2008年02月18日
音楽史09〜バロック器楽〜
バロック期には楽器の発展に伴い器楽曲が盛んに作られるようになった。
中でもヴァイオリンはイタリアを中心に目覚しく発展し、
ヴァイオリン演奏の巨匠(ヴィルトゥオーゾ)兼作曲家が多く登場した。
《ヴァイオリンの巨匠》
●アルカンジェロ・コレッリ
Arcangero Corelli(1653-1713)
巨匠ヴァイオリニスト=作曲家の元祖とも言うべき人物。
それ以前にも巨匠ヴァイオリニストはいたが、コレッリの登場により、
それらの存在が忘れ去られてしまうほどであった。
作曲家としても、バロックの代表的な形式である
合奏協奏曲とトリオ・ソナタを作り出すなど
バロック時代の器楽音楽形成における極めて重要な存在であった。
また完璧主義者であり、本当に納得した作品以外は破棄したため
残された作品は厳選されたものだけとなっている。
お勧め:「合奏協奏曲 作品6」
全12曲からなる協奏曲集。第8番はクリスマス協奏曲として有名。
また「ラ・フォリア」を含むトリオ・ソナタ作品5も有名。
●ジュゼッペ・トレッリ
Giuseppe Torelli(1658-1709)
バロック器楽においてコレッリに匹敵する重要な役割を果たした人物。
コレッリの影響を受けて合奏協奏曲を作曲したが、
コレッリのものよりもソロ楽器の活躍が目立っている。
ソロ協奏曲は後にヴィヴァルディによって完成させられる形式だが
トレッリはコレッリとヴィヴァルディを結ぶ貴重な役割を果たしているといえるだろう。
また後の18世紀に完成させられるソナタ形式の原型もトレッリに求めることができる。
ソナタ形式を形式として決定付けているのは展開部だが、
この展開部に相当する最初の音楽を作ったのがトレッリとされている。
お勧め:「合奏協奏曲 作品8」
第6曲がクリスマス協奏曲となっている。
クリスマス協奏曲は、器楽でありながらキリストの生誕を告げる
羊飼いの歌が基になっており宗教音楽的な意味を持つ曲となっている。
●フランチェスコ・マンフレディーニ
Francesco Manfredini(1684-1762)
トレッリにヴァイオリンを学ぶ。器楽だけでなく声楽なども手がけたが
死後多くの作品が失われてしまったといわれる。
お勧め:「合奏協奏曲 作品3」
やはり全12曲からなる協奏曲集であり、12番のクリスマス協奏曲が有名。
●フランチェスコ・ジェミニアーニ
Francesco Geminiani(1687-1762)
作曲をアレッサンドロ・スカルラッティに、ヴァイオリンをコレッリに学ぶ。
後にロンドンに渡り、演奏家、作曲家として成功を収めた。
イタリアのヴァイオリニストたちの多くは派手な演奏や作曲を好んだが、
ジェミニアーニは綿密な音楽の労作にこだわったようである。
その意味では師であるコレッリの流れを汲んでいるといえる。
お勧め:「合奏協奏曲 作品7」
ジェミニアーニの合奏協奏曲はコレッリやトレッリとはまた違い、
弦楽四重奏がオーケストラとの掛け合いを行う作りになっている。
より古典派的な音楽になっているといえる。
●フランチェスコ・ヴェラチーニ
Francesco Veracini(1690-1768)
イタリアのみでなくロンドンやドレスデンでも活躍した。
ドイツではイタリアヴァイオリニストは外面的な技巧のみとして
低く評価される傾向にあったが、ヴェラチーニはドレスデンでも
受け入れられたように国際的な名声を得ることに成功した。
オラトリオやオペラも作曲したが評価されたのは主に器楽のみであった。
晩年は作曲者や演奏家としてよりも指揮者として活躍した。
お勧め:「ヴァイオリン・ソナタ 作品1」
声楽なども残しているが、作品1の1番が現在最も多く演奏される曲である。
●ジュゼッペ・タルティーニ
Giuseppe Tartini(1692-1770)
若い頃はフェンシングの名手でもあったという。
ある時ヴェラチーニのヴァイオリン演奏を聴いて感銘を受け、
自室こもって猛練習をしたと伝えられている。
その後名手となったタルティーニは
演奏家としてだけでなく音楽理論家としても名を成していった。
作曲はヴァイオリン音楽に限られていたが体系的に作品を残さなかったため
現在もその全貌を判断するのが難しくなっている。
お勧め:「悪魔のトリル」
夢の中に悪魔アムドゥシアスが登場してヴァイオリンを奏でた
という逸話で知られる作品。
●ピエトロ・ロカテッリ
Pietro Locatelli(1695-1764)
タルティーニと並び超絶技巧で知られたヴァイオリンの名手。
技巧的なヴァイオリン曲を多く作った。
お勧め:「ヴァイオリンの技法 作品3」
12曲からなる協奏曲集だが、間に挟まれた
ヴァイオリンソロによる技巧的なカプリッチョ楽章が特に有名。
《ヴェネツィア》
バロック初期に音楽の中心地として栄えたものの、
その後ナポリに中心地の座を明け渡していたヴェネツィアだったが
依然として優れた作曲家を要していた。
●アントニオ・ヴィヴァルディ
Antonio Vivaldi(1678-1741)
なんといってもその代表はヴィヴァルディであろう。
「四季」のみであまりにも有名になってしまい
それだけの作曲家のイメージすらあるが
ソロ協奏曲の生みの親である点は非常に重要である。
コレッリの合奏協奏曲がバロック期にしか生き残らなかったのに比べ
ヴィヴァルディのソロ協奏曲は後の時代まで続いていった。
古典派以降ソロ協奏曲は交響曲と共に極めて重要な器楽形式になっていった。
「クラシック音楽」をそのまま言葉通りに受け取れば
古典派音楽ということになるから、その意味で
クラシック器楽の祖といってもよい人物である。
近年は器楽だけでなくオペラや声楽曲も多く演奏されている。
改めてバロック時代の最重要な音楽家として認知されてきたといえるだろう。
お勧め:協奏曲集「和声と創意の試み」
全12曲からなる協奏曲集で、この1〜4曲が「四季」として特に知られる部分である。
ヴィヴァルディの傑作はこれだけではない。
同じく協奏曲集の形をとる「調和の霊感」や「フルート協奏曲集」
単独の各楽器用の協奏曲(チェロ、マンドリン、オーボエ等)、
「グローリア」「スターバト・マーテル」などの声楽曲なども一聴の価値がある。
バロック時代の非常に重要な作曲家なので四季だけで終わらせるのは惜しい。
●アントニオ・ロッティ
Antonio Lotti(1667年頃-1740)
様々な分野にまたがって作品を残した作曲家であり優れた教育者でもあった。
ヴェネツィアだけでなくドイツのハノーファーでも活躍した。
お勧め:「十字架に架けられて(Crucifixus)」
ミサ曲やオペラなど大規模な作品も残したロッティだが
最も有名なのはこの美しい小品である。
●アレッサンドロ・マルチェッロ
Alessandro Marcello(1669-1747)
マルチェッロ兄弟の兄。優れた作曲家であったが
音楽が本業ではなかったため残された作品数は少なかった。
代表作オーボエ協奏曲はバッハがチェンバロ用に編曲し
また映画「ベニスの愛」で使われたことで有名になっている
お勧め:「オーボエ協奏曲 ニ短調」
現在演奏されるほとんど唯一のマルチェッロの曲だが
上記の理由により屈指の人気作となっている。
●ベネデット・マルチェッロ
Benedetto Marcello(1686-1739)
マルチェッロ兄弟の弟。音楽が本業ではない点は兄と同じだが
精力的に作曲を行ったため多数の作品を残したという点では大きく違っている。
生前は弟ベネデットのほうが音楽家として高く評価されていた。
お勧め:「詩的・音楽的霊感(Estro poetico-armonico)」
1〜50番までの詩篇に様々な形で曲をつけた野心作。
カンタータや連作マドリガーレに近いが
既存のどの分類にも捉われない自由な作品となっている。
●トマゾ・アルビノーニ
Tomaso Albinoni(1671-1750)
生前はオペラ作曲家として名を馳せたが、
現在ではヴィヴァルディにも匹敵する協奏曲作曲家として知られている。
マルチェッロ兄弟同様、作曲家は本業ではなかった。
当時のヴェネツィアには裕福な層が多かったのであろうか、
このような優れたアマチュア音楽家が多く登場していたことは驚きである。
アルビノーニといえば「アルビノーニのアダージョ」が有名だが
実際にこの曲はアルビノーニとは全く関係が無い。
アルビノーニ研究家のジャゾットが偶然見つけた楽譜の断片から音楽を作り
「アルビノーニのアダージョ」として発表して人気を獲得したものだが
後にその断片もアルビノーニのものではないことが有力となった。
お勧め:「協奏曲集 作品9」
例に漏れず12曲からなる曲集である。
中では第2番のオーボエ協奏曲が最も有名。
wrote by Au-Saga
次回は、バロック鍵盤楽器
中でもヴァイオリンはイタリアを中心に目覚しく発展し、
ヴァイオリン演奏の巨匠(ヴィルトゥオーゾ)兼作曲家が多く登場した。
《ヴァイオリンの巨匠》
●アルカンジェロ・コレッリ
Arcangero Corelli(1653-1713)
巨匠ヴァイオリニスト=作曲家の元祖とも言うべき人物。
それ以前にも巨匠ヴァイオリニストはいたが、コレッリの登場により、
それらの存在が忘れ去られてしまうほどであった。
作曲家としても、バロックの代表的な形式である
合奏協奏曲とトリオ・ソナタを作り出すなど
バロック時代の器楽音楽形成における極めて重要な存在であった。
また完璧主義者であり、本当に納得した作品以外は破棄したため
残された作品は厳選されたものだけとなっている。
お勧め:「合奏協奏曲 作品6」
全12曲からなる協奏曲集。第8番はクリスマス協奏曲として有名。
また「ラ・フォリア」を含むトリオ・ソナタ作品5も有名。
●ジュゼッペ・トレッリ
Giuseppe Torelli(1658-1709)
バロック器楽においてコレッリに匹敵する重要な役割を果たした人物。
コレッリの影響を受けて合奏協奏曲を作曲したが、
コレッリのものよりもソロ楽器の活躍が目立っている。
ソロ協奏曲は後にヴィヴァルディによって完成させられる形式だが
トレッリはコレッリとヴィヴァルディを結ぶ貴重な役割を果たしているといえるだろう。
また後の18世紀に完成させられるソナタ形式の原型もトレッリに求めることができる。
ソナタ形式を形式として決定付けているのは展開部だが、
この展開部に相当する最初の音楽を作ったのがトレッリとされている。
お勧め:「合奏協奏曲 作品8」
第6曲がクリスマス協奏曲となっている。
クリスマス協奏曲は、器楽でありながらキリストの生誕を告げる
羊飼いの歌が基になっており宗教音楽的な意味を持つ曲となっている。
●フランチェスコ・マンフレディーニ
Francesco Manfredini(1684-1762)
トレッリにヴァイオリンを学ぶ。器楽だけでなく声楽なども手がけたが
死後多くの作品が失われてしまったといわれる。
お勧め:「合奏協奏曲 作品3」
やはり全12曲からなる協奏曲集であり、12番のクリスマス協奏曲が有名。
●フランチェスコ・ジェミニアーニ
Francesco Geminiani(1687-1762)
作曲をアレッサンドロ・スカルラッティに、ヴァイオリンをコレッリに学ぶ。
後にロンドンに渡り、演奏家、作曲家として成功を収めた。
イタリアのヴァイオリニストたちの多くは派手な演奏や作曲を好んだが、
ジェミニアーニは綿密な音楽の労作にこだわったようである。
その意味では師であるコレッリの流れを汲んでいるといえる。
お勧め:「合奏協奏曲 作品7」
ジェミニアーニの合奏協奏曲はコレッリやトレッリとはまた違い、
弦楽四重奏がオーケストラとの掛け合いを行う作りになっている。
より古典派的な音楽になっているといえる。
●フランチェスコ・ヴェラチーニ
Francesco Veracini(1690-1768)
イタリアのみでなくロンドンやドレスデンでも活躍した。
ドイツではイタリアヴァイオリニストは外面的な技巧のみとして
低く評価される傾向にあったが、ヴェラチーニはドレスデンでも
受け入れられたように国際的な名声を得ることに成功した。
オラトリオやオペラも作曲したが評価されたのは主に器楽のみであった。
晩年は作曲者や演奏家としてよりも指揮者として活躍した。
お勧め:「ヴァイオリン・ソナタ 作品1」
声楽なども残しているが、作品1の1番が現在最も多く演奏される曲である。
●ジュゼッペ・タルティーニ
Giuseppe Tartini(1692-1770)
若い頃はフェンシングの名手でもあったという。
ある時ヴェラチーニのヴァイオリン演奏を聴いて感銘を受け、
自室こもって猛練習をしたと伝えられている。
その後名手となったタルティーニは
演奏家としてだけでなく音楽理論家としても名を成していった。
作曲はヴァイオリン音楽に限られていたが体系的に作品を残さなかったため
現在もその全貌を判断するのが難しくなっている。
お勧め:「悪魔のトリル」
夢の中に悪魔アムドゥシアスが登場してヴァイオリンを奏でた
という逸話で知られる作品。
●ピエトロ・ロカテッリ
Pietro Locatelli(1695-1764)
タルティーニと並び超絶技巧で知られたヴァイオリンの名手。
技巧的なヴァイオリン曲を多く作った。
お勧め:「ヴァイオリンの技法 作品3」
12曲からなる協奏曲集だが、間に挟まれた
ヴァイオリンソロによる技巧的なカプリッチョ楽章が特に有名。
《ヴェネツィア》
バロック初期に音楽の中心地として栄えたものの、
その後ナポリに中心地の座を明け渡していたヴェネツィアだったが
依然として優れた作曲家を要していた。
●アントニオ・ヴィヴァルディ
Antonio Vivaldi(1678-1741)
なんといってもその代表はヴィヴァルディであろう。
「四季」のみであまりにも有名になってしまい
それだけの作曲家のイメージすらあるが
ソロ協奏曲の生みの親である点は非常に重要である。
コレッリの合奏協奏曲がバロック期にしか生き残らなかったのに比べ
ヴィヴァルディのソロ協奏曲は後の時代まで続いていった。
古典派以降ソロ協奏曲は交響曲と共に極めて重要な器楽形式になっていった。
「クラシック音楽」をそのまま言葉通りに受け取れば
古典派音楽ということになるから、その意味で
クラシック器楽の祖といってもよい人物である。
近年は器楽だけでなくオペラや声楽曲も多く演奏されている。
改めてバロック時代の最重要な音楽家として認知されてきたといえるだろう。
お勧め:協奏曲集「和声と創意の試み」
全12曲からなる協奏曲集で、この1〜4曲が「四季」として特に知られる部分である。
ヴィヴァルディの傑作はこれだけではない。
同じく協奏曲集の形をとる「調和の霊感」や「フルート協奏曲集」
単独の各楽器用の協奏曲(チェロ、マンドリン、オーボエ等)、
「グローリア」「スターバト・マーテル」などの声楽曲なども一聴の価値がある。
バロック時代の非常に重要な作曲家なので四季だけで終わらせるのは惜しい。
●アントニオ・ロッティ
Antonio Lotti(1667年頃-1740)
様々な分野にまたがって作品を残した作曲家であり優れた教育者でもあった。
ヴェネツィアだけでなくドイツのハノーファーでも活躍した。
お勧め:「十字架に架けられて(Crucifixus)」
ミサ曲やオペラなど大規模な作品も残したロッティだが
最も有名なのはこの美しい小品である。
●アレッサンドロ・マルチェッロ
Alessandro Marcello(1669-1747)
マルチェッロ兄弟の兄。優れた作曲家であったが
音楽が本業ではなかったため残された作品数は少なかった。
代表作オーボエ協奏曲はバッハがチェンバロ用に編曲し
また映画「ベニスの愛」で使われたことで有名になっている
お勧め:「オーボエ協奏曲 ニ短調」
現在演奏されるほとんど唯一のマルチェッロの曲だが
上記の理由により屈指の人気作となっている。
●ベネデット・マルチェッロ
Benedetto Marcello(1686-1739)
マルチェッロ兄弟の弟。音楽が本業ではない点は兄と同じだが
精力的に作曲を行ったため多数の作品を残したという点では大きく違っている。
生前は弟ベネデットのほうが音楽家として高く評価されていた。
お勧め:「詩的・音楽的霊感(Estro poetico-armonico)」
1〜50番までの詩篇に様々な形で曲をつけた野心作。
カンタータや連作マドリガーレに近いが
既存のどの分類にも捉われない自由な作品となっている。
●トマゾ・アルビノーニ
Tomaso Albinoni(1671-1750)
生前はオペラ作曲家として名を馳せたが、
現在ではヴィヴァルディにも匹敵する協奏曲作曲家として知られている。
マルチェッロ兄弟同様、作曲家は本業ではなかった。
当時のヴェネツィアには裕福な層が多かったのであろうか、
このような優れたアマチュア音楽家が多く登場していたことは驚きである。
アルビノーニといえば「アルビノーニのアダージョ」が有名だが
実際にこの曲はアルビノーニとは全く関係が無い。
アルビノーニ研究家のジャゾットが偶然見つけた楽譜の断片から音楽を作り
「アルビノーニのアダージョ」として発表して人気を獲得したものだが
後にその断片もアルビノーニのものではないことが有力となった。
お勧め:「協奏曲集 作品9」
例に漏れず12曲からなる曲集である。
中では第2番のオーボエ協奏曲が最も有名。
wrote by Au-Saga
次回は、バロック鍵盤楽器