休日、特にやることもなかったのでリモコン片手にテレビを付けては適当にザッピングを繰り返していたのだけど、その中で小さい頃よく見ていた子供向け教育番組を見つけたので懐かしさに浸りながらしばらくそれを眺めていた。
画面の中では、机の前の椅子に座らされ、恐怖に怯えきった子供の横で得体の知れない動物をモチーフにした着ぐるみが子供に睨みを利かせながら「早くしろよバカ野郎」と罵声を浴びせている。そして、子供は着ぐるみに急かされるまま、あたふたと机にあるダンボールやハサミを持ち上げたり眺めたりしていたが、急に動きを止めると、ゆっくりと着ぐるみを見つめ、
「すみません。何を作ればいいんでしょうか」と着ぐるみに問うた。
着ぐるみは「バカ野郎。そんなもん自分で考えろよ」と言い放って、呆れたように机の上に置いてあるマンガ雑誌を手に取ると、子供がダンボールを見つめながら途方に暮れている間、マンガ雑誌を眺めて時折笑うなりしていた。
そして、沈黙が10分ほど続いただろうか。そのうち子供は決心したように顔を上げ、カメラに向かって
「きょ、今日は、ダンボールを用いてカスタネットを作ろうと思います」
と言った。そして、様子を窺うように隣にいる着ぐるみをチラと見たのだが、着ぐるみは何も言わずにマンガ雑誌を眺めていたので、粛々と1人で作品の制作に取り掛かった。
ただ、この子供は相当テレビ慣れしているのだろう。この緊張感溢れる状況の中で作品を作りながらも、チラチラとカメラの方を気にして「ここでダンボールを切って・・・」とか、「ここをこう折り曲げて・・・」とかを視聴者に向けて丁寧に説明を行っていた。
しかし、その説明が着ぐるみの癇に障った。着ぐるみはマンガ雑誌を机に叩きつけるなり、「うるせえよ」と子供の頭を叩いて、
「口動かしてねえで手を動かせよ。バカ野郎」と烈火の如く怒り始めた。
子供は頭を叩かれてビクっと体を震わしたのだが、すぐさま赦しを乞うようないやらしい笑顔を浮かべて「すみません」と謝っていた。が、着ぐるみは容赦なく「お前のその薄汚ねえ笑顔は親父そっくりだな」と罵ったのである。
僕はその様子を懐かしく眺めていた。そうそう、いつもこの番組では子供が得体の知れない着ぐるみに暴虐の限りを尽くされるのである。そして、この番組を見た少年少女は社会の理不尽さを学び、如何に教育現場には欺瞞が溢れているかを幼心に感じるのである。
特に、最後に着ぐるみが話した「お前のその薄汚ねえ笑顔は親父そっくりだな」はこの番組の決め台詞のようなもので、自分がこの番組を見ていた20年前にも同じ着ぐるみから同じことが言われていた。
「もういい、ダメ。お前ダメだわ。次のコーナー行くわ」
着ぐるみはダルそうに吐き捨てると、カメラは子供をアップで写し、子供はよろよろと椅子から立ち上がってカメラの奥にあるカンペを見ながら、
『「作って遊ぼう」の後は「くくってバカにしよう」のコーナーだよ』
と元気よくタイトルコールをした。
といっても、タイトルコールをした所で特にセットが変わる等のことはなく、相変わらず子供が真っ白いスタジオの中でぽつねんと佇んでいる。
静まり返るスタジオの中で子供はおどおどしていたが、いきなりカメラの向こう側を指差すと
「あ、あんな所にオタク達がいるよ。きっとつまんない人生なんだろうねえ」
と言い始めた。その後も
「あ、あんな所に定職も付かずにバンド活動している人達がいるよ。お金がないなんてきっとつまんない人生なんだろうねえ」
とか
「彼らはいつも男だけでつるんでいるね。女の子と遊ばないなんてきっとつまんない人生なんだろうねえ」
などとカンペに書いてある根拠のない中傷を大声で読み上げていた。
そうした中傷が10分ほど続くと、
急に画面が切り替わり、着ぐるみが視聴者に向けて言葉を発し始めた。
「皆もイライラしたら人のことをバカにしてみよう。きみたち人間は人をバカにして相対的に自身の優位性を実感することでしか、そのくだらないプライドを保てないのだから」と言ってスタジオは暗転。唐突に番組が終わった。
僕はその様子を見ていてやはり懐かしい気分になった。そうそう、僕らは皆この番組を幼き頃に見て、人を見下して嘲笑の的にすることの楽しさを学ぶのである。
世の中には人をバカにしなければ生きられない人間が多数存在するけども、そのすべてはこの番組を見て育った人達だろう。