2011年04月23日
魔法少女まどか☆マギカ 第10-12話：『まどか』はニーチェ
ほむらの繰り返してきた「時間」が描かれる。そこにあるのは、どうあっても破滅的な結末に至る、救いようの無い世界だった。
「＜あなた＞を救う為に”世界”をやり直す」というのは、最大級の愛情でもあるし、また同時に最大級のエゴでもある。逆に言えば、ほむらはその「最大のエゴ」を満たすために、幾度も世界を繰り返さねばならないという地獄に落とされたのだ、と見ることもできるだろう。だからやはり、このほむらが突き落とされた無間地獄には……『まどかマギカ』には「願いには相応の対価がある」という冷徹な眼差しが流れているように感じるのだが。
11-12話で「因果律」が語られることにより、やはりこれまでに繰り返し描かれ演出されてきた「バランス」あるいは「因果応報」、願いには相応の対価があり、相応の報いを受ける、という主題がこの作品の根底に流れていたと言えるのではないだろうか。
ほむらがこの繰り返される時間の中で至った結論、誰にも頼らず自分の力で「まどか」を救うのだ、という姿勢は、ドイツの哲学者・ニーチェが提唱した「超人」の概念に近い。
ニーチェは、この世界は永遠に同じ経験を繰り返しているのだ、という「永劫回帰」という概念を提唱した。この永久に「同じことを繰り返す」世界にあって、世界をーー自分の人生そのものを否定せず肯定する強い態度を奨励し、それを「超人」と読んだ。
ほむらは、この繰り返される時間に屈服せず、自分が信じる未来を求め続ける。しかし、彼女の心はついに折れそうになる。心が折れるとは……「願い」に対する代償を支払うとは、つまり自身が魔女になるということだ。
結果的に、ほむらはまどかの「願い」によって魔女にならない。いや、魔法少女が魔女になる世界は訪れない。まどかが、そのように世界を書き換えてしまうからだ。
ほむらは「永劫回帰の中で”まどかの助かる道”を探る」という立場にあるのだが、それに対して「因果律そのものを書き換える」というまどかは……自身の存在そのものを因果律にしてしまうというのは、まったくキュウベエの台詞を借りるまでもなく「神」そのものだ、と言ってしまえるだろう。[*1]
ある意味、まどかこそがニーチェの唱えた「超人」そのものかもしれない。己の望みそのものを「世界」にしてしまうのだから。この『まどかマギカ』の結末を「仏教的」という指摘する向きもあるようだが、仏教の考えは「諦念」に至る。ここまで能動的ではない。因果律を破壊し、世界の有り様を変える。決して世界に屈服せず、己を世界にしてしまうまどかは、「超人」なのだ。
まどかの選択は、力強くもずるい。世界の有り様を変える、自分がこの世界そのものになってしまうというメタ化は、まどかにしかなし得ないものだからだ。「超人」になり切れないほむら達は、この世界で……まどかの作ったこの世界で、戦い続ける他ないだろう。
そう。戦う他ないのだ。
[*1]
第11話。バーのシーンで背景に『アダムの創造』（ミケランジェロ）が描かれているのは、第12話への暗示だろう。
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この記事へのコメント
ニーチェ的な超人は要するにニヒリズムに打ち勝つ存在ですから、まどかは超人とは区別して考えるべきです。強いて言えば半神であり、むしろキリストに近い。ツインテールは十字架の象徴でしょうね。
超人とは永劫回帰を受け入れる存在です。だから「何度繰り返す事になっても」と宣言するほむらには超人の萌芽がある。
しかしまどかは不完全な神であり、ほむらは不完全な超人です。物語には不完全な救いしか与えられません。これは人間の不完全さを描く事で、己が不完全な存在である事についての悲しみと、その対極にある神への憧憬を歌い上げている。つまり悲劇です。
悲劇というのは人間の不完全さを描く事で神への憧憬を強烈に浮かび上がらせる物語形態です。これを認識していないと、まどマギの秘める巨大なエネルギーについて全く理解ができない。
