エンプロイメント・ファイナンスのすゝめ

私たちは「エンプロイメント・ファイナンス」をコアバリューにした、コンサルティング型の社会保険労務士事務所です。

2013年08月

「エンプロイメント・ファイナンス」とは、お客様の会社の安定的かつ永続的な発展をお手伝いするため、あおいヒューマンリソースコンサルティングが提供するノウハウの総称です。

具体的には、

①労働トラブルによる資金繰りのリスク予防
②限られた人件費を最適配分する仕組みの構築
③従業員と会社と社長の幸せを実現

を主たる目的にしています。

当事務所のホームページはこちらです。
http://www.aoi-hrc.com

「私は年俸制だから残業代は出ないんですよ。」には4パターンあります。

こんにちは。
社会保険労務士・CFPの榊です。


「私は年俸制だから残業代は出ないんですよ。」

という言葉を耳にすることがあると思いますが、

この言葉の裏には、
概ね、4つのケースがあることをご存知ですか?


<ケース1>

その人が、労働基準法上の管理監督者に該当し、
そもそも時間外手当の支払が必要でないという前提で、
会社が年俸制を採用している場合。


執行役員、工場長、部長・・・といったように、
経営者と一体の立場にある従業員がこれに該当します。

但し、「名ばかり管理職」訴訟で度々問題になるよう、
労働基準法上の「管理監督者」は肩書きではなく、
与えられている検眼や報酬など、
実質的に判断がなされることがポイントです。


ケース2>

その人の年俸の中に、
定額の時間外手当が組み込まれている場合。


例えば、年俸1000万円
(本俸800万円+定額時間外手当200万円)
といったようなケースです。

予め上記のように年俸の一部が時間外手当であることを
明示しておけば、200万円分までの時間外手当は
支払う必要がありません。

ただし、時間外手当が200万円を超えたのに、
追加で時間外手当を支払わないことは違法となります。


<ケース3>

年俸制にすれば時間外手当は支払わなくて良いと
経営者が勘違いをしている場合。


「うちは実力主義だから」という看板を掲げていて、
まだ労務管理の整備まで手が回っていないような
若い会社に見られがちですが、
年俸制にすれば時間外手当を支払わなくて良い、
というのは法律的には全く根も葉もないことですので、
社労士の目線からしますと、
最もリスクの高い会社ということができます。

経営者は、時間外手当を払わないかわりとして、
年俸を高めに設定していたとしても、
ケース2のように、
年俸の一部が時間外手当であることを予め明示していなければ、
後からそれを主張することはできず、
年俸全体をベースに計算した割増賃金額で、
全ての時間外手当を支払わなければなりません。

ベンチャー系の会社では長時間労働も珍しくありませんので、
未払いの時間外手当も膨大が額になる可能性が高く、
それが引き金で会社が倒産してしまうリスクさえありえます。


<ケース4>

契約の実態が「請負」である場合。


典型的な例は、プロ野球の選手です。
「誰々選手は年俸××万円」
といった言い方をしますよね。

しかしながら、
試合が9回同点で12回まで続いた場合、
選手たちが球団に対して、
「今日は12回まで試合をしたのだから、
 時間外手当を支払ってくださいよ。」
と言っているのは聞いたことがないですし、
そんなことを言ったらむしろ違和感があります。

勿論、球団が選手に時間外手当を支払わないのは合法で、
これは、選手と球団の契約が、
雇用契約ではなく、請負契約であるからです。

請負契約は雇用契約とは違い、
「働いた時間」に対する補償は必要なく、
「決められた仕事」をこなすことに対して、
報酬を支払うからなのです。

ただし、この請負契約は、
プロ野球選手のように、
自らの能力、専門性などに基づいて、
依頼者から一挙一動につき指示をうけず、
仕事の完成について、
原則的には本人に裁量が任されている、
という場合に成り立つものです。

実際には時間で管理され、
日々の業務に対して、
具体的な指示を受けているにもかかわらず、
これを「請負契約と称している場合は、
いわゆる「偽装請負」ということになります。


このように分析的に見ていきますと、
「年俸制だから残業代が出ない」というのは、

パターン1の場合は、原則合法。
 (名ばかり管理職、名ばかり店長でなければ)

パターン2の場合は、
年俸に含まれている固定的な時間外手当額を、
実際の時間外労働時間で計算した時間外手当が
オーバーしなければ合法。

パターン3の場合は、単なる違法。

パターン4の場合は、
「偽装請負」でなければ合法、

という結論になります。

賃金規程の「定期昇給」という言葉にご注意

こんにちは。
社会保険労務士・CFPの榊です。

お客様の会社の賃金規程をチェックさせていただく際、
とくに、何十年も前に作られたままになっている
就業規則に多いのですが、

--------------------------------------
第○条 (定期昇給)
 定期昇給は毎年△月に行うものとする。
--------------------------------------


と、書かれている賃金規定に出会うことがあります。

私は、このような規定があった場合、
経営者様の特別な思いがあれば別ですが、
そうでなければ、
必ず見直しをするようにアドバイスをしています。

なぜならば、
日本全体が右肩上がりで経済成長している時代ならば、
給料も毎年上がって当然だったのかもしれませんが、
長引くデフレ、国際競争の激化により、
おいそれと毎年賃金をアップさせられる時代ではなくなりました。

多くの会社では、従業員もそのことを理解し、
業績が厳しい年には、
今年は定期昇給なし、ということにしても、
理解は得られたかもしれません。

しかしながら、
万一、モンスター従業員みたいなのが紛れ込んでしまった場合、
この賃金規程を盾にして、
「昇給がないのはおかしい!」
と、強硬に主張してきて、
トラブルを引き起こす口実に利用されるリスクがあります。


更に言えば、会社の業績がさらに厳しくなった場合は、
会社存続のために賃下げが不可避となる場合もありますし、

会社全体の業績は悪くなくても、
勤続年数だけで昇給してきて、
ろくすっぽ仕事をしないのに
高い給料をもらっている中高年社員がいた場合、
若手社員の不満やモラルハザードにつながりかねません。

ですから、賃金規程を改定し、
定期昇給は毎年当然に行われるものではなく、
「据置き」や「減給」もあるのだということを
従業員に周知させるべきなのです。

従業員に良い意味での緊張感を与えることもできますし、
しっかり成果を出した者に厚く報いることで、
モチベーションを引き出すことにもつながります。

(だだし、限度を超えた成果主義は逆効果ですので注意ください)


賃金規程の見直し例としては、

---------------------------------------------
第○条 (賃金改定)
 賃金の改定は、毎年△月に行うものとする。
改訂とは昇給、据置き、降給を含むものとする。
---------------------------------------------


といったような形になります。

ただし、むしろ注意しなければならないのは、
実際の運用面においてです。

客観的な評価基準に基づいての降給なら問題ないですが、
評価者の好き嫌いなど、恣意的な理由で、
特定の者だけ降給させたり、昇給させなかたりした場合は、
トラブルに発展する恐れがありますので、
制度を導入することだけが重要なのではなく、
公正な制度運用をすることもまた、同じくらい重要なのです。

週の初めは土曜日です!

こんにちは。
社会保険労務士・CFPの榊です。

労働基準法では、
1日8時間、1週間40時間を超えたら、
法定時間外労働として、
割増賃金を25%以上支払わなければなりませんよね。

ところで、この1週間のスタートは、
何曜日なのか?
って考えたことはありますか?


この点、実は、法律には定めがなく、
通達によって実務上、
就業規則等に何ら定めがない場合は、
日曜日がスタートで、
日曜日から土曜日を1週間とする、
という扱いになっています。


しかし、何も考えずに日曜スタートにしてしまった場合、
実は、会社にとって、
ちょっと不都合なことが発生してしまうのです。


それは、どんなことかと言いますと・・・

業務の都合上、従業員に
土曜出勤を命じることはしばしばあると思います。

(週休2日制の会社という前提で以下説明します)

このとき、月~金まで8時間働いたなら、
8時間×5日=40時間になりますので、
既に1週間の法定労働時間を上限まで使っています。

ですから、週の最終日である土曜日の労働は、
必然的に週40時間を超えた法定時間外労働となり、
少なくとも25%の割増賃金が不可避になってしまうのです。

週40時間のルールは週ごとに完結で見ますから、
次の週に代休や振替休日を与えた場合でも
前の週に48時間働かせてしまった事実は変わりません。



では、1週間のスタートを土曜日にした場合、
何が起こるのか・・・

この点、土曜日が1週間のスタートの場合は、
土曜日に出勤させたとしても、
続く月~金のうち1日に代休や振替休日を与えれば、
土曜日~金曜日の1週間でカウントして、
1週間40時間労働は守られることになりますから、
割増賃金は一切発生しません。

出勤になるかもしれない不確実性のある土曜日を、
週の頭に持ってくることによって、
緊急で土曜日が出勤になった場合でも、
カレンダー上の次の週に代休を与えれば、
割増賃金を発生させずに、
土曜出勤させることが可能となるのです。

ですから、
私が就業規則のコンサルをさせていただく場合は、
特殊な勤務体系を取っている会社でなければ、

「1週間の始めは土曜日とする。」

という規定を、
就業規則に入れましょうね、とアドバイスをします。

このように、
労働基準法にちょっとした工夫をこらすことで、
合法的に、人件費の負担を減らすことが出来るのです。

私のオフィスでは、
こういうノウハウの蓄積を大切にしています。

幹部社員の採用は、地位・職務を特定しましょう

こんにちは。
社会保険労務士・CFPの榊です。

幹部社員を採用する場合には、
新卒採用の場合とは異なり、
具体的にやってもらいたい仕事やポジションがある前提で、
それにマッチしそうな人を採用していると思います。

ところで、
その幹部社員候補者と雇用契約を結ぶ際に、
その人の地位や職務について、
雇用契約書に明記はしていますか?

勿論、口頭では、

「あなたにはかくかくしかじかな仕事をしてほしい」

ということは説明していると思いますが、

それだけではリスク対策として不十分であると、
私は考えています。

といいますのは、
その幹部社員が全くの期待外れであり、
解雇をしたいと思ったときの対応を想像してみてください。

そもそも、
我が国の裁判所の判例としては、
解雇に対して非常に厳しいスタンスをとっており、
例え本人の能力不足があったとしても、
会社が教育や配置転換など、解雇回避義務を尽くし、
充分なチャンスを与えたことを証明できなければ、
不当解雇とされてしまうリスクが非常に高いのです。
(とくに、新卒採用者の場合)

しかしながら、
地位を特定して採用され、
優遇された待遇を与えられている幹部社員の場合は、
その見返りとして、
採用時に約束したパフォーマンスを
発揮できていないことをもって解雇ができることを、
裁判所も比較的緩やかに認めています。


ですから、例えば、営業部長として採用するのであれば、

「営業部長」という地位を雇用契約書に明記するのは勿論、

それに加えて、

・営業部全体をマネージメントして、
 部としての成果に責任を負うこと

・外部経済環境の大幅な変化等、特別な事情がない限り、
 最低でも2013年3月期の売上高を維持すること

・コンプライアンスを重視し、
 不払い残業、セクハラ、パワハラなどを発生させないこと


など、営業部長として求める成果を、
具体的に、雇用契約に定めるのです。

(勿論、社会的相当性がある内容にすべきで、
 急成長企業でもないかぎり、
 売上高を3倍にすること、というような
 非常識な内容を定めてはいけません。
 成果要件自体が公序良俗違反となってしまいます)


このようにしておけば、彼の実績が、
雇用契約で定めた要件に達していないことを証明すれば、
万一、不当解雇で争いになった場合でも、
会社が勝訴できる可能性が相当程度高くなります。


幹部社員というのは、
会社の組織運営の肝でありますし、
人件費の負担も大きなものになりますから
採用に失敗しないことがベストですが、
万一失敗した場合であっても、
出口戦略を予め考えておくことが、
経営上のリスク管理としては重要なのです。
 

中途採用者の基本給を2段階で設定してリスクを低減する方法

こんにちは。
社会保険労務士・CFPの榊です。


中途採用を行う際、
その方の賃金をどのように決めるかは悩みどころです。

多くの会社様では、
前職での賃金水準を考慮の上、
採用候補者と話し合いをした上で決定していますが、
ここで気をつけなければならないことがあります。

中途採用者の場合は、
前職での経験やスキルを期待されて転職してくる訳ですが、
必ずしも、望んだような成果を出してくれるとは限りません。

そのようなリスクを考え、
可能ならば、最初は賃金水準を抑え、
実際に実力を発揮してくれたらば賃金をアップさせたい、
というのが、経営者側のホンネではないでしょうか。

しかし、前職に比べて大きく賃金がダウンしたり、
同業他社に比べ見劣りする水準の賃金しか提示できなければ、
本当に有能な人を採用できないリスクが、
逆に生じてしまいます。


具体的な例を設定しますと、
例えば、ある中途採用候補者が、
本人の申告通りのスキルを発揮してくれるならば、
基本給月額40万円を払っても構わないが、
その能力が発揮されないのならば、
30万円以上は払えない。

という状況を想定します。

このような時、
最初から基本給40万円を提示しますと、
我が国では労働条件の不利益変更に対しては、
裁判所は非常に厳しい判断をしますから、
たとえ期待はずれであったとしても、
30万円にダウンさせることは至難の業です。

かといって、基本給30万円では、
この採用候補者は逃げてしまう可能性が高いわけです。

そこで、このような矛盾を解決するため、
私が提案したいのは、
「2段階で賃金を決定する」という方法です。

本件の場合は、

「基本給30万円+特別手当10万円」

で、合計40万円の支払は確約した上で、

特別手当10万円に関しては、
1年とか2年とか、一定期間で成果を評価して、
会社が求める水準をクリアしたならば基本給に組み込み、
クリアできなければ消滅する、ということを、
雇用契約に盛り込むのです。

勿論、「成果の評価」でトラブルが生じないよう、
その評価基準は客観的なものを用いるべきであり、
評価基準も雇用契約の内容となります。

ここで、何が何でも基本給40万円でないと嫌だ、
という人は、(他に選択肢が無い場合を除けば)
採用を見送るべきであると私は思います。

基本給40万円というならば、
諸手当を含めると支給総額は50万~60万円になるでしょうから、
部長級ないし執行役員級のポジションであると思います。

そのようなポジションであれば、
経営者と同じ目線で物を見ることができる人物でなければなりません。

彼が経営者的な目線を持っていれば、
人の採用にはリスクを伴うものであることを重々理解し、

「基本給30万円+特別手当10万円」

の意味を理解し、受け入れてくれるはずです。

また、彼が自分の実力に自信を持っているならば、
決められた期限までに成果をきちんと出せば
40万円の基本給はキープされるわけですから、
理不尽さは感じないと思います。

解雇が難しい我が国においては、
中途採用者が期待はずれだった場合でも、
そう簡単には解雇ができませんので、
このような賃金設定の考え方も
労使のバランスをとる手法として、
必要なのではないでしょうか。
ギャラリー
  • 就業規則は5万円で作れる!社労士はヘンリー・フォードに学ぶべきだ。
  • 社長必見!「うちの会社は10人未満だから」は禁句です。社員1人の会社でも就業規則を絶対に作らなければならない理由
  • 社労士流 パワハラ上司の撃退術
  • 追加の資金負担なく、サービス残業訴訟を予防する方法
  • 会社は使用者責任のリスクにどのように備えるべきか
  • 中小企業の経営者が知っておきたい有給休暇対応 4つのテクニック
  • デートの日に残業命令。残業を断って大丈夫!?