・正岡子規

2016年09月19日

夢幻の恋――正岡子規「曼珠沙華」

河出文庫の「被差別文学全集」(塩見鮮一郎編)で読んだ。
1897年に執筆されたものだという。このとき正岡子規は、三十歳。

富裕な旧家の惣領息子が恋をする。
相手は、花売りの少女。非人、乞食と蔑まれる蛇つかいの娘だ。
実るはずのない、夢と現の境を彷徨うような恋。
息子の異変を案じた両親は、両家の令嬢を少年の嫁に迎えようとする。
婚礼の夜は、大嵐になった。
少年は、窓の外に、少女の声を聞く。
新妻を置いて、嵐の中に出て行く少年。
暴風の中をさまよい、鳴神や天狗の声を聞く。
人の世で忌避される非人には、神や魔物と通じる力があるのだろうか。
花売りの少女の悲しみが、神や魔物の怒りをかったのだろうか。
少年は、嵐の中に倒れ、その後、病みつき、気がふれてしまう。
花売りの少女は、何処かへ姿を消した。

曼珠沙華の赤、桔梗の紫や白、金色の蛇……、色彩豊かな、美しい、幻想的な、張り詰めた文章。
病床で嵐の音を聞きながら、子規は、この物語を書いたのだろうか。
咳きあげて吐く鮮血に、曼珠沙華の色を重ねて。


aotuka202 at 23:14|PermalinkComments(0)TrackBack(0)