6d4ee406.jpgカラマネから見た宇宙観
Vol.52
超大統一理論



インフレーション期を経た宇宙膨張の概念図。図の左端に時空の計量の劇的な膨張が描かれています。(2006年のWMAPのプレスリリースより翻訳)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 かつてマックスウェルが電磁気力の法則を統一電磁理論にまとめましたが、その後少し進化した統一理論が成立しました。それは、電磁力と弱い核力を統一したものです。わかっている基本力は、電磁-弱核力、強い核力と重力の3つです。そして今日、それらの基本力を結び付けて大統一理論へと発展しようとしています。つまり、電磁-弱核力と強い核力とを統一しようとするものです。これは未だ実験的な立証を欠いていますが、新しく改良されたビックバン理論、いわゆるインフレーション理論の基になっています。インフレーションとは、宇宙が開闢直後に劇的な膨張を始めてから現在に見られる膨張速度に落ち着いたとするもので、この理論の魅力は前述しましたマイクロ波の一様性を解く鍵になっているからです。インフレーション理論によれば、ビックバンの瞬間のごく近く、宇宙の全ての部分は相互に密接していました。つまり、今では我々から遠く離れている宇宙の部分もインフレーション以前には近所にあったということです。インフレーション理論のもう一つの重要な予言は、宇宙が殆ど「平坦」であるということです。即ち、宇宙のいたるところで物質分布は、平均して非常に一様であり、物質密度は特別の臨界値に極めて近いことです。この臨界密度をビッグバン直後の宇宙の密度と関連付けることができます。今日の観測から、宇宙は臨界密度の近くあることが示されています。
 インフレーション理論は、どのようにして「平坦性」をもたらすのでしょうか? 理論によれば、宇宙は光速より早く膨らんで、1秒の1兆分の1のそのまた1兆分の1のそのまた1000億分の1の間にそれ以前の大きさの10兆倍の10兆倍となったのです。それで現在見る部分は全宇宙のほんの小部分なので平坦に見えるのです。これは、自宅の庭に立つと地球全体の小さな部分しか見えないので地球を平らだと考えるようなものです。

【Tips】
大統一理論(GUT)とは、電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用を統一しようとする試みです。電磁相互作用と弱い相互作用は電弱統一理論としてグラショウ、ワインバーグ、サラムにより完成されています。大統一理論の最小モデルであるSU(5)モデルは陽子崩壊の観測により排除されています。GUTは、Grand Unified Theory あるいは Grand Unification Theory の略です。この理論からいくつかのことが予言されています。陽子崩壊現象の他、ニュートリノ振動現象、宇宙初期におけるインフレーションとそれに伴う磁気単極子や宇宙ひもの存在がこれにあたります。SU(5)モデルによる陽子の寿命は1030〜1032年ですが、神岡鉱山のカミオカンデ・スーパーカミオカンデにおける実験結果では陽子崩壊が観測されず、実際の寿命はそれ以上、少なくとも1034年はあり、大きくくい違っています。しかし、大統一理論に超対称性と呼ばれる要素を加えた超対称大統一理論では陽子の寿命はさらに延びることになり、実験結果を説明できる可能性があります。
 超対称大統一理論 (Supersymmetric Grand Unified Theory : SUSY GUT)とは大統一理論 (GUT) を超対称化した理論です。素粒子標準理論ではヒッグス粒子の質量パラメータに対して2次発散が生じ、素朴にはプランク質量程度 (〜1018GeV) になると期待されます。 しかしながら、この質量パラメータは現実的には電弱スケール (〜102GeV) 程度でなければならず、繰り込みを受けることによって32桁にわたる尋常ではない相殺が起きていると考えられています。これは自然がそのように選ばれていると考えることもできますが、多くの研究者は不自然なことであると認識しています。この問題をゲージ階層性問題と呼びます。
 宇宙のインフレーション(cosmic inflation)とは、1981年にアラン・グースや佐藤勝彦によって提唱された、ビッグバン理論を補完する初期宇宙の進化モデルです。インフレーション理論・インフレーション宇宙論などとも呼ばれています。インフレーション理論では、宇宙は誕生直後の10-36秒後から10-34秒後までの間に、エネルギーの高い真空(偽の真空)から低い真空(真の真空)に相転移し、この過程で負の圧力を持つ偽の真空のエネルギー密度によって引き起こされた指数関数的な膨張(インフレーション)の時期を経たとしています。この膨張の時間的な発展は正の宇宙定数を持つド・ジッター宇宙と同様のものです。この急激な膨張の直接の結果として、現在我々から観測可能な宇宙全体は因果関係で結び付いた (causally-connected) 小さな領域から始まったこととなります。この微小な領域の中に存在した量子ゆらぎが宇宙サイズにまで引き伸ばされ、現在の宇宙に存在する構造が成長する種となりました。このインフレーションに関与する粒子は一般にインフラトンと呼ばれています。この理論の名前は提唱者のアラン・グースが、1970年代終わりにアメリカで起きたインフレーションをユーモア交じりに引用して名付けたものです。