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近年、サービス残業訴訟に悩まされる企業が増えている。多くの経営者の方は、社員から搾取しようとか悪い考えを持っているのではなく、払いたくても経営上の理由で払うことができなかったりとか、残業代込で賃金を支払っていたつもりだったが法的には未払いになっていたりとか、やむにやまれぬ事情や労働基準法の解釈の間違いでサービス残業が発生しているようだ。 そこで、社会保険労務士として、限られた人件費を戦略的に配分し、サービス残業訴訟のリスクを低減させるためのアイデアをいくつか示したい。
ボーナスは後回し 

サービス残業を回避するための施策の1つは、ボーナスの削減である。ボーナスは我が国においては支払われて当然という認識になっているが、法的には使用者が任意恩恵的に支払うものである。就業規則等で、「絶対に支払う」と明記していない限りは、月度賃金とは異なり支払わなければならない義務はないのだ。また、支払う場合も、その金額は特段の労使の合意がない限り、使用者の裁量に委ねられている。

この点、少なからず見かけるのは、月度賃金においてサービス残業が発生しているにも関わらず、ボーナスは大盤振る舞いをしている会社である。このような会社の場合は、ボーナスとして支払うのではなく、その原資をまずは残業代の支払に充てるべきだ。ボーナスを支払って人件費の予算を使い切ったあと、サービス残業訴訟を起こされたらたまったものではない。

定額残業代の導入

経営体力などの理由で、どうしても基本給しか支払うことができない会社は、各社員との合意が前提となるが、従来の基本給を、新たに、基本給部分と定額残業代部分に分けることを提案したい。 例えば、従来の基本給が30万円であれば、これを基本給20万円と定額時間外手当10万円に見直すイメージである。

支給総額は変化しないが、見直し後は、残業時間が50時間程度までは、追加で時間外手当を支払わなくてもサービス残業は発生しないことになる。

年俸制の会社にも定額残業代の考え方を導入
ベンチャー企業など成果主義を重視する会社では年俸制を採用し、「うちは年俸制だから残業代は支払っていない」と主張することがあるが、これは完全に法律の誤解である。年俸制を採用すれば残業代を支払わなくても良いとは、法律のどこを見ても書いていない。サービス残業訴訟で訴えられたら、過去2年分の残業代を、耳を揃えて全額精算することになってしまう。
そこで、年俸制を採用している会社においては、年俸の一部を定額残業代ということにしておくのだ。例えば、年俸が1,000万円であれば、基本給は700万円で、300万円は残業代であるという形である。

名ばかり管理職のリスクに備える

労働基準法における管理監督者に対しては、時間外労働に関する規定が適用されない。この点、労働基準法でいう管理監督者は、世の中で用いられている「管理職」という言葉よりも限定的に用いられることに注意が必要である。

一般的な企業では、プレイングマネージャーである課長や、部下を持たない「課長補佐」や「担当課長」なども管理職として扱われ、残業代は支払われていないことが多いであろう。しかしながら、労働基準法上の管理監督者と認められるためには、「経営会議への参画」「人事権の保有」「出退勤の自由」など、厳しい要件をクリアすることが必要で、この定義に当てはまるのは、執行役員や部長クラスまでだ。 とすると、課長以下の管理職が、「自分は名ばかり管理職だ」ということで、サービス残業訴訟を起こすリスクが考えられる。

このようなリスクに備えるには、課長等に対して支払っている役職手当に定額残業代の役割を持たせることだ。賃金規程上は、例えば「役職手当は、その役責を果たすために必要と考えられる時間外手当をあらかじめ定額で支払うものである」というような定め方が考えられる。

まとめ

ここまで見てきたように、あらかじめ賃金の配分の仕方を工夫したり、賃金規程を見直したりしておくことで、追加の資金負担をしなくとも、多くのサービス残業訴訟は回避できるのである。

しかし、このような対策は、サービス残業訴訟が起こってからでは遅いのだ。弁護士や社会保険労務士は、労働基準法に基づき、サービス残業が発生しているかどうかの診断や、改善策についてアドバイスをすることができるので、必要に応じて是非活用していただきたいものである。 


あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士 榊 裕葵