2007年02月16日

哂われる理由――芥川龍之介「鼻」

 『鼻』は、芥川龍之介の事実上のデビュー作である。24歳のとき、第四次「新思潮」に発表し、夏目漱石に激賞された。 この短い小説で、龍之介は、作家としてやっていける自信を深めたのだという。

 むかし、禅智内供という偉いお坊さんが、異様に長い鼻に悩まされていた。見た目が悪いばかりでなく、食事のとき椀の汁の中に鼻の先が落ちてしまうなど、実害もあった。鼻のことをすごく気にしているのだが、気にしているとは思われたくない。禅智内供は、傷つけられる自尊心のために苦しんでいた。
 内供は、高名な医者のすすめる治療法で、鼻を短くすることに成功する。長い鼻を、ゆでたり踏んだりするだけなんだけど。ところが、彼の短くなった鼻を見て、みんな哂うのだ。寺を訪れる人も、下法師や中童子も。
 なぜだ? みんな、なぜ笑う? 再び傷つけられる禅智内供の自尊心。
 鼻は、結局元に戻ってしまうのだが、禅智内供は、むしろホッとする。これで、哂うものはなくなるだろう、と。

 そんなことはない。きっとまた、内供は哂われる。
 長い鼻を気にしていたこと、鼻を短くするために涙ぐましい努力をしたが無駄だったこと。 人々は、無遠慮に語り草にするにちがいない。
 人の心は、優しいけれど残酷だもの。
作家たちが読んだ芥川龍之介

 「鼻」の原話が、「今昔物語」にあるそうなので、探してみた。
 古文で読むのもしんどいので、福永武彦の現代語訳(ちくま文庫)で。

 ありました。「鼻を持ち上げて朝粥を食う話」。
 読んでみたら、禅智内供のすごい鼻を、あっけらかんと笑う話だった。
 こっちのほうが、話としては好感が持てるけど・・・
今昔物語


aotuka202 at 17:58│Comments(0)TrackBack(0)  ・芥川龍之介 

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