こんにちは。
社会保険労務士・CFPの榊です。

長引く需要の低迷や、
国際競争力の激化などを背景に、
多くの企業で「希望退職」を募っていることは、
皆様もご存知の事実だと思います。

ところで、
この希望退職を経営者サイドの目線で見た場合、
多くの経営者様が悩み、矛盾を感じているのは、

「希望退職を募集すると、
 やめて欲しくない人から応募してくる」

ということです。

優秀な人材であれば、
常日頃からヘッドハンターから接触を受けていたり、
より良い条件の会社に転職するチャンスを見つけたりできるので、
雲行きの怪くなった会社に留まる理由はありません。

まして、希望退職に応募すれば、
割増退職金までもらえるのですから、
まさに「渡りに舟」ということで、
諸手を挙げて、希望退職に応募してくることでしょう。

逆に、その会社でこれまでヌクヌクと生きてきて、
年功だけで高い給料をもらっているような従業員は、
経営者からすれば、まさに希望退職に応じて欲しい人なのですが、
彼らは、自分が現在と同じ条件で転職しようとしても、
絶対に転職先が見つからないことは分かっているので、
石にかじりついてでも希望退職に応じようとはしません。

そうなると、何が起こるのか・・・

希望退職を行ったことにより確かに頭数は減るかもしれませんが、
優秀な人材が去り、辞めてほしい人は残るという、
最悪の状態が発生してしまうのです。

これでは会社は困りますよね。

人件費を絞って会社が生き残るために希望退職を行っているのに、
身軽になって、さあ再建を始めようと思ったら、
再建プランを推進できる人材がいない・・・
ということでは、希望退職の意味は全くありませんし、
むしろ、逆効果です。


辞めて欲しい人に辞めてもらうよう仕向ける方法は、
別の機会にご説明させていただきますが、

今回私が皆様にお伝えしたいのは、
辞めて欲しくない人材が希望退職に応募して来た場合、
その希望退職が例え全社員を対象としたものであったとしても、
実は、会社は、その希望退職を拒否することができるのだ!
ということです。


法的なロジックを簡単に説明しますと、
一部の例外を除いてですが、
民事法の世界で法律効果を発生させるには、
「申込」と「承諾」という、
2つの、相対する意思表示の合致が必要だとされています。

例えば、魚屋さんが、
「奥さん、このサンマ脂が乗ってて美味しいよ、買わない?」
と言ったことに対して、
奥様が、
「まあ、本当においしそうね。私、このサンマを買うわ。」
と答えれば、
「サンマを売ります」、「サンマを買います」、
という意思表示が合致してサンマの売買契約が成立することになります。


次に話は変わりますが、
7月に篠田麻里子さんがAKBを卒業しましたよね。

麻里子様は容姿端麗でスタイルもGoodです。
それでいて、ギャグのセンスなんかもあって、
親しみやすさも合わせ持ってるところが魅力的だと思います。

私は一度、電車の中で本人を見たことありますが、
オーラがありましたね~。

では、そんな篠田さんが、
「AKBを卒業したので、これからは恋愛解禁します!
 フィアンセ募集中で~す!」
と言った場合、
これは、フィアンセ募集の申込で

わたくし榊が、不肖ながら、
「私が麻里子様のフィアンセになります!」
と答えたら、
相対する意思表示の合致で、婚約は成立してしまうのでしょうか??

常識的に考えて、そんなことはありませんよね。
(そんなことがありえたら嬉しいですが…(笑))

芸能人のリップサービスを真に受けるな、ドアホ!
というのもひとつの見方ですが、

もう少し法律的な見方をしますと、
篠田さんの「フィアンセ募集中で~す!」は、
具体的な特定の人物に対してなされた意思表示ではないので、
「申込」ではなく、「申込の誘引」に過ぎない、
とされています。

『もし、素敵な男性が私のフィアンセに立候補してくれたら、
OKするかもしれないわね。。。』
という程度のニュアンスであり、
すなわち「フィアンセ募集中で~す!」は、
法的には何の効果も持っていないのです。

これを聞いた男性からの
「私を麻里子様にフィアンセにしてください」が、
法律上の「申込」に当たり、
それを麻里子様が「承諾」してはじめて、
相対する意思表示が合致となるわけです。

すなわち、麻里子様から「承諾」をして頂かねば、
フィアンセにはなれないわけです。

まさに「上からマリコ」ですね(笑)


さて、随分と話が逸れてしまいましたが(汗)、
実は、希望退職の募集も、
麻里子様と同じロジックが成り立つのです。

会社が希望退職の募集をするのは、
あくまでも、特定の個人に募集をかけているのではなく、
広く従業員に対して、退職を申し出てくれるよう、
それを「誘引」しているに過ぎません。

従業員から「私はこれに応募して退職したいです」
という申出があって、はじめて法律上の「申込」となり、
これに「承諾」を与えるかどうかは会社が決定権を持っている、
ということになるのです。

ですから、辞めて欲しい人材が「申込」をしてきたら、
会社は喜んで「承諾」を与えればよいし、

辞めて欲しくない人材が「申込」をしてきたら、
それを拒否すればよいのです。

会社が希望退職の承諾を与えなかった人物が、
それでもあえて退職届を持ってきた場合は、
法的には単なる自己都合退職となります。

したがいまして、
希望退職の条件である割増退職金なども、
一切支払う必要はない、ということになります。

そうなりますと、
退職を思いとどまる従業員も出てくるのではないでしょうか。

このようなロジックを会社が知らないまま、
漫然と希望退職を進めてしまうと、
辞めて欲しくない人材を、
余分なお金まで払って流出させてしまう、
という、まさに「踏んだり蹴ったり」の状態になってしまうわけです。

大事なことなので繰り返しますが、

希望退職の募集は、「申込」ではなく、「申込の勧誘」にすぎない。

このことを、是非、覚えておいてください。