アトラジンは除草剤で、現在世界で最も広く使用されています。最近この物質による環境汚染に関する研究結果を巡ってアメリカでは訴訟が係争中です。アトラジンはEUではすでに使用禁止になっています。以下はネーチャーのニュースの拙訳です。
アトラジンの健康に対する影響をめぐって罵倒の応酬がエスカレート
Published online 18 August 2010 | Nature 466, 913 (2010) | doi:10.1038/466913a
生物学者タイロン・ヘイズ氏 (J. Mone/AP)
ラッパーのアール・’DMX'・シモンズは人の心をなごませる歌詞で知られているのではない。
そして、カリフォルニア大学バークレー校の生物学教授であるタイロン・ヘイズは今年の始めに、シモンズの歌詞を引用して一連の“便所の落書き”的 e-メールを、シンジェンタ社、除草剤アトラジンの世界最大の製造者、の代表に書き送った。
これらのメールは、ヘイズによれば、シンジェンタの科学者との激しいやりとりに触発されて書かれたものだという。
ヘイズの行動は倫理的に問題であるとして、シンジェンタとカリフォルニア大学の幹部職員は7月19日に、ヘイズを相手取って訴訟に踏み切った。
当事者であるシンジェンタ社の科学者はヘイズを挑発した事実は無いと否定している。提訴に伴い、スイスに本社を置くシンジェンタとヘイズとの間でやり取りされた、最近の泥試合的書簡が提示された(メールの一部は公開されている)。
ヘイズの研究は、環境とヒトの健康に、アトラジンが悪影響を及ぼすことを示してきた。
アトラジンは植物の光合成を抑制することによって作用を発揮するが、動物のホルモンの生成経路を乱す作用がある。
アトラジンはEUでは使用が禁止されているが、現在、世界で最も広範に使用されている除草剤の一つである。米国では年間何千万キログラムものアトラジンが農地や芝生に散布されている。
アトラジンの年間使用量:中西部に集中しています。(ウィキペディアから)
2002年、ヘイズと彼の共同研究者は、アトラジンの暴露によって、発達段階で雄になるべきカエルが雌化することを示した。より最近の研究では、アトラジンが同様の効果を、成熟した雄のアフリカツメガエルに及ぼすことを示した。この効果はアメリカ合衆国環境保護庁が、環境において安全とするレベルの濃度のアトラジン暴露で観察された。
シンジェンタは、これらの研究結果すべてに、疑問を投げかけている。シンジェンタは自社のホームページで、ヘイズの研究手法には問題があり、その結果を支持するには科学的証拠が不十分であるというアメリカ合衆国環境保護庁の記述を引用している。
マーク・シュリッセルは、カリフォルニア大学バークレー校の生物科学科の学科長であるが、10年に及ぶヘイズとシンジェンタの論争は、個人攻撃の域に突入したと言っている。ヘイズは8月6日に大学の管理職員と面談して、最近の出来事について話し合った。シュリッセルは、ヘイズを捜査の対象にしている訳ではないと言っている。
シンジェンタは、ヘイズの侮辱的かつ人種差別的(逆差別)e-メールは、バークレー校の倫理基準に違反すると主張している。大学当ての書簡の中でシンジェンタは、アトラジンを巡ってヘイズとのあいだに「引き続き意見の相違」があることを認めている。しかし、シンジェンタがヘイズに対して「科学的レベル」での意見交換を試みても、ヘイズは応じようとしないと述べている。
ヘイズはサウス・キャロライナ出身で、苛酷な環境で育った。彼はシンジェンタの言葉による脅しに反応したに過ぎず、その応答の仕方は適切であったとしている。「自分の出身地では、人はもっとずっと過激に振舞う」と言っている。
ヘイズが、シンジェンタの従業員に対して攻撃的なメールを送ったのは、今回が初めてという訳ではない。メールが物議を醸したのは2009年の2月のことである。バークレー校はシンジェンタに対して書状で応じ、ヘイズが攻撃的で汚い言葉を使うのは控えることに同意したと伝えた。
ヘイズは、この大学の対応のことはを知らないと言い、またネイチャー誌に語ったところによれば、彼の最も最近のメールは、イリノイ州スプリングフィールドのシンジェンタの科学者と対面した時の経験に基づいて、送られたという。
ヘイズはイリノイ州の環境保健委員会で、アトラジンについて証言を行うためにスプリングフィールドを訪れた。証言を行う直前に、ヘイズはシンジェンタ側の科学者と言葉を交わした。その場に居合わせたイリノイ州の民主党代表で委員会のメンバーあるカレン・ヤーブローは、確かに二人の科学者が対面している様子を目撃したが、会話の内容については知らないとした。
ヘイズの研究は、シンジェンタやその他のアトラジン製造者に対して訴訟を起こす際の、主要な根拠となっている。
現在、アトラジンは、シンジェンタに対する民事訴訟の俎上に載せられている。
イリノイ州の15の飲料水会社は、アトラジンを飲料水から取り除く処置をするため、最低でも3億五千万ドルの補償金を支払うよう、シンジェンタに対して要求しているのだ。
飲料水会社はアトラジンは人体に悪影響を及ぼす恐れがあると主張し、シンジェンタはそのようなクレームは虚偽であると返している。
類似した訴訟が、中西部の6つの州にまたがる17の飲料水会社によってなされ、イリノイ州東セントルイスの連邦裁判所で現在係争中である。
シンジェンタはそのホームページで、こうした訴訟は“信憑性の疑わしい研究”を根拠にして起こされていると述べている。(記事オワリ)
シンジェンタはヘイズ氏をうまいこと嵌めて潰そうとしているという見方も可能ですが、
やはりサイバー・スペースにおいても節度とマナーは大事ということですね。