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有給休暇は労働者の権利であるが、使用者にとっては正直なところ、頭を悩ませる問題であることは間違いないであろう。マンパワーに余裕のある大企業であればともかくとして、ギリギリの人数で回している中小企業にとっては、1人休みを取ると業務が回らなくなってしまう恐れがある。

とはいえ、中小企業だから有給休暇をとらせない、ということは法律上許されないので、中小企業が有給休暇をマネージメントするために有益な4つのテクニックを本稿ではご紹介したい。


有給休暇の計画的付与

第1のテクニックは有給休暇の計画的付与だ。有給休暇は原則として労働者が希望する日に取得させなければならないが、その例外として、労使協定を締結した場合には、5日を超える部分については会社が指定する日に取得させることができる。例えば、これまで祝祭日をなんとなく休日にしていた会社であれば、この祝祭日を有給休暇の計画的付与日とすることで労働者と合意するのだ。

2014年度であれば祝祭日は15日あるので、有給休暇を20日持っている労働者であれば15日は祝祭日に計画的付与することで消化し、残りの5日は労働者本人の病気や私用のために使ってもらうようにするわけだ。入社間もなくて有給休暇を持っていない労働者や、手持ちの有給日数が15日を下回る労働者に対しては、会社の判断で特別休暇を付与するという扱いにすればよい。

有給休暇の計画的付与の労使協定を結ぶ際、労働者に理解を求めるための説明の手法としては、「残りの5日間の部分は自由に使って良いんだよ!」という点を強調してPRすることである。これまで有給を取りにくい雰囲気だった職場では、むしろ5日間有給を取れるということをはっきりさせてあげることで支持を得られるであろう。

有給休暇運用ルールの整備

第2のテクニックは、有給休暇の運用ルールを整備することだ。経営者にしてみれば、業務の繁忙期に有給休暇の申請をされると、「この忙しいときに勘弁してくれ・・・」と思ってしまうのが本音であろう。一方で労働者は「法的に認められた当然の権利のはず」という認識を持っているので、お互いに話が感情的になってしまいがちだ。

そこで、そのような衝突を緩和するためにも、有給休暇の運用ルールをあらかじめ社内で周知しておくということが望ましい。具体的に言うならば、一例としては次のような方法が考えられる。

まず、事業年度の最初に、使用者が年間カレンダーに基づき、有給休暇を取るのをなるべく控えてほしい繁忙期を明示しておくことだ。「この時期に有給休暇を取得してはならない」と禁止をすることはできないが、「なるべくこの時期に有給休暇を入れないでほしい」と、配慮を求めることは可能なので、通常の労働者であれば使用者の意図を汲み取って、繁忙期に有給休暇を入れることは可能な限り避けてくれるであろう。

その上で、毎月の月初に、その月の有給休暇の取得予定日を各労働者から提出させることだ。このような運用にしておけば、労働者にとっては申請するタイミングが図りやすいし、会社側も土壇場になって慌てることがない。また、万一同じ日に有給休暇の取得予定者が重なった場合は、時季変更権の要件を満たさない限り変更を「命令」することはできないが、予定の再調整を「お願い」することは可能なので、先手先手で業務と有給休暇の調整を図ることができるのだ。

業務の標準化

第3のテクニックは業務の標準化である。有給休暇が取りにくい理由は、会社側からしてみれば「あの人がいなければ業務が回らなくなってしまう」という懸念であり、労働者のほうも責任感が強い人ほど「私が休んだら会社に迷惑をかけてしまう」と考えるので、なかなか有給休暇の取得に踏み切れないのだ。

そこでお勧めしたいのは、少なくとも日常的な業務に関しては、属人的な要素を排除し、誰でもできるように標準化、マニュアル化していくことだ。例えば、「倉庫管理の達人」みたいな人がいたとして、その人に頼めばたちまち倉庫の中から必要なものが出てくるが、その人がいなくなったら倉庫の中はブラックボックス、という状態は非常によくない。その人がいなければ業務が回らないことが確定的なので、「倉庫管理の達人」は滅多なことで有給休暇を取得することはできないのだ。

そこで対策としては、この倉庫管理の達人に、倉庫の中の地図を書いてもらい、それを同僚と共有するようにしてもらうのだ。そうすれば、倉庫管理の達人が休んでも、達人より時間はかかるかもしれないが、最低限、倉庫の中から必要なものを取り出すことはできるであろう。

倉庫管理の達人もいつかは定年退職するだろうし、転職をしたり、病気や怪我で働けなくなってしまうかもしれない。そういう観点からも、属人的な業務を減らしていくことは会社のリスク管理にもなるのだ。

退職金規程の見直し

第4のテクニックは退職金規程の見直しである。突然そんなことを言うと、「なぜ有給休暇の話の中で退職金の話が出てくるのか?」と疑問を持つかもしれないが、退職時に有給休暇をまとめて消化されることは、少なからずの経営者にとって頭の痛い悩みなのである。

第1のテクニックを用いて有給休暇の日数を減らしているような場合はまだ良いが、有給休暇をまったく使わずにキープしていた人の場合は、最大で40日間もの有給休暇を持っていることになる。このような人が、退職届を出すと同時に、有給消化に入ってしまうと、会社は約2ヶ月の間、全く労働の提供がないにも関わらず給料や社会保険料を払わなければならないし、引継ぎもままならないので、まさに「踏んだり蹴ったり」の状態に陥ってしまうのである。

そこで、退職金規程の中に、「会社が求める引継ぎを行わずに退職した場合には、退職金が不支給ないし減額となる場合がある」という定めを織り込むのだ。

退職金は通常の月度賃金とは異なり、支払うか否か、また、いくら支払うかは、公序良俗に反しない限り会社の裁量に委ねられている。そこで、「退職金の支給」と「引継ぎの実施」を、交換条件にするのだ。「立つ鳥、後を濁さず」ではないが、同じ自己都合退職にしても、引継ぎをきちんと行った者と、身勝手に退職していった者で退職金に差を設けることは、充分に合理性があるといえよう。

結び
 
有給休暇を取らせる取らせないでつばぜり合いをすることは、会社にとっても労働者にとってもお互いに不幸である。そこからは何も生まれないし、むしろ職場の雰囲気が悪くなってしまうだけである。

大切なのは、まずはその会社の規模や体力に見合った有給休暇のルールを構築して、そのルールの中で労使が配慮しあい、お互いが気持ちの良い形での運用を図ることなのだ。そうすれば、従業員のモチベーションも上がって、日々の業務にも好影響が出てくるのではないだろうか。

私は、いち社会保険労務士として、ご縁があった会社様に対して、そのようなルール作りのお手伝いをさせていただくことができれば幸いであると考えてやまない。

特定社会保険労務士・CFP
榊 裕葵