2010年06月30日

ヒメサスライアリ特集

先月に行ったマレーシアでは、多くの珍しいアリに出会うことができましたが、最も見たかったアリがヒメサスライアリです。
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今回行ったマレーシアの森には、500種類ものアリが暮らし、ヒメサスライアリだけでも20種類も生息しているのです!
ここは世界中のアリ研究者が集まる場所なのです。

マレーシアの森



















アリだけでこれだけ種類が多いということは、他の動植物もすごい種類が生息していることとなり、マレーシアの自然の豊かさを改めて実感しました。

ヒメサスライアリは、まるでグンタイアリのように、決まった巣を持たずに毎日移動しながら暮らすアリで、集団でアリの巣に侵入して、アリの幼虫やサナギを盗んで捕食します。
まったく乱れることのない行列で攻め込むため、狙われたアリたちは防ぐことができません。
アリにとっての最大の天敵でもあるのです。

生活の周期には、このように狩りをしながら暮らす「移動時期」と、産卵のために一か所に留まる、「停滞期」があります。
移動時期は、毎日夕方に引っ越しを行います。
停滞期には、女王の腹部が、まるでシロアリの女王のように伸びて、一気に大量の卵を産卵するようです。
コロニーはとても巨大で、成熟コロニーは、働きアリが10万匹にも達するようで、行列も数十メートルにも及ぶことがあるのです。

そんなヒメサスライアリは、日本でも沖縄本島と西表島に生息していて、チャイロヒメサスライアリとヒメサスライアリの2種類が暮らしています。
チャイロヒメサスライアリ地中性ヒメサスライアリ








左は沖縄のチャイロヒメサスライアリが、リュウキュウアメイロアリの巣を襲って、サナギを盗んでいるところです。
右はボルネオ産の、地中性のサスライアリDorylus laevigatusで、コロニーには大型ワーカーが存在します。

丸山さんにお聞きしたところ、ヒメサスライアリはアリ食ですが、サスライアリDorylus laevigatusは肉食中心の雑食性とのことです。

今まで沖縄やボルネオで、何度か働きアリは見つけてはいるのですが、コロニーの中心部を一度も発見したことがなく、女王を見たことがなかったのです。
そんなヒメサスライアリが、この森だけで20種類も生息しているのです!

丸山さんはヒメサスライアリの巣に同居をしているハネカクシやハエなどの好蟻性昆虫の研究をされていて、ヒメサスライアリのコロニーを採集するプロです!
今回は丸山さんから、いろいろ教えて頂くチャンスでもあります。

採集一日目、初めて見るアリが多く暮らしていて、かなり興奮しながらアリを探します。
当然ヒメサスライアリを意識しながら歩いて採集をしましたが、まったく見つけることができませんでした。

この日は、寝る前に目をつぶると、ヒメサスライアリの行列が目に浮かび、夢にまでヒメサスライアリが出てきました(笑)

二日目、三日目と時間が過ぎていきますが、全く見つからず・・・
しかし、丸山さんは「大丈夫、必ず見つかりますよ」と余裕です。

そして、ヒメサスライアリとの出会いは突然やってきたのです!!
午後3時ごろ、ジャングルの中を歩いていると、ものすごい密度と早さで移動する黒いアリを見つけました。
今まで見てきたアリとは、勢いが違います。
そして、近くで見てみると!!間違えなくヒメサスライアリだったのです。
沖縄で見慣れたチャイロヒメサスライアリと比べると、色は黒で、はるかに大型です。
しかも、驚いたことに行列を辿って行くと、一斉に樹上へと登っていくのです!
そしてしばらく観察をしていると、登ったアリたちが降りてきました。
そのアリの顎には、明らかに別の種類のアリの幼虫がくわえられているのです。
どうやら狩りを行っていて、樹上性のアリの巣を襲っていたようです。

この行列をじっと見ているトビトカゲがいました。
トカゲは、時々行列をペロっと食べています。
おそらくアリが狩りをした幼虫を食べているのでしょう。

ベンガルバエベンガルバエ









行列付近には、ベンガルバエというハエもいました。
このハエは、肉食性でアリが運ぶ幼虫を盗み食いします。
左が、今回見つけたバンガルバエで、右が過去に石垣島で見つけたベンガルバエで、クビナガアシナガアリの幼虫を盗んで食べていました。

それにしても、すごい数と密度の行列です。
今まで見てきたアリの行列とは、まったく違う物で、まるで滝のように流れるようなスピードで走り続けています。

しばらく観察を続けたあとは、巣を刺激しないように働きアリを数匹採集して、宿に戻り丸山さんに報告しました。
丸山さんは働きアリを一目見て、「これはケブカヒメサスライアリです」と種類を見分けて、この種類は木に登ることが多く、時には樹上に巣を作ることもあると言うことも教えてもらいました。
そして、「おそらく18時ごろから引っ越しがはじまるので、そのころに採集に行きましょう」とのことでした。

この日は別の場所で、丸山さんも別種の大型ヒメサスライアリを見つけていましたが、残念ながら巣の中心は見つかりませんでした。

そして日が暮れ始めたころ、丸山さんと再びケブカヒメサスライアリの行列があった場所に向かいます。

すると、先ほどまであんなに大行列があった場所に1匹もいないのです!?
まさか、あれほどまでの長い行列が、こんな短時間で消えてしまうとは…
しばらく2人で探しますが見つからず、もう駄目かなと思ったころに、丸山さんが「いました!」と発見です。

そして、働きアリの密度が高い場所を見ていると、巣を発見です!!
高さ1mほどにある、木の幹の皮が浮いた部分に巣があったのです。
木の皮の隙間をライトで照らすと、真黒になるほどの密度で、アリが住み着いているのが見えました。
木の皮をはがせば、一気に採集できそうでしたが、ここは達人丸山さんの判断で、自然に引っ越しを始めるまで待つことになりました。

丸山さんが研究している、好蟻性のハネカクシやハエなどは、コロニーの中心部にいるため、狩りの最中の行列では採集することができませんが、コロニーのすべてが移動する引っ越しなどの行列から見つけることができるのです。

行列を見ていると、何とオスアリが行列を歩いていたのです!
ヒメサスライアリのオスは、体型ががっしりしていて、腹部も大きく特徴があります。
しかも良く見ると翅がありません。
丸山さんに聞くと、オスは女王と交尾をするためにコロニーに侵入すると、働きアリによって翅を切られるようです。
その後、女王と交尾をしに行くのです。
しかも、実際にこのように行列に入り込んだオスは、世界で数例しか確認されていないようです!
とても貴重なものを見ることができました。

そして、2〜30分待ったころ、丸山さんが「そろそろ始まりそうです」と言いました。

ヒメサスライアリの引っ越しそれからわずか数分後、本当に引っ越しが始まったのです!!
アリたちはスイッチが入ったように、皆で幼虫をくわえて巣から一斉に飛び出してきます。
行列の太さ、密度、早さは一定に保たれながら、どんどん巣から流れ出てくるのです。
これには感動しました。
そして、ヒメサスライアリの行動を完全に知り尽くしている丸山さんにも驚きました。

丸山さんは、幼虫を運ぶ働きアリの中から、幼虫と同じように働きアリに運ばれるハエを採集しています。

無翅のハエこの働きアリが運んでいるのがハエですが、ハエに見えますか?
実はこのハエは、翅も脚もないハエなのです!?
どんなに見ても、これがハエの成虫には見えませんでした。



無翅のハエ

















この中にハエが1匹いますが、どれだか分かりますか?
中心にいるのがハエの成虫なのです。
無翅のハエ

















上がアリの幼虫で、下がハエの成虫です。

ここまで拡大すると、アリの幼虫にそっくりなハエの顔が分かりますね。
そう言われてみれば、ハエのような頭部があります。
しかし、これがハエとは・・・
シロアリの巣に住むノミバエを見た時も、とてもハエには見えませんでしたが、これはノミバエをはるかに超えるすごい姿です。
アリたちもまったく疑うことなく、幼虫と同じように大切に扱っていました。
ちなみにこのハエは成虫のメスですが、オスのハエは一度も発見されていないようです。

初めは、猛スピードで走る中から、幼虫とハエを見分けるのが難しかったのですが、しばらくするとだんだん見分けられるようになってきました。
アリの幼虫とは、大きさや形はほとんど同じですが、色が若干黄色っぽくて、透明感もありません。

続いてハネカクシが現れました!
アリによく似たハネカクシで、多くの個体は、アリに運ばれていました。
ハネカクシ

















このハネカクシも不思議な形をしています。
特に腹部は複雑な形です。
ハネカクシ

















ハネカクシ

普段は腹部を持ち上げて歩いていますが、腹部を伸ばすと、長い脚、腰のくびれ、触覚や腹部までもがヒメサスライアリにそっくりなのです。



そして、このハネカクシは自分で歩くこともできますが、働きアリに運ばれることもあります。
運ばれるハネカクシ

















アリは完全に仲間だと思っていますね。
運ばれている最中のハネカクシは、運ばれるアリと同じように、まったく動きません。

巣に運ばれるハネカクシ巣に運ばれるハネカクシ








巣に運ばれたハネカクシは、幼虫と同じ間所に置かれます。

ヒメサスライアリの行列には、様々な好蟻性昆虫がいました。
ハネカクシ

















その後も行列を眺めていると、何かダニのような赤い虫が付いていることに気が付きました。
そして吸虫管で吸ってみると、先ほどの種類よりもはるかに小型なハネカクシだったのです!
このハネカクシは、働きアリに運ばれる幼虫にしがみついていました。

引っ越しが始まって30分くらいした頃でしょうか、ついに女王アリが現れました!!
たくさんの働きアリを引き連れています。
ケブカヒメサスライアリの女王

















これが数万匹の働きアリのお母さんです。
このように移動時期は、毎日移動を繰り返していて、女王の腹部は小さくなっていますが、現在いる幼虫たちが成長すると、停滞期になり、女王は産卵を開始するのです。
すると、女王の腹部はまるでシロアリの女王のように大きく膨らみ、一気に数万の卵を産卵するのです!
南米に生息する大型のグンタイアリの女王は、産卵期には体長5〜6cmにもなると言われていて、世界最大のアリなのです。

ケブカヒメサスライアリの引っ越しは、2時間ほどかかって古巣が完全に空になりましたが、一体何万匹の働きアリがいたのか、ものすごい数でした。

この日は、ヒメサスライアリの生態を観察することができ、しかも女王まで見つかり、とても嬉しい日となりました。
丸山さんも、多くのハエやハネカクシを採集することができました。

そして最終日になりました。
これまで3種類のヒメサスライアリを発見しましたが、巣の中心を見つけられたのはケブカヒメサスライアリのみでした。

午前の採集を終えて宿に帰る途中、林道に黒いアリの行列を見つけることができました。
そしてよく見ると、ヒメサスライアリです!!
働きアリを数匹採集して、丸山さんに見てもらたところ、ツヤヒメサスライアリということが分かりました。
再びその場所に行き、行列を辿ってコロニーを探します。
すると、枯れ葉が積もった場所に、ものすごい数の働きアリが群れていて、よく見ると幼虫もいたのです!
間違いなく、この場所が巣の中心部です。

バケツにベビーパウダーそして、また宿に戻り丸山さんにそのことを伝えたところ、採集道具の準備を始めて、今回は引っ越しを待つのではなく、コロニーを丸ごと採集することになりました。

コロニーを入れるバケツの淵に、脱走防止のためにベビーパウダーを塗る丸山さん。
このバケツに、全コロニーを入れるのです。


長靴を履き、手袋をしてコロニーの場所に向かいます。

そしてコロニーがある枯れ葉ごとバケツに入れます。
丸山さんと枯れ葉をつかんだ瞬間、ものすごい数の働きアリがいました。
すると怒った数万匹の働きアリたちが、一斉に襲い掛かってきたのです!!
採集は1分ほどで終了しましたが、一瞬で全身がアリだらけです。

刺すツヤヒメサスライアリ刺された手









ヒメサスライアリは毒針を持っているのです。
両手、両足を100回以上刺されながら、なんとかバケツに採集することができました。
刺された場所は熱を持ち、ズキズキ痛みます。

ツヤヒメサスライアリの採集

バケツに入った数万匹の働きアリを、この後どうするのかと思ったのですが、丸山さんは手慣れた様子で、枝を1本くの字に折ってバケツに入れたのです。

驚いたことに、人工的に引っ越しを行わせて、好蟻性昆虫を採集するというのです!!

枝の置く場所を調節して、しばらくすると、幼虫を運んだ働きアリたちが一斉に枝を登り引っ越しを始めたのです。
先日見たケブカヒメサスライアリの引っ越しとまったく同じです。




これが引っ越しをしているヒメサスライアリです。



ヒメサスライアリは眼がないとは思えないほど、規則正しく、同じ方向に走っていきます。

ツヤヒメサスライアリの採集

ハネカクシとハエを採集する丸山さんです。
このスピードで走る中から、幼虫に似たハエを採集するのは大変な作業です。
今回も多くのハエ、ハネカクシ、ダニなどを採集することができました。




ダニ

















そして、働きアリの胸部に乗っている、可愛いダニも現れました。
ダニ

















このダニは、長い前脚をゆらゆら動かしながら、アリの胸部にしっかりとしがみついています。
前脚でアリを操縦しているようにも見えます。

しばらくすると、女王アリが現れました!!
このように採集しても、女王は見つからないことが多いようですが、運よく女王が入っていたのです!!
ツヤヒメサスライアリの女王

















ケブカヒメサスライアリよりも大きく、色も付いていて美しい女王です。
多くの働きアリに守られながら行列を歩いていきます。

仲間を助けるヒメサスライアリの仲間同士の絆はとても深く、仲間が危険な時は助け合います。
1匹の働きアリが、チューブに足を挟んでしまい、身動きが取れなくなった時に、他の多くの仲間たちが、一生懸命引っ張って救出したのです!
野外でもクモの巣に引っ掛かった仲間を、同じように救出したのです。

ツヤヒメサスライアリの引っ越し

















引っ越しの最中に、足場がない時は、働きアリ同士で脚を繋ぎ合わせて『働きアリの橋』を作って仲間たちを助けます。
仲間同士で、どのようにこのような複雑な意思の伝達をしているのか、とても不思議です。

幼虫やサナギを運ぶ時には、決まった持ち方があるようです。

幼虫を運ぶサナギの運び方








幼虫を運ぶ時は、仰向けにした状態で頭部に近い場所をくわえます。
サナギを運ぶ時は、仰向けにして腹部をくわえます。
ツヤヒメサスライアリの女王

















ツヤヒメサスライアリの女王

















ヒメサスライアリは面白いアリです!

antroom at 16:15コメント(3)ヒメサスライアリ亜科 | 採集・野外 

コメント一覧

1. Posted by sugiyama   2010年06月30日 19:41
5 ヒメサスライアリは、とても興味深いアリですね。
サスライアリやグンタイアリの仲間は、最も好き
なアリです。
とても人気も高いと思うのですが、ヒメサスライアリの仲間を入荷したりはしないのですか?
2. Posted by taku   2010年06月30日 20:03
お世話になります。
サスライアリ、かなり良いアリです!
僕も大好きなアリです。

しかし、アリ食のヒメサスライアリは、採集だけではなく、飼育がとても難しいため、飼育ができるようになったらぜひ販売したいと思っています。

サスライアリはコオロギなどを食べるので、飼育はしやすいです。

採集頑張ります!
3. Posted by sugiyama   2010年06月30日 21:18
5 ヒメサスライアリは素晴らしいアリなのに飼育が難しい
なんてとても残念です。

サスライアリは、ヒメサスライアリより大型なのでもっと
好きです。
ぜひ、いつの日かサスライアリやグンタイアリの仲間を入荷してください。
応援しています。

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