April 21, 2006

★SISSI『The Voice Of The Ocean』解説

SISSIライナー

5月24日に発売となるSISSI『The Voice Of The Ocean』(DDCA-5035)のライナーノーツです。
 マッシヴ・アタックと並ぶ“ブリストル・サウンド”の最重要グループ、スミス&マイティに欠かせないシンガー、タミー・ペインと、ポーティスヘッドのライヴ・ベーシスト、ジム・バーによる生演奏ユニットが、シシー。本作は、ブリストル・サウンド3度目の黄金時代といえる2000年に完成していた“幻の”アルバムである。

 この作品について紹介する前に、タミーとジムについての簡単なプロフィールを書いておきたい。
 タミー・ペインは、1990年に〈WEA〉から12インチ・シングル「FREE」でデビュー。デニース・ウィリアムスの人気曲を、当時流行のグラウンド・ビート風の味付けでカヴァー。これは、地元ブリストルのインディペンデント・レーベル〈ブリストル・ベースライン・プロダクション〉からホワイト・ラベルでリリースした10インチ・シングルの再録。なお、12インチにはタミー作のオリジナル「PUSH'EM」がカップリングで収録されていて、ヴォーカリストとしてだけでなく、ソングライター/アレンジャーとしてのタミーのスキルがデビュー当時から破格だったということが確認できる。ただ、タミーによると「レコード会社の担当がマドンナを発掘した人で、ミニ・スカートを穿くように指示してたりするのにうんざり」だったとかで、〈WEA〉からのシングルは、この1枚のみとなる。
 しかし、この才能が放っておかれるわけはなく、即座にジャイルス・ピーターソンの〈トーキン・ラウド〉と契約、1991年に「TAKE ME NOW」、1992年に「DO YOU FEEL IT (LIKE I DO)」という2枚のシングルをリリースするが、アルバムは発表されることがなかった。
 1993年には〈トーキン・ラウド〉と並ぶ“アシッド・ジャズ”の人気レーベル〈ドレイド〉のコンピレーションに“THIS I DIG”というバンドで参加。ジムとタミーはこのバンドで知り合い、ジムによると「夏に出会い、葉が落ちる頃に恋に落ちた」のだそうだ。
 タミーとジムはそれぞれロンドンやブリストルのジャズ・シーンで活動を行なっており、“THIS I DIG”にも周辺のミュージシャンが参加している。クレジットには、ポーティスヘッドのエイドリアン・アタリーやジョン・バゴットの名前も。
 その後、タミーはしばらく表舞台からは遠ざかってしまうが、1996年、〈カップ・オブ・ティー〉レーベルからソロ名義の12インチ「IN DEEPER LIFE」をリリースし、ブリストルのシーンに復帰する。サポートをするのはジム、エイドリアン、クライヴ・ディーマーという、ポーティスヘッドの楽器隊ら。この年にはスミス&マイティの前線復帰シングル「SAME」に参加、以降のスミス&マイティ作品の常連となっている(2000年には来日も果たしている)。
 この期間にパートナーシップをより強固なものとしたタミーとジムは、SISSIとして本格的に活動を開始する。先に記した〈カップ・オブ・ティー〉から「LOOK AT ME」(1998年)、〈エンジェルズ・エッグ〉から「COMEDOWN / WRITE A LIST」(1999年)、『BOYLIKE EP」(2000年)という12インチをリリース。ブリストルのヒップホップ・レーベル〈オンブレ〉のコンピレーションに参加したり、地元情報誌『VENUE』で特集が組まれたりと、周囲の注目と期待は一気に高まっていた――“次のブリストル・サウンドはシシーだ”。
 これらの活動と並行して、ジムはポーティスヘッドのライヴに参加。また、ジェシ・モーニングスター(元ムーンフラワーズ)とのインヴィジブル・ペア・オブ・ハンズの活動、ブリストル在住のフランス人マーク・ガヴァンのプロデュース……などなど、ブリストルのシーンでも重要なポジションを担うミュージシャン/プロデューサーとなっていく。タミーも、ブラジル音楽やラテン・バンドに参加しながら、ジムのプロデュース業をコーラスやドラム/パーカッションでサポートしている。
 僕はこの時期に、シシーの何種類かのアルバムのデモを受け取っている。しかし、それらは結局リリースされることはなく、シシーとしての活動はフェイド・アウトし、代わりにジュークスというユニットの活動が活発になる。
 ジュークスは、タミーを中心に、ジムとジェシ、ポップ・パーカー(元チェスターフィールズ)らによるバンドで、2004年に〈ツイステッド・ナーヴ〉レーベルからアルバム『A THOUSAND DREAMERS』をリリースしている。シシーがタミーとジムのコラボレーションから生まれたユニットであるのに対し、ジュークスはあくまでタミーを中心にしたバンド、ということだそう。
 2006年現在、タミーとジムの間にはイソベルという女の子が誕生し、タミーはママ業の日々を送っている。その間にジムは、ビッグ・フィッシュのアルバムに参加し、マーク・ガヴァンの最新作『ナジャ』をプロデュースし、自身が経営するJ&Jスタジオでの活動に多忙な日々を送っている。ジュークスのセカンド・アルバムも既に完成しており、近い日にリリースされるだろう。

 シシー『ヴォイス・オブ・オーシャン』は、前述のとおり2000年には完成していたアルバムを再構成した内容となっている。しかし、流行を全く意識しない彼らの姿勢が功を奏してか、6年が経過した現在でも全く古く聞こえることはない。
 タミーが書く歌詞には、大いなる母性と少女性が同居し、ここ日本ではときに“ブリストル演歌”とも称される彼女のヴォーカル・スタイルによって様々な角度を受け手に与える。歌詞のライム(押韻)や行間を感じるためにも、可能であれば訳詞ではなく英詞にまずは触れていただきたいところ。

 タミーが描く世界をさらに拡げるおもなバック・ミュージシャンについても紹介しておこう。
 ギターとベースで参加しているダン・ブラウンは、現在、プロデューサーとしてマッシヴ・アタックのダディー・Gと作業を行なっている。また、“ポスト・ポーティスヘッド”的な形容をされるブリストルのユニット、イリア(ILYA)のファースト・アルバムにも参加している。
 リチャード・スタビンズはキーボードやメロディカで参加。ジムも参加しているビッグ・フィッシュで演奏しながら、劇場やテレビ向けの音楽制作を行なっている。
 イアン・マシューズは2曲を除いてドラムを担当(2曲はタミーが演奏)。彼はイリアやマーク・ガヴァンに参加し、現在はカサビアンのドラマーとして活躍している。
 「BELIEVERS」でピアノを演奏しているジョン・バゴットは、マーク・ガヴァン、マッシヴ・アタック、ポーティスヘッド、ロバート・プラント(レッド・ツェッペリン)などのバンドに参加している。
 トランペットのピート・ジャッジはオーガネルズをメインに、ビッグ・フィッシュマーク・ガヴァンに参加している。

 地元シーンでは百戦錬磨の彼ら実力派ミュージシャンによる生演奏にサポートされたタミーの歌声は、スミス&マイティのへヴィ・ベース&ブレイクビーツで歌う彼女に馴染みの多い方々にはどのように響くだろうか。本作にはスミス&マイティで発表された「BELIEVERS」のシシーによるヴァージョンも収録されている。このアルバムで初めてタミーを知った方には、スミス&マイティのヴァージョンも是非、聴いてみていただきたい。

■E-JIMA(WWW.DISCSHOPZERO.COM


DDCA-5035

SISSI『The Voice Of The Ocean』は5月24日発売。→詳細
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