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海螢の昼行燈 -To be determined-

2010年02月

28 2月

NYT - 放射線は新たな治癒をもたらす一方、有害たる手段(9)

THE RADIATION BOOM

Radiation Offers New Cures, and Ways to Do Harm

 

(8) からのつづきです。

 

 

2年前、ニューヨーク州は、全国学会に出席している医療物理学者に、コンピューター・プログラムの過信は医療事故につながる危険があると警告を発しました。

ニューヨーク州はジェロームーパークス氏の過量照射についてなんの処罰も下しませんでしたが、ニューヨーク市は罰金1,000ドルをセント・ビンセント病院に、1,500ドルをブルックリンの大学病院に科しました。

 


取り返しのつかないダメージ

 

ジェローム‐パークス氏は(彼のエピソードは(3)4)5)をご覧下さい)強力な鎮痛剤を過量照射の直後から必要としました。しかし最悪なのは痛みではありませんでした。
ほとんど眠ることも飲み込むこともできないのに加え、ひっきりなしのシャックリ、嘔吐、胃管チューブ、
24時間持続の薬剤投与が行われました。これら全てに加え、深刻な放射線障害がもたらす真実について直面しなければなりませんでした。彼の放射線傷害を治療する方法はないのです。薬も手術も、何一つ有効な方法はないのです。


ジェローム‐パークス氏は事故後まもなく友人に
e-メールでこう言っています。

「過量照射を受けた身体部位の細胞障害を治す方法はない。」


コンサルトを依頼された国立研究所の放射線専門家も手の施しようがありませんでした。

高圧酸素療法は少しは足しになるかもしれないが、どれだけ効くかはわからない、という程度でした。

「彼は、本当に多量の放射線に暴露された。その、過量の度合いという意味で、全く途方もない間違いだった。」とスローン‐ケタリング記念がんセンターの神経内科医であるジェローム・B・ポスナー先生は言っています。ポスナー先生は家族からのリクエストによりジェローム‐パークス氏を診察し、有効な治療は無いと伝えました。

 

これほどの傷害を受けたにもかかわらず、ジェローム‐パークス氏には悲痛感や怒りはありませんでした。

教会を通じての友人であるレオナードさんはこう言っています。「誰かを本当に知るということは、その人が苦難の中にいてどう過ごすのか、目の当たりに接してはじめてわかります。そして彼こそが私たち皆を支えている強さなのです。」


ジェローム‐パークス氏は自分の陥った状況のアイロニーをよく理解していました。コンピューターにかかわる問題を解決して生計を立てている者が、コンピューターの問題によってこのような状態に陥ったのです。


ジェローム‐パークス氏は、彼の放射線傷害を引き起こした医療チームを率いていた、癌専門医のバーソン先生と親しくなって行きました。

ジェローム‐パークス氏の父親であるジェームス・パークス氏は「彼とバーソン先生はとても現実的に、何が彼の身に起こるか話し合っていた」と言っています。


ジェローム‐パークス夫人は
24時間体制で夫の介護にあたり、夫の回復を祈る祈りのグループを立ち上げました。

しかし病状は確実に進行して行きました。視力、聴力、歩行のバランスと次々に失われて行ったのです。

友人の一人ギリアノさんは、ジェローム‐パークス氏は、病状の進行は止められないことを悟り、自身の死に、何らかの意義を見出そうとしていたと言っています。

 

最終的にジェローム‐パークス夫妻は、「沈黙」と引き換えに和解補償を申し入れられ、それを受け入れました。


ジェローム‐パークス氏は彼の身に起きたことが今後繰り返されないことにより、他の人に役立つ事を願っていました。

 

ジェローム‐パークス氏が亡くなった20072月、彼の両親はガルフポートでハリケーン・カタリーナで破壊された家屋が再建されるのを待っている所でした。

 

後に両親はバーソン先生からの手書きの手紙を受け取りました。その中で


「私には、スコット(ジェローム‐パークス氏)ほど深く知り合った患者はいません。そして彼以上に深い絆を感じた患者もいません。スコットは紳士で最高の尊厳を持って病気に立ち向かって行きました。彼は自分の困難にもかかわらず、周囲を思いやる人間でした。」


とあり、手紙はこう締め括ってありました。


「私はスコットと約束しました。スコットの傷害を起こした医療過誤から学んだ全てを、国中に広め、もう誰もこのような傷害を受けないようにするよう働きます。ご両親にもお約束します。個人として、スコットが私に与えてくれたものを決して忘れません。」


バーソン先生はジェローム‐パークス氏の事件をきっかけに、診療活動から引退したと、事故後にジェローム‐パークス氏の診療に加わった神経内科医のジョッシュ・トルゴヴニック先生は言っています。一方病院側はそのような事実はなく、バーソン先生は病院で診療活動を続けているとしています。


バーソン先生自身も病院もプライバシーへの懸念からニューヨーク・タイムズのインタビューには応じられないと返答しています。


7月、ジェローム‐パークス氏の父親、パークス氏はこう言いました。

 

「息子は私たちに死に方を教えてくれた。息子は、落ち着いて静かに、そして思慮深く全てを整えてから逝った。ほとんどの人間はこうは行かない。だが息子はやり遂げた。しなければならないことは全部し終えて、それから去って逝ったんだ。」

 

パークス氏は、医療過誤についてのキャンペーンを公(おおやけ)に張ることを始めようと考えましたが、しかし、実際には決して行いませんでした。そこから得られるものは何も無いという結論に達したのです。

 

 

<この項終わり>

 

 

 

 
18 2月

NYT - 放射線は新たな治癒をもたらす一方、有害たる手段(8)

THE RADIATION BOOM
Radiation Offers New Cures, and Ways to Do Harm

(7)からの続きです。

その新たな犠牲者も、複葉コリメーターが開いたままの状態で予定の6倍近くもの放射線を照射されましたが、幸いその後にすぐミスに気づき、1度だけの過量照射で済み、傷害は起きませんでした。  

この事故に関して、放射線治療機器の製造会社Varianの最高経営責任者であるガーティン氏は、事故は修正ソフトウェアの販売の前に起こったとしています。

ガーティン氏は、Varianは年間3千500万件の治療を行っており、2008年に事故に繋がる危険のあったのは、わずか70件であると、アメリカ食品医薬品局Food and Drug Administration: FDA)に報告したと述べています。


事故と信頼性

ニューヨーク放射線治療センターに問い合わせても、州政府はどこの病院でどれだけ頻繁に事故が起きているのか情報公開しませんので、患者はどの病院を選んだら良いかわかりません。

病院に事故報告を促し、病院産業(the hospital industry) をサポートするために、州の立法府は事故を起こした病院を同定する情報を秘匿することに1980年代に合意しました。この法律は非常に厳格で、放射線治療についての文書を規制している連邦政府の役人ですら、通常の状況ではこれらの病院名にアクセスすることはできないのです。

このような米国内でも最強の特別保護を、病院は受けているにもかかわらず、ニューヨーク市と州において多くの放射線事故は報告されていません。ニューヨーク・タイムズが放射線事故について訊き始めた後、7月にニューヨーク市の健康精神衛生局は、病院に法的事故報告の義務があることを再び通達しました。ニューヨーク市は放射線治療の事故は実際には報告されている数倍の規模で起こっているようであり、深刻であるとしています。

ニューヨーク・タイムズが、これら行政に報告されたもの、されないものを含め事故の概要記録を収集し調べたところ、スタッフやその訓練の不足、質を確保するための計画に沿わない診療行為、ソフトウェアの誤動がこうした事故に寄与していることを示していました。

たとえば、14歳の少女は予定の2倍の線量の治療を10回に渡って受けました。計算が間違っていた上に、予定線量を確認することを怠っていたのです。前立腺癌の患者は、38回の治療の内32回に渡って間違った身体部位に照射を受けていました。この患者がかかった同じ病院で、もう一人の前立腺癌患者は19回に渡って間違った治療を受けていました。これら全ての例は、治療機器を修繕した後に起き、修繕後機器が正しく作動するかどうか確認していなかったのです。

2007年3月、アップステート・ニューヨークのクリフトン温泉病院で、31歳の女性患者が放射線療法チームの経験不足により、予定の80%を越える過量線量を膣癌の治療に照射され、直腸と膣を貫通する穴が生ずる危険にさらされました。

2008年にはロングアイランドのストニー・ブルック・ニューヨーク州立大学メディカル・センターでは、63歳のバーバラ・バレンザ‐ゴーマンさんが、あるときは予定の10倍の線量、一方別のときは10分の1の線量を受けました。このときの放射線治療士は、後に別の患者のカルテの記録が適切でなく後に戒告処分を受けました。しかしこの治療士は病院職を保持し続けただけでなく、他の従業員のトレーニングにも当たっていました。

他でも治療士には問題がありました。ブロンクスのモンテフィオレ・メディカルセンターでは、アネッテ・ポーターという治療士を解雇しました。彼女は間違った患者に放射線治療を施す等、三回事故を起こしました。ポーターさんはそれでも治療士の免許を保持しています。

「我々はその人物については何も知らないーゼロだ。」と、放射線技師の免許を発行するニューヨーク州の環境放射線防護局のアソシエイト放射線テクノロジー専門家であるジョン・オコーネル氏は言いました。

モンテフィオレ・メディカルセンターは、ポーター治療士が、弁護士を通じて3回の医療過誤事故を起こしたことを否定したことについてコメントするのを避けました。

罰金や免許停止が安全規則を行使するのに使われることは稀です。過去8年以上に渡って何百件もの医療過誤による事故が生じているのにもかかわらず、ニューヨーク州の放射線治療に対して命じた罰金はわずか3件であり、最大額は8,000ドル(1ドル=100円のレートとすると80万円)。

ニューヨーク州の放射線局のディレクターであるステファン・M・ガヴィットは、医療過誤による事故が州法に触れないのであれば、罰金は適切でないとしています。

州は放射線治療センターに事故の原因を突き止め、医療サービスの質を確保すべく適切な改善をするよう要求しています。また州の行政官は、ニューヨーク州は個々の医療施設が施設とは無関係の専門家による外部監査を行うように求め、その遂行のためにリーダーシップを取って来たと述べています。


<つづく>

15 2月

NYT - 放射線は新たな治癒をもたらす一方、有害たる手段(7)

THE RADIATION BOOM

Radiation Offers New Cures, and Ways to Do Harm

 

(6) からの続きです ―私の胸にぽっかりあいた大きな穴

 

放射線過量照射による損傷は治りそうにありませんでした。高圧酸素療法にもかかわらず、傷は大きくなって行きました。このため傷を閉じるために外科手術が試みられ、繰り返し4回も行われたのです。胸壁再形成のためには背中の筋肉や脚(あし)の皮膚が使われました。


胸には大きな穴が開き、そこからは肋骨が見えました。ジェン
-チャールズさんは自分が崩れ落ちていくように感じました。以前には何不足なかったのに、今では子供の世話はおろか、自分で着替えをすることすらできません。彼女が泣く姿を見て、子供たちが怯えて心配したこともありました。


一年以上もの間、ジェン
-チャールズさんは痛みのために入退院を繰りかえし、傷から漂う臭いにも耐えて暮らしました。その間に乳癌もまた再発したのです。


数ヵ月後ついに、放射線損傷が癒えたにもかかわらず、ジェン
-チャールズさんは亡くなりました。

心臓に自信のある方は、ジェン‐チャールズさんの胸部の損傷の写真がこちらでご覧になれます。

 

 

安全装置なし(No Fail-Safe Mechanism)

 

(ジェローム‐パークス氏の写真はこちら

ジェローム-パークス氏の事故にたいする捜査の矛先は線状増幅器を操作するVarian 社のソフトウェアに向けられました。

ソフトウェアは、3つの基本的なプログラミング・インストラクションを順番どおりに保存することを指示していました。第一に放射線ビームの量、第二に治療域のデジタル・イメージ、最後に複葉コリメーターの設定です。

コンピューターがクラッシュし続けた時、医療物理学者のカラチさんはコリメーターの設定入力が保存されていなかったことに気づきませんでした。

Varian 社のソフトウェアにはミスを防ぐための安全装置がついていなかったのです。

 

ソフトウェアの不備にせよ、ミスに気づく機会は他にもありました。

医療物理学者が患者の初めて治療の前にコンピューターが正しくプログラムされているかどうかを確認するのは、強制ではないもののルーチーンでした。しかしそれが3回目の過量照射のあとまでなされなかったのです。

病院はスタッフ不足のため確認作業をするまでに時間が掛かったと行政側に報告しています。

 

最後にもう一つ、過量照射を防ぐチャンスがありました。治療士は皆コンピューター画面を監視しなければならないことになっていたのです。そしてコンピューター画面はコリメーターが開きっぱなしであることを明示していました。しかし、治療士らは画面を見守ってはおらず、病院にも画面の監視について具体的なマニュアルはありませんでした。その代りに彼らの視線は、ジェローム-パークス氏に注がれていました。治療前に唾液腺の保護のためにジェローム‐パークス氏が服用する薬は吐き気を起こすことがあり、ジェローム-パークス氏が頭を固定するマスクの中に吐きはしないかどうかに注意が向けられていたのです。

 

行政捜査官はセント・ビンセント病院と不備なソフトウェアを作ったVarian社の双方に責任があるとしとしました。

 

これに対し病院側は「事故に対応すべく素早く行動し、医療機器会社と規制を設けた行政側とに密接に連絡を取り合った」としています。

 

Varian社の社長で最高経営責任者であるティモシー・E ・ガーティンは、ジェローム‐パークス氏の事故後、会社は使用者に、機器使用の際にはとりわけ注意深く取り扱うよう警告の上、安全装置の付いた新しいソフトウェアを世界中に供給していると、インタビューで答えています。

 

しかし新しいソフトウェアはガーティン氏の言うようにすぐには出回らず、数ヵ月後、再び喉頭がんの女性患者で事故を起こしたのです。

 


<つづく>

 

 

 

10 2月

NYT - 放射線は新たな治癒をもたらす一方、有害たる手段(6)

THE RADIATION BOOM

Radiation Offers New Cures, and Ways to Do Harm


5)からの続きです。

 

ジェン-チャールズさんは進行の早い悪性乳がんの治療を病院で受けていました。

彼女の治療も線状増幅(linear acceleratorによるものでしたが、複葉コリメーターの代わりにウェッジと呼ばれる簡単な放射線ビームの調節器が使われました。

ジェン-チャールズさんの治療に遡って4年前、ビーム調節器にかかわる21の事故がニューヨーク州でありました。

2005419日、ジェン-チャールズさんが最初の治療に病院を訪れた時、州の保健行政官はジェローム-パークス氏の事例により非常に懸念していた時期で、線状増幅器の操作者に念を押して警告を発していました。
「初回治療の前に、放射線照射野のサイズと形状が適正であることの確認が、厳正に必要である。」

ジェン-チャールズさんは、放射線治療士は心配する必要は無い、基本的にエックス線のようなもので、せいぜい皮膚が少しむけるくらいですむと説明されたと言っています。

 

私の胸にぽっかりあいた大きな穴    

しばらくは何もかも順調のようでした。しかし治療が終わりに近づくにつれ、胸に強い痛みを伴うようになって来ました。後にジェン-チャールズさんはこう言っています。
「皮膚がむけてきて、最初は小さかったけれどあっという間に大きくなったの。」

28回目の最後の治療の前、放射線治療士はジェン-チャールズさんを、癌放射線治療専門医のアラン・シュルシンガー先生の所へ連れて行きました。その日の放射線治療は中止され、軟膏と何かを渡された上、2日後に再び受診するように言われました。

2日後病院を訪れた時、皮膚は剥がれ落ち、傷は肉に及んでいました。再び家に帰って後日受診するよう言われました。

200568日、病院から電話があり、医師のほうから話すことがあるので病院に来るよう言われました。最後の治療から14日にしてようやく、病院は彼女の傷の原因について検討するよう決めた、と病院の記録に残っています。

原因が判明するのに長くは掛かりませんでした。線状増幅器は重要な入力を欠いていました ― ウェッジが挿入されていなかったのです。

ジェン-チャールズさんは、毎回予定の量の3.5に及ぶ放射線を浴びていたのです。

病院の医師はその悪いニュースを伝えるために彼女を呼び出したのです。後に自宅に手紙が届きました。病院長のリチャード・W・フリーマン医師からで、617日付けの手紙には深い陳謝の意と、傷害は皮膚、筋肉、骨を含む胸壁と、肺の一部に及ぶ危険があると記されていました。

ジェン-チャールズさんは、どうしてこのようなことが起きたかと、いぶかるようなミスの連続により、傷害を受けたのです。

治療士は“ウェッジ挿入”の所を“ウェッジ除去”と入力、次の治療士はミスを見落とし、医療物理学者は毎週のカルテ・チェックの際、繰り返してミスに気づかなかったのです。

さらに悪いことに、治療セッション中、コンピュータースクリーンは明らかにウェッジが挿入されていないことを示していました。このほんの何週か前に、州の行政官は病院に、治療士はコンピューター・スクリーンを注意深くモニターするよう通達を出していました。

「非常に気になることは、放射線治療士は“ウェッジ除去27に渡って見落としていたことだ」とニューヨーク市の放射性物質かのディレクターであるトビアス・リッカーマン先生は事故のレポートに記しています。

病院はこの件について話し合うことを拒否しました。

 

<つづく>

 

6 2月

NYT - 放射線は新たな治癒をもたらす一方、有害たる手段(5)

THE RADIATION BOOM

Radiation Offers New Cures, and Ways to Do Harm


(4)からの続きです。

 

ウェアー-ブライアンさんはセント・ビンセント病院に電話をかけ、自分は看護師であると名乗り、ジェローム-パークス氏をもう一度よく診察するよう主張しました。

翌日、病院は精神科医をジェローム-パークス氏の奥さんのもとに送りました。2時間後、ジェローム-パークス氏はその日の放射線治療を受けました。

 


放射線過量投与


ニューヨークタイムズは、ジェローム
-パークス氏の治療にかかわった医師、友人、e-メール、インターネット、そして以前は封印されていたニューヨーク州政府の記録をもとに、ジェローム-パークス氏に何が起こったのかを追いました。

ジェローム-パークス氏の妻、医療物理学者のカラチ氏、癌治療会社の*アプティウム、制御コンピューターを製作したVarian、そしてセント・ビンセント病院はインタビューに応じませんでした。

 

アメリカでは医療も通常の経済活動と同じで、医療サービスを提供する利潤を見込んだ会社がある。アプティウムは癌専門の会社で、巨大製薬会社アストラ・ゼニカの一部門である。極端な話、セント・ビンセント病院が病院内のスペースという店舗を貸し、店子としてのアプティウムが入院治療サービスを商品にしているのである。病院自身は非営利団体ということもよくある。異常なように響くが、一般に開業医は数人以上のグループによる自営業で、外来診療所のほかに地域の病院と契約を結んで連携して診療していることが多い。開業グループの医師は、定期的に病院を訪れ入院患者も診ている。病院を通じて他科とのコネクションもできる。自分の患者の具合が悪くなったら、すぐに病院に送ることもできれば、退院患者を新規に自分の診療所で引き継いで診ることもする。そこで患者にとっては一貫した診療が確保される。

アプティウムは‘“癌専門”という特殊性から、おそらく大きな設備投資を要し、診療活動が巨大化して会社組織に成長したという見方ができるかもしれない。あるいはアストラゼニカの新薬開発を通じて癌診療部門が発展したのかもしれない。

 

セント・ビンセント病院はジェローム-パークス氏のケースを「不幸な出来事」であり、「特殊かつ予期できない状況が重なって起こった」という声明を出しています。

 

316日の午後、ジェローム-パークス氏が、プログラム変更後の3度目の治療を終えた数時間後、カラチさんは治療が正しく行われているかどうかチェックすることにしました。

午後6:29、ジェローム-パークス氏の舌癌をピンポイント照射するための複葉コリメーターが働かず、照射野が広範に及んでいたのを発見した時、カラチさんは恐怖におののきました。30分以上経って再び確かめた時も、結果は同じでした。

午後8:153度目の確認をした時も同じ結果でした。戦慄すべき誤りでした。頚部全体、頭蓋底部から喉頭にかけて放射線は照射されたのでした。

 

次の日の午後、ジェローム-パークス氏と奥さんが友人とともに4回目の治療を待っていると、突然、バーソン先生が病室に現れました。ジェローム-パークス氏と奥さんを別室に連れて行き説明がなされました。

 

ジェローム-パークス氏は、治療量をはるかに超える放射線を間違って照射され、その結果は深刻であろうこと。

ジェローム-パークス氏の奥さんはショックのあまり呆然として、病院を飛び出し数区画離れた教会に行きました。他にどこへ行けば良いのかわからなかったのです。

 

その翌日、ジェローム-パークス夫人は2人の友人(一人はソーシャル・ワーカー)とともに、バーソン先生と病院の管理職員に会いました。

病院側は事態の責任を認めましたが、今後何がジェローム-パークス氏を待ち受けているかについては推測することしかできないと伝えました。急性放射線障害については、皮膚の熱傷、嘔気、口腔の乾燥、嚥下障害、味覚の喪失、舌の腫れ、耳痛、そして頭髪の脱毛について伝えられましたが、それ以上のことはわからないのです。

過量照射を受けたのは脳幹部で、両下肢麻痺(四肢麻痺の間違いと思われる)になって人工呼吸器が必要となるか、あるいは2-3ヶ月も持たないようにも思われました。

患者とその家族のためだけでなく、病院スタッフと医師についても、この困難な出来事をいかに克服して行くかの歩みが、すでに進められており、ジェローム-パークス氏がなぜ7にも及ぶ過量照射を受けるはめになったのか原因を突き止める詳細な調査がなされることも述べられました。

バーソン先生が席を立った時、その背中は汗でぐっしょりと濡れていました。

 

 

警告は発せられても受け止められず


レニー・ジェン
-チャ―ルズは、喜びに満ちたその日の、妻のアレクサンドラの姿を覚えています。

「見て、癌は無くなったの。私は自由よ。」

医師はアレクサンドラに、手術と化学療法は成功し、後は放射線治療が28日間あるのみ、と伝えたのです。

 

<つづく>

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