January 04, 2006

★『NATIVE DRUMS』ライナーノーツ

DDCA-5025/26

FLYNN & FLORA『NATIVE DRUMS』のライナーノーツを転載します。
 英国南西部の港街ブリストル。ロンドンから120マイル、急行で約90分。16世紀にはアフリカの奴隷貿易の玄関口として、また1950年代にはジャマイカなど西インド諸島から多くの移民が押し寄せ、英国第2の都市まで成長した街。あのロバート・ワイアットが誕生し、ポップ・グループ、ワイルド・バンチ〜マッシヴ・アタック、スミス&マイティ、トリッキー、ポーティスヘッド、ロニ・サイズ、ムーンフラワーズが活動していた街。そして我が国にも多くいるであろう“街/雑踏の音楽”を愛する者にとっては特別な感情を抱かずにはいられない街――ブリストル。

 もし“ブリストル・サウンド”というものを定義しなければならない場合、先の歴史的背景は避けることができない。アフリカ音楽、レゲエ〜ダブ、ソウルやファンクにジャズやロックといったアメリカからの輸入文化、そしてもちろん自国の文化。これらが区分されることなく、混ざり合って存在している点が、この街の、そしてこの街から生まれる音楽の最大の特徴と言える。

 70年代末にパンクとレゲエ〜ダブを結び付けたポップ・グループ。そこにジャズやラテンの要素も加えたリップ・リグ&パニックやピッグバッグ。これらのグループに日常的に接していたワイルド・バンチは、その影響下でソウルやファンク、そして“新しい音楽”であったヒップホップを独自の解釈でプレイしていた。ワイルド・バンチがレギュラーを務めていたクラブ、ダグ・アウトは、当時まだ少なかった“肌の色に関係のない”場所で、多くの若者が楽しみを求め集まっていた。そう、あなたがいま手にしているCDの作者、フリン&フローラもダグ・アウトにいた。

 クラストやサヴとともにフレッシュ・4のメンバーとして、スミス&マイティのプロデュースの下「WISHING ON A STAR」を全英ヒットさせたフリン(クラストの兄でもある)と、スペシャル・Kというカフェを営んでいた弟の影響でワイルド・バンチと交流を持っていたフローラは、80年代末に出会い90年代初頭から一緒にDJやトラック制作を始める。

 この頃の英国はレイヴ旋風の真只中で、ハードコア・ブレイクビーツから徐々にジャングルと呼ばれる音楽に進化しつつあった時期。ふたりはスミス&マイティや仲間たちと毎週レイヴに繰り出していたという。その空気を充分に吸い込んだふたりは、94年に2枚のシングルを世に送り出す。自らのインディペンデント・ディーラーズからの『FLOWERS / DREAM OF YOU』と、ロニ・サイズのフル・サイクルからリリースされた『STRING 4 STRING / JUNGLE LOVE』である。ここで聴くことができるハードな高速ブレイクビーツとファンク直系のバネのあるベース、ヒップホップを通過した耳で引用されるサンプリング・ネタ、そしてデトロイト・テクノにも通じる叙情溢れるシンセのサウンドは、後に“アンビエント・ジャジー・ジャングル”と呼ばれる彼ら独自のスタイルとして定着する。ちなみに「DREAM OF YOU」では、共同プロデューサーであるロブ・スミスのユニット、スミス&マイティの「ANYONE」からヴォーカルを引用している。

 彼らのファースト・アルバムである『NATIVE DRUMS』は、インディペンデント・ディーラーズの5番として96年にリリースされた。それまでのベスト・セレクション的な内容で、過去にリリースしたトラックのリワークも収録されている。当時はまだ数えるほどしかなかったアーティスト単位でのジャングル〜ドラムンベース・アルバムとして、その評価を不動のものとした。本作は、モア・ロッカーズ『DUB PLATE SELECTION VOL.1』、ロニ・サイズ・リプラゼント『NEW FORMS』と並ぶ、“ブリストル・ジャングルの最重要作品”のひとつと断言できる。

 今回再発売するにあたり、オリジナル『NATIVE DRUMS』に収録されなかった94年から97年までに発表されたシングル曲も時系列に沿って可能な限り収録したディスクが追加された。この2枚を聴くことで、彼らのサウンドの進化を感じることができるだろう。「TIME TRAVEL」「WARPED」など、ジャングル〜ドラムンベースとしてだけでなく、“英国産ブレイクビーツ”や“ブリストル・サウンド”の歴史を語る上でも外すことができないトラックも収録されている。

 01年にセカンド・アルバム『BACKGROUND』をリリースし、ドラム&ベース・セッションズで来日して以降、フリン&フローラの活動/露出は急激に停滞してしまった。それまでも試行錯誤を繰り返していた作品の流通に関する問題や金銭トラブルに巻き込まれ、かなりヘヴィな時期を送っていたようだ。ただ、現在は復調しDJ活動も再開、サード・アルバムも完成間近だという。また、フリンは自らのルーツであるヒップホップ・プロジェクトのアルバムも制作中だ。フリン&フローラは止まっていない。

■NAOKI E-JIMA(WWW.DISCSHOPZERO.COM)


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