認知症

2019年08月19日

遺影写真

e93347a4.jpg私が作業をしている傍らで、息子さん夫婦と葬儀屋さんが遺影写真の打ち合わせをしていました。
息子さんが提案するお写真にお嫁さんは首を横に振ります。
「写りは良いし、良い笑顔をしているけれど・・・この頃のお母さんは怖かったから・・・この写真を見ると思い出してしまう・・・」
口を濁しておっしゃいます。
91歳のおばあちゃんは、認知症でした。認知症を発症する前は、とても優しく孫も可愛がるとても良い姑さんでした。
でも、認知症を発症すると暴力的になり、大きな声で怒鳴り散らし、お嫁さんはいつもビクビクしていたそうです。それでも、デイサービスに通わせながらも家で介護をしていたのですが、ある時、おばあちゃんの暴れる姿を見た施設の方が、家で世話をするのは無理だろうという事で、施設に入れることになったのです。
私がおばあちゃんにお洋服を着せていると、お嫁さんが傍にいらして、靴下を履かせて下さいます。俯くお顔の目からポツリ、ポツリと涙が零れ落ちます。
とても優しいおばあちゃんが壊れていく姿を介護するのは、とても辛い事だったに違いありません。
遺影写真は、おばあちゃんが優しかった頃のお写真に決まりました。
亡くなった時とかけ離れた若い遺影写真だったとしても、故人様にとって、ご家族にとって、一番幸せだった頃のお写真で良いのです。
そのお写真を見て、幸せだった頃の姿だけ思い出せばよいのです。


angel0425 at 12:34コメント(0) 

2018年11月06日

後悔

4efb5936.jpg「後悔がたくさんあるの・・・・」
娘さんは亡くなったお母さんの亡骸の前で、泣きながらおっしゃいました。
お立合いになるのはお二人の姉妹だけです。
お母さんはご主人と離婚し、女手一つでお二人の姉妹を育てて下さったそうです。
お二人にお母さんのお身体を温かいタオルで拭いて頂きます。
サバサバとしたお姉さんとは裏腹に、妹さんは涙が止まりません。
着替えをし、お化粧を施し、髪型を整え、お支度が整いました。
妹さんは、シクシクと泣きながらずっと傍でご覧になっていました。
そして、支度が整うと、お母さんにしがみついて大きな声で泣きました。
「私ね、結婚が遅かったのは、ずっとお母さんと二人でいたかったからなんだよ。お母さんが大好きだったんだよ。だけど、だけど・・・ごめんね。ごめんね。」
10年ほど前にお母さんは認知症になりました。その頃、妹さんの二人のお子さんは保育園児で、子供にも手が掛かるので、お母さんを施設に入れてしまったそうです。そして、そのままお母さんは施設で最期を迎えることとなりました。その事を妹さんはとても後悔しているのです。家で面倒を見てあげられなかったこと。施設の入れてしまったこと。たくさんの後悔で押しつぶされそうになっていました。
きっと、誰もがたくさんの後悔を抱えているのでしょう。
不本意の『死』を前に、きっと誰もがたくさんの後悔に襲われるのでしょう。
でも、その時はそれが最善と思ってしたことならば、後悔する必要はありません。
お母さんも、そう思っているに違いありませんよ。


angel0425 at 17:07コメント(0) 

2016年07月06日

母の想い

f8e154f4.jpg認知症のおばあちゃんはご自宅でお亡くなりになりました。
検視が入り、裸のままグレーのシートに包まれていました。
そのお顔は94歳というお歳には見えないほど若く、とても幸せそうなお顔をしていました。
シートを開けて、お身体を確認すると脱糞しています。
死後処置をしながら、お下も綺麗にふき取り、オムツを当てて差し上げます。
部屋中に便の匂いが充満して、いつの間にか傍にいたご家族はお部屋を出て行かれていました。
お身体を拭き、ご用意して頂いた青いワンピースにお着替えをして、お顔を整えていると、娘さんとお嫁さんがお部屋に戻ってこられました。94歳のおばあちゃんの娘さんですから、お二人ともかなりのご高齢です。
いつの間にか、お二人はおばあちゃんの元気だった頃のお話をしています。
認知症がひどく、下半身すっぽんぽんのまま外出してしまったり、勝手に家を出られない様に外から鍵をかけても、腰高の窓から紐を垂らして外に出ようとしたり・・・とにかく外に出たくて仕方がなかったそうです。
ご家族はかなりのご苦労があったことでしょう。
でも、それも今となっては良い思い出話になっているようです。
お化粧を施して、髪型をセットして、お支度が整いました。
すると、息子さんがおばあちゃんの手に小さな木製の祠のような物を握らせました。そしてお嫁さんが、おばあちゃんのお顔の横に小さな木製のお地蔵さんを置きました。
小さな祠には、おばあちゃんの子供さんのお骨が入っているそうです。
おばあちゃんは、このお骨とお地蔵さんをずっと大切にしてきたのです。
4歳で亡くなった息子さんのお骨です。
「可哀そうな事をした。」
それがお婆ちゃんの口癖で、それは認知症になった後も、ずっとずっと大切にしていたというのです。
認知症で何もわからなくなってしまっても、子を想う親の心だけは見失うことはなかったのです。
それほど、母の想いは強いものなのですね。
ずっとずっと大切にしてきたお骨と共におばあちゃんは荼毘に伏されます。
幼くして失った我が子と、ようやく会うことが出来ます。
悔いてきた想いを愛情に変えて、我が子を抱きしめることでしょう。
母が子を想う気持ちは、年月で色あせることもなく、認知症でも見失う事のない強い想いだと改めて思い知らされました。


angel0425 at 10:27コメント(0)トラックバック(0) 
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