
職場においてパワハラの問題が深刻化している。都道府県労働局等に設置した総合労働相談コーナーに寄せられる相談においても「いじめ、嫌がらせ」は、ここ数年ずっと相談内容の中でトップになっている。
そして、このような「いじめ、嫌がらせ」の中で最も深刻なのは上司等からのパワハラだ。パワハラに苦しんでいる労働者は、どのように立ち向かえばよいのであろうか。
そして、このような「いじめ、嫌がらせ」の中で最も深刻なのは上司等からのパワハラだ。パワハラに苦しんでいる労働者は、どのように立ち向かえばよいのであろうか。
まず戦うべき相手は会社ではなく上司 |
パワハラを受けたときに労働基準監督署へ申告することも可能だが、会社に残ることを前提にするならば、最初からそのカードは切らないほうが良い。なぜならば、行政官庁への申告は、「上司」ではなく「会社」を訴える、という形になるからだ。
会社は不祥事が表沙汰になるのを嫌うから、労働基準監督署へ相談したとなると、防衛本能が働いて、パワハラをもみ消そうとしたり、上司側の肩を持ったりしようとする可能性がある。
また、社内の相談窓口に訴えても、社内の力学によってなかなか問題が解決しないことも少なくないようだ。上司から逆恨みを買って、ますますパワハラが酷くなったという話を聞いてこともある。
そこで、今回は上司と効果的に戦い、「パワハラから開放される」という目的を達成するための戦法について一考をしてみたい。
上司への内容証明郵便 |
まずは、パワハラをしている上司本人に直接警告メッセージを送ることからスタートしよう。
そもそも上司がパワハラをすることができるのは、職場の上下関係という特殊な前提があるからだ。法律上対等な1人の人間同士の関係で上司と向き合えば、必要以上に恐れることはない。
具体的な方法としては、パワハラ当事者である上司に対し、内容証明郵便を送るのだ。文面としては、パワハラ行為の即時中止を求めることと、中止がされない場合は損害賠償を求める用意があるということだ。有形力を伴うようなパワハラの場合には、刑法の暴行罪などにも該当するので、刑事告訴することを含めても良い。
この内容証明を受け取った上司は、おそらくあなたを呼び出すであろう。ここでは、上司に対し「内容証明に書いてある通りです。パワハラをやめてください。」と怯まずに訴えよう。
なお、内容証明を送っておけば、後日訴訟になった場合の証拠としても使える。
会社を味方につける |
そうすると、恐らく上司は「部下からこのようなものを送りつけられた」と会社に相談をする。そして、おそらくあなたには会社から呼び出しがあるはずだ。
この段階でのポイントは、会社を味方につけることである。
まずは、会社に迷惑をかけたくはなかったので社内の窓口に相談することや、まして労働基準監督署に申告をすることはしなかった。上司に内容証明郵便を送ったのは思いつめてのことだった、と会社への配慮を伝えると同時に、会社からは同情・理解を引き出そう。
そして、上司からどのような行為を受けたのかを客観的かつ冷静に説明しよう。
そのためには、やったやらないの水掛け論にならないよう、パワハラが行われたという証拠として、録音やメモなどを残しておく必要がある。現在はスマートフォンの録音機能などを使えば怪しまれずに録音できるので、上司と戦うことを決めたならば、日頃からこまめに証拠を集めておこう。
ここで、さらに良いのは、弁護士や社会保険労務士に書いてもらった意見書を添えることである。意見書によって、上司が行った行為が法的に確かにパワハラに該当するということを、専門家の見解として示すのだ。
会社も馬鹿ではないから、専門家が客観的な立場で書いた意見書は無視できないであろう。コンプライアンスが重視される上場企業ならばなおさらだ。
逆に、意見書に対して「こんな紙切れ関係あるか!」という態度を取るような会社であれば、会社ごとおかしいので、残念だが、そのような会社はむしろこちらから見限ったほうが良い。会社を辞める前提ならば、慰謝料を求め金銭的解決を図ることになるであろう。そして、労働基準監督署に申告をするのも何らためらうことはない。
クロージング |
証拠の提示や専門家の意見書によって会社がパワハラの存在を認めたららば、今後に向けてのクロージングである。
暴力を伴うようなパワハラであれば、上司には解雇や降格などの懲戒処分が下されるはずだ。
行き過ぎた教育のように、パワハラが無自覚のうちに行われたものであったらば、二度とパワハラをしないよう上司に誓約書を書かせたり、大きな会社であれば、上司の異動を求めることも可能であろう。あなたが会社に残る前提であるならば、金銭賠償は求めないほうが良い。
ここで忘れてはならないのは、適切な対応をとってくれたことについて会社に謝意を表すことだ。パワハラが止んで働きやすくなったとしても、あなたは上司といざこざを起こした人物として、人事考課上のブラックリストに載りかねない。それを避けるためには、これまで以上に真摯に仕事をすることを心がけよう。つまり、「悪かったのは100%上司で、あなたには何ら問題はなかった。」という心象を会社に持ってもらうということである。
結び |
たった1人のパワハラ上司のためにせっかく入った会社を辞めるのはもったいない。我慢してうつ病になってしまうのも不本意である。
しかし、自分が会社での立場を失うことなく、上司のパワハラを止めさせるには、かなり難しい舵取りが要求される。こんなときこそ、是非とも弁護士や社会保険労務士といった専門家を活用して頂きたいものだ。
職を失って困るのは当事者。辞めるつもりがないならこんなことはしない方がいい。辞めるつもりになったときにパワハラで訴えて裁判でもした方がスッキリすると思う。