・西村賢太

2013年04月21日

女はこらえきれずにすすり泣く――西村賢太「小銭を数える」

作者は、「苦役列車」の芥川賞受賞で話題になった人である。
世の中にはこんなダメなやつがいると、笑って読んでほしい、みたいなことを、受賞の言葉で述べていた。
文春文庫「小銭をかぞえる」の帯には、「この最低の男を見よ!」という宣伝文句が書いてある。「私小説の傑作」という文言も踊っている。
私小説なのだから、作中の「ぼく」は、作者自身であり、書かれていることは、作者の日常の風景なのだろう。
なるほど酷い、最低の男だ。
「ぼく」は、育ちが悪く、学歴もなく、定職に就かず、その日暮らしで、風俗通いが好きで、同居の女を殴り、女の実家から嘘をついて金を借り、借りた金を自分の飲食に使い……
それでも、ぼくというのは、作家の西村賢太なのだから、ただの無頼漢ではない。藤澤清造の没後弟子を自認し、師匠の全集を自費で出版するという志を持って生きている。
同居の女性もその志を理解しているから、我慢もするし、協力もしているのだろう。
しかし、昭和演歌じゃあるまいし、我慢にも限度というものがある。
女の目線で読めば救われない話なのに、おもしろく読めてしまうのは、作者が自虐的でなく、妙にあっけらかんとしているからだろう。こんなに自分を客観的に見られる人が、どうして同居の女性を殴ったりするのかなあ、なんて思ってしまう。
ぼく(作者)は、古書店を巡って、近代の文芸書を収集している。もちろん、作家だから、単なるコレクターではなく、自分の文学の肥やしとするために読んでいるにちがいない。現代では、およそ使われなくなった言葉や漢字使いが、散見される。
ひとつだけ例を挙げると、欷泣。「ききゅう」と読む。すすり泣くっていう意味。
「小銭をかぞえる」の終わりから二行目に出てくる。男があんまりひどいんで、女は、こらえきれなくなって、ついにすすりなくのである。
そういう話です。小銭をかぞえる (文春文庫) [Kindle版]


赤い芥子粒(筆名 さらさ らん)の本 まじない師サエラ [Kindle版]


aotuka202 at 16:30|PermalinkComments(0)TrackBack(0)