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独占禁止法の部屋ブログ

泉水文雄(神戸大学大学院法学研究科教授)の独占禁止法、競争法、競争政策および釣りのブログです。

3 5月

地銀・バス特例法の位置づけの試論

地銀・バス特例法が制定され、実施されつつあります。公取委の企業結合課の(前を含む)職員による深町正徳編著『企業結合ガイドライン』(商事法務、2021)21頁は、企業結合ガイドラインの「一定の取引分野の規模」を引き、「独占禁止法の解釈から導き出される同法上問題とされない範囲(企業結合ガイドライン第4の2(9))と地銀・バス特例法の認可基準,鯔たす範囲の関係については、必ずしも自明ではない」とします。もちろん、深町氏等は答えを用意しているのに書いていないのでしょうが、私なりに、「範囲の関係」を説明してみます。ご批判をいただければ幸いです。

「2020(令和2)年5月、「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」(以下「地銀・バス特例法」という)が成立した。同法は、いわゆる縮小化社会を念頭に、「地域において、人口の減少等により地域一般乗合旅客自動車運送事業者及び地域銀行(以下「特定地域基盤企業」と総称する。)が持続的にサービスを提供することが困難な状況にある一方で、当該サービスが国民生活及び経済活動の基盤となるものであって、他の事業者による代替が困難な状況にあることに鑑み、特定地域基盤企業の合併その他の行為について・・・独占禁止法・・・の特例を定め、特定地域基盤企業の経営力の強化、生産性の向上等を通じて、将来にわたって当該サービスの提供の維持を図ること」等を目的とし(1条)、一定の合併等および共同経営協定を主務大臣が認可するものである。人口減少下において、地域における基盤的なサービスの提供を維持する政策目的とされる 。合併等の認可の基準は、1号「合併等に係る特定地域基盤企業が基盤的サービスを提供する地域の全部又は相当部分において、・・・収支の悪化・・・により、・・・当該基盤的サービスを将来にわたって持続的に提供することが困難となるおそれがあること」、2号「合併等により、・・・事業の改善が見込まれるとともに、・・・当該基盤的サービスの提供の維持が図られること。3号「・・・価格の上昇その他の不当な不利益を生ずるおそれがあると認められないこと」である(第7条)。主務大臣は認可の際に公取委と協議する義務がある(5条2項)。これは10年の時限立法である(附則2条)。
地銀・バス特例法はどう位置づけられるか。企業結合規制において、企業結合ガイドラインは、「一定の取引分野の規模」において、「複数の事業者が事業活動を行うと,効率的な事業者であっても採算が取れないほど一定の取引分野の規模が十分に大きくなく,企業結合がなくても複数の事業者による競争を維持することが困難な場合には,当該複数の事業者が企業結合によって1社となったとしても,当該企業結合により一定の取引分野におけ競争を実質的に制限することとはならないと通常考えられる」とする(第4の2(9))。これは、平成30年度主要企業結合事例・10「株式会社ふくおかフィナンシャルグループによる株式会社十八銀行の株式取得」における「対馬等3経済圏」に関する判断ををモデルにしたと考えられる(その理解の仕方については、泉水「ふくおかフィナンシャルグループによる十八銀行の株式取得事例の検討」公正取引820号57−58頁(2019)。そうであれば、地銀・バス特例法が想定する事例は、「一定の取引分野の規模」の問題となり、競争を実質的に制限することとならず、特例法を設ける必要はないように思われる。しかし、この点は次のように考えられよう。第1に、独禁法や競争法が競争の実質的制限の有無を審査する期間は、基本的には経済学でいう短期である。問題解消措置も比較的短い期間になる。独禁法は遠い将来の市場を予想して審査をすることはできない。したがって、たとえば今後3年、5年、あるいは10年間は2社間の競争が確保できるが、たとえば10年、20年先に深刻な事態が到来し、「複数の事業者による競争を維持することが困難な場合」が生じると予想される市場で複数の事業者が企業結合によって1社となると、独禁法上は競争の実質的制限があるとせざるを得ない。しかし、政府が、独禁法とは別に、たとえば20年後における「一定の取引分野の規模」を見据えて合併等を認めるということは立法論としての(広義の)競争政策としては十分にあり得る。同法が「将来に渡って」とするのもそのような趣旨と解される。そのような場合に、独禁法の基本的な解釈を変更することは他の合併事例や他分野への法の適用の際の弊害があまりに大きい。そこで、独禁法の基本的な解釈を維持しつつ、特例法を制定すること、また例外であるから、時限立法とすることが望ましいであろう。地銀・バス特例法はこのような立法と考えられる。第2に、このような立法は、企業結合規制における構造措置と同様な理由で、市場の競争構造を変更し、将来競争が自律的に機能する市場とすることが望ましい。将来、規模の経済により1事業者しか存続し得ない市場では、合併等により1社とすることは合理的である。しかし、地銀・バス特例法は、共同経営協定を認め、「共同して、期間、区間、利用回数その他の条件を定めて、利用者が当該条件の範囲内で当該全部又は一部の路線等を利用することができる定額の運賃又は料金を設定する行為その他これに類する運賃又は料金を設定する行為」(9条1項1号)等を認めている。これにより各事業者の規模の経済が改善するのか、かえって、近い将来退出しあるいは他の市場で活躍できたはずであった、不効率な事業者の存続を許すことになるのではないかという疑問が出される。この点、地銀・バス特例法は、「収支が不均衡な状況にある路線」において、「基盤的サービスに係る事業の改善が見込まれ」、「当該基盤的サービスの提供の維持が図られること」等を必要とし(11条1項1号、2号)、採算路線の利益を不採算路線に補填する際に、競争者が採算路線のみに参入するいわゆるクリームスキミングをしないなどを競争者との協力(それ自体は、競争回避になりうる(このような目的での競争回避行為は、具体的な事例はないと思われるものの、非ハードコア・カルテルとして許容される余地がある))のもとで行う場面を想定し、その限りで不当な取引制限等の適用除外とするようである。」
21 2月

不正競争防止法における「不当需要喚起行為」説の批判的検討

1 はじめに
 不正競争防止法は様々な行為を規制するが、それらの代表的な行為はしばしば「不当需要喚起行為」として説明される。「不当需要喚起行為」の意味は論者によって様々であるようである(しばしば引用される田村善之『不正競争法概説(第2版)』17頁、399頁以下(有斐閣、2003)は、以下で説明するほとんどの意味を含むようである(「広義の不当需要喚起行為説」と呼ぶ))。これに対し、「不当需要喚起行為」を「(偽りの)需要曲線を右にシフトさせる行為」として説明されることがある(以下、「Type 1)といい、この説を「狭義の不当需要喚起行為説」という)。
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2 不当需要喚起行為

 Type 1は図のように示される。Type 1で、さらに(i)偽りの需要の増大部分を違反行為者すべて供給し、(ii)違反行為者は、既存の競争者(競業者、供給者)の需要をいっさい奪わないと仮定しよう(一部奪う場合は、Type 3の説明となる)。(ii)の仮定は、既存の競争者(供給者)の総供給量および総余剰(P1と元の需要曲線と供給曲線の交点および供給曲線からなる三角形)が減少することはないことから、既存の競争者(供給者)「全体」(余剰は)についてはいえそうである(個々の供給者については奪われることはありうる)。
 ここで注意したいのは、Type 1では、需要者(消費財の場合は消費者)は(1)所得移転(商品の市場価格の上昇)および(2)死重荷(価値や効用があると考えて購入したが実は価値や効用がなかった部分)において損失を被るが(図のピンク部分)、既存の競争者(供給者)は損失を被らないばかりか、(1)により商品の市場価格の上昇により利潤が増大することである(図のピンクのうち所得移転部分)。Type 1は、消費者保護や社会的総余剰の最大化の観点から問題の大きい行為である。たとえば、「コロナウイルスを一瞬で殺す魔法の水」と称して瓶に詰めた水道水を販売することが典型である(おそらく既存の競争者はおらず、偽りの需要曲線の創造となるが)。消費者保護法制や景品表示法、独禁法の一部の規定(一般指定8項、9項)によりType 1の「不当需要喚起行為」を規制すべきことは説明できる。
 しかし、不正競争防止法(以下「不競法」という)について説明できるのであろうか。不競法の保護法益は競争者(競業者)の利益である(1条)。そして、競争者(競業者)は差止請求権(3条)や損害賠償請求権が与えられ(4条)、損害額の推定(5条)まで行われる。しかし、Type 1の「不当需要喚起行為」は、それ自体では既存の競争者(供給者)に損失を与えないどころか、利潤を増大させさえする。不競法の多くの規定は、Type 1の「不当需要喚起行為」では説明できないのではないか、というのが本稿の提言である。

3 不当供給量増大行為?
 次に、供給曲線に注目しよう。すなわち筆者は、「(偽りの)供給曲線を右にシフトさせる行為」としていわば「不当供給量増大行為」を考えてみたい(以下「Type 2」といい、図の2Type 2を参照)。たとえばある事業者が「新潟産コシヒカリ」と称して3級米を大量に供給するとしよう(原産地誤認表示(不競法2条1項20号))。この場合、これにより需要曲線が右にシフトする(新潟産コシヒカリを買いたいという需要者が新たに増える)とは考えにくい。一方、(偽りの)供給曲線は偽のコシヒカリが新たに供給されることにより、右にシフトする。この場合の需要者(消費者)の不利益は、やはり(1)所得移転(青色の部分)および(2)死重荷(ピンク部分)となりそうである。しかし、(2)はType 1とは場所や大きさが異なるとはいえ存在するもののであるが、(1)は逆に市場価格が減少し(青色の部分)、(正しいコシヒカリを購入した需要者の)余剰は増大する(もちろんコシヒカリと考えて3級米を購入した需要者は損失を被る)。競争者(競業者)はどうか。競争者(競業者)には、少なくとも市場価格が下がることによる損失(所得移転)が生じる(青色の部分。違反行為者が既存の競争者の需要の一部を奪う場合は、Type 3参照))。Type 2は消費者保護法制や景品表示法を説明できるとともに、競争者(競業者)の利益の損失も説明できる。
 しかしこれも不競法に限っては、変である。すなわち、不競法違反により競争者(競業者)が被る損失が市場価格が下がることだというのはリアリティに欠けるように思われる。
 なお、違反行為者が劣悪な財を供給した結果、当該商品全体に対する需要者からの評価が悪化し(たとえば、「新潟産コシヒカリは最近味が落ちた」)、需要曲線がType 1とは逆に「左に」シフトすることもありうる。この場合は、消費者余剰、社会的総余剰が減少するとともに、既存の競争者(競業者)にとっても、市場価格が下がるとともに、供給量も減少し(買い控え)、損害が生じる。違反行為とこの損害との間に相当因果関係が認められるならば、不競法違反による損害といえよう(「Type 1'」とでもいっておこう)。

4 需要曲線・供給曲線不変型
 最後に、需要曲線も供給曲線も大きな変化はない(不変)としよう(以下「Type 3」という)。ここでも「新潟産コシヒカリ」と称して3級米を供給する場合(ただし、ここではType 2の「大量」という限定をはずす(よって市場の価格、供給量は変わらない))を考えよう。この場合、違反行為者は偽のコシヒカリを販売することにより既存の競争者(競業者)からその分の需要を奪うことになる(冒頭に述べた「不当需要喚起」とはこういう意味でしばしば用いられるように思われ、それは適切である。なお、どの部分の需要が奪われるか、関係者の利益や損害がいくらかは、違反行為者の限界費用や騙された顧客の支払い意思額による異なる)。当然ではあるが、これこそが不競法において典型的に想定されている行為であろう(さらに、不競法では、違反行為者の供給量の多寡、需要曲線や供給曲線が変わることや価格、供給量が変わることは要件とされていないこととも整合的である)。この場合に、競争者に差止請求権や損害額の推定規定が置かれていることは合理的に説明できる。

5 結論
 以上から、第一に「狭義の不当需要喚起行為説」は、消費者保護法制や景品表示法で問題になる典型行為の一部を説明できるが、不競法の典型行為の説明としては適切でないこと、第二に、当然のことではあるが、不当な手段で競争者の顧客(需要)を奪うことが問題の本質であることを示した。

*本稿は、不競法に関するある原稿の作成過程での思いつきを、その原稿に記載するスペース(追記:『商標・意匠・不正競争判例百選(第2版)』(有斐閣、2020)223頁左10−13行)がないためにここに記載するものである。本稿の作成においては、2019年10月に開催された日本経済法学会シンポジウムにおける堀江明子教授のコメントから示唆を得た。
11 10月

『経済法入門』の補遺(令和元年改正対応)

『経済法入門』の補遺を有斐閣様のウェブサイト『経済法入門』ここに掲載していただきました。
令和元年独禁法改正に対応するものです。施行は2020年の秋ころと見込まれますが、2021年5月に司法試験を受験する方、典型的には法科大学院の2年生は改正法で学習する必要があるため、これに対応するものです。ご活用ください。
23 9月

『経済法入門』の課徴金改正関係教材

令和元年独禁法改正が成立し、令和2年末に施行予定です。
法科大学院等の授業では、10月期から改正法で授業を行う必要がありますが、泉水文雄『経済法入門』(有斐閣、2018年)は、出版後10ヶ月しか経過しておらず、当然ながら、改正法には対応していません。そこで、同書の令和元年独禁法改正に対応する部分である143―154頁について、教材として使用するための素材を作成しました。当該箇所は、いずれ差し替え部分として公表を予定していますが、当面、新学期に改正法で授業を行うものに対応するために、教材として公開致します。こちらの経済法入門教材です。申し訳ありませんが、設問に対する解答は公表していません。
3 1月

『経済法入門』刊行しました

2018年の最後の月に、おかげさまで、『経済法入門』(有斐閣)を刊行しました。月刊誌「法学教室」に2015年4月から2017年3月まで24回連載したものに加筆・修正を加えたものです。
法学部・法科大学院で「基礎」「基本」を学習したい方は、序章の2頁に場所を記載した「発展問題」「エンフォースメント」「Column」を除いた部分をお読みください。中級からさらに場合によっては上級まで学習したい方や法学部のゼミで使用する方は、「発展問題」「エンフォースメント」「Column」を含めて読むことをおすすめします。また、すでに一定の知識のある方は、各章の「設問」をまず読んで法律構成を考えてから本文を読めば、理解力がさらに増すでしょう。
質問や改善すべき点がありましたら、コメント欄にお書きください。対応可能なものにはできるだけ対応します。

追記
第 1 刷に下記の通り誤りがありました。
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/24312_teisei.pdf

以下にも掲載します。
目次 ii 頁上から 7 行目 「3 確約手続」は「3 確約制度」の誤り。
58 頁上から 6 行目 「独禁法上の規制をすることによって」は「企業結合
をすることで」と変更する。
62 頁下から 10 行目 「(a)」は「(b)」の誤り。
98 頁 4 行目 「決定の」は「決定した」の誤り。
107 頁下から 5 行目 「と要件」は「を要件」の誤り。
136 頁【設例 36】下から 3 行目および 2 行目ならびに本文下から 5 行目
「丙製品」は「丁製品」の誤り。
147 頁注 88・2 行目「とされ,」は「でないとされ,」の誤り
153 頁 13 行目 「H 社」は「G 社」の誤り。
184 頁 5 行目 「審決」は「審判」の誤り。
11 5月

久しぶりに

先日、ブログを見ています、といわれたのですが、まったく更新していませんでしたので、1月末以降の執筆状況を書いておきます。

『独占禁止法(第5版)』(金井、川浜、泉水編)(弘文堂、2018年3月)
「『不当廉売』8年ぶり増」読売新聞(社会面)(2017年12月28日夕刊)
「書評 幕田英雄著『公取委実務から考える独占禁止法』」公正取引808号71頁(2018年2月)

なお、いま話題の長崎の銀行統合をめぐる問題については、「FFG・十八銀統合の行方は? 識者に聞く」(西日本新聞qBiz2017年7月29日)で意見を述べています。突っ込みどころの多い金融庁報告書に対する意見も、基本はこれにつきます。

それから、シンポジウム等では以下のものがあります。
「独占禁止法のエンフォースメントの視点から」(シンポジウム「景品表示法の実現手法の多様性−独禁法の視点も含めて」(神戸大学六甲台第1キャンパス 第二学舎163教室、2018年2月18日)

「『人材と競争政策に関する検討会』報告書概要の紹介」、公正取引委員会競争政策研究センター第46回公開セミナー「スポーツと競争法〜『人材と競争政策に関する検討会』報告書を踏まえて〜」(TKP赤坂駅カンファレンスセンター ホール14C、2018年 3月16日)

また、「消費者法分野におけるルール形成の在り方と実効性の確保」(消費者委員会・消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループによるヒアリング、中央合同庁舎第4号館8階消費者委員会会議室、2018年4月12日)がありました。
報告資料は、以下にあります。議事録も近いうちに公表されるようです。http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/other/meeting2/002/index.html


27 1月

リニア新幹線談合疑惑に係る理論的な説明

リニア新幹線談合事件について、いろいろ質問をいただいています。
その中で、各社はそれぞれの工事について、研究していたり、得意技術をもっており、受注調整しなくてもほぼ確実に受注していたのだから競争制限はないはずだ、という主張について、質問されることがあります。面倒なので、ここに考えを書いておきます。
A社が品川で、B社がアルプスで、研究したり、得意技術をもっており、受注調整しなくてもA社が品川、B社がアルプスで受注できたという例を想定します。2社を例にしますが、3社、4社でも同じです。
 これを仮定的な数字で表現しましょう。A社は品川で、上記の理由から最も効率的であり、80億円(コストぎりぎり)で受注できるとします。B社以下は、効率に劣るので、100億円(コストぎりぎり)以上でしか受注できないとします。A社は他社より20%効率的という極端な例にしました。さて、A社は、競争入札においていくらの価格で応札するでしょうか。入札では、各社は他社の費用構造をある程度推測できますが、確実な数字はわかっていない(知らない)のが一般的です。そこで、B社以下は、A社のコストを75億円から85億円の間と推測しており、A社はB社以下のコストを95億円から105億円の間と推測しているとします。これでは、B社以下はまったくたちうちできませんね。では、競争入札は必要ないのでしょうか。
A社は、入札において確実に落札するためには、B社以下のもっとも低いコストである95億円より少し安い価格で応札するでしょう(他社が落札するリスクを負っても利益が大きい方がよいと考えれば100億円等で応札するかもしれません)。A社の利益は15億円です。日頃の研究や得意技術を磨いたたまものであり、正当な利益です。
では、談合というかはともかく、自社のコストについて各社の技術者間で情報交換したとしましょう。すると、A社は、B社以下のコストは100億円と分かるので、100億円より少し安い価格で応札するでしょう。情報交換によって、A社の利益はさらに5億円増えました。よかったですね(?)。
さて、ここで、情報交換の際に、さらに、品川の工事で、A社を受注予定者とし、B社以下はA社の受注に協力する(A社の応札価格より高い価格で応札する)と決めたとしましょう。A社は、100億円より高い価格、たとえば120億円で応札し、B社以下はそれより高い価格で応札します。A社の利益はさらに20億円増えました。よかったですね(?)。
その後、アルプスの工事でも、A社とB社が入れ替わったコスト構造になっているとすれば、アルプスではA社等はB社に協力するので、B社が同様の利益を得ることができます。C社、D社がそれぞれ得意な他の工事も同様です。よかったですね(?)。
 このように、ある工事で、ある会社が効率が良いためにほぼ確実に落札するだろう状態でも、通常、依然として市場における競争は機能しており、談合により利益を得ることができます。独禁法はこのような場合を含めて、競争の実質的制限があると考えます。
なお、JR東海は、コスト意識が高く、75億円を上回る価格では契約しないとします(予定価格75億円とします)。この場合、調整する必要はありません。A社は契約を断る、つまり応札しない、または予定価格より高い価格で応札するという判断しかありません。他社も同様ですので、不落になります。予定価格が80億円から95億円まででしたら、A社は、予定価格ぎりぎりで応札します(その前に、採算が合わないなどと主張し、予定価格の変更を求めるでしょうが)。他社との情報交換や受注調整をする必要はありません。その場合の利益は、予定価格-80億円です。予定価格が95億円を超えれば、情報交換や受注調整によってさらなる利益(予定価格-80億円)を得ます。その利益は、競争入札で得られる利益(15億円)を上回るものです。予定価格が事前にわかっていない場合、A社の利益はもう少し減る可能性がありますが、基本的な構造は同じです。
 もっとも、上記のコストに関する情報交換だけで、独禁法2条6項でいう不当な取引制限が成立するか(とくに相互拘束または「共同して・・・相互に」があるか)は微妙です。しかし、受注調整までなされ、それが複数の工事で行われていれば、成立し、または成立すると推認される可能性が高いと思われます。法的な評価は個別事案を見なければいけませんが、各社はそれぞれの工事について、研究していたり、得意技術をもっており、受注調整しなくてもほぼ確実に受注していたのだから競争制限はない、というわけではないことはおわかりいただいたでしょうか。
27 1月

2年ぶり

2年ほど更新していませんでした。この間に、以下のものを掲載していただきました。

金井=泉水=武田編『経済法判例・審決百選(第2版)』(別冊ジュリスト234号)(有斐閣、2017年10月)
「経済法入門 第14回 第6章不公正な取引方法(2)単独の取引拒絶」法学教室428号105−113頁(2016年4月)
「課徴金減免制度10年の評価と課題」公正取引787号10−21頁(2016年5月)
「経済法入門 第15回 第6章不公正な取引方法(3)不当廉売」法学教室429号109−117頁(2016年6月)
「経済法入門 第16回 第6章不公正な取引方法(4)差別対価」法学教室430号92−99頁(2016年7月)
「経済法入門 第17回 第6章不公正な取引方法(5)抱き合わせ販売等」法学教室431号105−113頁(2016年8月)
「経済法入門 第18回 第6章不公正な取引方法(6)排他条件付取引」法学教室432号130−137頁(2016年9月)
「経済法入門 第19回 第6章不公正な取引方法(7)再販売価格の拘束」法学教室433号121−129頁(2016年10月)
「経済法入門 第20回 第6章不公正な取引方法(8)拘束条件付取引」法学教室434号129−137頁(2016年11月)
「経済法入門 第21回 第6章不公正な取引方法(9)優越的地位の濫用、競争者に対する取引妨害」法学教室435号129−138頁(2016年12月)
「国際カルテルをめぐる諸問題」法律時報89巻1号52−59頁(2017年1月)
「経済法入門 第22回 第7章国際取引」法学教室436号109−118頁(2017年1月)
「経済法入門 第23回 第8章知的財産」法学教室437号107−116頁(2017年2月)
「経済法入門 第24回 第7章景品表示法」法学教室438号103−111頁(2017年3月)
「確約手続の導入についてーEU・米国等の諸制度を比較して」公正取引798号9−15頁(2017年4月)
「課徴金減免制度の効果の検討」舟田正之先生古稀祝賀『経済法の現代的課題』(有斐閣、2017年5月)523−538頁
「課徴金制度のあり方について」公正取引800号13−22頁(2017年6月)
「競争法の域外適用とその課題―日本法について―」日本国際経済法年報26号83−100頁(2017年10月)
「単独行為規制をめぐる問題」公正取引806号209頁(2017年12月)
「行政指導とカルテル(新潟タクシー事件)」(『経済法判例・審決百選(第2版)』(別冊ジュリスト
「加盟店に対する見切り販売の制限(セブン-イレブン・ジャパン事件)」(『経済法判例・審決百選(第2版)』(別冊ジュリスト234号、有斐閣、2017年10月)158−159頁。
「巻頭言 社会システムイノベーションセンターの新設と期待される役割」凌霜411号1−4頁(2016年9月)
コメント「姫路市汚職事件 入札不正防止へ模索続く」神戸新聞2016年12月27日朝刊3面
「書評 岡田羊祐=川霈此疥喀ぬ錙愼閥慄/拡酬茲遼,鳩从儚悄Щ例で読み解く日本の競争政策』」公正取引801号109頁(2017年7月)
「FFG・十八銀統合の行方は? 識者に聞く」西日本新聞qBiz2017年7月29日
「書評 今村和成=厚谷襄児編著『事業者団体法(昭和23年)』」公正取引803号106頁(2017年9月)

29 3月

ブラウンカルテル事件東京高裁判決について

ブラウンカルテル事件東京高裁判決について、あるシンポジウムで報告しましたので、その原稿を掲載します。

まず日本語版です。タイトルは、"The Extra-territorial Application of Competition Laws in Japan and the Calculation of Administrative Surcharge regarding Enterprises engaging both in Domestic and Export Business"ですが、こちらが日本語版です。日本の制度、ブラウンカルテル事件の審決、同判決、比較法という流れになっています。審決部分は、下記のNBL1062号の原稿と一部かぶっています。

パワーポイント資料(英語)は、こちらです。


昨年10月以降に次のものを書きました。

「経済法入門 第8回 第2章不当な取引制限(3)入札談合」法学教室422号112−120頁(2015年10月)
「テレビ用ブラウン管国際カルテル事件―審判審決平成27年5月22日(平成22年(判)第2号ないし第5号)」NBL1062号61−69頁(2015年11月)
「経済法入門 第9回 第2章不当な取引制限(4)非ハードコア・カルテル」法学教室423号105−112頁(2015年11月)
「経済法入門 第10回 第3章事業者団体」法学教室424号137−144頁(2015年12月)
「独禁法における課徴金制度の機能、問題点、法改正のあり方」国民経済雑213 巻1 号1~20頁(2016 年1月)
「経済法入門 第11回 第4章事業者団体」法学教室425号137−144頁(2016年1月)
「非ハードコアカルテルの違法性評価の在り方」公正取引784号35−43頁(2016年2月)
「経済法入門 第12回 第5章私的独占」法学教室426号127−135頁(2016年2月)
「経済法入門 第13回 第6章不公正な取引方法(1)全体像、共同の取引拒絶」法学教室427号111−120頁(2016年3月)
30 1月

ブラウン管カルテル事件審決に関する越知教授の批評について

昨日、ブラウン管カルテル事件の審決取消訴訟の判決が出ました。これについては、今後批評を書く機会があるでしょう。この機会に、越知保見教授の本件審決に係るジュリスト1488号111頁(2016年1月号)(以下、「本批評」とします)を遅ればせながら拝見しました。筆者の見解(NBL1062号61頁(2015))(以下、「拙稿」とします)に幾度も触れていただき、感謝します。しかしながら、NBLで筆者が述べていない内容が筆者の見解として記載され、かつ批判を受けている点が気になり、ここで指摘させていただく次第です。なお、筆者は越知教授のJASRAC事件の代理人としての活躍など実務家としても研究者としても尊敬するものです。以下は、あくまで誤解を訂正し、若干の付言しようとするものです(結果として拙稿へ言及のすべてにコメントすることになりましたが)。

 本批評は、拙稿について、「本件で完成品の売上げが親会社等に立っているとしても、日本国内に輸入され、消費されたのでなければ、日本市場に影響を与えたというべきでない、あるいは競争の実質的制限があるとはいえないという見解もあるが(泉水・前掲66頁)」とあります。カッコの前段が拙稿の見解とするのかは判断が分かれますが、拙稿を「消費者利益の観点を重視するもの」と繰り返されていますので(114頁、115頁)(なお、上記引用部分に続く箇所ではなぜか「最終消費者」とさらに限定する書き換えがなされています)、前段も含むのでしょう。しかし、拙稿は、66頁を含めて「消費された」ことが必要とはどこにも書いていません。本批評が114頁でも引用するように、課徴金の対象となる売上額について、「独禁法の保護法益の観点から、たとえば具体的な競争制限効果が及んだ商品が日本国内において引き渡された場合の売上額に限るとすることは、合理的であ」るとするにすぎません(66頁、68頁)。つまり、需要者(最終消費者もちろん含まれはしますが)、「引き渡し」基準を提示するように、日本所在の製造業者や輸入業者に引き渡されただけで足ります。この点は、拙稿全体通じて一貫しているはずです。拙稿を「消費者利益の観点を重視するもの」(いわんや消費者を「最終消費者」に限定して)と位置づけるのは明らかに誤りです。なお、この点は、小田切委員の意見に対する本批評の評価にも同様に当てはまります(小田切委員は経済学者ですので「余剰」という言葉を用いますが、文脈から輸入業者等が(観念的な意味で)高い対価を支払う等の趣旨と容易に理解できます)。

なお、上記の本批評の引用部分の「競争の実質的制限があるとはいえない」も「具体的な競争制限効果」の誤りです。本批評には、2条6項の実体要件としての「競争の実質的制限」と課徴金の対象となる「当該商品」の要件である「具体的な競争制限効果」との混乱があるように思われます。

また、専門家には誤読の可能性はありませんが、念のためにいえば、114頁において、本批評は、ブラウン管審決が具体的な競争制限効果が発生したものとする説(拙稿を引用)を否定したと指摘しますが、具体的な競争制限効果が発生したものとする説は被審人が審判において主張し、審決がこれを否定したものです。拙稿は、この審決を批判したものであり、時間の経緯が逆になっています(善解すれば、拙稿は、従来からある学説の代表例として挙げていただいたのでしょうか)。

次の点は、見方の違いという面があり、簡単に述べます。本批判は、「カルテル締結後の交渉という実行行為は、不当な取引制限の法律要件(構成要件)ではないので、実行行為の存在により、管轄権が認められることはないという考え方(属地主義を厳格に考える立場)」として拙稿67頁を引用し、「この厳格説の立場をとるようである」とします。拙稿では、実行行為説や実施理論(implementation doctrine)は審査官も被審人も主張しておらず、争点でないので、属地主義により独禁法の適用が肯定される可能性について簡単に述べ、「カルテルの実施にすぎない」、実施といっても、不当な取引制限と単独行為(私的独占、不公正な取引方法)では異なる、後者では行為も効果も実施地で生じるので通常行為地になる、交渉、条件を本社が決めることで「行為」が認められるならば世界中の取引されている日本企業の取引が独禁法の対象になる等述べるにすぎません(繰り返しますが、拙稿は本件の争点ではなかった属地主義に消極的に触れただけのものです。また、拙稿では、63頁右段で効果理論が採用されるべき場合があることを明示しています。なお、実行行為理論によると主張されるうち、ノーディオン事件は私的独占事件であり、三重運賃事件は実は不公正な取引方法の事件です(不当な取引制限は適用除外の事例です)。化学繊維カルテルは6条事件であり、少なくとも属地主義から肯定されたとする学説の合意はないと思われます。しかも、いずれの事件も「実行行為」ではなく、「独禁法違反該当行為」そのものが国内で行われている事例です)。

なお、見解の相違の問題ですが、付記すれば、EUの実施理論においても(米国の「輸入取引例外」(FTAIAの適用除外を受けないという意味ですので正確にはいわば「輸入取引原則」であり、その場合にも、反トラスト法の要件を、(本評釈もintendedやtargeted要件に言及するように)反トラスト法一般の効果理論にいう効果を含めて、みたさなければなりません)においても)、ウッドパルプ判決がいうように(判決のパラグラフ11以下)、カルテル対象商品が、地理的な意味での域内の購入者に直接に販売すること(direct sales)を実施と呼んでおり(域内の購入者に販売する者は子会社、代理人、支店かどうかを問わないとします)、契約の締結も、商品の引き渡しも、代金の収受、完成品の引渡し・流通も国外でのみ行われ、考えられるとすれば利益(損失)の一部の移転のみ国内の事業者に生じた場合に「実施」を認める例を知りません。「交渉」をもって実施を認める例も知りません(以上について、判決は、EUの実施行為理論でも本件では実施行為は我が国に存在すると認められると断言していますので(判決文63頁)、この点の検証が必要です)。ただ、この点は、東京高裁判決が実行行為説を採用したと考えられるために、今後検討されることになるでしょう。この点、審決が本件合意を「現地子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低価格等を設定する旨合意した」とするのに対して、判決は、「本件合意は、ブラウン管の購入価格、購入数量等の重要な取引条件について実質的決定をする我が国ブラウン管テレビ製造販売業者を対象にするものであり」とし、本件合意の対象を、現地子会社等でなく、ブラウン管テレビ製造会社であると変更したうえで(事実認定の問題ですので、そうですか、としかいいようがありませんが、なかなか巧妙ですね。審決では、こういえないからこそ、現地子会社等とブラウン管製造会社は一体不可分、事業統括だとか、交渉、決定、指示をしているから需要者だと苦心したと思われます)、「本件合意に基づいて、我が国に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との間で行われる本件交渉等における自由競争を制限するという実行行為が行われたのでこれに対して我が国の独占禁止法を適用することができることは明らか」としますので、これをどう評価するかですね。

なお、本批評の113頁のパリのホテルの例(拙稿のシエナのホテルの例を参考にしていただいたようです。余談ながら、シエナのホテルの例は、拙稿公表前後から(公表前にも複数の研究会で報告をしています)、もっとも関心を持っていただいた部分で、研究会等でいろいろな方から、カルテルが金払いのよい日本人をターゲットにした場合や、日本に出向いて勧誘した場合はどうか等議論していただきました。審決ではその位置づけがよくわからなかったこの事実が判決では前提事実となっていることは必要条件とされたという意味で1つの収穫とはいえます)において、フランスを旅行する日本人はフランスに所在する需要者でないから、フランスの競争当局はこのような例をとりあげないのであろうか、と問題提起し、実際に取り上げた例があることを、輸出カルテルにおいても保護法益(消費者利益)があるとする説を支持する論拠とし(114頁)、また保護法益説の批判の1つの根拠とします(115頁)。しかし、この事例では、フランス人であれ日本人であれ、常居者であれ一時的滞在者であれ、パリのホテルに宿泊する需要者がカルテルにより被害を受けた(パリで宿泊契約を締結し、役務提供を受け、高い代金を支払った)ので、自国(フランス)所在の需要者として保護されるのは当然であり、だからこそフランスの競争当局が問題にしたと考えられます。競争法が保護する需要者を国籍で区別する例を私は知りません。
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