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会社の従業員が業務において事故やトラブルを発生させたとき、会社はその従業員と連帯して責任を負わなければならない場合が少なくない。これを「使用者責任」と言うが、その根拠は、会社は従業員を使って利益をあげているのだから損失も負担すべきであるという報償責任の考え方や、従業員の発生させた損失は、その危険を支配している者が負うべきであるという危険責任の考え方などに基づいている。
会社が使用者責任を負うケース

会社が使用者責任をケースは大きく分けて2つのパターンが考えられる。

1つ目のパターンは、従業員同士のトラブルである。具体的には、従業員間の暴行や傷害、セクハラ、パワハラなどが考えられる。

2つ目 のパターンは、従業員から第三者への加害である。具体的には、交通事故による加害、業務を遂行する過程での顧客や取引先に対する暴行や傷害、さらには故意過失に基づく金銭上の損害なども含まれるであろう。

会社としての予防策

1つ目のパターンである従業員同士のトラブルに関しては、就業規則の整備と周知徹底が重要である。暴行や傷害は論外として、セクハラ、パワハラなどは行為者が無自覚のうちに行ってしまうこともあるので、就業規則等で客観的なガイドラインを示すことが必要だ。また、セクハラやパワハラに関する社内研修を実施することも効果的であろう。

2つ目の パターンである従業員から第三者への加害に対しては、啓蒙や社内の仕組みづくりによって予防を図っていきたい。例えば交通事故であれば、警察から講師を招いて安全運転の研修会を行ったり、運転業務に就く前にはアルコールチェックや体調確認などを必ず行うようにするということだ。運送業の会社などでは法的にも義務付けられている。

起こってしまった場合の対策
 
 会社が予防策を講じたとしても、確率論的には使用者責任を負わなければならない事故やトラブルは発生してしまう場合がある。そのような場合に備えて保険商品でリスクヘッジをしておくことも考慮に価する。

被害者は、加害従業員本人よりも、資力を有する会社に損害賠償を求めてくるケースが通常であるし、会社は立替えて支払った損害賠償を加害者である従業員に求償することは可能だが、加害従業員が無資力であったり、信義則上求償が制限される場合があったりして、会社が最終負担者にならざるを得ない場合が大半だからである。

まず、従業員同士のトラブルに関しては、雇用慣行賠償責任保険という保険商品があることを知っておきたい。これは、セクハラ、パワハラ等による損害賠償はもちろんのこと、不当解雇や差別などに伴う損害賠償にも対応している保険である。

次に、第三者に対する加害に関してであるが、自動車を使う会社であれば社用車を自動車保険に加入させることは当然である。さらに、個人情報を扱う会社であれば、従業員が情報を漏洩してしまった場合の慰謝料や謝罪広告費等を補償する個人情報漏えい保険、建設会社であれば、従業員が工事の遂行課程で通行人や近隣住民に被害を与えてしまった場合の第三者賠償責任保険など、現在は様々な保険商品が用意されているので、業種に応じた賠償保険に入っておくこともリスクヘッジとして有効であろう。

まとめ

会社が事業活動を行っている以上、使用者責任を負う可能性があるというリスクは不可避である。しかし、そのリスクをできるだけ低減させることが経営上は重要であるから、まずは就業規則の整備や周知徹底、従業員研修などを通じて予防を図るべきである。その上で、それでも使用者責任が発生してしまうリスクに備え、必要な保険に加入しておくという、二段構えの対応を取ることが望ましいのではないだろうか。

あおいヒューマンリソースコンサルティング
代表 特定社会保険労務士・CFP
榊 裕葵