アニメ雑誌「アニメージュ」2010年6月号の山田尚子監督のインタヴューによると、『けいおん!!』OPのあのグルグル回転は3DCGではなく、「全部手描き」であるという。しかも、「1キャラにつき1人ずつ専属の作画スタッフ」がついて手描きしたというのだ。イマイチあの回転の面白さが分からなかった我々分析派もこの発言には色めき立った。デジタルなブラック・ボックスを通さずに人間が直に描いたというのなら、あの回転を詳細に分析できるかもしれない。
■基本的な回転運動の解析
OP映像の尺はおよそ1分29秒。開始約8.5秒後に第一回目の回転があり、それぞれ約57.5秒後に二回目、約1分05.1秒後に三回目の回転がある。一回の回転に要する時間は約3.8秒。冒頭に若干の差異があるものの三回とも同じ映像が使われているとみられる。(時間はストップウオッチによる手動計測で、10回計測の平均値)
唯たち「放課後ティータイム(以下、HTT)」が現実に存在するのなら、彼女達に実際に演奏してもらい、その周りをカメラが円を描くように移動しながら撮影(トラッキング)すれば、あのように5人が部屋ごと回転しているような映像がわりと簡単に出来上がる。だが、残念ながら唯たちは実体を持たない存在なので、当然、彼女たちの周りを移動撮影することも物理的に不可能だ。ならば彼女たちの方に“動いて”もらう他ないのである。
では、彼女たちをどのように動かせば、回転しているように見えるのか。その具体的な動きを考察してみよう。 話を簡単にするために、机の上にあるティーカップをHTT5人のうちの1人に見立てて、実際に動かしみる。今回はわかりやすいように図を作成したので、あわせて参照していただきたい。
実写のトラッキングなら図①のようにティーカップではなく見ている人間が周りを移動すればよい。

だが、人間の位置を固定して、ティーカップの方を回転させた場合、実写の回転方向とは逆方向にティーカップを回転させなければ見た目上の回転は逆方向になってしまう。図②

HTTが回転する円の中心にはメンバーが存在しないので、唯たちひとりひとりは中心を自身の外において回転していることになる。つまり図③のような動きをしていることになる。

でも、このままではティーカップは公転周期と自転周期が同期している「月の運行」のようにいつも同じ面をこちら側に見せていることになってしまう。ティーカップが半分まで回転移動した時にはちょうどティーカップの裏面が見えるようになるようにティーカップが自転していなければならないのである。とすると図④のようになる。青く着色したティーカップの把手が回転していくのに注目してもらいたい。

このように、円の中心から一定の距離を保ち反時計回りに移動しながら、円の外側に対して常に一定の方向を向くように自転している、ということができる。これが基本的な彼女たちの回転運動だと考えていい。
■回転運動を平面上に描写する
手描きで作画していくためには、この回転運動を、平面上にプロットしていかなければならない。 実際の回転に要する時間は約4秒なので、従来のリミテッド・アニメーションに倣って1秒12枚の作画が必要だとすると、計48枚の画が必要ではないかと考えられる。だが、ここでは簡略化のために8枚の画で回転を表してみる。
まず一枚目、ティーカップは真正面を向けて中心に描く。

二枚目以降、常に円の外側に正面を向けるように少しずつ自転させながら右方向へ楕円軌道上を移動させていく。移動に伴い、視点から最も遠い位置になる5枚目までティーカップの大きさは遠近法に従って縮尺が小さくなるように描かれる。




逆に6枚目からは段々と視点に近づいてくるので、ティーカップは視点との距離に従って縮尺を大きくしていき元の大きさと位置にもどることになる。



これらの絵をGIFアニメに纏めると以下のようになる。(制作ソフトは「Giam」を使用)

対象に対する視点が俯瞰となっており、あおりぎみの実際の映像とは違いがあるものの、これで『けいおん!!』OPのグルグル回転の基本的なところを掌握できたのではないだろうか。
■回転の基本モデルを作って5人の動きを比較検証していく。
回転運動を構成する8枚の画をアニメ映像の唯の動きに当て嵌めてみよう。といっても実際に唯を描くのは難しいので言葉で説明していくことにする。
唯①画面中央で真正面を向いている。縮尺は100%。回転をスタート。
唯②円軌道を右方向に移動していく。見えるのは身体の左側斜め前。遠近法に従い縮尺を縮小しはじめる。
唯③画面上最も右端に移動。ほぼ左真横を見せている。縮尺を縮小。
唯④右端から中央に位置を戻しつつ、左後ろ側を見せ始める。さらに縮尺を縮小。
唯⑤視点からは最も遠い位置なため縮尺は最小となる。足が接する床の位置が不明だがだいたいの目算ではほぼ唯①との身長差はほぼ半分である。位置は同じ中央だが向きは正反対の真背面。
唯⑥今度は身体の右側(この右側とは視点が真正面に見た唯①の右側のこと)を見せ始める。視点に近づいてくることになるので縮尺は縮小から拡大へと移行。
唯⑦画面最左寄り。ほぼ右真横を見せる。縮尺拡大
唯⑧右斜め前を見せながら元の位置へと近づいている。縮尺も元の100%へと拡大していく。

この要領で①から⑧までの動きの基本モデルをHTTメンバーごとに作成し、実際のアニメの回転映像と照らし合わせながら一人一人の動きを分析していこう。
◇澪
最初に唯の左隣にいる澪の動きを追う。実際の回転のスタートでは唯は画面中央よりいくらか左寄りからスタートしている。唯が正面を向いた位置で全員が共に正面を向いているのに対し澪だけは若干右に開き気味に立っている。
唯が唯③まで移動した時、澪は澪③の位置で真横をこちら側に見せている。唯が縮尺的に縮小していくのに対し、澪はこの真横向きで縮尺100%に達している。澪は唯の描く円軌道をほぼそのまま踏襲しているようだ。
回転しながらよく動く唯に対し、澪は5人の中でも動きが少ないように見える。五人全員が回転しながらも目線をこちらに向けようと動くが、澪はほとんど首を動かさず目だけを動かしている。だが、位置で言うと澪⑤から澪⑦までの間で、よく見てみると、澪は微妙に身体を上下に揺らしているように見える。これはモーションブラー効果のかけすぎの可能性もあるが、澪が実は両膝でリズムをとっていたとするとなかなかおもしろい(なお、一瞬、彼女が足を折り曲げて黒いソックスが見えるような気がするが、これは律のドラムのタムを支えるアームの部分が重なっただけのようだ)。
◇紬
次に紬だが、紬②の位置で、若干ながら部分的に画面からはみ出している。このことから、紬は唯の描く円軌道上からは少しそれた位置に立っていることがわかる。唯と澪は同一円上を移動しているが、紬は同心円でも半径が若干長い円上にいるのだ。
唯①の位置で唯が正面を向いていたのに対し、紬の場合はほぼ真背面をこちらにむけることになる。だが、次の瞬間には顔を画面の方に向けて目線をこちらにあわせてくる。この後、紬⑥の位置で左手が鍵盤を離れ身体の方に引き寄せられるのだが、何をしたのかはよくわからない。前に垂らした髪を触ったようにもみえなくもない。 ところで、紬の弾いているキーボードだが、視点正面に対して正対で置かれているのか内側に向けて少し斜めに置かれているのか、画面上ではなかなか判断がつかない。
◇律
さて、一番不幸なのはやはり律なのではないだろうか?スタートでは前にいる唯や梓がジャマでまったく見えないし、時々、ドラムセットのシンバルが彼女の顔を隠してしまったり、滑稽な帽子のような位置に来たりする。しかも、律④や律⑧の位置、つまり両端で彼女は画面からほとんどはみ出してしまうのだ。これは律の描く円軌道が紬より更に外側にあるためである。スタッフは律に恨みでもあるのだろうか、なーんてことを言ってもしょうがないんですけど、これはひとつの効果を生みだすためにわざと行われていると見るべきだろう。
どういう効果かというと、漫画のコマ割りで言えば、コマから紙面いっぱいにはみだすことで迫力を出す「タチキリ」のような効果である。両端で画面の外にはみ出していることで律は④の位置から⑧の位置までの回転で誰よりも長い距離を大きく速く回転していることになる。律だけでなく大仰なドラムセットと共に、しかも、縮尺は最大である。奥の窓からはちょうど陽の光もダイレクトに差し込んでくる。これらのことにより全体の回転にダイナミックなアクセントを与えているが、律自身がそれほど目立たないのは彼女がちょうど逆光になっているからだろう。もし、律の回転も画面の枠内に収まっていたとしたらこのグルグル回転は非常に単調なものになっていたことだろう。作画的にも、もみあげ位置の髪の毛が大きく振れ揺れる中で目線をこちら側にあわせてムーブマンを作り出すところは他の4人に比べても出色の出来と言えるかもしれない。
◇梓
梓の立ち位置は回転スタート時にギターのネックが途中で画面から切れていることから、唯との位置は澪より幾らか遠いのかもしれない。だが、澪のベースが画面から飛び出さないのは彼女が左に身体を開いて立っているせいかもしれない。梓のギターのネックが画面からはみ出しまくるのに対して澪のベースのネックは澪④の位置のあたりでヘッドを歪ませてまで画面の中に納められている。とにかく梓の動きが一番少ないようだ。
◇唯
最後に唯だが、5人の中では一番よく動く。よく動くがどうにもカクカクした動きになりがちだ。確かに彼女はギターを左右に振りながら歌っているようなのでこの動きに間違いはないのだが、ちょっと動きが速過ぎるのだろう。これはコマ送りでしか確認できないが、唯③や唯⑤、唯⑥の位置での身体の左右への振り方などは自転運動の制約を守りながらもかなり自由な動きを可能ならしめているように見える。描き手のデッサン力がきっとかなり高いのではないだろうか。だが、如何せん、全体的な回転の中でこれだけの動きを盛り込むには尺が短すぎるのだろう。一枚一枚の絵は魅力的だが、どうしてもカクカク動作が目についてしまう。そういう意味ではちょっと残念だ。個人的には唯のレスポールのヘッドがフェンダータイプのヘッド並みに直線的なのが気になる。最近のギブソン・レスポールはヘッド角度がこんなに浅くなったのだろうか。
■実際の作画について
以上、彼女たちのグルグル回転を詳細に見てきたわけだが、実際のところこんな空間を大きく回転移動しながら、自らも自転しているというような作画を行うのはどのくらいたいへんなことなのだろうか?そして、いったいどこらへんまでデジタルな助けを借りているのだろうか?
もちろんその具体的な作業については推測の域を出るものではないが、可能なかぎりの考察してみたい。
アニメーターさん達が紙と鉛筆で原画を描いていくことは今も昔も変わらないが、今日のデジタル制作では一枚一枚の絵はスキャナでコンピューターの中に取り込まれデータ化される。とすると五人のアニメーターが描いたそれぞれの絵が回転して画面の中で激しく交錯したとしても、デジタルに合成できるので、キャラクター同士が重なった時とかどうするかといったことはさして問題ではないだろう。アニメーターは担当した一人のキャラクターを描くことに専念すればいいだろう。では、一番難しいことはなんなのだろうかというと。人物を少しずつ360度回転させながら、視点の距離に連動して大きくしたり小さくしたりすることをスムーズに描くことではないだろうか。筆者が作った拙いGIFアニメでさえ、フリー素材のティーカップイラストが40pixから160pixまでの5段階そろっていたから作成できたのであって、それでもあのくらいのスムースさしか実現できない。これはかなり難しい作業であることはまちがいない。
「アニメージュ」の続きによると山田監督は「グルグル回る部分、ターンテーブルはPC上で作りました。それをガイドにして、その上で作画したんです」という。このPC上で作られたというターンテーブルがどれほどのガイドになったのかはわからない。だが、作ろうと思えば、身体の向きがよくわかるようにした粗雑な「唯」人形をモデリングし、ターンテーブルに乗せてぐるぐる回すという3Dの簡易シミュレーションアニメを試作することは可能だろう。これを下敷きにすれば作画は多少、楽になるのではないかと思える。だが、それではほぼ3DCGそのものになってしまう可能性があるので、そこまではやっていないだろう。
いずれにしても、どんな方法であれおよそ48枚もの絵を描いてくのは大変な作業だ。それだけのコストを払うだけの価値があのグルグル回転にあったかどうかは視聴者それぞれの判断によるほかないだろう。少なくとも筆者は2週間以上の時間を分析にかけるだけの価値を見出したように思う。
※図作成にあたりKANO'S FACTORYさんのフリー素材を使用させていただきました。
■基本的な回転運動の解析
OP映像の尺はおよそ1分29秒。開始約8.5秒後に第一回目の回転があり、それぞれ約57.5秒後に二回目、約1分05.1秒後に三回目の回転がある。一回の回転に要する時間は約3.8秒。冒頭に若干の差異があるものの三回とも同じ映像が使われているとみられる。(時間はストップウオッチによる手動計測で、10回計測の平均値)
唯たち「放課後ティータイム(以下、HTT)」が現実に存在するのなら、彼女達に実際に演奏してもらい、その周りをカメラが円を描くように移動しながら撮影(トラッキング)すれば、あのように5人が部屋ごと回転しているような映像がわりと簡単に出来上がる。だが、残念ながら唯たちは実体を持たない存在なので、当然、彼女たちの周りを移動撮影することも物理的に不可能だ。ならば彼女たちの方に“動いて”もらう他ないのである。
では、彼女たちをどのように動かせば、回転しているように見えるのか。その具体的な動きを考察してみよう。 話を簡単にするために、机の上にあるティーカップをHTT5人のうちの1人に見立てて、実際に動かしみる。今回はわかりやすいように図を作成したので、あわせて参照していただきたい。
実写のトラッキングなら図①のようにティーカップではなく見ている人間が周りを移動すればよい。
だが、人間の位置を固定して、ティーカップの方を回転させた場合、実写の回転方向とは逆方向にティーカップを回転させなければ見た目上の回転は逆方向になってしまう。図②
HTTが回転する円の中心にはメンバーが存在しないので、唯たちひとりひとりは中心を自身の外において回転していることになる。つまり図③のような動きをしていることになる。
でも、このままではティーカップは公転周期と自転周期が同期している「月の運行」のようにいつも同じ面をこちら側に見せていることになってしまう。ティーカップが半分まで回転移動した時にはちょうどティーカップの裏面が見えるようになるようにティーカップが自転していなければならないのである。とすると図④のようになる。青く着色したティーカップの把手が回転していくのに注目してもらいたい。
このように、円の中心から一定の距離を保ち反時計回りに移動しながら、円の外側に対して常に一定の方向を向くように自転している、ということができる。これが基本的な彼女たちの回転運動だと考えていい。
■回転運動を平面上に描写する
手描きで作画していくためには、この回転運動を、平面上にプロットしていかなければならない。 実際の回転に要する時間は約4秒なので、従来のリミテッド・アニメーションに倣って1秒12枚の作画が必要だとすると、計48枚の画が必要ではないかと考えられる。だが、ここでは簡略化のために8枚の画で回転を表してみる。
まず一枚目、ティーカップは真正面を向けて中心に描く。
二枚目以降、常に円の外側に正面を向けるように少しずつ自転させながら右方向へ楕円軌道上を移動させていく。移動に伴い、視点から最も遠い位置になる5枚目までティーカップの大きさは遠近法に従って縮尺が小さくなるように描かれる。
逆に6枚目からは段々と視点に近づいてくるので、ティーカップは視点との距離に従って縮尺を大きくしていき元の大きさと位置にもどることになる。
これらの絵をGIFアニメに纏めると以下のようになる。(制作ソフトは「Giam」を使用)

対象に対する視点が俯瞰となっており、あおりぎみの実際の映像とは違いがあるものの、これで『けいおん!!』OPのグルグル回転の基本的なところを掌握できたのではないだろうか。
■回転の基本モデルを作って5人の動きを比較検証していく。
回転運動を構成する8枚の画をアニメ映像の唯の動きに当て嵌めてみよう。といっても実際に唯を描くのは難しいので言葉で説明していくことにする。
唯①画面中央で真正面を向いている。縮尺は100%。回転をスタート。
唯②円軌道を右方向に移動していく。見えるのは身体の左側斜め前。遠近法に従い縮尺を縮小しはじめる。
唯③画面上最も右端に移動。ほぼ左真横を見せている。縮尺を縮小。
唯④右端から中央に位置を戻しつつ、左後ろ側を見せ始める。さらに縮尺を縮小。
唯⑤視点からは最も遠い位置なため縮尺は最小となる。足が接する床の位置が不明だがだいたいの目算ではほぼ唯①との身長差はほぼ半分である。位置は同じ中央だが向きは正反対の真背面。
唯⑥今度は身体の右側(この右側とは視点が真正面に見た唯①の右側のこと)を見せ始める。視点に近づいてくることになるので縮尺は縮小から拡大へと移行。
唯⑦画面最左寄り。ほぼ右真横を見せる。縮尺拡大
唯⑧右斜め前を見せながら元の位置へと近づいている。縮尺も元の100%へと拡大していく。
この要領で①から⑧までの動きの基本モデルをHTTメンバーごとに作成し、実際のアニメの回転映像と照らし合わせながら一人一人の動きを分析していこう。
◇澪
最初に唯の左隣にいる澪の動きを追う。実際の回転のスタートでは唯は画面中央よりいくらか左寄りからスタートしている。唯が正面を向いた位置で全員が共に正面を向いているのに対し澪だけは若干右に開き気味に立っている。
唯が唯③まで移動した時、澪は澪③の位置で真横をこちら側に見せている。唯が縮尺的に縮小していくのに対し、澪はこの真横向きで縮尺100%に達している。澪は唯の描く円軌道をほぼそのまま踏襲しているようだ。
回転しながらよく動く唯に対し、澪は5人の中でも動きが少ないように見える。五人全員が回転しながらも目線をこちらに向けようと動くが、澪はほとんど首を動かさず目だけを動かしている。だが、位置で言うと澪⑤から澪⑦までの間で、よく見てみると、澪は微妙に身体を上下に揺らしているように見える。これはモーションブラー効果のかけすぎの可能性もあるが、澪が実は両膝でリズムをとっていたとするとなかなかおもしろい(なお、一瞬、彼女が足を折り曲げて黒いソックスが見えるような気がするが、これは律のドラムのタムを支えるアームの部分が重なっただけのようだ)。
◇紬
次に紬だが、紬②の位置で、若干ながら部分的に画面からはみ出している。このことから、紬は唯の描く円軌道上からは少しそれた位置に立っていることがわかる。唯と澪は同一円上を移動しているが、紬は同心円でも半径が若干長い円上にいるのだ。
唯①の位置で唯が正面を向いていたのに対し、紬の場合はほぼ真背面をこちらにむけることになる。だが、次の瞬間には顔を画面の方に向けて目線をこちらにあわせてくる。この後、紬⑥の位置で左手が鍵盤を離れ身体の方に引き寄せられるのだが、何をしたのかはよくわからない。前に垂らした髪を触ったようにもみえなくもない。 ところで、紬の弾いているキーボードだが、視点正面に対して正対で置かれているのか内側に向けて少し斜めに置かれているのか、画面上ではなかなか判断がつかない。
◇律
さて、一番不幸なのはやはり律なのではないだろうか?スタートでは前にいる唯や梓がジャマでまったく見えないし、時々、ドラムセットのシンバルが彼女の顔を隠してしまったり、滑稽な帽子のような位置に来たりする。しかも、律④や律⑧の位置、つまり両端で彼女は画面からほとんどはみ出してしまうのだ。これは律の描く円軌道が紬より更に外側にあるためである。スタッフは律に恨みでもあるのだろうか、なーんてことを言ってもしょうがないんですけど、これはひとつの効果を生みだすためにわざと行われていると見るべきだろう。
どういう効果かというと、漫画のコマ割りで言えば、コマから紙面いっぱいにはみだすことで迫力を出す「タチキリ」のような効果である。両端で画面の外にはみ出していることで律は④の位置から⑧の位置までの回転で誰よりも長い距離を大きく速く回転していることになる。律だけでなく大仰なドラムセットと共に、しかも、縮尺は最大である。奥の窓からはちょうど陽の光もダイレクトに差し込んでくる。これらのことにより全体の回転にダイナミックなアクセントを与えているが、律自身がそれほど目立たないのは彼女がちょうど逆光になっているからだろう。もし、律の回転も画面の枠内に収まっていたとしたらこのグルグル回転は非常に単調なものになっていたことだろう。作画的にも、もみあげ位置の髪の毛が大きく振れ揺れる中で目線をこちら側にあわせてムーブマンを作り出すところは他の4人に比べても出色の出来と言えるかもしれない。
◇梓
梓の立ち位置は回転スタート時にギターのネックが途中で画面から切れていることから、唯との位置は澪より幾らか遠いのかもしれない。だが、澪のベースが画面から飛び出さないのは彼女が左に身体を開いて立っているせいかもしれない。梓のギターのネックが画面からはみ出しまくるのに対して澪のベースのネックは澪④の位置のあたりでヘッドを歪ませてまで画面の中に納められている。とにかく梓の動きが一番少ないようだ。
◇唯
最後に唯だが、5人の中では一番よく動く。よく動くがどうにもカクカクした動きになりがちだ。確かに彼女はギターを左右に振りながら歌っているようなのでこの動きに間違いはないのだが、ちょっと動きが速過ぎるのだろう。これはコマ送りでしか確認できないが、唯③や唯⑤、唯⑥の位置での身体の左右への振り方などは自転運動の制約を守りながらもかなり自由な動きを可能ならしめているように見える。描き手のデッサン力がきっとかなり高いのではないだろうか。だが、如何せん、全体的な回転の中でこれだけの動きを盛り込むには尺が短すぎるのだろう。一枚一枚の絵は魅力的だが、どうしてもカクカク動作が目についてしまう。そういう意味ではちょっと残念だ。個人的には唯のレスポールのヘッドがフェンダータイプのヘッド並みに直線的なのが気になる。最近のギブソン・レスポールはヘッド角度がこんなに浅くなったのだろうか。
■実際の作画について
以上、彼女たちのグルグル回転を詳細に見てきたわけだが、実際のところこんな空間を大きく回転移動しながら、自らも自転しているというような作画を行うのはどのくらいたいへんなことなのだろうか?そして、いったいどこらへんまでデジタルな助けを借りているのだろうか?
もちろんその具体的な作業については推測の域を出るものではないが、可能なかぎりの考察してみたい。
アニメーターさん達が紙と鉛筆で原画を描いていくことは今も昔も変わらないが、今日のデジタル制作では一枚一枚の絵はスキャナでコンピューターの中に取り込まれデータ化される。とすると五人のアニメーターが描いたそれぞれの絵が回転して画面の中で激しく交錯したとしても、デジタルに合成できるので、キャラクター同士が重なった時とかどうするかといったことはさして問題ではないだろう。アニメーターは担当した一人のキャラクターを描くことに専念すればいいだろう。では、一番難しいことはなんなのだろうかというと。人物を少しずつ360度回転させながら、視点の距離に連動して大きくしたり小さくしたりすることをスムーズに描くことではないだろうか。筆者が作った拙いGIFアニメでさえ、フリー素材のティーカップイラストが40pixから160pixまでの5段階そろっていたから作成できたのであって、それでもあのくらいのスムースさしか実現できない。これはかなり難しい作業であることはまちがいない。
「アニメージュ」の続きによると山田監督は「グルグル回る部分、ターンテーブルはPC上で作りました。それをガイドにして、その上で作画したんです」という。このPC上で作られたというターンテーブルがどれほどのガイドになったのかはわからない。だが、作ろうと思えば、身体の向きがよくわかるようにした粗雑な「唯」人形をモデリングし、ターンテーブルに乗せてぐるぐる回すという3Dの簡易シミュレーションアニメを試作することは可能だろう。これを下敷きにすれば作画は多少、楽になるのではないかと思える。だが、それではほぼ3DCGそのものになってしまう可能性があるので、そこまではやっていないだろう。
いずれにしても、どんな方法であれおよそ48枚もの絵を描いてくのは大変な作業だ。それだけのコストを払うだけの価値があのグルグル回転にあったかどうかは視聴者それぞれの判断によるほかないだろう。少なくとも筆者は2週間以上の時間を分析にかけるだけの価値を見出したように思う。
※図作成にあたりKANO'S FACTORYさんのフリー素材を使用させていただきました。
まず各キャラクターが公転も拡縮もせず自転(と演奏)だけしている作画レイヤーをキャラクター毎に作成。撮影・コンポジットを行うソフトの上に設定された3D空間の公転軌道上に各キャラクターのレイヤーを配置して背景の3Dモデルを置いてカメラ位置を設定。あとは背景モデルと各キャラクターのレイヤーを公転させればこの回転映像は作れると思います。
2chソースなのですが「ef - the first tale.」というゲームのOPの3DCGっぽいキャラクターのカットは3DCGモデルを元に手書きで作られているらしく、1枚絵としては手書きっぽいのに3DCG特有のぎこちない動きをするというとても不思議な映像になっていますw