日記

1990年生まれ。虚実入り混じっております。

2016年12月

【99】「歩」に馳せる思い

もしも僕が、将棋盤に佇む「歩」だったとして、前方に微かに見える程度であった飛車がものすごい勢いでこちらに近づいてきたら、前進しか許されない僕は恐怖と絶望の中で死んでいくのだろう。それはひどく悲しいことだと思う。
それだけじゃない。全く視界にも入っていなかった「角」がいつの間にやら近づいてきていて、気配に気付き、「ん?」と振り向いた時にはもう目の前にいて唐突に撥ねられた場合、あまりに突然のことすぎて成仏できない気がするのである。
そう思うと、将棋はとても残酷なゲームであるような気がする。そして僕はこのようなイメージに取り憑かれてからというもの、対局中にも関わらず「歩」が取られるたびに悲しい感情が胸を覆い、すぐさま喪服に着替えて手を合わせたくなってしまう。そして無惨な死を遂げた「歩」について思いを馳せるのである。
盤上では立場の低い「歩」ではあるが、試合に出られる数は1チーム9人までしかいない。やはりそこに上がるためには激しい競争を勝ち抜いていかねばならない。それこそ「歩のユース」出身の奴らがいたり、公立校からの叩き上げがいたり、才気溢れる連中が全国からこぞってチームの門戸を叩くのである。そんな中で試合に出場する「歩」たちは、アマチュアの歩とはなにもかも異なる「プロの歩」であるのだろう。
盤上に佇む「歩」はどれも似たような背格好をしているが、そのどれもが異なる故郷を背負っている。彼らには地元住民からの過度な期待が掛けられており、もしも、試合に出ることができ、更には敵陣に攻め込んで「金」にでもなろうものなら地元では大きな騒ぎである。里帰りするとすっかり地元のヒーローとなっていて、引退後は市議会議員の道が約束される。ただ、前述のように無惨な死を遂げてしまえばすべてがパー。その限りではない。
彼らは地元住民の期待に応えるため、そして自らの成り上がりのために前に進む。その彼らのギラギラした眼差しで敵陣の王座を目指すその様は元旦に執り行われる福男レースを彷彿とさせる。脱落者が出たとしても目をくれることもしない。
そんな彼らが一瞬のうちに命を落としてしまうのが将棋なのである。きっと、志半ばで夢が絶たれた彼らは自縛霊として盤上に残り続ける。是非とも成仏して欲しいと思う。
僕は、今度から「歩」が取られる度に将棋盤のそばに花を手向けようと思う。きっと、対局の中盤には将棋盤の周りが花束で溢れ、まるで蜷川実花の写真のような様相になるだろう。それでも良い。そして僕は対局後、そっと将棋盤に手を合わせ
NO MORE WAR
そう呟いて対局場を後にするのである。

【98】東京ラブストーリー

仕事でお金を数えるときに、数えやすいように1000札を5枚揃え、それを5000円札で上から挟み込むように留めることで合計10000円の札束を作ることがこの上なく好きなのであるが、それを繰り返しているとふとした拍子に野口英雄の顔と内側に折り込まれた樋口一葉の顔が重なることがある。
その度僕は、あっ、と息を飲む。それはまるで樋口一葉が野口英雄に覆いかぶさってキスをしているように見えるからである。それを見るたびに僕はなにか見てはいけないものを見てしまったような気分になって、急にどぎまぎしてしまうのである。
26歳にもなっておかしなことである。何故なら、僕は思春期の頃あたりから様々な媒体を通じてこんな接吻より過激なものをいくつも見てきたはず。それなのにこの2人の接吻を見るたびに思春期のあの頃のように胸が締め付けられるのはどうしてだろうか。
思えば、私たちはいつまでたっても突発的なキスに弱い気がする。恋愛ドラマを見ていても突発的なキスというのは必ず見られ、しかもその場面は決まって放送回の終盤である。男性、若しくは女性が急に相手方の肩を抱き寄せて半ば強引にキスをする。そして、2人の唇が重なったその瞬間、エンディングテーマが流れ、私たちは「これから二人の恋はどうなってしまうの?次週まで待てない!」とヒステリックに叫ぶのである。
実際、最近に至ってはお金を数えていて野口英雄の顔と樋口一葉の顔が重なる度に、小田和正が「あの日あの時あの場所できみに会えなかったら僕らはいつまでも見知らぬ二人のままなんだよ。すごいねえ」と歌うあの曲の「チャカチャカーン」というギターイントロが脳内で流れるようになってしまって仕事が手に着かない。悲しい。
ところで気になるのだが、唐突に樋口一葉にキスをされた野口英雄は一体どのような顔をしているのだろうか。ドラマであればたいてい強引にキスされた方は、目をまんまるに見開いて死後のように硬直しているのであるが、英雄に関しても例に漏れずそういった顔をしているのだろうか。気になった僕は樋口一葉の顔を引きはがして野口英雄の顔を見てみたのである。
野口英雄の顔は案の定茫然としていたのであるが、その頬は薄紅色に紅潮していた。
僕の脳内で次回予告が流れた。どうやら次回が最終回らしい。

【97】宇宙人招待のススメ

深夜のテレビを見ていれば、どうやら著名な方らしいオカルト研究家がビルの屋上で天高く手をかざしたり、奇声を発したりしながらUFOを呼んでいた。しかし結局、UFOは来ず、オカルト研究家は「姿は見えたんですけどねえ」などと負け惜しみを言って番組は終わった。いつもの展開である。実際に僕はこのような光景を何度もテレビの前で見てきた。
しかしながら、僕はこのような光景を見るたびに思うのだが、その珍妙な呼びかけによって 本当にUFOが来たら彼らはどうするのだろうか。彼らの姿を見ていると、ビルの屋上でアングラ劇団のような舞いを踊ってUFOを呼ぶこと自体が目的化しているような気がして、仮にUFOが来たとしたら「やばい、やばい。本当に来た」などとのたまい、過度なストレスで吐き気を催している気がするのである。きっと来てからのことは何も考えてない。
はるばる遠方から莫大な燃料費をかけて来た宇宙人からすれば、意気揚々と宇宙船の扉を開けた時、手厚い歓迎をされるかと思いきや、そこには数人しかおらずそのほとんどが青白い顔色で嗚咽しているとすれば「なんで呼んだんだよ」と思うに違いないだろう。やはり呼んでいる以上、言うなればこちらはホストな訳だから手厚い出迎え、多少のギャランティー、更には「来てよかった」と思うような何かしらの催しをしなくてはならないと思う。
さて、実際に宇宙人が訪れてからあたふたしないためには、事前の準備が大切である。まずはアポ取り。そもそも、アポ取りもせず珍妙な踊りを舞い、奇声を発することで遠方の忙しい他者を呼びつけようとするのは社会人としての感性を疑うのである。糸を垂らして引きを待つ魚釣りのようなテンションで宇宙人を呼んではいけない。
宇宙人のアポ取りをするためにはまず宇宙人のマネージャーに対して来日の時間、滞在期間、そしてギャランティーの相談を行うことが必要だろう。その際、ホワイトハウスに電話して宇宙人のマネージャーの連絡先を教えてもらおう。そして、マネージャーと来日条件で折り合いがついたら、宇宙人が日本に滞在している間、宿泊や食事はどうするのかを考えるのである。泊まる所は簡単に決まりそうな気がするのであるが、難しいのは食事。何故かと言えば、宇宙人がどのようなアレルギーを有しているかわからないからである。もしかしたら、宇宙人が小麦アレルギーかもしれないし、蕎麦アレルギーを持っているかもしれない。仮に、アレルギーがなかったとしても食文化の違いから倫理的な問題に発展することも考えられる。現に、同じ地球人であっても外国人捕虜にゴボウを食べさせたら人権侵害だと騒がれるほどであり、そこの所の対応を間違えた際には向こうの人権団体が地球に押し寄せ、日本上空を多くの宇宙船が飛び回りデモを行うなんてことになっては困るのである。宇宙戦争は避けたい。
そのため、向こうの食文化、そしてアレルギーの有無をマネージャーにしっかりと確認して協議する必要がある。ただし、飲み物は水で大丈夫だと思う。生命体が惑星の中で生きるためには水が必須であるとワイドショーで見たことがある。ということは、宇宙人も日常的に水を摂取しているということであり、ここは奇を衒うことなく真水を飲ませてあげよう。異国の地で自らの国と同じものがあると安心するものである。
UFOをお出迎えする環境に関しても、ビルの屋上などはやめた方が良い。宇宙人は営業ステージをこなす売れないアイドルではない。しかも、宇宙船の着陸時に轟音が鳴るのだから、街中のビルの屋上では近隣住民が迷惑してしまう。そのため、騒音に対しても寛容で、なおかつしっかりと宇宙船を着陸できる環境が必要になる。例えば、フジロックが行われる苗場や大きな敷地面積を誇る国営公園などが良いのかもしれない。
場所を決めたら今度はその場所で宇宙人を出迎える人を集めよう。前述したが、やはり出迎えの人も3人くらいでは失礼である。知人、友人らに呼びかけを行って「宇宙人来るっていうけど来る?」と芸能人が来るコンパのような誘い方をすれば多くの人数が集まるだろう。あまりにも人数が集まらないようだったら、サクラでもいいので高めの日給を与えて多くの人達に集まってもらおう。そして、当日には芸人を現場に派遣し、宇宙人の出迎えに集まった人々に対して「前説」を行い、宇宙人が来た時の盛り上げ方、拍手の仕方について教示しておく必要がある。
ここまで準備をしてようやく宇宙人を呼んでいいのである。後は珍妙な踊りや奇声を発して宇宙人が来るのを待つだけ。
そのうち、異常なまでの騒音を轟かせて宇宙船が現れるだろう。無事に着地し、宇宙船の扉を開けて宇宙人たちが出て来る。その時、おもむろに宇宙人に対してコップ水を差しだすのである。宇宙人は無言でそれを飲み干すと、静かに話し出す。
「われわれは宇宙人だ」
そして方々から黄色い声援と割れんばかりの拍手が上がるのである。

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