井上先生が大変興味深いご意見をアゴラに発表されています。
表題はまさしく正論です。
議論の内容は、孫正義氏の以下の構想に対する反論のようです。
1. カルテが共通化されていれば、医師から医師へのコンサルトが瞬時に可能になる
2. 検査数値や画像データが共有化されているから、他の医療機関を受診するたびに再検査をする必要がなくなり、コストが安くなる
3. 患者宅からデータを送信することで遠隔診断ができる
孫氏の構想は原則的に素晴らしいと私には思われます。
まず、遠隔医療は日本では、すでに東北大学などを中心に先進しているのではないでしょうか?
厚労省は昨年報告書を出しています。
井上先生の具体的反論についてはアゴラの記事を参照して頂いて、それについて個別に思うところを述べます。
1. 「コンサルトが瞬時に可能」について、2.とも関連し、今までだったら実際に行われるまでに何日もかかったコンサルトが、画像を含む検査の情報も紹介状と共に送られて、即日診療が可能という迅速さ、と解釈します。
コメント欄に紹介状の存在そのものを疑問視するご意見がありますが、紹介状は新たな業務の要請ですから、文書による依頼は社会生活上いかなる分野においても一般常識です。また、なぜコンサルトを依頼するのか「医学的質問事項を記載した文書」ですから必須です。
次にカルテの煩雑さについて。カルテに定期的にサマリーがついてれば、カルテを始めから終わりまで読む必要はなくなります。
これは、医療におけるハードの問題と言うより、ソフトの問題、医師のカルテの書き方自体の問題のようです。これは主治医制に起因していると思います。主治医制の対照としてチーム医療制があげられます。
電子化の議論からはズレますが、チーム医療になると、カバーする医師は、引継ぎ時に短時間で患者の全体像の把握をしないといけないので、字が汚くて読めないカルテを一人一人、一々網羅して読むことなどしていられません。従って、引継ぎの時に、一目で漏れなく患者像が掴めるサマリーが必要になります。コンサルト医師にとっても、サマリーがあれば、始めにカルテのどの部分を参照すればよいのか一目でわかり便利です。
主治医制からチーム制に変更すると、勤務時間をキッチリと組むことが可能になり、限られた勤務時間中に、無駄(検査結果が出るのを待つ以外することなし。当直明けだからといって昼日中から仮眠を取る)のない密度の高い業務が可能になります。早期引退状態の女医さんを現場に呼び戻したり、子育て期間中の女医さんのパートタイム医師の活用が容易になるので、良いのではないでしょうか。女性医師呼び戻しは新たな医学教育・免許試験を要せず、新規の医師養成教育と違って、大きな教育費節約になるはずです。
以上チーム医療制の利点について、主治医制に比し、カルテの質の向上と、非効率で無駄な仕事の仕方を減らすことができ、労働環境が改善される効果があることを述べました。新技術導入に伴う診療活動の改善事項として議論されても良いのではないでしょうか。
電子カルテは紹介状も含め、一回書いたら、コピーも保存も送信も一括して行え大変便利です。カルテを見返す必要のあるときの検索もずっと容易になります。万が一の際のバックアップもでき、保存スペースも書類に比べると圧倒的に小さいです。時間とスペースの節約が大きいので、それらに伴う経済効果も期待できるのではないでしょうか。
2. これは非常な節約源になるのではないでしょうか。検査によってはそれほど頻繁に繰り返す必要のないものは多いのではないでしょうか。同じ項目の検査法や値が施設によってあまりに違うと、国内はもちろん国際的な医療・医学情報の交換そのものが無意味なものとなってしまいます。現在では、検査結果はむしろ共有できる場合の方が多いのではないでしょうか。
>個人的な技量に大きく左右される身体所見に至っては、他人の記載など一切信用できない。
本当だとすると、これは日本の医師養成教育における大問題ではないでしょうか。日本の医師の診察技量がそれほど信頼性、普遍性のないものだとすると、医学部・医療研修の教育内容を一から検討し直して、医学生、研修医を現在より、もっと厳しくきちんと訓練しないとならないのではないでしょうか。
これは、医学部を廃止してペーパー医師という医師量産・普及の検討以前に、ただちに改善すべき点で、あるいは、すでにそういう状態で医学部教育が機能していないので、医学部はいらないという発想が出て来るのでしょうか?
3. これは技術の発達を待つのでしょうが、始めに申し上げましたように、日本の遠隔医療は実用段階で、ご懸念の「診断に役に立たない」技術的な問題は、すでにかなり解決され、残った部分も日進月歩で改善しているのではないでしょうか。日本ではかなり高価なハイテク機器を使用しているようです。それでも実際に医師が現地を訪れるより、相当なコスト減になることは間違いないでしょう(医師の人件費を考えてみてください)。
米国では、遠隔画像の使用用途(病歴聴取、遠隔診察、患者さんへの説明)にもよりますが、2-3万円相当の機材でスカイプレベルの画像でも、かなりの有用性が示され、患者さんの評判も良いようです。コメント欄のikuside5さんのご意見と同じ意義を含みます。スカイプより値が張るのは、お金は個人情報保護の確保に費やされているのだと推測します。
こういう日本と比べて、いわばローテク遠隔医療について、MDとMBAの両方を保持する大学病院の医師などが、医療の質と経済性の向上を目的に、研究・普及に取り組んでいるようです。そしてその内容をまた、宣伝・啓蒙を兼ねてか、You Tubeに一般公開して、世界中の人がその様子を知ることができるようにしています(とは言ってもアクセス数は少ないようですが)。
http://www.youtube.com/watch?v=ROkTDqfddyE&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=DzVn3TgyIhU&feature=related