タルト

2012年01月07日

「偽物」と分かっていても、治療に効果発揮する偽薬

http://jp.wsj.com/Life-Style/node_369992?google_editors_picks=true

「パラセボ(偽薬)効果」と聞くと、その偽薬が効くと信じるが故に得られる気分的な高まりを思い浮かべることが多い。だが、最近の研究では、つかの間の気分の高まり以上のものがパラセボから得られることが分かってきた。

 最近の研究で、自身の体や健康状態に関するある種の見方や思い込みが、病状の改善につながり、食欲や脳化学物質や視力の変化にまでつながる可能性があることが示され、心と体が深く結びついていることが浮き彫りになった。

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Douglas B. Jones

ぜんそくの発作にパラセボを与えられた患者は、本物の治療と同じように気分がよくなったと報告した

 この場合、摂取するのがパラセボであり、「本当の」治療ではないと分かっていても関係がないようだ。ある研究では、有効成分を含まない砂糖の薬を飲むと告げられた被験者にも、強いパラセボ効果が見られた。

 パラセボは実際の臨床診療でも使われる場合がある。英国の医学会報で発表された2008年の調査では、700人近い内科医とリウマチ専門医にアンケートを行い、その約半分がパラセボを定期的に処方すると答えた。最もよく使われるパラセボは市販の痛み止めとビタミン剤だ。砂糖でできた薬や食塩注射を使うと答えた医師はわずかだった。米国医師会によると、扱いにくい患者をなだめるためだけにパラセボを処方することはできず、患者に通知して同意を得なければ使うことはできない。

 研究者はパラセボ効果をさらに探求し、効果を増減させる方法を解明したいとしている。体重やメタボリズムに関係する健康状態を改善するうえでは、より強力で長続きするパラセボ効果があれば有用かもしれない。

 エール大学院生のアリア・クラム氏とハーバード大学のエレン・ランガー心理学教授が行い、2007年にサイコロジカル・サイエンス誌に掲載された研究によると、ホテルの客室係は、仕事がよい運動になると聞かされると、4週間後には体重や血圧、体脂肪が大きく減少した。同じ仕事をしながらも、運動については聞かされなかった従業員では体重に変化はなかった。両グループとも食事や運動量は変わっていなかった。

 昨年、ヘルス・サイコロジー誌に発表された別の研究では、個人の食欲やグレリンと呼ばれる消化管ペプチドの生成に対して、人の物の見方がどのように影響するかが示された。グレリンは食後に得る満足感に関係しており、体が食べ物を必要している時には上昇し、カロリーが摂取されると減少して、もう空腹ではなく、食べ物を探す必要はないと体に伝える。

 しかし調査では、グレリンのレベルは、実際にどれだけのカロリーを摂取したかではなく、どれだけ摂取したと告げられるかに左右されることが示された。これから飲もうとするミルクセーキが620キロカロリーで「過剰」であると告げられた被験者は、脳が満足感を認識し、同じミルクセーキが120キロカロリーで「適度」なものであると言われた被験者よりも、グレリンのレベルが低下した。

 クラム氏によると、この結果は、ダイエット食品を食べるとなぜ満足感が得られないのかを、心理学的に説明するという。「ダイエット食品を食べる場合、体に対して十分には食べないと伝えることになる」

 うつ病や片頭痛、パーキンソン病などに関する研究では、砂糖でできた薬や偽手術、偽はり治療といった効力のないとされている処置でも、大きな効果をもたらすことが発見されている。サイエンス誌に2001年に発表された研究では、パーキンソン病の症状を改善するうえで、パラセボが本当の治療と同等の効果を発揮することが示された。パラセボは実際に、パーキンソン病の治療に有効とされている神経伝達物質のドーパミンを大量に誘発した。

 ハーバード大学のパラセボ研究プログラムのディレクターであるテッド・カプチュク氏らは、パラセボが効果を発揮するためには、必ずしも患者をだます必要はないことを示した。同氏らは、過敏性大腸症候群の患者80人に対して、パラセボを与えるか、何の治療も施さなかった。パラセボを与えられたグループは、薬が効力のない物質で作られ、「心身の自己回復プロセス」を通じて症状が改善するという研究結果があることを示された。患者は、パラセボの効果を信じる必要はないが、ともかく薬を飲むように言われた。3週間が経過した後、パラセボを摂取した患者は苦痛が軽減し、一部の症状が大きく改善、生活の質がいくぶん向上したと報告した。

 なぜパラセボは、真の治療ではないと知らされた後でも効果を発揮するのか。カプチュク氏は、期待感がその一因だと言う。また、前向きな環境に置かれ、革新的なアプローチと薬を飲むという日々の儀式が、変化に対して開かれた心を作り出すのではないかという。

 カプチュク氏は「現在のところ、パラセボは病気の生態を根本から変えるのではなく、患者が病気を経験し反応する方法を変えるのではないかと考えている」と話している。


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米研究者、老化現象を遅らせる方法発見か―マウスで実験

http://jp.wsj.com/Life-Style/node_336791

一部の老化現象を遅らせる方法が見つかったかもしれない。2日に発表された米研究チームの論文によると、マウスを対象とした実験で、分裂しなくなった細胞を除去することで、白内障やしわの原因となる脂肪減少といった現象を遅らせたり、防いだりすることができたという。

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Getty Images


 若くて健康な細胞の大半は、体の組織や臓器を適切に機能させ続けるために分裂を続ける。しかし、その分裂はやがて止まって老化と呼ばれる状態になり、他の細胞に取って代えられる。細胞の老化はヒトの一生を通じて起こる現象だが、このような老化細胞を体から除去する能力は年齢を重ねるとともに衰えるため、このような細胞が体内にたまっていく。

 米ミネソタ州ロチェスターの有力医療機関メイヨー・クリニックの研究チームは、老化した細胞をターゲットとして死滅させる薬を使って、老化プロセスの一部を本質的に凍結できることを発見した。この研究結果は2日付の英科学誌「ネイチャー」に掲載された。

 この研究は、極めて初期の段階にあるものの、老化細胞を除去すれば、年齢を重ねながらも健康を維持する1つの方法である可能性を示している。

 論文の執筆者で、メイヨー・クリニックの教授でもあるジャン・バンデューセン氏は、「老化細胞を除去できれば、ひょっとすると老化に関連する各種の病を個別にではなく一つのグループとして治療できるようになるかもしれない」と語った。

 老化プロセスにおける細胞老化の重要性は、長年疑問視されていた。しかし、米国立加齢研究所(NIA)の加齢生物学部長フェリペ・シエラ氏は今回の研究結果について、これらの細胞が老化に関連する現象において一定の役割を果たしていることをはっきりと示していると指摘した。同氏はこの研究には参加していない。

 細胞は老化すると、炎症を引き起こすような有害な物質を出す。メイヨー・クリニック加齢センターの責任者で論文の執筆者でもあるジェームズ・カークランド氏によると、、認知症、アテローム性動脈硬化症、糖尿病などの疾病の裏には、加齢に伴う慢性的な組織の炎症が潜んでいると考えられるという。

 研究チームは、老化細胞が全体の細胞に占める割合はほんのわずかで、高齢者の組織の約5%ないしそれ未満だが、それが幅広い影響をもたらしている可能性があると指摘している。



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<鶏の空揚げブーム>専門店増加 「安価」「安全」で注目

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120107-00000039-mai-soci

食卓や居酒屋の一品として、さらには弁当のおかずとしても「定番」の鶏の空揚げ。このおなじみのメニューが今、ブームになっている。専門店が増え、関連商品もヒット。何が起きているのか。

【揚げてみよう】鶏の空揚げのコツ

 東京都葛飾区立石にある創業60年余の空揚げ店「鳥房(とりふさ)」。鶏肉店を兼ねる店先に据えられた二つの大鍋で、3代目主人の水澤昭さん(67)が鶏の半身を丸ごと揚げていく。

 約600円(大きさによる)の空揚げが1日200個以上、週末には300を超える勢いで売れる。「ブームだってね。この近所にも(空揚げ店が)四つできた」。水澤さんは目を丸くする。

 都内の空揚げ専門店は急増している。一般社団法人「日本唐揚協会」によると、09年には10店だったのに、昨年12月時点で60店以上に増えた。同協会は、空揚げ愛好家たちが08年に設立。人気店を集めた「からあげカーニバル」を大手スーパーで催したり、コンビニエンスストアの商品監修にも関わっている。

 人気の「発信源」と言えそうなのが大分県北部。特に「聖地」とされる中津市と「専門店発祥の地」の隣の宇佐市では、計80店が味を競う。大分の空揚げの特徴は、油をつぎ足し、そこに染み出した店独自の味を継承していることや、胸、もも、首といった部位ごとに買えることなど。

 空揚げは家庭料理のイメージが強いが、地元では「昔から専門店で買うもの」(中津市観光課)だそう。中津市では毎年「からあげフェスティバル」を開き、4回目の昨年は2日間で市の人口を上回る9万人以上を集めた。宇佐市も06年に市職員らが「からあげ探検隊」を結成、今年のB−1グランプリ出場に向け準備を進める。

 「東京では、大分から出てきた専門店を地元の店が迎え撃つ−−という構図で盛り上がっています」。日本唐揚協会専務理事で、自身はIT関連の会社を経営する八木宏一郎さん(36)はそう話す。

 ブームは外食分野だけにとどまらない。昭和産業が昨年3月に発売した「レンジでチンするから揚げ粉」は、鶏肉にまぶして電子レンジで加熱するだけで「空揚げ」ができるというもの。「揚げない揚げ物」というコンセプトが受け、当初の年間売り上げ目標5億円を既に上回り、今春には10億〜12億円に届く勢いという。空揚げ人気に加え「節電の夏で(室温を上げる)火を使う料理を避ける傾向も後押しした」と同社。

 なぜ今、空揚げなのか。「(08年の)リーマン・ショック後の不況に伴う節約ムードで、牛や豚よりも鶏、外食より調理された食品を買って自宅で食べる『中食』を、という傾向が強まった」と八木さんは分析する。さらに原発事故後、食品の安全への消費者の意識が敏感になったこともあり「生育サイクルが短く、比較的リスクの低い鶏肉需要が高まったのではないか」。

 関連書籍の出版も相次ぐ。9月に発売された「みんなの唐揚げ」(ナツメ社)は、さまざまなレシピ、各地の名店紹介の他、使用する鶏肉の部位や下味、衣などの違いも解説し「唐揚げバイブル」をうたう。「空揚げは誰にとっても身近で嫌いな人が少ない料理。一方でバリエーションも多く、熱く語る人たちがいるところが面白い」。編集担当の遠藤やよいさんは言う。

 かみしめればジュワッと広がるそのうまみのように、今年も空揚げブームは続くか。【井田純】


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2011年12月14日

シリコンバレーで起業した日本人が語るスタートアップガイド2――シリコンバレー流の資金調達

http://jp.techcrunch.com/archives/jp20111105the-guide-to-start-business-in-silicon-valley-for-japnanese2/

前回は、「シリコンバレーの投資家に受け入れられるプレゼン」について書きましたが、今回は、「投資家へのプレゼン方法」に次いで多く受ける質問である「資金調達」に関してです。

投資家へのプレゼンテーションは、日々試行錯誤をしながら改良していくことができますが、資金調達は一旦実施してしまうと、もう後戻りができません。事業(サービス)もチームも良いのに、資金調達で間違いを犯したがために、先に進めなくなる例も多々あります。

この記事では、シリコンバレーのオンライン系のスタートアップの最近の一般的な資金調達の方法を整理します。シリコンバレーのやり方が必ずしも絶対的に正しいわけではありませんが、長年の歴史を経て「標準化」されているやり方から学ぶことも多数あると思います。また、シリコンバレー進出をしたいと考えている人は、大きな間違いを犯すのを避ける意味でも、シリコンバレーの標準形を理解しておいて損はないと思います。

シリコンバレーのオンライン系スタートアップの資金調達の標準系
シリコンバレーでは、スタートアップにまつわるいろいろなものがパッケージ化(標準化)されています。(もちろん例外はいくらでもありますが)標準的な投資のパターンは大体以下のようなパターンです。個別に投資家と交渉するのはスタートアップ側にとって時間的、金額的(弁護士費用)にとても負担が大きいので、「今からXXラウンドを開きます。投資したい人は一緒にどうぞ」という形で投資を募ります。

1.Seed Round (Advisory Round)
2.Seed Round (Money Round)
3.Series A
4.Series B
5.……
Series A以降(Priced Roundsとも言います)は、優先株(Preferred Stocks)による調達が一般的です。これは、日本で言う「第三者割当増資」に該当します。こちらは日本の皆さんも想像しやすいのではないかと思います。所謂ベンチャーキャピタル(VC)から調達します。通常、そのラウンドをリードする「リードインベスター」を決めて、まずはそのリードインベスターとスタートアップが詳細条件を詰めます。その後、双方が同じ条件で投資をしてくれる他のVCを探します。TechCrunchの記事で「A社にX, Y, Zが投資」という記事が出る場合、大抵はXがリードインベスターだと理解すればほぼ間違いないと思います。

ところが、最近では、特にオンライン系でSeries Aまで行かずに売却となるケースが多くなってきており、Series Aが実行されるということは、「プロダクト良し。ユーザー数(の増加率)良し。明確なビジネスモデルも見つかった。よって、後はお金を投入してチームを大きくしていけば、より大きなスケールで儲かりそう」という段階になる場合が多いです。VCは多くの場合、取締役の選任権(や場合によってはCEOの任命権)を要求します。従って、Series Aが行われるということは、創業者たちの自由が無くなるということでもあります。場合によっては、VCが指名したCEOによって創業者が解雇されるということも起こりえます。

他方、多くの会社は、創業後すぐに「プロダクト良し。ユーザー数(の増加率)良し。明確なビジネスモデルも見つかった。よって、後はお金を投入してチームを大きくしていけば、より大きなスケールで儲かりそう」とはなりません。かと言って、そうしたレベルになるまで自己資金で活動し続けるというのはほぼ無理です。20代の創業者たちが多くの貯金を持っていないのは日本もシリコンバレーも一緒です。シリコンバレーでは、若い創業者たちが自己資金を出すということをまったく期待されません。

では、Series A(あるいは売却)に到達するまでの間、どのように資金調達するのでしょうか。シリコンバレーには、多数のエンジェル投資家(個人)がおり、多くのスタートアップはVCからの調達の前にエンジェル投資家から資金を調達します。これが上記で言う1や2のSeed Roundに該当します。ただ、この段階での投資は、(一般的には)優先株を発行する第三者割当増資ではなく、Convertible Notesで調達します。Convertible Notesとは何かは後ほど詳細を説明しますが、Y CombinatorのPaul Grahamが

Convertible notes have won. Every investment so far in this YC batch (and there have been a lot) has been done on a convertible note.
(筆者訳:Convertible Notesが勝った。Y Combinatorの現クラスのすべての会社への投資(実際にはもっと)がConvertible Notesでの投資だった。)

と書いているように、シリコンバレーのオンライン系企業へのアーリーステージでの投資はほぼすべてConvertible Notesによる投資になってきているというのがトレンドです。AppGroovesも現時点ではすべての資金をConvertible Notesで調達しています。Convertible Notesによる投資に関する情報は日本語にほとんどない上に日本ではなじみのないやり方ではありますが、これは「シリコンバレーの歴史的な発明」だとも思いますので、後ほど整理します。

Advisory Roundとは文字通り、アドバイザー兼投資家となる人から投資を受けるためのラウンドです。アイデアがあって、プロトタイプがある、くらいのレベルでしょうか。基本的にはエンジェル投資家(個人)から調達します。詳細は後述しますが、評価額(正確には後述する「増資前評価額の上限」)は100万から300万ドル。Money Roundはもう少し対象となる投資家を広げて、Advisory Roundよりも大きな額を調達します。評価額は300万から1000万ドルくらいが標準的です。このラウンドはエンジェル投資家(個人)だけでなく、小さめのSeed FundやSuper Angelと呼ばれる人たちからも調達します。これらの投資家は、一般的には、取締役の選任権を要求しません。従って、このステージでは、基本的に会社はまだ創業者たちが自由にコントロールできます。

Advisory Round = お金以上のものを提供してくれる(エンジェル)投資家を探す
Convertible Notesとは何かを説明する前に、私が資金調達に関して、シリコンバレーの先輩たちから学んだ一番重要なことを書いておきます。それは「できるだけ創業初期に、資金以上の何かを提供してくれる人から投資を受けること」です。

特に、創業初期のスタートアップは、ほとんどの場合、解くべき問題とプロトタイプくらいしかない、言ってみれば、ほぼ何もない状態です。典型的なケースでは、20代のエンジニアが2から3人。こうした会社でも1から2年後にはとてつもない会社になる(場合がある)というのは、シリコンバレードリームです。私も最初は「20代の若者が頑張ってもどうにもならないのではないか」と思っていました。ところが、よく研究をしてみると、上手くいく会社ほど、若い創業者たちを助ける多くの投資家/アドバイザー(それも百戦錬磨の猛者たち)がいる、ということがわかりました。彼らのヘルプこそが、スタートアップを本当の意味で離陸させている、ということです。

創業初期の投資家/アドバイザーは、スタートアップに2つの価値を提供してくれます。1つ目はアドバイスです。まだ若い創業者たちは、夢と技術はありますが、経験がありません。過去に成功した起業家、同じ領域のエキスパートからのアドバイスはお金に換算することのできない貴重なものです。2つ目は、信用(英語で言うと「Social Proof」)です。「Xさんが投資した/アドバイザーになった」というのは、Xさんが過去に成功している人、大企業の重役であれば、非常に大きな信用になります。若い創業者が何かを売り込もうとしても大抵は無視されるでしょうが、Xさんからの紹介があるだけでまったく違うことが起こる、というのは日本でもシリコンバレーでも同じです。

こうした投資家/アドバイザーが見つからないと、ゲームが先に進みません。500 Startupsの3カ月のインキュベーション期間で最初に言われることは、早く「Advisory Roundをクローズしなさい」「良いアドバイザーを見つけなさい」という2点です。このステージでのターゲットは、大きく以下の2つのいずれかを満たす人です。

■過去に自分の会社と同じ領域で起業家として成功している人
■自分の会社と同じ領域の大きい会社の重役
例えば、自分の会社がエンタープライズのソフトウェアの会社であれば、「OracleのVice President」や「MySQLの創業メンバー」というような人が理想的です。こうした人たちに投資をしてもらうか、アドバイザーになってもらうというのがビジネスを進める上でも、その後の資金調達をしていく上でも欠かせません。「OracleのVice President」や「MySQLの創業メンバー」というような人を見つけるのは一見非常に大変に見えますが、逆に言うとこうした人たちを口説けないと、その先が非常に苦しくなります。例えば、Money Roundをやる際にしっかりしたアドバイザーがいないと、多くの(良い)投資家は投資をためらうでしょう。ちなみに、ここで言う「アドバイザー」というのは、少量の株式(あるいはストックオプション)を持ってもらう代わりに、ほぼ無償でスタートアップを支援する人のことです。明示的な契約書を交わすのが普通です。

AppGroovesの例で説明します。AppGroovesはシリコンバレーのローカルの投資家/アドバイザーも多いのですが、読者の皆さんに分かりやすくするために、日本の投資家の例にします。AppGroovesに創業当初に投資をしてくださった小澤隆生さんと宮澤弦さんの2人は、創業当初から今に至るまで「資金」以上の貢献をしてくれています。小澤さんは、私の楽天時代の先輩ですが、ビズシークという会社を創業し、楽天に売却しています。楽天に売却後も、楽天野球団はじめ数多くの新規ビジネスを立ち上げてきた猛者です。従って、事業/サービスの大きな方向性を決めていく際の相談相手として、彼以上の人はいません。大局的な判断が要求される際に相談をすると、すぐに的確なアドバイスが返ってきます。宮澤さんは、実は私の大学時代の同級生なのですが、彼は在学中から事業を興し大学卒業直後にはシリウステクノロジーズを起業、Yahoo! JAPANに売却しました。シリウステクノロジーズもAppGroovesと同じくモバイルの会社でしたので、モバイル領域での彼のノウハウは非常に強力です。また、学生時代から良く知っている仲なので、他の誰にも相談できない創業者ならではの悩み相談に乗ってもらうこともあります。

AppGroovesは、幸いこうした形でここぞという時に助けてくれるシリコンバレーの猛者たちにも、投資家/アドバイザーになってもらうことができました。われわれが今の時点まで何とかやってこられたのは、まぎれもなくこうした日本とシリコンバレーにいるアドバイザーのおかげです。逆に言えば、こうした投資家/アドバイザーを見つけられるかどうかで、スタートアップがフィルターされていきます。シリコンバレーで起業したい人にとって一番重要なことは「シリコンバレーで良い投資家/アドバイザーを見つけられるか」ということに尽きると思います。まだできたばかりの会社に投資をしてもらう、あるいは、給与なしでアドバイスしてもらうというコミットをしてもらうのはそう簡単ではありませんが、逆に言うと、これができないと次のステージに進めないのも事実です。

自己資金は? 日本からの投資はNG?
日本から来る人から良く受ける質問として「最初は自己資金でやろうと思うのですが……」というものがあります。シリコンバレーでグローバルに事業をしたいのであれば、これは絶対に止めた方がいいです。もちろん例外はありますが、自己資金で自分のペースでやって勝てるほど甘い勝負はありません。前述のように、特に初期(Advisory Round)での投資やアドバイザーの獲得というのは、「創業当初間もなくやらねばならないこと」ですし、彼らのヘルプなしに先に進めていくのはほぼ無理だと思った方が良いと思います。シリコンバレーの猛者たちを、自分のスタートアップにコミットさせるには、投資を受けるか、アドバイザーを依頼するか、いずれにしても株式の希薄化は避けられません。株式が希薄化するのが嫌な人は、そもそもシリコンバレーで起業しない方がいいでしょう。

次に良く受ける質問は「日本からの投資はNGですか?」という質問です。これは非常に難しい質問で、中には「お金はお金なのだからどこからもらっても同じ」という人もいます。私の回答は少し違って、「Advisory Roundの大半が日本からの投資となるのは、避けた方が良い」というものです。つまり、Advisory Roundの大半が日本からの投資で、Money Roundをシリコンバレーの投資家から集めるというのは困難であるということです。良い投資家/アドバイザーほど、できるだけ初期に、できるだけ良い条件で投資をしたがりますので、それを妨げるようなことはするべきではないと思います。アドバイザーを依頼する場合も、アドバイザー候補も過去の投資家一覧は当然気にしますので、できる限り初期にシリコンバレーの投資家を見つけることが最重要だということです。

Convertible Notesとは何か?
一言で言うと「会社にローンとしてお金を貸し付け、将来、優先株による資金調達(通常Series A)が起こった際にローンを優先株に転換(convert)する」というものです。

なぜ、こんな面倒なことをするのでしょうか? いくつか理由があります。第一には、「立ち上げ直後の会社の評価額を決めるのはほぼ不可能」という点があります。スタートアップの評価額というのはどこまでいっても決めるのが難しいのですが、特に立ち上げ直後は評価額を決めるのがほぼ不可能です。従って「とりあえずお金を貸すから、将来、評価額が決まった時に株にしてね」という形が投資家/スタートアップの双方にとって合理的だということです。

第二に、優先株による資金調達(Series A以降)に比べて、Convertible Notesの方が、契約そのものにかかる時間が圧倒的に短いという事実もあります。優先株による資金調達(Series A以降)はきちんとした査定(デューデリジェンス)が必要なので、非常に時間もお金もかかります。時間だけならまだしも、査定に対応するための弁護士費用をスタートアップが負担するのは非常に痛手です(アメリカは契約社会なので、創業直後とは言え、専門的な弁護士なしに契約書を処理するのはほぼ不可能です)。他方、Convertible Notesで投資をする人たちは、ほとんどがエンジェル投資家(個人)かせいぜい小さいSeed Fundなので、詳細な査定(デューデリジェンス)はほぼしないか、するとしても非常に簡易的な査定です。私の経験上、「私の弁護士はX事務所のYです」というと、「あぁ、あの事務所(弁護士)なら大丈夫だよね」という具合に、全く査定されないこともありました。

第三に、これは第二の点と似ていますが、Convertible Notesの場合、個別の投資家が契約に同意する度に投資額が入金されます。他方、一般的に優先株による資金調達(Series A以降)は、そのラウンドに参加するすべての投資家が合意するまで、当然ながら誰からも入金されません。創業直後はお金が無いので、スタートアップ側からすれば、「他の人がまだ契約に同意していないから入金されない」という状況よりは、個別の投資家が契約に同意する毎に入金される方がいいに決まっています。

Convertible Notesの詳細
以下が私の知る一般的な方法です。繰り返しになりますが、例外はいくらでもありますので、実際に実行される場合は、自己責任で弁護士を雇ってください。

Convertible Notesとは、「会社にローンとしてお金を貸し付け、将来、優先株による資金調達(通常Series A)が起こった際にローンを優先株に転換(convert)する」と上述しましたが、どのようなルールで転換するのでしょうか。

通常、パラメーターは2つです。

1つ目は、転換時の「増資前評価額の上限」(pre-money valuation cap)です。仮に「増資前評価額の上限」が500万ドルのConvertible Notesで投資したエンジェル投資家がいるとします。その後しばらくして、増資前評価額が1,000万ドルでSeries Aを行うとします。この時に、エンジェル投資家が投資家が投資したお金が、優先株に転換されますが、エンジェル投資家からすると当然、「まだ会社が小さい(リスクが大きい)時期に投資したのだから、Series Aの投資家よりも有利な条件で転換してほしい」ということになります。

この場合、Series Aに参加するVCは1,000万ドルの評価額で投資しますが、このエンジェル投資家には、上限値の500万ドルの増資前評価額として優先株が発行されます(この場合、先に投資をしたエンジェル投資家は、Series Aで投資をするVCに比べて、同じ優先株を約半分の値段で手に入れられるということです)。つまり、「増資前評価額の上限」は、Convertible Notesの投資の後に事業が非常に上手くいき、Series A時の評価額が非常に高くなった場合に、先に投資をしてくれた投資家を守るためのものです。

二つ目は、「増資前評価額の割引率」(discount)です。同じく「増資前評価額の上限」が500万ドル、「増資前評価額の割引率」が20パーセントのConvertible Notesで投資したエンジェル投資家がいるとします。その後しばらくして、増資前評価額が300万ドルでSeries Aを行うとします。この時も、エンジェル投資家が投資家が投資したお金が、優先株に転換されますが、エンジェル投資家からすると同じく、「まだ会社が小さい(リスクが大きい)時期に投資したのだから、Series Aの投資家よりも有利な条件で転換してほしい」ということになります。

この場合、実際の増資前評価額(300万ドル)が「増資前評価額の上限(500万ドル)」よりも(ずっと)小さいことに注目してください。Series Aに参加するVCは300万ドルの評価額で投資しますが、このエンジェル投資家には、300何ドルの20パーセント引き、つまり240万ドルの増資前評価額として優先株が発行されます(この場合も、先に投資をしたエンジェル投資家は、Series Aで投資をするVCに比べて有利な条件で優先株が発行されていることになります)。つまり、「増資前評価額の割引率」(discount)は、Convertible Notesの投資の後に事業があまり上手くいかず、Series A時の評価額があまり高くならなかった場合に、先に投資をしてくれた投資家を守るためのものです。

繰り返しになりますが、これら2つのパラメーターは、リスクが非常に大きい初期に投資をしてくれたエンジェル投資家を守るためにあります。「増資前評価額の上限」は、事業が非常に上手くいって、Series Aの評価額が大きくなった場合に、エンジェル投資家に有利に作用します。逆に、「増資前評価額の割引率」は、事業がそこそこだった場合、あるいは上手くいかない場合のためのものです。

Convertible Notesに精通している投資家と話をして、投資したいということになると「capはいくら? discountはいくつ?」と聞かれるのが通常です。

計算が非常に煩雑になりますが、それでも、スピード感を持って急成長していくスタートアップには非常に良い仕組みです。日本のスタートアップでもこの仕組みは検討する価値があると思います。スタートアップは、新しい事業を通して世の中を少しでも良くすることがミッションです。他方、資金調達は特にスタートアップ側にとって、非常に時間を取られるプロセスでもあります。実際に自分で体験してみて良くわかりましたが、「いかに早く動くか」という点に重きを置いてきた中で発明されたこのConvertible Notesは本当に「シリコンバレーの歴史が産んだ発明」だと思います。Wilson Sonsini Goodrich & Rosatiというシリコンバレー最大手の弁護士事務所が自動的にConvertible NotesのTerm Sheet(契約書の概要)を作成するサービスを提供していますので、興味がある方はぜひお試しを。



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シリコンバレーで起業した日本人が語るスタートアップガイド――受け入れられる投資家へのプレゼンとは

http://jp.techcrunch.com/archives/jp20111017the-guide-to-start-business-in-silicon-valley-for-japnanese/

編集部注:この記事はシリコンバレーでAppGroovesを起業した柴田尚樹(@shibataism)によるゲスト記事。AppGroovesについてはTechCrunch Japanでも以前に紹介している。柴田氏は楽天で執行役員を務めたり東京大学で助教を務めた経験を持つ。

私がシリコンバレーでAppGroovesを起業してから、ほぼ毎週のように、日本のスタートアップから「シリコンバレー進出したいのですがどうしたらいいですか?」という問い合わせを受けます。彼らが決まって言うことの1つは「アメリカ人はプレゼンがとても上手なので、自信がない」ということです。

これは、一理あります(確かにアメリカ人の中には、信じられないくらいプレゼンが上手な人がたまにいます)が、日本人=アメリカ人よりプレゼンが下手、と言っている限り、何も先に進みません。シリコンバレーはスタートアップのメジャーリーグなので、日本人から来たという理由だけで優遇してくれる人はほぼいません。むしろ、シリコンバレーの投資家は、いい投資家ほど毎日山のようにアプローチを受けていますので、英語がネイティブでないということ自体が非常に大きなハンディキャップです。

私が思うに、多くの場合、「シリコンバレーの投資家が期待する形でプレゼンテーションをしていない」というのがほとんどです。実際に「僕にピッチ(注)してみてください」と言って聞くと、大半の場合は、「あぁ、これじゃぁ門前払いされるだろうなぁ」というものが多いです。そのスタートアップやサービスやチームがダメだと言っているのではありません。素晴らしいサービスやチームを持っていても、相手が期待する形で伝えていないため、せっかくの良さが伝わる前に門前払いされているように思います。要は「郷に入りては郷に従え」ということです。

(注:アメリカでは投資家へのプレゼンテーションをピッチする(pitch)と良く言います)

シリコンバレーの投資家が重視するポイント
明確なルールがあるわけではありませんし、もちろん個々の投資家ごとに好みはありますが、AppGroovesにも投資している500 StartupsのDave McClureは、以下の5つの点が重要だと指摘しています。

1.Market
2.Product
3.Team
4.Customers
5.Revenue
創業直後であれば、この5つすべてで100点満点である必要はありませんが、全部がまぁまぁという状態だと恐らく投資されないでしょう。創業直後であっても、この5つのうち、いくつかは、世界基準で飛び抜けている必要があります。

シリコンバレーの投資家へのプレゼン(ピッチ)のフォーマット
これも特に決まりがある訳ではありませんが、KissMetrics創業者兼CEOのHiten Shah(500 Startupsのメンターでもあります)は、

Simple #startup pitch: 1. Problem 2. Solution 3. Traction 4. Team 5. Future – thats it.

とTweetしています。彼はシリアルアントレプレナー(複数回起業している起業家)であるため、投資家が何を求めているかをよく理解しています。

非常に短いtweetですが、実に的を得ていると思います。私がこれまで聞いた良いピッチはほぼこの順番で構成されており、すべての要素にエッジが立っている内容でした。

1.どういった問題を解決しようとしているのか
2.どういった解決策(サービス)なのか
3.現時点でどの程度ユーザーがいるのか(増加率はどの程度か)
4.創業チームは誰なのか
5.今後どのような計画か
の5つです。これ以外のことはすべてAppendix(付録)で十分です。

シリコンバレー投資家は、1日に何度も起業家のピッチを聞いています。従って、平凡な内容だと「またかぁ」となります。その中に埋もれないためにも、この5つの項目に関しては、真剣に考えて、シリコンバレー水準で「おぉ、こいつら凄そうだ」となるようにしておかないと、投資家の興味を引くことは難しいでしょう。

実際には、私は、上述の5つ(1. Problem 2. Solution 3. Traction 4. Team 5. Future)を含んだ「30秒バージョン」「1分バージョン」「3分バージョン」を3つ用意してあります。ちなみに、これは私の好みかもしれませんが、相手がわれわれに強い関心を持っていると分かるまでスライドを使いません。3バージョンともすべて、口頭で説明します。相手が関心を持っていることが分かって、細部の議論になってはじめて、スライドを使って説明します。

「30秒バージョン」は文字通りエレベーターピッチ用です。500 Startupsのオフィスはビルの12Fにあり、投資家もよく出入りしているので、よく彼らとエレベーターで一緒になり「お前何してんの?」と聞かれます。その時には「30秒バージョン」を使います。ここで気に入られれば、「もう少し話聞かせてくれ」と言って、私のデスクまで来ることもありますし、「今度、コーヒー飲もう」と言われて別のミーティングを設定することもあります。

「1分バージョン」はパーティーなどではじめて会う人に使うためのものです。エレベーターよりは時間を使えますが、そもそも大勢の人がいるパーティーで、特定の人に対して自分だけに関心を持ってもらうのは1分間が限界だと思います。これで気に入られれば、われわれのプロダクトはiPhoneアプリなので、その場でダウンロードしてもらい、フィードバックをもらったり、上述のようにより詳細を聞かせてくれ、ということになります。

「3分バージョン」は、事前にアポを取ってカフェやオフィスで投資家に会う時に使います。この場合、相手は私がスタートアップの創業者で、現在、資金調達の最中であるということは分かっている前提ですが、それでも相手の関心が続くのは3分程度でないでしょうか。もちろん、3分のピッチで相手が気に入れば、途中であっても、どんどん質問してきます。そうなればこちらの勝ちです。そこからお互いに会話が始まります。3分のピッチで相手の関心を引けなければ、5分やっても10分やっても一緒です。お互い時間が無駄なので、要点だけを3分にまとめる方がずっと効率的なのでこうしています。

よくありがちな失敗例とその対策
500 StartupsのDave McClureは日頃から、

Problem, NOT solution. Customer, NOT technology. UX, NOT code. Distribution, NOT PR. Acq cost, NOT revenue projections.

と言っています。多くのスタートアップはこのことを理解しないで、投資家にピッチをして、その結果投資を受けられずにいる、という彼の経験則です。これは日本人だけに対して発せられたメッセージではありませんが、私が見る限り日本から来た人でこのことを理解している人はほぼいませんでした。

「Problem, NOT solution.」というのは、解決策(サービス)よりも、自分が何を解決しようとしているかの方がずっと重要だよ、ということです。サービスは将来変わることがあります。シリコンバレーではそれを「ピボット(Pivot)」と呼び、むしろ推奨されているくらいです。他方、解決しようとしている問題というのは、変えられるはずがありません。創業者は、自分が解決したい問題に関しては、世界中の誰よりも熱意があるはずですから。

最初の1. Problem部分で「ストーリーを語れ、感情的に相手を納得させろ」とよく言われます。なぜその問題を解決しようとしているのか、という点でまず投資家に感情移入させられないと、その後の2. Solution 3. Traction 4. Team 5. Futureというところまで話が行かずにピッチを打ち切られてしまうことがあります。5つの要素で一番大事なのは何かと聞かれたら、間違いなく1. Problemです。何を解決しようとしているサービスなのか、なぜそれを始めようと思ったのか、ということです。

典型的にダメな例を一つ挙げます。今年(2011年の)TechCrunch Disruptにて、Y CombinatorのPaul Grahamがオフィスアワーを設けていましたが、その中に典型的な例がありました。この中のOmniplacesという会社です。22分21秒からビデオを見てください。27分20秒くらいに注目です。Paulがイライラしてし始めます。

Paul「なぜこの会社を始めようと思ったのか?」

創業者「モバイルの位置情報検索をより良くしたいから。」

これにPaulは全く納得していません。

Paul「スタートアップのアイディアというのは、カフェに座って考えて、『よしモバイルの位置情報検索をより良くしよう』というような形で思いつくもんじゃないんだよ。」

Paul「スタートアップのアイディアというのは、明確な解くべき問題ありきなんだ。以前に働いていた会社が抱えている問題とかね。もっと君の身の回りで起こった具体的なストーリーを説明してくれない?」

創業者「僕は大学で研究をしているんだ。このサービスは僕の研究を応用して..」

Paul「これは、研究の事業化なんだね。こりゃダメだ。研究内容の事業化というのは、自分で妄想上の問題を作り出しがちなんだ。僕はこんな技術があるから会社を作りますってね。そのサービスを欲している人がいるかどうか気にしない。」

という具合に、Paulはこの創業者が解こうとしている問題が、彼の日頃の生活の中に無く、単に彼の研究内容からきているという点を第一に疑問視しています。研究内容の事業化そのものが悪いというわけではありません。「本当に誰かが困っている問題を解決しているんだ」というストーリーが無いと、この例のようにサービスの説明をする前に話が終わってしまうのです。これは実に本質的なのですが、逆に多くの創業者がこの問いに答えることが出来ないというのも事実です。「何となくおもしろそうだから」や「市場が大きいから」というだけでは、不十分です。

(注:よく私が研究者バックグラウンドなので誤解されやすいので説明しておきますが、AppGroovesの場合も、私の研究内容があったからこのサービスが出来たのではなく、私にとって身の回りにある一番大きな問題がApp Disoveryだったからこのサービスを作りました。たまたまレコメンデーションなどに私が研究してきたことが役立っていますが、もっと良い方法が見つかれば、これらのアルゴリズムは今すぐにでも捨てる覚悟があります。)

「web2.0」という言葉が流行した頃、「トラフィックさえあれば、お金は後から稼げるからビジネスモデルは気にしなくて大丈夫」と言う人がたくさんいましたが、これは半分以上間違えています。あるシリコンバレーのVCと話していた際に「重要なのは、起業家が解決しようとしている問題なんだ。解決しようとしている問題が十分に大きいということは大きな市場があるということ。創業初期からビジネスモデルが固まっている必要なないけど、解こうとしている問題が曖昧だったり、どれだけ社会を変えられるものなのかが伝わってこないと多分投資しないだろうね。テクニックを使ってトラフィックを増やしてもダメだよ。そんなことより、自分たちが解決しようとしている問題に困っている人がどれだけいるか、今はまだ小さくても、自分たちのサービスがどれだけその問題を解決して顧客を幸せにしているかを伝えた方がいい。」と言っていました。

話を元に戻します。次の「Customer, NOT technology」というのは、技術の素晴らしさを語るのではなく、顧客にどういった価値を提供できるのかを説明しなさい、という意味です。いかに技術が素晴らしくても、顧客に価値が無いのであれば、それは単なる自己満足に過ぎません。

「UX, NOT code」というのは、顧客に見えないコードではなく、顧客に見えるユーザーエクスペリエンスを重視しなさい、という意味です。コードが汚くていい、ということでは決してありませんが、スタートアップのミッションは世の中をより良くすることなのですから、常に顧客を意識しなさい、という意味です。

「Distribution, NOT PR」というのは、少し分かりにくいですが、PRのことばかり言わないで、実際にどのように顧客を獲得していくのかを語りなさい、ということです。例えば、良くあるダメな例は「このサービスをxx日後にリリースして、プレスリリースを出して、メディアにコンタクトして…」というものです。スタートアップが山ほどある中で、自分でプレスリリースで出しても誰も関心を持ってくれません。そうではなくて、例えば、「facebookとtwitter上にバイラル作る仕掛けがあります」、「facebook adsを買うと、CTRがX%, CVRがY%なので、1ユーザーあたり$xで獲得できます」といったような具体的な顧客獲得方法を述べなさい、という意味です。

「Acq cost, NOT revenue projections」というのは、創業直後の売上計画なんてどうせ分からないんだから、それなら顧客獲得コストを述べなさい、という意味です。具体的に、どのような施策でどの程度のユーザーが獲得出来ているのか(出来る予定なのか)という点を具体的に述べる必要があります。

おわりに
以上、シリコンバレーの投資家に受け入れられるピッチについて書きましたが、何事も習うより慣れろです。シリコンバレーでの資金調達にトライしたい方は、ぜひ現地にて切磋琢磨してください。そうでない方にも、新しい何かを始める場合には役立つことがあれば幸いです。

また、プレゼンテーションに関する本で1つおすすめを挙げるとすれば「スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン 人々を惹きつける18の法則」(Amazon, 楽天)を挙げさせていただきます。単なるHow Toだけでなく、その背景にある思想まで説明してある良書です。



animalsensei at 22:26|PermalinkComments(0)

AppGrooves(500Startup)の柴田氏「僕がこうしてシリコンバレーで起業した」

http://onlab.jp/blog/archives/2011/12/appgrooves500startup.html

本日はOnlabでシリコンバレーで起業、日本人として初めて 500 Startupsの2011年夏のアクセラレータープログラムに参加した柴田 尚樹氏をお招きし、トークイベントを開催しました。柴田 尚樹氏は、今年シリコンバレーにて、AppGroovesInc.共同創業されました。AppGroovesは、スマートフォンアプリをより簡単に探せるようにするためのiPhoneアプリです。AppGroovesの最大の特徴は、独自に開発された推薦アルゴリズムHot
or Not形式のユーザーによる投票を組み合わせるというユニークさにあります。


今回のトークイベントでは、「シリコンバレーが僕に教えてくれたこと」という題目で、
1.なぜ起業する?
2.どうやって起業する?(起業前)
3.とうやって起業する?(起業後)
についてお話していただきました。


1.なぜ起業する?
スタートアップのミッション
大学生のころからいつかは起業したいと思っていたが、「なぜ」起業しなければならないのか分からなかった。
その答えは、"Make the world a better place"(世の中を良くすること)だった。
自分(の会社)が無かった場合に比べて、「より良い」社会にするために事業をする。


2.どうやって起業する?(起業前)
<AppGroovesの場合>
・$500K(約4000万円)調達するまでパワーポイントすらなかった。
・最初の投資コミットから2ヶ月後まで会社を登記しなかった。


最初は、どうやって起業すればいいか分からなかった。
アメリカでは「優秀な人ほど起業する」が、突然すごいアイディアを思いつく必要はない。
the best way to start your startup is
1. to find something broken in your life
2. to fix it (by your technology)
(自分が困っているものを探して、それを自分のテクノロジーを使って直す。)
ここでは問題が重要であり、時間が経っても変わらないパッションを持っているものをやるべきだ。
自分が解決した問題が、全てのオプションを捨ててでもやりたいことなのか?
収入、名誉、何がなくなってもいいと思うのであれば、起業すればいい。
やるからにはそれくらいの覚悟でやるべき。
更に、自分が他人よりも上手に解ける問題に取り組むべきである。


解くべき問題を見つける
<AppGroovesの例>
見つけた問題:
・スマートフォンアプリが探せない
・App Store, Android Marketダメすぎ
解きたい問題は見つかった。
柴田さんには、「研究者」「EC業界」の両方の業務経験あり、優位性があったが、会社・大学を辞めるのは怖かったので、週末研究プロジェクト発足させた。
2ヶ月でプロトタイプを作り、友人に見せ、気に入ったのでiPhoneアプリを作ることになった。
iPhoneアプリを密かに公開すると、2週間で3000DLがあり、リテンションが非常に高いことが分かった。
更に先輩・メンターに見せると、投資家を紹介された。
その中で、500 startups Dave
McClureに会い、15分のピッチが終わると、「投資する」と言い、iPhoneでDaveと柴田さんの弁護士にメールを書き始めた。
500 Startupsでは、2日に一回のペースで投資をしているので、その場で決め、その場でメールをするスピード感があった。
でもまだ仕事を辞めるのが不安だったので、その同じ週に他の3人の投資家に会った。
すると、全員投資をコミットしたため、仕事を全部辞める決意をし、1ヶ月で3回辞表を書いた。
解くべき問題が見つかったら、プロトタイプ、プロダクトを作って、その後に投資を探し、その後に会社を作ればいい。


3.どうやって起業する?(起業後)Lean Startup
Lean Startupとは、安く・早く・上手くプロダクトを作ること。
なぜLeanな方がいいのか?
スタートアップは、99%失敗すると言われているため、100打席に1本しかヒットが打てないなら、1打席あたりの時間とコストを短くしたほうがいい。


<AppGroovesでの取り組み>
最低でも2週間に一度はアプリを更新
1.なるべく人を採用しない
2.クラウドをフル活用
3.グローバルプラットフォームに乗る


ユーザの声を吸い上げて、どんどんサービスを改善していくことが重要。


以上です。


animalsensei at 22:24|PermalinkComments(0)

シリコンバレーで起業する10のヒント--AppGroovesの実体験より

http://japan.cnet.com/news/business/35011865/?google_editors_picks=true

シリコンバレーでスタートアップする――難しいと言う投資家がいるかと思えば、軽々と海を飛び越えて実現する起業家もいる。国をまたいだ起業には大きな夢が描ける反面、その実態は言葉や文化、距離などさまざまなハードルが待ち構えている。スマートフォン向けアプリ検索サービスの「AppGrooves」を展開する柴田尚樹氏はシリコンバレーのシードアクセラレーター「500Startups」に日本人として初めて参加した人物だ。東京大学助教授、楽天では当時最年少の執行役員だった彼がすべてを捨てて異国の地でスタートアップを選択できたのはなぜなのか? 12月初頭に都内で開催されたイベントにて語られた彼の経験から、シリコンバレーで起業する際に留意すべき10のポイントを紹介する。

1.起業家の使命である「Make the world a better place」を理解する
 「なぜ起業しなければいけないのか理由がわからなかった」――柴田氏は学生時代から起業を志すも、その理由を明確にできず模索していたそうだ。名誉やお金、社会貢献など、起業の理由は人それぞれ。しかし、シリコンバレーで彼が学んだことは、スタートアップは「Make the world a better place(世の中を良くする)」ためにあるということ。シリコンバレーの起業家から「会社をやることで、世の中が少しでも良くなっていればそれはよいスタートアップだ」ということを学んだ彼は、社会をどう良くしたいかを明確にしてスタートアップすべきだと語る。


AppGrooves共同創業者の柴田尚樹氏 2.優秀な人物ほどスタートアップする
 北米でどういった人材がスタートアップしているのかを理解することも重要だ。「スタンフォード大学にいると、優秀な人ほど起業する。情報計算学科の成績トップ10は起業する。それに続く人はスタートアップに就職する。さらにその下はGoogleなど優良企業に就職していく」のだそうだ。

3.自分が解くべき問題を見つける
 柴田氏は起業家たちから「あなたの身の回りで壊れているものを見つけなさい。それを自分のテクノロジーで直しなさい。そうすれば自然と会社はできる」という話をよく聞いたそうだ。「それだったら俺もできるかなと思った。『解く問題』が重要であり、ソリューションは後から変えればいい」(柴田氏)。これは彼が支援を受ける500Startupsを主宰するDave McClure氏も常に言っていることだ。この問題を解くべきは自分しかいない、そういう覚悟がないなら「それまで積み上げてきたものを捨てないほうがいい」と話した。

4.会社を設立するステップを考える
 「起業方法」をテーマにしたハウツー本を読むと、最初に会社の設立、資金の調達が話題にくることがある。柴田氏はその経験から、そういった“お作法”だけが大事でないと語る。「プロトタイプを作って投資家と会って会社を作る。プロダクトができて、それが良さそうだと思ってから資金の調達に動けばいい。会社なんていつでも作れる。それ以外にやらなければならないことはもっとある」(柴田氏)

5.最初から優秀な弁護士を雇う
 契約社会である北米で弁護士の存在は必要不可欠だ。「ダメな例は安い弁護士を雇うこと。米国では弁護士の格差が激しい。最初にそこそこの弁護士を雇って、そのうち高い弁護士に変更しようという人もいるが、そこそこの人が作ったドキュメントを高い弁護士に読ませることになるので結果的に高くついてしまうことになる。弁護士や会計士などは優秀な人を雇った方がいい」のだそうだ。

6.ビザを甘くみない
 柴田氏によると米国で就労ビザを取得するにはいくつかの条件があるそうだ。米国人の雇用を脅かさない、米国人にできない専門的なことができる、米国で働くことで経済的なメリットがある。こういったことを証明しなければならない。さらに、ビザを発行する移民局(米国移民帰化局:USCIS)は官僚的でトラブルも多いそうだ。「ビザはすごい大変で時間もかかる。シリコンバレーで働きたいという人は気をつけるべき」(柴田氏)

7.シリコンバレーのシード投資のスタイルを理解する
 在職中は研究プロジェクトを作って、週末にプロトタイプを開発していた柴田氏。周囲にアプリを公開し「これはいけるかもしれない」と思ったそうだ。人に見せると自然と投資家を紹介してもらうことになるのは、シリコンバレーならではのスピード感で、柴田氏は間もなく500StartupsのDave氏にデモピッチするチャンスを掴んだ。

 「15分ほど一方的にしゃべっていた」という柴田氏。手書きのメモとアプリだけのプレゼンテーションの後に、Dave氏が言ったのは「I like it」――このやりとりで投資を決めたDave氏は、その場で自分の弁護士に連絡。「彼の弁護士と自分の弁護士が話をして会食すると言っている。(スピード感に)びっくりした」(柴田氏)。500Startupsが、年間に投資する数は200件。シリコンバレーには、ほぼ2日に1件投資する状況があると柴田氏は説明した。

8.会うべき人間は人のつながりで紹介してもらう
 「シリコンバレーは村社会なので、全員知っている。なので共通の知人などがいるかどうか確認する」(柴田氏)。柴田氏も知り合い経由の紹介というところは重視しており、Dave氏が知らない、もしくはネガティブな反応をする場合は会わないそうだ。

9.リーンスタートアップを理解する
 「最近シリコンバレーで『リーンスタートアップ』という話がよく言われる。簡単に言えば安く、早く、うまくやるということ。なぜリーンスタートアップがいいのか。投資家はスタートアップを必死に選んで投資しても99%は外す。どれだけ天才がやっても外す。そうであれば100打席あたりの時間とコストを安くしましょう、と。ただそれだけのこと」(柴田氏)。同じ1億円で1サイクルするより、10分の1のスケールにして10サイクルやったほうが打率があがる、ということだ。本当の意味でリーンスタートアップの手法が生まれた背景を理解すべきだろう。

10.効率を考える
 スタートアップにとってコストや効率の話題は注意すべきポイントだ。柴田氏は人材採用やインフラ、サービス、アプリの配信方法の3つについて「まず気をつけるべきは、『なるべく人を採用しない』ことだ」と説明する。「(仕事が)できない人を採用しても遅くなる。少数精鋭を心がける。2つ目はクラウドをフルに活用する。ハードのメンテナンスはやる必要がない。3つ目はグローバルに配信できるプラットフォームを選ぶこと。サイトを作ってそこに集客しなければならない、というやり方は辛い」とアドバイスした。


animalsensei at 22:11|PermalinkComments(0)