を使う芸術、残ることのない形態の芸術について」考えを巡らせた物語になるようだ。勘三郎と、さらには勘三郎を追うように亡くなった故坂東三津五郎の言葉から発想のヒントを得ている様子。
野田秀樹と中村勘三郎は親友であるだけではなく、２００１年の歌舞伎「野田版 研辰の討たれ」をはじめとして、２０１０年の「表に出ろいっ！」に至るまで、数々の舞台を創り上げてきた演劇界の盟友で、ともにトップランナー。
現時点では、内容に関する情報は一切公開されていないため、物語がどう進んでいくのかは不明だが、キャスト陣の名前を見ているだけで、ドキドキワクワクする作品であることが分かる。
まず、「透明人間の蒸気」「ザ・キャラクター」「ＭＩＷＡ」などで野田の世界観を着実に具現化させてきた宮沢りえ。野田作品には７度目の出演となる。
そして、「エッグ」などで鮮烈な印象を与えた妻夫木聡が５度目の野田作品出演。さらには、「ＭＩＷＡ」での豪快かつ繊細な演技が話題となった古田新太がなんと９度目の野田作品となる。
野田作品に貢献し続けてきたこの３人がどのような化学反応を生み出すのか。演劇ファンにとっては、宮沢と妻夫木、妻夫木と古田という初共演も大いに楽しみとなる。
さらに、初出演は、テレビで人気を得たがもともと演劇への愛も強く、近年は「ダブリンの鐘つきカビ人間」など舞台作品も目立つ佐藤隆太、「ムサシ」「SISTER」「奇跡の人」「イニシュマン島のビリー」などの舞台や、「軽蔑」などの映画で見せる鬼気迫る演技が常に注目を集めてきた鈴木杏、野田ともコラボレーション経験のある中村扇雀、小劇場から大劇場まで引っ張りだこの池谷のぶえと、既に演劇界での高い評判を得ている面々がそろった。
もちろん野田秀樹自身も出演する。
そして、野田作品では常に高いレベルでの新しい挑戦を担うことになるアンサンブルキャストも発表された。
以下は５０音順に並べたものだ。ご参考までに。
秋草瑠衣子、秋山遊楽、石川朝日、石川詩織、大石貴也、上村聡、川原田樹、末冨真由、鷹野梨恵子、手代木花野、土肥麻衣子、西田夏奈子、野口卓磨、野村麻衣、花島令、福島梓、本間健太、前原雅樹、松崎浩太郎、的場祐太、モーガン茉愛羅、吉田知生、吉田朋弘。
チケットの一般発売は、今年２０１６年１２月１０日。
当日券も全公演発売される予定で、恒例の高校生割引も設定される。
★チケット情報はこちら。
【情報アップ！】NODA・MAP第21回公演「足跡姫」〜時代錯誤冬幽霊〜 情報をアップしました！宮沢りえさん、妻夫木聡さん、古田新太さんのビジュアルも素敵ですね！詳しくはこちらから→https://t.co/6YZK16H88p pic.twitter.com/EpJ2m8a60P
— ローチケ演劇部 (@l_tike_stage) 2016年8月23日
野田秀樹と中村勘三郎は親友であるだけではなく、２００１年の歌舞伎「野田版 研辰の討たれ」をはじめとして、２０１０年の「表に出ろいっ！」に至るまで、数々の舞台を創り上げてきた演劇界の盟友で、ともにトップランナー。
現時点では、内容に関する情報は一切公開されていないため、物語がどう進んでいくのかは不明だが、キャスト陣の名前を見ているだけで、ドキドキワクワクする作品であることが分かる。
まず、「透明人間の蒸気」「ザ・キャラクター」「ＭＩＷＡ」などで野田の世界観を着実に具現化させてきた宮沢りえ。野田作品には７度目の出演となる。
そして、「エッグ」などで鮮烈な印象を与えた妻夫木聡が５度目の野田作品出演。さらには、「ＭＩＷＡ」での豪快かつ繊細な演技が話題となった古田新太がなんと９度目の野田作品となる。
野田作品に貢献し続けてきたこの３人がどのような化学反応を生み出すのか。演劇ファンにとっては、宮沢と妻夫木、妻夫木と古田という初共演も大いに楽しみとなる。
さらに、初出演は、テレビで人気を得たがもともと演劇への愛も強く、近年は「ダブリンの鐘つきカビ人間」など舞台作品も目立つ佐藤隆太、「ムサシ」「SISTER」「奇跡の人」「イニシュマン島のビリー」などの舞台や、「軽蔑」などの映画で見せる鬼気迫る演技が常に注目を集めてきた鈴木杏、野田ともコラボレーション経験のある中村扇雀、小劇場から大劇場まで引っ張りだこの池谷のぶえと、既に演劇界での高い評判を得ている面々がそろった。
もちろん野田秀樹自身も出演する。
そして、野田作品では常に高いレベルでの新しい挑戦を担うことになるアンサンブルキャストも発表された。
以下は５０音順に並べたものだ。ご参考までに。
秋草瑠衣子、秋山遊楽、石川朝日、石川詩織、大石貴也、上村聡、川原田樹、末冨真由、鷹野梨恵子、手代木花野、土肥麻衣子、西田夏奈子、野口卓磨、野村麻衣、花島令、福島梓、本間健太、前原雅樹、松崎浩太郎、的場祐太、モーガン茉愛羅、吉田知生、吉田朋弘。
チケットの一般発売は、今年２０１６年１２月１０日。
当日券も全公演発売される予定で、恒例の高校生割引も設定される。
★チケット情報はこちら。
2013年10月09日
【舞台】 ＭＩＷＡ（2013）
美輪明宏は、それ自体でひとつの世界である。多くの人が気付いていそうで気付いていないこの事実に野田秀樹はずいぶん前から気付いていたに違いない。そしてそれを舞台の上で本当の世界観に創り上げてしまった。舞台「ＭＩＷＡ」は、美輪明宏の歩んできた尋常ではない半生という事実と、その事実から派生したおびただしいフィクションの要素が混じり合い、互いに共鳴し合うことで、得も言われぬ美しい光を放つ作品になった。そこでは生きる悲しみも喜びも光の一部となり、観客を包む。見終わった後、まばゆいばかりの光と美輪の壮絶な後ろ姿がいつまでもまぶたの裏に残っていた。
美輪明宏と野田秀樹。同じ長崎県の出身で、互いに舞台人としてリスペクトの気持ちを持っていた２人。これまでもさんざん自らの半生を物語化する誘いを断ってきた美輪だったが、野田からの要請は特別なものだったようだ。「いたずら好き」な野田がきっと半生をめちゃくちゃにかき混ぜてくれるだろうという期待があったのだろう。野田は、美輪明宏の本当の姿という事実とともに、世間の人が美輪に対して抱くイメージとも闘わなくてはならなかったはずで、物語の構築と戯曲の展開には相当な胆力が必要だったに違いない。
物語は基本的に、美輪明宏から発想した架空の人物とされるMIWAの誕生から、絶世の美少年シャンソン歌手として大成する波乱に満ちた半生の光と影が描かれていく。
MIWA（宮沢りえ）はその誕生の時からして、普通の人ならば明確なはずの男女性の区別が明確でなく、体の一番深いところから突き上げてくる違和感と闘っていた。ちょっとしたハプニングで、怪物のような精神を持ったもうひとつのMIWA、つまり両性具有という意味の「アンドロギュヌス」をもじった安藤牛乳（古田新太）と一体化してしまい、地上へと生まれ落ちる。
男性なのに女性のように美しく育ったMIWA。ソドミアン（同性愛者の男性）バーに出入りするようになるが、そのか細い体からは信じられないような野太く魂を揺らすほどの歌声が周囲を魅了し始めていた。安藤牛乳なる怪物が棲みついているおかげだ。
以降、安藤牛乳はいなくなったり戻ってきたり、あおったりかみついたり、さまざまなかたちでMIWAの行動を左右し、MIWAの半生をとんでもないところに導いていく。
物語の詳細な説明は省くが、MIWAは東京で本格的なシャンソン歌手としての道を歩み始め、伝説の映画スター赤絃繫一郎（瑛太、あかいいとけいいちろう）との許されぬ恋や、怪物を抱えた心の闇を理解してくれる作家オスカワアイドル（野田秀樹）との交流、母・継母（井上真央）との確執などを太い軸として、ボーイ（浦井健治）、負け女（青木さやか）、通訳（小出恵介）、シャンソンクラブの経営者・半陰陽（池田成志）ら店や音楽面でのスタッフらとの関わり合いも描かれていく。
MIWAの物語がこれほどまでに心を打つのはなぜだろう。それは野田が、こうしたソドミアンやアンドロギュヌスのような存在の人々が決して趣味や趣向でそうなったのではなく、生まれ持った何か強烈な存在を抱えた者として描くことから出発したからであろう。その人生は闘いであり、すべてをのみ込もうとするブラックホールのような力に常に引っ張られながらも、それに抗い、自分の人生を歩んでいこうとする強烈な意志を持ち続けなくてはならない壮絶な宿命があるからだ。
「だれもが持つ心の中の怪物」というように平準化してしまうのはあまり正しいこととは言えないが、観客のだれもが、自分の心の中に似たような何者かを感じているからこそ、異端の物語であると突き放して考えられずに、自らの琴線に触れるのだ。
野田は得意の言葉遊び的なせりふの操り方をふんだんに使っているし、その上、陰と陽のような相反する２つの要素をいくつも物語の中にしのばせている。
もちろん、その最たるものがMIWAと安藤牛乳。そして例えばその名がまさしくなのが半陰陽。ゲイ界のドンのような存在であるかと思うと次の場面ではマスターになったり、同時に存在しない裏と表のような関係。あるいはマリアとまぐわらず（マグダラ）のマリア。オスカワアイドルと三島由紀夫。全体が相反する性である男と女にまたがる存在の物語であることと合わせ、戯曲全体が幾何学的な文様を描いている印象だ。
その三島をはじめ、赤木圭一郎を思わせる赤絃繫一郎が登場するなど、昭和のアイコンが効果的に使われている。その２人の非業の死もまた、美輪の並大抵でない半生の哀愁と共鳴し、ぬぐいきれない悲しみを醸し出している。
宮沢りえは、演じるMIWAが決して美輪とイコールではないため、模倣する必要がないことをよく知っている。それでも人とは同じようには進めない人生をしっかりと歩いて行くMIWAをおびただしいせりふで造型しながら、どうしようもないほど本物の美輪に近づいていく。悲しみという感情が武器のようにMIWAの体にまとわりついていく様を恐ろしいほどの集中力で演じていた。古田とのコンビネーションは演劇界にとっても大きな宝物である。
その古田は、「リチャード三世」などの舞台でも見せてきた、まがまがしい怪物ぶりに徹するが、時折、安藤牛乳自体が、この世に存在せず単なるMIWAが見る幻影のような存在に見えるほど、陰陽の切り分けをしていたのが印象的だった。制作発表では、美輪の声の大きさを盛んに強調していたが、時折舞台上で披露する強烈な歌声は、その気づきをうまく本番の演技に生かした結果だろう。
MIWAの初恋の相手やトップスターを演じた瑛太は、野田作品初登場だが、すっとステージに登場するだけで、周囲の空気を引き連れていく求心力を持っており、かなりの舞台向き俳優と見た。クサイ芝居になりがちな昭和のスターという役どころを根本の所から見据え、最後にはまぶしい輝きの中にそこはかとないさびしさや悲しさを全身にまとうところまで持って行っていた。野田もにんまりの演技だろう。
井上真央は１０代のころに舞台経験はあるものの２０代になってからは初の舞台。緊張感もあったと思うが、演技に核があり、荘厳なマリアからきつい継母、一途だが許されぬ愛に身を投じる赤絃の妹まで、それぞれのシーンで生々しく息づかせることに成功していた。
既に十分な舞台経験を持ち、蜷川幸雄にもその演技を評価されている小出恵介は、通訳というちょっと切羽詰まった役柄だったが、劇中でも揶揄されていた「自分の言葉では話さない」通訳という存在の悲しみを巧みににじみ出させており、やはり舞台の逸材であることを証明していた。
池田成志が、あまたの演出家、劇作家にひっぱりだこな理由が分かるような気がした。器用だからということだけではない、野田が「うさんくさい」と絶賛するように、他の誰もまねのできない空気感を舞台の上に創り出せる希有な存在だからである。
ミュージカル界の貴公子で、皇太子役などさわやかな役柄で定評のある浦井健治は、何か新しい方向に大きな窓が開いたような気がする。
青木さやかはこれで舞台は２度目。しかもその２作が三谷幸喜、野田秀樹の作品なのだから恐れ入る。いずれも出演を直訴したというから、その勢いは三谷、野田の目を開かせるのに十分だったのだろう。「どこ見てんのよ」というギャグに代表されるような自意識過剰のキャラクターで売ってきた青木だが、今回はあて書きでもないにもかかわらず、ものの見事に生きていて、舞台に映えた。
それにしても、はたして美輪明宏の目にはこの物語はどう映るのだろう。その感想もまたひとつの世界観を持った物語になりそうだ。
なお、劇中スクリーンに映る映像のナレーションで、橋爪功、美波、天海祐希ら野田作品ゆかりの俳優陣が声だけで特別に登場するのも聴きどころだ。
舞台「ＭＩＷＡ」は、１１月２４日まで、東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウスで、１１月２８日〜１２月１日に、大阪市のシアターＢＲＡＶＡ！で、１２月６〜８日に福岡県北九州市の北九州芸術劇場大ホールで上演予定。
美輪明宏と野田秀樹。同じ長崎県の出身で、互いに舞台人としてリスペクトの気持ちを持っていた２人。これまでもさんざん自らの半生を物語化する誘いを断ってきた美輪だったが、野田からの要請は特別なものだったようだ。「いたずら好き」な野田がきっと半生をめちゃくちゃにかき混ぜてくれるだろうという期待があったのだろう。野田は、美輪明宏の本当の姿という事実とともに、世間の人が美輪に対して抱くイメージとも闘わなくてはならなかったはずで、物語の構築と戯曲の展開には相当な胆力が必要だったに違いない。
物語は基本的に、美輪明宏から発想した架空の人物とされるMIWAの誕生から、絶世の美少年シャンソン歌手として大成する波乱に満ちた半生の光と影が描かれていく。
MIWA（宮沢りえ）はその誕生の時からして、普通の人ならば明確なはずの男女性の区別が明確でなく、体の一番深いところから突き上げてくる違和感と闘っていた。ちょっとしたハプニングで、怪物のような精神を持ったもうひとつのMIWA、つまり両性具有という意味の「アンドロギュヌス」をもじった安藤牛乳（古田新太）と一体化してしまい、地上へと生まれ落ちる。
男性なのに女性のように美しく育ったMIWA。ソドミアン（同性愛者の男性）バーに出入りするようになるが、そのか細い体からは信じられないような野太く魂を揺らすほどの歌声が周囲を魅了し始めていた。安藤牛乳なる怪物が棲みついているおかげだ。
以降、安藤牛乳はいなくなったり戻ってきたり、あおったりかみついたり、さまざまなかたちでMIWAの行動を左右し、MIWAの半生をとんでもないところに導いていく。
物語の詳細な説明は省くが、MIWAは東京で本格的なシャンソン歌手としての道を歩み始め、伝説の映画スター赤絃繫一郎（瑛太、あかいいとけいいちろう）との許されぬ恋や、怪物を抱えた心の闇を理解してくれる作家オスカワアイドル（野田秀樹）との交流、母・継母（井上真央）との確執などを太い軸として、ボーイ（浦井健治）、負け女（青木さやか）、通訳（小出恵介）、シャンソンクラブの経営者・半陰陽（池田成志）ら店や音楽面でのスタッフらとの関わり合いも描かれていく。
MIWAの物語がこれほどまでに心を打つのはなぜだろう。それは野田が、こうしたソドミアンやアンドロギュヌスのような存在の人々が決して趣味や趣向でそうなったのではなく、生まれ持った何か強烈な存在を抱えた者として描くことから出発したからであろう。その人生は闘いであり、すべてをのみ込もうとするブラックホールのような力に常に引っ張られながらも、それに抗い、自分の人生を歩んでいこうとする強烈な意志を持ち続けなくてはならない壮絶な宿命があるからだ。
「だれもが持つ心の中の怪物」というように平準化してしまうのはあまり正しいこととは言えないが、観客のだれもが、自分の心の中に似たような何者かを感じているからこそ、異端の物語であると突き放して考えられずに、自らの琴線に触れるのだ。
野田は得意の言葉遊び的なせりふの操り方をふんだんに使っているし、その上、陰と陽のような相反する２つの要素をいくつも物語の中にしのばせている。
もちろん、その最たるものがMIWAと安藤牛乳。そして例えばその名がまさしくなのが半陰陽。ゲイ界のドンのような存在であるかと思うと次の場面ではマスターになったり、同時に存在しない裏と表のような関係。あるいはマリアとまぐわらず（マグダラ）のマリア。オスカワアイドルと三島由紀夫。全体が相反する性である男と女にまたがる存在の物語であることと合わせ、戯曲全体が幾何学的な文様を描いている印象だ。
その三島をはじめ、赤木圭一郎を思わせる赤絃繫一郎が登場するなど、昭和のアイコンが効果的に使われている。その２人の非業の死もまた、美輪の並大抵でない半生の哀愁と共鳴し、ぬぐいきれない悲しみを醸し出している。
宮沢りえは、演じるMIWAが決して美輪とイコールではないため、模倣する必要がないことをよく知っている。それでも人とは同じようには進めない人生をしっかりと歩いて行くMIWAをおびただしいせりふで造型しながら、どうしようもないほど本物の美輪に近づいていく。悲しみという感情が武器のようにMIWAの体にまとわりついていく様を恐ろしいほどの集中力で演じていた。古田とのコンビネーションは演劇界にとっても大きな宝物である。
その古田は、「リチャード三世」などの舞台でも見せてきた、まがまがしい怪物ぶりに徹するが、時折、安藤牛乳自体が、この世に存在せず単なるMIWAが見る幻影のような存在に見えるほど、陰陽の切り分けをしていたのが印象的だった。制作発表では、美輪の声の大きさを盛んに強調していたが、時折舞台上で披露する強烈な歌声は、その気づきをうまく本番の演技に生かした結果だろう。
MIWAの初恋の相手やトップスターを演じた瑛太は、野田作品初登場だが、すっとステージに登場するだけで、周囲の空気を引き連れていく求心力を持っており、かなりの舞台向き俳優と見た。クサイ芝居になりがちな昭和のスターという役どころを根本の所から見据え、最後にはまぶしい輝きの中にそこはかとないさびしさや悲しさを全身にまとうところまで持って行っていた。野田もにんまりの演技だろう。
井上真央は１０代のころに舞台経験はあるものの２０代になってからは初の舞台。緊張感もあったと思うが、演技に核があり、荘厳なマリアからきつい継母、一途だが許されぬ愛に身を投じる赤絃の妹まで、それぞれのシーンで生々しく息づかせることに成功していた。
既に十分な舞台経験を持ち、蜷川幸雄にもその演技を評価されている小出恵介は、通訳というちょっと切羽詰まった役柄だったが、劇中でも揶揄されていた「自分の言葉では話さない」通訳という存在の悲しみを巧みににじみ出させており、やはり舞台の逸材であることを証明していた。
池田成志が、あまたの演出家、劇作家にひっぱりだこな理由が分かるような気がした。器用だからということだけではない、野田が「うさんくさい」と絶賛するように、他の誰もまねのできない空気感を舞台の上に創り出せる希有な存在だからである。
ミュージカル界の貴公子で、皇太子役などさわやかな役柄で定評のある浦井健治は、何か新しい方向に大きな窓が開いたような気がする。
青木さやかはこれで舞台は２度目。しかもその２作が三谷幸喜、野田秀樹の作品なのだから恐れ入る。いずれも出演を直訴したというから、その勢いは三谷、野田の目を開かせるのに十分だったのだろう。「どこ見てんのよ」というギャグに代表されるような自意識過剰のキャラクターで売ってきた青木だが、今回はあて書きでもないにもかかわらず、ものの見事に生きていて、舞台に映えた。
それにしても、はたして美輪明宏の目にはこの物語はどう映るのだろう。その感想もまたひとつの世界観を持った物語になりそうだ。
なお、劇中スクリーンに映る映像のナレーションで、橋爪功、美波、天海祐希ら野田作品ゆかりの俳優陣が声だけで特別に登場するのも聴きどころだ。
舞台「ＭＩＷＡ」は、１１月２４日まで、東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウスで、１１月２８日〜１２月１日に、大阪市のシアターＢＲＡＶＡ！で、１２月６〜８日に福岡県北九州市の北九州芸術劇場大ホールで上演予定。
2013年08月25日
【News】 野田秀樹の「MIWA」に豪華俳優陣が集結（2013）
野田秀樹が、美輪明宏の半生をモデルに描く話題の舞台「ＭＩＷＡ」（１０／４〜１２／８、東京・大阪・北九州）。８月２２日に東京で開かれた制作発表会見では、野田が集めた豪華俳優陣のほかに、美輪本人もＶＴＲで登場して野田との対談を披露するなど大いに会場を湧かせたが、美輪はあくまでモデル。謎に包まれたタイトルからどんな物語が立ち上がってくるのかますます楽しみになってきた。
「今地球上で一番面白いと思う人から話を聞くだけ聞いておいて、まったくもって出鱈目の『美輪明宏物語』を書いてみようと思っている」と寄稿した文章で企画の動機を明かした野田。
「今まで（半生を物語化したいと言われても）お断りしてきたんですが、野田さんはいたずら好きで…」と苦笑しながらも、まんざらでもないのが美輪だ。「私もそのうち、野田さんをモデルに仕返ししてやるぞ」とリベンジ宣言まで飛び出した。
その美輪に「でも一番かわいそうなのは（私を演じる）りえちゃんよね」と言われた主演の宮沢りえは、舞台「透明人間の蒸気」以降、野田作品には多数出演しているだけに「野田さんのことを信じているので、お稽古の中で見つけていきたい」とほほ笑んだ。
野田作品初登場の瑛太は、５、６年前に野田のワークショップに参加した経験があり「居心地が良かった」と出演を心待ちにしていた様子。「宮沢さんとはドキドキするシーンがあるようなので、ずっとドキドキしていたい」と話す。２０代になって初めての舞台となる井上真央は「さぐりながらも、（自分を）発揮できたら」と自身に期待を込め「自分にできることを一生懸命やりたい」と意欲的だ。
一方、野田作品への出演が信じられないといった表情なのは、若手の有望株たち。蜷川幸雄の演出作品に多数出演し、豊かな舞台経験を持つ小出恵介は、野田のワークショップの常連だったものの「出演はあきらめていた」という。夢は実現したものの、役名が単に「通訳」としか書いておらず、「不思議な役名が欲しかったなあー」と不満げ。ミュージカル界では不動の地位を持ち、「ヘンリー六世」では存在感のない悲運な王を抜群の演技力で表現して絶賛されるなど評価が高まっている浦井健治も「まさか出られるとは」と驚いたという。美輪の自叙伝を使って参加者で劇を創作したというワークショップなどでの全員参加の手作り感いっぱいの芝居づくりに心を打たれたようで、本番舞台にも期待いっぱいだ。
「まさか」感は最も高かった青木さやか。野田作品を「ファンのひとりとして見ていた」と言うが、出演を野田本人に直訴していたという情報もあり、熱意は人一倍。三谷幸喜の「櫻の園」に次ぐ大物劇作家・演出家の舞台出演ゲットとなった。会見では、「負け女」という役名に、野田が「当て書きじゃないよ」とフォローする一場面もあった。
野田作品のみならず、２０世紀から舞台で暴れ回ってきた手練れの二人は、池田成志と古田新太。
美輪明宏を資料や映像で研究する中で、「声が大きいなあと感じた」と、池田は、美輪の歌手、舞台人としてのすごみにあらためて感心した様子。
一方の古田は、唐十郎の戯曲「盲導犬」を、今回も共演の宮沢、小出恵介と共に上演したばかりとあって、話題は戯曲の難解さへと向かう。「唐さんの本は、読んでも難しくてよく分からないんです。でも、最近のお芝居は分かりやすくなりすぎててお客さんがバカになっている。野田さんには、（日本の演劇の向上のためにも）もっと訳の分からない作品を書いてもらわなくちゃね」と、アングラ出身らしい要望を出していた。
「『透明人間の蒸気』に出て、芝居の怖さと面白さを初めて知った。おぎゃあと生まれた感覚があった」という宮沢は、美輪明宏という存在を「華やかで強いイメージがあるが、戦争や原爆などの辛い経験に苦しみながらも乗り越えられてきた方でもあり、その２つのイメージの間には大きなギャップがある」と分析。「演じるのが楽しみ」と、稽古の初日が待ちきれない様子だった。
NODA･MAP第１８回公演となる舞台「ＭＩＷＡ」は、１０月４日〜１１月２４日に東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウスで、１１月２８日〜１２月１日に、大阪市のシアターＢＲＡＶＡ！で、１２月６〜８日に、北九州市の北九州芸術劇場大劇場で上演される予定。
「今地球上で一番面白いと思う人から話を聞くだけ聞いておいて、まったくもって出鱈目の『美輪明宏物語』を書いてみようと思っている」と寄稿した文章で企画の動機を明かした野田。
「今まで（半生を物語化したいと言われても）お断りしてきたんですが、野田さんはいたずら好きで…」と苦笑しながらも、まんざらでもないのが美輪だ。「私もそのうち、野田さんをモデルに仕返ししてやるぞ」とリベンジ宣言まで飛び出した。
その美輪に「でも一番かわいそうなのは（私を演じる）りえちゃんよね」と言われた主演の宮沢りえは、舞台「透明人間の蒸気」以降、野田作品には多数出演しているだけに「野田さんのことを信じているので、お稽古の中で見つけていきたい」とほほ笑んだ。
野田作品初登場の瑛太は、５、６年前に野田のワークショップに参加した経験があり「居心地が良かった」と出演を心待ちにしていた様子。「宮沢さんとはドキドキするシーンがあるようなので、ずっとドキドキしていたい」と話す。２０代になって初めての舞台となる井上真央は「さぐりながらも、（自分を）発揮できたら」と自身に期待を込め「自分にできることを一生懸命やりたい」と意欲的だ。
一方、野田作品への出演が信じられないといった表情なのは、若手の有望株たち。蜷川幸雄の演出作品に多数出演し、豊かな舞台経験を持つ小出恵介は、野田のワークショップの常連だったものの「出演はあきらめていた」という。夢は実現したものの、役名が単に「通訳」としか書いておらず、「不思議な役名が欲しかったなあー」と不満げ。ミュージカル界では不動の地位を持ち、「ヘンリー六世」では存在感のない悲運な王を抜群の演技力で表現して絶賛されるなど評価が高まっている浦井健治も「まさか出られるとは」と驚いたという。美輪の自叙伝を使って参加者で劇を創作したというワークショップなどでの全員参加の手作り感いっぱいの芝居づくりに心を打たれたようで、本番舞台にも期待いっぱいだ。
「まさか」感は最も高かった青木さやか。野田作品を「ファンのひとりとして見ていた」と言うが、出演を野田本人に直訴していたという情報もあり、熱意は人一倍。三谷幸喜の「櫻の園」に次ぐ大物劇作家・演出家の舞台出演ゲットとなった。会見では、「負け女」という役名に、野田が「当て書きじゃないよ」とフォローする一場面もあった。
野田作品のみならず、２０世紀から舞台で暴れ回ってきた手練れの二人は、池田成志と古田新太。
美輪明宏を資料や映像で研究する中で、「声が大きいなあと感じた」と、池田は、美輪の歌手、舞台人としてのすごみにあらためて感心した様子。
一方の古田は、唐十郎の戯曲「盲導犬」を、今回も共演の宮沢、小出恵介と共に上演したばかりとあって、話題は戯曲の難解さへと向かう。「唐さんの本は、読んでも難しくてよく分からないんです。でも、最近のお芝居は分かりやすくなりすぎててお客さんがバカになっている。野田さんには、（日本の演劇の向上のためにも）もっと訳の分からない作品を書いてもらわなくちゃね」と、アングラ出身らしい要望を出していた。
「『透明人間の蒸気』に出て、芝居の怖さと面白さを初めて知った。おぎゃあと生まれた感覚があった」という宮沢は、美輪明宏という存在を「華やかで強いイメージがあるが、戦争や原爆などの辛い経験に苦しみながらも乗り越えられてきた方でもあり、その２つのイメージの間には大きなギャップがある」と分析。「演じるのが楽しみ」と、稽古の初日が待ちきれない様子だった。
NODA･MAP第１８回公演となる舞台「ＭＩＷＡ」は、１０月４日〜１１月２４日に東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウスで、１１月２８日〜１２月１日に、大阪市のシアターＢＲＡＶＡ！で、１２月６〜８日に、北九州市の北九州芸術劇場大劇場で上演される予定。
2013年02月11日
【Topics】 リチャード三世の遺骨と断定（2013）
シェイクスピア劇などで知られる英国のリチャード３世。２０１２年に英国レスターの駐車場から見つかった人骨が、彼の遺骨であることが確認された。英国王としては極めて珍しい戦場での戦死から約５３０年、シェイクスピアの初演からでも約４２０年の時を経て、ようやく、その生と死の証が明らかになったのである。
実はこのニュース、歴史好きや考古学好きだけではなく、演劇ファンにもある種の感慨が感じられるはずだ。リチャード３世といえば、悪人顔で残忍、巧みな話術で人をコントロールする狡猾さを持ち、王朝内で力を付けてきた一族がいるとつぶしていく、そんなイメージの王としてシェイクスピアは描いた。
英国だけでなく世界中の男性俳優たちが、挑戦したい役柄として挙げる難役である。
英国の名優ローレンス・オリビエが映画でも演じたし、日本では劇団新感線の看板俳優、古田新太が２００９年にＰＡＲＣＯ劇場で演じ、絶賛を浴びた。また同じ２００９年に新国立劇場で９時間にわたって上演された「ヘンリー六世」の中で岡本健一が熱演したことで、そのままのキャストで２０１２年に続編の趣がある「リチャード三世」として演じられるという奇蹟が起きるなど、ここ数年の日本の演劇界の中では、最注目のキャラクターなのである。
観客にとっても、戯曲「リチャード三世」は、数々のコンプレックスを抱えるリチャード王がどのように生き、どのように孤独と闘い、どのように死んでいったかを、真っ正面から感じ取ることが出来る重量級の作品として、「いつかは必ず観るべき作品」ととらえているのだ。
遺体は背骨か曲がっていて、矢尻が刺さっていたほか、頭部に複数の殴打痕があった。これはリチャード３世の身体的特徴と合致し、１４８５年のボスワーズの戦いで戦死したという史実とも一致する。しかも、駐車場の下に埋まっていた教会は、リチャード３世が、死後埋葬されたとされるフランシスコ会修道院の教会である可能性が高く、２０１２年の発見時から、本人の遺骨である可能性は高いとされていた。
シェイクスピアはとんでもない悪者に描いているが、近年はさまざまな描かれ方がされている。リチャード３世は、兄が身内の裏切りで王位を追放されたときも、兄の側に一貫して付き続け、後に王位に戻った兄の復権に貢献していることから、兄思いであるとの評判もあるからだ。
政権内の一派への残忍な粛清の歴史は消えないにしても、一人息子を幼くして亡くすなど、常に孤独や苦悩を抱えた人物として、人間的な部分では、共感できる面も多い。だからこそ、悪く描かれてもどこか人間的で、見る者すべてが自分と同じ何かを感じざるを得ないのであろう。戦場に自ら立った勇敢さとそのとき彼が抱いた絶望にも思いがはせられる。
問題は、遺骨の発見がこうしたリチャード３世の再評価にどう影響するかということだ。
ＤＮＡの抽出は容易だろうから、持病なども分かるはず。あるいは血液型も判明するだろう。英国王朝の系譜に影響を与えるような発見もあるかもしれない。ボズワーズの戦いの真実にもまた一歩近づく可能性もある。骨格、骨相などで、性格を見分ける研究も進んでいることから、もっと人間的な何かを発見してくれるかもしれない。
それをもとにシェイクスピアに新たな戯曲を書いてほしいところだが、それは叶わぬ夢。現代のシェイクスピアがいれば、ぜひお願いしたいところだ。
