August 11, 2005

販売と頒布の狭間に。


---©07th Expansion/竜騎士07


 ・・・と言うことで。


 商業と同人の違いは、予算以上の利潤を出せるかどうか、つまり、販売額以上に利益をだせるかどうか?・・・なのですが、「ひぐらしのなく頃に(07th Expansion)」は、同人としては異常なほど、商業への展開が速く、まるで商業作品のメディアミックスのようです。過去の例、Type-Moonやねこねこソフトを見ている私たちでさえ、サークル自体は商業化せずに、トントン拍子にコンシューマー移植(→アルケミスト)、漫画化(→スクウェアエニックス)、アニメ化(→フロンティアワークス)と行く過程を見ると、この作品には制作者とは別の独立した広報・営業担当を置いている強みが最大限に出てきていると思いますね。・・・と言うか、制作メンバーと営業を区分している時点で、下手な商業活動をしているソフトハウスより、上の環境を整えている。よく考えれば、本当はコミケで頒布するべき作品が、ほぼ時間をおかずに通販で手に入るって言うんですから。もう、扱い上は“商品”並みであって、見積もりとかメディアの供給先だとか、キッチリ考えられている。もう、ひぐらしにとって、コミケは頒布場所ではなく、“発売日”扱いなんですね。

 「実際の所、営業とか広報とか、そう言うのはもはや今の私のやっていることのメインではなく、2次創作をしやすくするためのファン層の支援活動、メディア展開における様々なこと、あるいはもっと広い視野が必要になることや先を見る目を必要とするようなことの担当がメインになっています。たしかに「営業と広報だけだったら、同人だしこんなに忙しいって言っているのは嘘なんじゃないのか?」とか勘の良い方は思われたかも知れませんが、私の方は現状そちらまで担当しております。」
(---Oct.30,2004 矢野芳典氏,NEKO青龍−ルーミアわはー記

 フロンティアワークスはアニメイトグループに属することから考えて、アニメイトや虎の穴といった同人・インディーズ販売網を構築することで、売り上げを伸ばしてきた小売店側にとって、商業化することで法人同士の取引先になってしまった前述のType-Moonとかに比べれば、サークルである07th Expansionは扱いやすいとも言えるのかもしれません。何にせよ、コンシューマーゲームにしろ、漫画化にしろ、アニメ化にしろ、07th Expansion自体が制作に参加できないのであれば、移植、編集、映像化の各段階で、こちらが好きに出来る。エロゲーメーカーに限らず、発売日延期で振り回される小売店側にとってみれば、コミケという大目標に、確実に間に合わせてくれる同人の方が、取引先としては誠実に感じるかもしれませんね。実際、小売店にあるチラシや販促グッズはタダじゃないのですよ。メーカーが出したのか、小売店が用意したのか色々パターンはあるのですが、急に発売日延期されると、その販促関係の物品はもう用意されているのですから、大変なことになるのです。

 そんな中で、ひぐらしは同人ながら随分と信頼されています。先に述べた理由で、販促・小売店側が強力にプッシュしたのかもしれませんが。とにかく、これで確実になったことは、ひぐらしのメジャー化の過程は、遂に、商業PCゲーム(エロゲー)業界の中抜きという状態を引き起こしたということです。同人ソフトハウスが商業化せずに、コンシューマーへ直接結びついたと言うことは、18禁作品ではなくても、やり方によってはメジャー化できる・・・同人側にとっては、自分たちの作品をキチンと売り込めれば、次の展開の選択肢が増えたと言うことを意味します。そして、同時に同人側にとっては、同人に拘泥する理由は何か?・・・コミケ前に暗い話題でスミマセンが、自分たちが商業化しない理由が、だんだんと問われてきたように感じます。

 東方Projectなんかは、完全に同人を意識していますね。

 「同人だから自由にコンセプトを置ける「21世紀の20世紀延長型STG」、ゲームはまだまだ商品化してないな、と。」
(---Aug.14,2004 ZUN氏,東方永夜抄あとがき,上海アリス通信 vol.4)

 東方とひぐらしの売り上げ、どっちが上で、どっちの扱いが小売店では重視されているのか、私はそこまで踏み込みませんが、少なくとも、神主様は、同人作品と商品を区別して言われていることが多いです。ボイス=キャライメージではないように、ゲーム=ゲーム性ではありません。パズルやシューティング要素だけがゲームではなく、演出やテキスト、キャラクターグラフィック、サウンド、そんなのをひっくるめて、全部がゲームを構成しています。前エントリで、ボイスが無くても良いと言っておきながら、「ボイスを作品表現の広がりやキャラへの印象度を高める一手段として捉えている方・・・つまり、AVG特有の表現方法の“少なさ”を打開する手段としてボイスを見ている方は良いとして」と前提を付けましたが、私はゲームを構成している要素を否定するなんてしません。ゲームが使える表現の幅は、小説やマンガ、アニメといったメディアより大きいのですから、一つの要素が無いからと言って、評価を下げたり他の面を見ないのは随分と損をすることなんですよー・・・まぁ、そういうことを言いたかったのです。

 そして、その点を考えると東方が商業化するなんてあり得そうにない気がしますね。やるならば、採算度外視でどこかの熱いファンが、アーケード用の基盤作っちゃう方がまだあり得るかも。ゲーセンに行ったら東方歴代作品がデモっていたり。・・・見たいな、ソレ。

 東方は同人である自由さを謳歌しようとしていますし、ひぐらしは同人でありながら実に“商業的”に展開を進めている。月姫以来の大規模なヒットとなっている両作品ですが、その同人への接し方は、ことごとく対照的。それが良いのか悪いのか?・・・私はその点には触れません。一個人がゲーム制作に関わるにおいて、ゲーム業界がビジネスとして重視されると、誰でも受け入れるって訳にはいかず、あぶれる人も出てくるでしょう。その人たちへの敗者復活戦の機会・・・または、下野している多くの潜在的なクリエイターを見いだすという点において、同人作品が注目されるのは良いことです。ただ、世間に注目されることで、同人という世界でさえ、いわゆる積極的に展開を望むサークルと、同人にこだわるサークルとに、大別されることも珍しくなくなりました。したがって、何がしたいのか?・・・クリエイターの立ち位置、目標を自分で見失わないようにしておかないと厳しくなってきたとは言えると思います。

 こみパの澤田真紀子女史(編集長)の視点というのは、もう、誰でも持ってしまっている。こみパと違うのは、プロになること=成功ではなく、同人にとどまってもOKである点。楽しむならば楽しむ。目的があるならば、そのために頑張る。・・・最低でも、商業メーカーが見失いがちと思われるそんな気持ちは、同人のクリエイターの方々にはいつまでも持って欲しいものだと、外野の一ファンである私は思ってはいるのですが。



この記事へのトラックバックURL