ap_09

海螢の昼行燈 -To be determined-

2010年06月

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口蹄疫(FMD)―追記

口蹄疫殺処分は、食肉輸入の非関税障壁を維持することが目的である  井上晃宏(医師) : アゴラ

 話がかなり横道にそれてしまっているようなので。

Bobbyさんへ

前世紀おわりに有望なFMDの診断検査やワクチンの可能性が出て、bobbyさんが今、その情報に触れておそらく感じられているように、多くの研究者や製薬会社が、こぞって製品開発に乗り出したのです。ところが、それから約10年、いまだに新しいマーカーワクチン、抗体の開発研究が熱心に続けられています。

前エントリーで申し上げた母集団と実験サンプルの違いのように、1点でみるとある研究では効果甚大、他ではなしということは当然あります。だからこそ、その後の追試や検証が必要になります。前エントリーでは、その最も基本的な方法の一つを具体的に示したにすぎません。

このような多くの玉石混交の報告から、専門の研究者、科学者が追試や検証をした結果、殺処理なしに流行をコントロールできるワクチン、診断抗体はない、というのが現状なのではないでしょうか?

それを示す文献として本年4月時点での概説と研究論文のサマリーをbobbyさんのブログに添付しました。もう一度お示しします。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20021307
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20199761

というわけで、素人の私が、すでに多くの専門の科学者によって追試・検証されつくした10年に及ぶ経過を、もう一度全てたどり直して、これ以上bobbyさんと議論する気はありません。

山之内氏の意見も、bobbyさんの御主張も、今現在実現可能なものではないですが、多くの優秀な人々がその達成を目指して、日夜真剣に働いておられるのではないでしょうか。

それと、OIEにかかわる巨大資本家や特定国の思惑による政治的圧力から、ワクチンはあるのに使わないんじゃないか、殺処理しないでもコントロールできるんじゃないかとかいう話が出てくるのかもしれませんが、レアメタルやエネルギー資源と違って、畜産業は零細個人企業が多いですから、そういう陰謀論的なことがOIEの勧告に影響している可能性は少ないのではないでしょうか?また災害である疾病の脅威は、国家間の外交・経済戦争とは異なります。

従って、これまでそのOIE勧告に従ってきた日本政府の方針が、食肉輸入の非関税障壁の維持が目的という井上先生の論理展開には無理があるのではないでしょうか?

この件に関してはすでに多くの意見が出つくしたようなので、日本では、今回なぜ、これほど甚大な被害が起きてしまったのか、どうしたらこうした被害が今後防げるのか、被害に会った畜産家の補償はどうしたら良いのか等、アゴラでは建設的な議論を期待します。

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口蹄疫追加

前エントリーのコメントと他の所のコメントもちょっと足して、Bobbyさんへのお返事です。

 

> >製造元のIntervetによれば、2070例の牛サンプルで特異性99.95%、1029例の豚サンプルでは99.71%の特異性だそうです。

> さすがプロの文献調査は詳細ですね。しかし、マーカーワクチンも、ワクチンとの抗体判別手段も「ない」という議論は、このテストキットによって、前提条件が少し変わってくるかと思います。このようにして、全体として議論を前に進める事ができれば、これを読んだ政治家や官僚、メディアやその他おおぜいの人達に、なにかしら良い影響を与えられる可能性に期待しています。

私の専門は臨床検査学ではありませんが、おほめにいただいてありがとうございます。

政治家やメディアはどうか知りませんが、官僚の方々は私ごときとは比べ物にならない程、状況を良くご存知であろうと思います。

 

> 誤解があるようです。ワクチンあるいは検査キットがある、という事を何回か書きましたが、「決定的」だとは思っていません。

> オリジナル資料で100%と書いているのに、勝手に感受性の%を引き下げて議論するというそもそもの問題

ちょっと誤解があるようなので、説明を加えます。

 

少し方法論の話をしますので、退屈かもしれませんが、ご辛抱下さい。

病気の診断のための検査が、使用に耐える有用なものかを判断するのに、最も基本的かつ重要なことは、

1. 感受性(sensitivity:検査は病気があるときにどれくらい陽性になるか

2. 特異性(specificity:検査は病気の無いときにどれくらい陰性となるか

2点です。

まず検査の感度、感受性が低かったら、検査をする意味がありません。検査は病気の存在を鋭敏に検出できることが、第一義的です。感受性は、病気のある個体にそのテストをした場合、何パーセントに陽性結果が出るかで示されます。

そして次に、じゃあ鋭敏な検査なのはわかったけれど、今度は病気のない人に、検査が陽性に出てしまうのでは困ります。正常な人に薬を投与したり手術をすることは避けなければなりません。それを示すのが、特異性です。特異性は、病気のない個体にその検査をした場合、何パーセントに陰性結果が出るかで示されます。

検査陽性:検査(+)

検査陰性:検査(-)

a, b, c, dをサンプル個体数とすると

    

 

病気あり

病気なし

検査(+)

a

b

検査(-)

c

d

 

感受性=(a / a + c x 100 %

特異性=(d / b + d x 100 %

となります。

 

何か新しい検査方法について報告するとき、この感受性特異性の二つが明確に示されていることが必要不可欠になります。

bobbyさんにご紹介いただいたリンクの中に、pdf資料としてある、Intervet 社の22nd Conference of the OIE Regional Commission for Asia, the Far East and Oceaniaにおける報告です。

http://www.foot-and-mouth-disease.com/Binaries/68_33112.pdf

私はこれをIntervetの宣伝広告と言いました。

 

このpdf資料のなかでIntervetは自社のデータとして特異性について、牛と豚についてそれぞれ1,000例を越えるサンプルデータをカラフルなグラフ付きで報告しています。ところが、感受性のデータは一つも示していません。100と言っていますが、他人の報告を引用しているだけです。つまり題目は学会で報告したようですが、科学的データ報告としては全く片手落ちで、報告の体をなしていないのです。また自社製品に都合の良い文献を引用して述べているだけなのです。それで私はこれを宣伝広告と呼んだのです。引用文献の詳細については前エントリーをご覧下さい。この報告は2001年のようですが、その後このChekit-FMD-3ABCという検査キットが口蹄疫検査の主流にもなっていず、OIEの勧告も依然として変更されないことからも、この報告の信憑性Chekit-FMD-3ABC有用性について何が示唆されているのか、もうおわかりだと思います。

 

バイオメディカル系の研究では、現実世界を網羅して調べることはできません。現実の病人を一人残らず調べるには、マンパワーも研究費も到底及びません。そこでサンプルを選び出して調べ、それが現実世界(母集団)を代表しているとの仮定の上に、データ結果から結論を導き出します。サンプル数が小さいと、そのサンプルグループは現実世界を代表していないことがあります。そこで1,000頭検査したら750頭で陽性の作り話を加えたのです。これだと私の架空の感受性75ですから、同じくbobbyさんの紹介されたリンク先のニュースからfoobirdsさんが見つけ出されてアゴラのコメントでおっしゃっているChekit-FMD-3ABC の感受性70に比べて、私のでっちあげの数字のほうがIntervet に好意的であったわけです。

 

獣医学のことはわかりませんが、感受性は、80その検査が実際の使用に耐えるものかどうかのカットオフ値であると記憶しています。医療に使われる検査のほとんどは、85%以上の感受性でしょう。Chekit-FMD-3ABC 感受性70だとすると、使用に耐えるレベルではないと思われます。「決定的」という言葉は、この「実際の使用に耐えるレベル」という意味で用いました。

 

 

 

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口蹄疫コントロールに決定的なワクチン、検査はまだなさそうです

ちょっと拙ブログの主旨からはずれるんすが、コメント欄に投稿するには少々込み入っているので、当方のエントリーに致しました。

 

もともとアゴラの
口蹄疫殺処分は、食肉輸入の非関税障壁を維持することが目的である  井上晃宏(医師) : アゴラ


に対する
bobby さんの一連のトラックバック

マーカーワクチンは口蹄疫対策のイノベーション

リスク管理から見た口蹄疫対策

政治が招いた口蹄疫禍


に対するコメントから派生しました。突然当エントリーに出くわした方は、なんのこっちゃかわかりづらいですが、どうぞご勘弁を。

 

bobby さんの口蹄疫に関する最新の記事に対するfoobirds さんと私のコメントに対して、口蹄疫コントロールに決定的に有効なワクチンが市販されているというのが、bobby さんのご意見で、その裏付けとして動物専門の製薬会社Intervetの製品広告を示しておられます。

 http://www.foot-and-mouth-disease.com/Binaries/68_33112.pdf


このpdf資料には日付がありませんが、内容は
2001年の22nd Conference of the OIE Regional Commission for Asia, the Far East and Oceaniaで発表されたもののようです。


この
Chekit-FMD-3ABCというのはマーカーワクチンではなく、抗体検査のことです。

3ABCとはNSP抗原の一種で、この3ABC に対する抗体口蹄疫感染動物に現れるが、ワクチン接種によっては出現せず実際の感染の証拠になるのだそうです。

製造元の
Intervetによれば、2070例の牛サンプルで特異性99.95%、1029例の豚サンプルでは99.71%の特異性だそうです。ここでいう特異性とは口蹄疫にかかってない動物に検査をした場合に、結果が陰性と出る比率=%です。


それでは口蹄疫にかかった動物に検査が陽性と出る率はどうかというと、これを感受性といい、資料が参照しているオリジナル研究の文献では(
1997年)

100(ワクチン接種後口蹄疫感染137例)としています。


Intervetの資料からは、この
Chekit-FMD-3ABC大変感度の良い検査ということができます。


問題は、口蹄疫の流行時にはコントロールのために何万頭もの殺処理が行われることが珍しくないということです。ということは、研究の
137例の感染個体で100100中の検査でも、1000頭の感染例に検査したら750でしか陽性にならず、250の殺処理すべき感染例を見落として、かえって流行を広げてしまうかもしれません。


しかし、そんなことを言っていたら、いつまでたっても市販検査薬の許可など出せません。というわけで、これは大変見込みがありそうとなれば、市販許可は出るのです。後は実地でどれだけ役に立つか見きわめることになります。つまり、


市販許可直ちに=万能


ということにはならないのです。現在の勧告をくつがえすほどの有効性が確認されれば、それ自体が改めて発表され、
OIEの勧告は書き変えられることでしょう。


またこの宣伝広告自体、
10ページで

・・・success in FMD control depends on many control mechanisms, of

which vaccination and testing is only one. Stringent zoosanitary measures remain

essential to success.

口蹄疫のコントロールは多くのコントロール・メカニズムに依拠しており、ワクチン接種とそれに関連する検査というのはこれらのコントロール・メカニズムの一つにすぎない。厳重なる動物の衛生管理が、口蹄疫コントロールの成功に不可欠であることに変わりはない。

と明言しています。


どうも、
foobirdsのおっしゃるように、科学というものに対して期待と信頼が過大だという気がするのですが。

しょせんは我々人間のすることですよ。

 

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タスキーギ梅毒実験(5)

タスキーギ梅毒実験(4)

 

前回、タスキーギ梅毒実験はその根底に黒人に対する人種差別があると言いましたが、

白人=加害者で悪人黒人=気の毒な被害者というふうに、単純な図式にはなりません。

 

タスキーギ梅毒実験は、40の長きに渡り継続しました(1932年~1972)。その間、実験担当医師は入れ替わり立ち代りしています。担当者が変わってゆく長期実験において、実験を存続させる鍵となった人物は、なんと黒人の女性だったのです。



rivers



Tuskegee-syphilis-study_subjects-talking-to-nurse-eunice-rivers







この黒人女性はユーニス・リヴァーズという看護師で、臨床実験のコーディネーターとして
40年に及ぶの実験の、ほぼ全過程に携わった人物でした。

 

1930年代に南部の黒人女性看護師白人男性医師の指示のもとで働く場合、現実問題として、実験に異議を申し立てたり、変更を求めることなど不可能だということは十分に考えられます。しかし1950年代までにリヴァーズの知識と被験者との間の親密な人間関係に、実験に関与する医師はますます依存するようになり、彼女をむしろ同僚として扱うようになったとの指摘があります。

 

この実験医師らとのグループ写真は、彼女の実験における重要性を示唆するものなのだそうです。(写真の中に一人黒人男性医師がいますが、この医師は実験とは無関係だそうです。)

Tuskegeegroup
 

また、リヴァースは、実験開始から22年目に突入した1953に、実験について学術雑誌に筆頭著者として報告を発表しており、他の論文にも共著者として名を連ねています。

 

リヴァーズは死ぬ前にインタビューを受けていて、その中で彼女は、被験患者は明らかに実験から大きな利益を得ていると感じていると言っています。被験患者は定期的な診察を「政府の医師」から受けており、そのようなサービスはメイコン郡のほとんどの人には手がとどかないものでした。 

またのちに、公衆衛生局の予算は、種々のちょっとした症状に対する被験患者の医療費をまかなうようになりました。しかし依然として、梅毒に対する治療は全く行われなかったのです。

 

タスキーギ梅毒実験1972に、新聞による実験の記事掲載により、ようやく中止されましたが、その時代でもアメリカ人にとって医療とはそういうものだったとのだという点が注目です。日本では国民皆保険1961に達成されました。

 

リヴァーズについて、彼女は全面的に被験患者のために献身しており、心情的にも被験患者に大変愛情深く接していたと、被験患者はみなそのように証言しています。

 

このエントリーの元記事は、彼女の「倫理観」をよく表現している箇所を、1953年の学術雑誌の報告から抜粋していますので、訳してみます(p.4, 結論:Conclusionsの直前のパラグラフ)。

 

長期間に渡って、ひとつのグループの人々と働いていると、誰でもこれらの人々に情が移らずにはいられない。それがこの臨床実験にかかわる看護婦の体験であった。看護婦は被験患者を個人的に知るようになり、被験者の抱える問題を理解することによって、ときになぜ、被験者が一見奇妙な反応を返してくるのかがわかるようになった。

その絆は、単なる看護婦と被験患者の関係を超えて、より強固になった。看護婦の助言は、完璧な自信に満ちていた。被験者のあるものは看護婦の専門領域ではないことも持ち出して尋ねるようになった。建物の心配、保険やその他の事柄について、彼女は何も的確な助言はできない。しかし看護婦はいつもこれらの被験患者に対して最善と思われる相談先を教えた。

被験者が看護婦をたよりにし信頼しているのを知れば、看護婦は心を開いて、患者に対して批判的にならないよう、常に注意を払わなければならない。これは、最も倫理的な手段によって、被験患者が最上のケアを受けることができるよう助けるためである。

 

 

彼女の口調から推測すると、治療法があるにもかかわらず無治療の臨床実験に参加することが、被験者である梅毒患者の利益であると、心の底から信じて、実験のために献身して働いたようです。極めて巧妙な自己欺瞞におちいっていると考えられます。

 

 

<つづく>

 

こういう大変不名誉と思われる資料をタダで一般公開し、世界中から誰でもアクセスできるようになっているとことが、アメリカ合衆国の大したところではないでしょうか。アメリカから何かを取り入れるなら、日本はこういうところを見習うべきではないでしょうか。

 

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