2019年09月21日

人生の扉を開ける―――濱野京子「木工少女」

2011年の3月に講談社から刊行された本です。
図書館の児童書コーナーの本棚に、なぜかさかさまにつっこまれていました。
なおしてあげるつもりで手に取り、そのまま貸し出しカウンターに持って行ったのは、表紙絵の、女の子の後ろ姿がかわいかったから。
コンビニの袋をぶらさげて、バンガローのような家のドアを開けて、中に入って行くところ。おかっぱ頭が、ちびまる子ちゃんに似てるかな? いまはボブヘアっていうらしいけど。

主人公の名は、美楽(ミラク)。小学六年女子。

物語は、美楽の一人称で語られます。
ズケズケとしたものいい、男の子のような言葉づかいと語り口。
勉強はふつう、音楽も体育も得意じゃない、背も高くないし顔もかわいくない、目立つことが苦手。それが、美楽が語る自己像です。
まだ小学生のくせに、世の中から距離を置いて、冷めた目で人や自分を観察しています。引っ込み思案の子を、あなどっちゃあいけません。

美楽は、一年間限定で、山深い峯川村の、峯川小学校に転校してきました。
銀の星高校の英語の先生になったオヤジについてきたのです。
オヤジの任期は一年。だから、美楽の転校も一年限定。


一学年15人の小さな学校。
どこでだれが何をしたかバレバレの、ダダ広いけれど、狭い村。
コンビニ一つなく、夜は、まっくら。
美楽は、学校にも村にも、なじめません、なじもうともしません。
東京にいたときのように、一歩身を引いて、冷めた頭で思うのです。
どうせ1年限定。しょせん自分はよそ者。はやくコンビニのある東京に帰りたい。

そんな美楽を変えたのは、明野工房のデンさんとの出会いでした。
デンさんは、山の木を使って木工作品を制作しています。
棚やベンチやテーブルなどの家具から、ペン立てやブローチなどの小物まで。
デンさんのもとに通ううち、美楽は、自分も木で何か作ってみたいと思うようになります。
やってみるか? デンさんの一言に背中を押され、美楽は、ノコギリを握ります。
不器用だけど、楽しくて、夢中になって取り組みます。
木に向かうことで、美楽は、外の世界に関心を広げていきます。
木のこと、森のこと、山のこと、そこで暮らす人たちのこと。日本の林業のこと、ブラジルの原生林のこと、それを育む地球のこと……

峯川村の主要産業は、林業です。
山林王の川越家が営む川越林業。
デンさんが木工製作に使う木も、川越林業が伐り出したものです。
その山林王の一人娘、優美とのちょっといびつな友情が、物語のもう一つの軸です。
お金持ちの家に生まれ、美人で何でもできる優美の、ままならない夢と葛藤。
一方には、家庭の事情から大学進学をあきらめ、川越林業への就職を決めた、オヤジの教え子の山田。
恵まれた生まれの人もそうでない人も、思うようには生きられない。

ダダ広いけれど狭い村で、美楽が開けたのは、人生のとびらだったのかもしれません。




aotuka202 at 09:11│Comments(0) 児童文学 

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