地銀・バス特例法が制定され、実施されつつあります。公取委の企業結合課の(前を含む)職員による深町正徳編著『企業結合ガイドライン』(商事法務、2021)21頁は、企業結合ガイドラインの「一定の取引分野の規模」を引き、「独占禁止法の解釈から導き出される同法上問題とされない範囲(企業結合ガイドライン第4の2(9))と地銀・バス特例法の認可基準�,鯔�たす範囲の関係については、必ずしも自明ではない」とします。もちろん、深町氏等は答えを用意しているのに書いていないのでしょうが、私なりに、「範囲の関係」を説明してみます。ご批判をいただければ幸いです。
「2020(令和2)年5月、「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」(以下「地銀・バス特例法」という)が成立した。同法は、いわゆる縮小化社会を念頭に、「地域において、人口の減少等により地域一般乗合旅客自動車運送事業者及び地域銀行(以下「特定地域基盤企業」と総称する。)が持続的にサービスを提供することが困難な状況にある一方で、当該サービスが国民生活及び経済活動の基盤となるものであって、他の事業者による代替が困難な状況にあることに鑑み、特定地域基盤企業の合併その他の行為について・・・独占禁止法・・・の特例を定め、特定地域基盤企業の経営力の強化、生産性の向上等を通じて、将来にわたって当該サービスの提供の維持を図ること」等を目的とし(1条)、一定の合併等および共同経営協定を主務大臣が認可するものである。人口減少下において、地域における基盤的なサービスの提供を維持する政策目的とされる 。合併等の認可の基準は、1号「合併等に係る特定地域基盤企業が基盤的サービスを提供する地域の全部又は相当部分において、・・・収支の悪化・・・により、・・・当該基盤的サービスを将来にわたって持続的に提供することが困難となるおそれがあること」、2号「合併等により、・・・事業の改善が見込まれるとともに、・・・当該基盤的サービスの提供の維持が図られること。3号「・・・価格の上昇その他の不当な不利益を生ずるおそれがあると認められないこと」である(第7条)。主務大臣は認可の際に公取委と協議する義務がある(5条2項)。これは10年の時限立法である(附則2条)。
地銀・バス特例法はどう位置づけられるか。企業結合規制において、企業結合ガイドラインは、「一定の取引分野の規模」において、「複数の事業者が事業活動を行うと,効率的な事業者であっても採算が取れないほど一定の取引分野の規模が十分に大きくなく,企業結合がなくても複数の事業者による競争を維持することが困難な場合には,当該複数の事業者が企業結合によって1社となったとしても,当該企業結合により一定の取引分野におけ競争を実質的に制限することとはならないと通常考えられる」とする(第4の2(9))。これは、平成30年度主要企業結合事例・10「株式会社ふくおかフィナンシャルグループによる株式会社十八銀行の株式取得」における「対馬等3経済圏」に関する判断ををモデルにしたと考えられる(その理解の仕方については、泉水「ふくおかフィナンシャルグループによる十八銀行の株式取得事例の検討」公正取引820号57−58頁(2019)。そうであれば、地銀・バス特例法が想定する事例は、「一定の取引分野の規模」の問題となり、競争を実質的に制限することとならず、特例法を設ける必要はないように思われる。しかし、この点は次のように考えられよう。第1に、独禁法や競争法が競争の実質的制限の有無を審査する期間は、基本的には経済学でいう短期である。問題解消措置も比較的短い期間になる。独禁法は遠い将来の市場を予想して審査をすることはできない。したがって、たとえば今後3年、5年、あるいは10年間は2社間の競争が確保できるが、たとえば10年、20年先に深刻な事態が到来し、「複数の事業者による競争を維持することが困難な場合」が生じると予想される市場で複数の事業者が企業結合によって1社となると、独禁法上は競争の実質的制限があるとせざるを得ない。しかし、政府が、独禁法とは別に、たとえば20年後における「一定の取引分野の規模」を見据えて合併等を認めるということは立法論としての(広義の)競争政策としては十分にあり得る。同法が「将来に渡って」とするのもそのような趣旨と解される。そのような場合に、独禁法の基本的な解釈を変更することは他の合併事例や他分野への法の適用の際の弊害があまりに大きい。そこで、独禁法の基本的な解釈を維持しつつ、特例法を制定すること、また例外であるから、時限立法とすることが望ましいであろう。地銀・バス特例法はこのような立法と考えられる。第2に、このような立法は、企業結合規制における構造措置と同様な理由で、市場の競争構造を変更し、将来競争が自律的に機能する市場とすることが望ましい。将来、規模の経済により1事業者しか存続し得ない市場では、合併等により1社とすることは合理的である。しかし、地銀・バス特例法は、共同経営協定を認め、「共同して、期間、区間、利用回数その他の条件を定めて、利用者が当該条件の範囲内で当該全部又は一部の路線等を利用することができる定額の運賃又は料金を設定する行為その他これに類する運賃又は料金を設定する行為」(9条1項1号)等を認めている。これにより各事業者の規模の経済が改善するのか、かえって、近い将来退出しあるいは他の市場で活躍できたはずであった、不効率な事業者の存続を許すことになるのではないかという疑問が出される。この点、地銀・バス特例法は、「収支が不均衡な状況にある路線」において、「基盤的サービスに係る事業の改善が見込まれ」、「当該基盤的サービスの提供の維持が図られること」等を必要とし(11条1項1号、2号)、採算路線の利益を不採算路線に補填する際に、競争者が採算路線のみに参入するいわゆるクリームスキミングをしないなどを競争者との協力(それ自体は、競争回避になりうる(このような目的での競争回避行為は、具体的な事例はないと思われるものの、非ハードコア・カルテルとして許容される余地がある))のもとで行う場面を想定し、その限りで不当な取引制限等の適用除外とするようである。」
「2020(令和2)年5月、「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」(以下「地銀・バス特例法」という)が成立した。同法は、いわゆる縮小化社会を念頭に、「地域において、人口の減少等により地域一般乗合旅客自動車運送事業者及び地域銀行(以下「特定地域基盤企業」と総称する。)が持続的にサービスを提供することが困難な状況にある一方で、当該サービスが国民生活及び経済活動の基盤となるものであって、他の事業者による代替が困難な状況にあることに鑑み、特定地域基盤企業の合併その他の行為について・・・独占禁止法・・・の特例を定め、特定地域基盤企業の経営力の強化、生産性の向上等を通じて、将来にわたって当該サービスの提供の維持を図ること」等を目的とし(1条)、一定の合併等および共同経営協定を主務大臣が認可するものである。人口減少下において、地域における基盤的なサービスの提供を維持する政策目的とされる 。合併等の認可の基準は、1号「合併等に係る特定地域基盤企業が基盤的サービスを提供する地域の全部又は相当部分において、・・・収支の悪化・・・により、・・・当該基盤的サービスを将来にわたって持続的に提供することが困難となるおそれがあること」、2号「合併等により、・・・事業の改善が見込まれるとともに、・・・当該基盤的サービスの提供の維持が図られること。3号「・・・価格の上昇その他の不当な不利益を生ずるおそれがあると認められないこと」である(第7条)。主務大臣は認可の際に公取委と協議する義務がある(5条2項)。これは10年の時限立法である(附則2条)。
地銀・バス特例法はどう位置づけられるか。企業結合規制において、企業結合ガイドラインは、「一定の取引分野の規模」において、「複数の事業者が事業活動を行うと,効率的な事業者であっても採算が取れないほど一定の取引分野の規模が十分に大きくなく,企業結合がなくても複数の事業者による競争を維持することが困難な場合には,当該複数の事業者が企業結合によって1社となったとしても,当該企業結合により一定の取引分野におけ競争を実質的に制限することとはならないと通常考えられる」とする(第4の2(9))。これは、平成30年度主要企業結合事例・10「株式会社ふくおかフィナンシャルグループによる株式会社十八銀行の株式取得」における「対馬等3経済圏」に関する判断ををモデルにしたと考えられる(その理解の仕方については、泉水「ふくおかフィナンシャルグループによる十八銀行の株式取得事例の検討」公正取引820号57−58頁(2019)。そうであれば、地銀・バス特例法が想定する事例は、「一定の取引分野の規模」の問題となり、競争を実質的に制限することとならず、特例法を設ける必要はないように思われる。しかし、この点は次のように考えられよう。第1に、独禁法や競争法が競争の実質的制限の有無を審査する期間は、基本的には経済学でいう短期である。問題解消措置も比較的短い期間になる。独禁法は遠い将来の市場を予想して審査をすることはできない。したがって、たとえば今後3年、5年、あるいは10年間は2社間の競争が確保できるが、たとえば10年、20年先に深刻な事態が到来し、「複数の事業者による競争を維持することが困難な場合」が生じると予想される市場で複数の事業者が企業結合によって1社となると、独禁法上は競争の実質的制限があるとせざるを得ない。しかし、政府が、独禁法とは別に、たとえば20年後における「一定の取引分野の規模」を見据えて合併等を認めるということは立法論としての(広義の)競争政策としては十分にあり得る。同法が「将来に渡って」とするのもそのような趣旨と解される。そのような場合に、独禁法の基本的な解釈を変更することは他の合併事例や他分野への法の適用の際の弊害があまりに大きい。そこで、独禁法の基本的な解釈を維持しつつ、特例法を制定すること、また例外であるから、時限立法とすることが望ましいであろう。地銀・バス特例法はこのような立法と考えられる。第2に、このような立法は、企業結合規制における構造措置と同様な理由で、市場の競争構造を変更し、将来競争が自律的に機能する市場とすることが望ましい。将来、規模の経済により1事業者しか存続し得ない市場では、合併等により1社とすることは合理的である。しかし、地銀・バス特例法は、共同経営協定を認め、「共同して、期間、区間、利用回数その他の条件を定めて、利用者が当該条件の範囲内で当該全部又は一部の路線等を利用することができる定額の運賃又は料金を設定する行為その他これに類する運賃又は料金を設定する行為」(9条1項1号)等を認めている。これにより各事業者の規模の経済が改善するのか、かえって、近い将来退出しあるいは他の市場で活躍できたはずであった、不効率な事業者の存続を許すことになるのではないかという疑問が出される。この点、地銀・バス特例法は、「収支が不均衡な状況にある路線」において、「基盤的サービスに係る事業の改善が見込まれ」、「当該基盤的サービスの提供の維持が図られること」等を必要とし(11条1項1号、2号)、採算路線の利益を不採算路線に補填する際に、競争者が採算路線のみに参入するいわゆるクリームスキミングをしないなどを競争者との協力(それ自体は、競争回避になりうる(このような目的での競争回避行為は、具体的な事例はないと思われるものの、非ハードコア・カルテルとして許容される余地がある))のもとで行う場面を想定し、その限りで不当な取引制限等の適用除外とするようである。」
