ど~も矢野です。


何か天気が目まぐるしく変わる5月の中旬。
蒸し暑い夏の匂いがします。

そんな中、公園のビオトープを視察。

▼桜の実
may_1

▼黄菖蒲
may_2

may_3
▲睡蓮

▼今年は珍しく(?)クロスジギンヤンマが飛んでいました。
may_4

▼バンちゃん
may_5

なかなか生き物で賑やかになってきました。



さて、久しぶりに添加剤の豆知識、ミネラルの話シリーズを再開したいと思います。
まだまだ続きますよ~

今回はカルシウムと炭酸塩(KH)の関係についてです。

カルシウムKHバッファー


この2つの物質は、サンゴを飼育するうえで、とても重要なことは周知されていると思いますが、
炭酸塩を理解するのは難解なうえ、有耶無耶で判り難い説明をよく見かけます。

炭酸塩について勉強された方も今一度、目を通してみてください。


なるべく多くの方に炭酸塩というものをご理解いただける記事になれば本望なのですが..
しばらくお付き合いをお願いいたします





◎炭酸塩とは..

二酸化炭素(CO2)が水に溶けたイオンの状態。炭酸イオン(CO3--)、重炭酸イオン(HCO3-)などの総称。
アクアリウムの分野では、イオンの状態でない炭酸(HCO)と溶存二酸化炭素(CO)も含めてしまったほうが分かり易いと思います。

・塩(エン)とイオンの違い
イオンは物質が水に溶けた状態を指します。
塩(エン)は化学用語で塩(しお)のことではなく、水の中で中和で生じる化合物のことです。
ですが、一般的に水の溶けている化合物全般を塩(エン)と呼ぶことが多いので、
通常は、塩(エン)=イオンと考えていただいて問題ないと思います。

しかし、ここでの表現は炭酸塩=炭酸イオンだけでなく、重炭酸イオンなども含みますので、
厳密に分けて表記します。


実は炭酸塩はミネラルではないんですが、
カルシウムなどと深い関係にありますので、番外編と考えてください。




◎KHについて

KHは炭酸塩の化学記号ではなく、「炭酸塩硬度(一時硬度)」のドイツの指標です。

飼育バイブル本では、この「KH=炭酸塩硬度」という意味で説明されて、今まで刷り込まれてきましたが、
このような記述がされているものは、読み飛ばすか忘れてください。
説明として良くありません。

厳密な意味では間違っていないのですが、全世界のアクアリウム分野ではKH=硬度として
利用されていないからです。

KH試薬は、炭酸塩と対になるカルシウム、マグネシウムなどの硬度成分を
炭酸塩の総量を求めることにより、逆に「硬度物質がこれだけあるんだろうな~」と表しているのです。
ですがアクアリウムの分野では、それを純粋に炭酸塩の量として利用しているに過ぎず、
硬度を求めているわけではありません。
ですから、「KH=炭酸塩硬度」ではなく、『炭酸塩濃度』と考えるほうが正しいですね。


あと、炭酸塩濃度を求めるのは「アルカリ度」とするべきとの意見もありますが、
たしかにそのとおりです。
しかし、KHという言葉は全世界のアクアリウム分野に完全に定着してしまって、
コンティニュアムなどのアメリカの製品までKHが商品名に使われている現状だと、
この分野でKHが示す意味を正しく理解することのほうが現実的だと思います。

なので、論理的には違うのですが、KH=炭酸塩(濃度)と理解して問題ないと思います。


WEB上で炭酸塩について書かれている方や関係雑誌社に申し上げたいのですが、
「炭酸塩硬度」という言葉は今後一切使用しないでいただきたい。
KHを勉強する際にユーザーが混乱するだけです。
硬度については総硬度(GH)のみでいいのです。




◎カルシウムと炭酸塩のバランス

炭酸塩とカルシウムは、サンゴ骨格形成に最も重要な成分なのですが、
それについては、前回の記事の中でも触れているので、あえて省きます。

   こちらをご覧ください ⇒ ミネラルの話①~カルシウムとストロンチウム編~
                ミネラルの話②~カルシウムとマグネシウム編~


海水中でカルシウムイオンと炭酸イオンは、シーソーのようなバランスで濃度を保っています。
それは、元々くっ付き易い2つの物質が、マグネシウムなどのほかのミネラルや
安定したpH値などの影響でイオン濃度が保たれています。

一般的にマリンアクアリウムは、カルシウムイオン濃度は、380~420ppm、
炭酸塩濃度は、7~11°dKHの範囲で調整するのが良いとされています。
人工海水もその範囲で調整されています。
天然海水のKH値は6~7°dKH、カルシウム値400ppmなので、
アクアリウムの場合は炭酸塩濃度を高く設定されているのですが、
その理由はご存知かとは思いますが、水槽は海と違って、閉ざされた狭い環境なので、
生物濾過の際に発生する酸などでpHが下がりやすいため、
その緩衝作用をもつ炭酸塩の濃度を高めに設定されているわけですね。

それぞれの濃度が低くなってきたら、添加剤やCaリアクターなどで補充するわけですが、
前述したようにカルシウムと炭酸イオンはシーソーのようなバランスを保っているので、
それぞれの濃度には注意を払わなければなりません。

KHとCaのバランス

気持ち的には図③のように、カルシウムとKH値をMAXまで高めたいところですが、
実際にはイオンバランスはそのような両方高い値で安定してくれません。
過剰なイオンは結合して沈殿してしまうためです。

ですので、図①のようにカルシウム値を高めたければ、KH値を低くしなければなりませんし、
逆にpH維持のためにKH値を高めるには、図②のようにカルシウム値を抑える必要があります。

海水魚だけの水槽ならば、図②のバランスで良いのかもしれませんが、
造礁サンゴを飼育するにはカルシウム値が低すぎます。
なるべく図①のようにKH値をぎりぎりのラインまで押さえたいところですが、
膨大な水量の海と違って酸に犯されやすい水槽環境では、
天然海水と同等のKH値では、緩衝作用が失われpHがすぐ下がってしまいます。
pHが下がると、炭酸カルシウムの骨格を持つ造礁サンゴにとっては危機ですので、
カルシウム値にこだわるあまり、KH値を疎かにすることがあってはいけません。
カルシウム値もほどほどにしておくのがベストといえます。

また、マグネシウム値を天然海水より高めの1,500~1,600ppmに設定することで、
炭酸イオンとカルシウムイオンの結合を阻害して、全体的な数値を底上げすることができます。




◎pH値によるバッファーバランスの変化

炭酸塩(炭酸イオン、重炭酸イオン)の比率は、水のpH値によって変化します。

下のグラフは、炭酸塩濃度8.4°dKH=3.0meq/L(アルカリ度)における
炭酸塩の形態をpH別に表したものです。
炭酸塩グラフ

ご覧のように炭酸塩は水中の酸(H+)の量により形態が変わります。

ちなみにホウ酸イオンは炭酸塩ではありませんが、海水中のアルカリ成分の一つなので、
含めています。


ここで多くの皆さんが勘違いしていることを発表しますが、
『炭酸塩のpH緩衝作用により、海水のpH値は8.0~8.2に保たれている。』
これは半分合っていますが、半分間違いです。

「さっきpH緩衝作用のために炭酸塩を高くするっていってたやんけ。」
・・・と思われた方、まぁ聞いてください


ここで炭酸イオン(CO3--)の量の推移に注目してください。

海水の炭酸塩は塩基(OH)の増加でpH8.2以上上昇した場合、
緩衝作用で戻すことはできます。
なぜなら、炭酸イオンは軟水化作用があり、水中のカルシウムイオンと結びついて、
炭酸カルシウムとなり水中より取り除かれる(沈殿)。
  CO3-- + Ca++ ⇒ CaCO
つまり、2価のマイナスイオンである炭酸塩は、
多すぎると2価のプラスイオンの物質と結びつくことにより、減っていくのです。

ですので、海水のpHを必要以上に上げると、
KH値とカルシウム値が低下してくるという現象が起きます。

この沈殿により炭酸イオンの割合が減れば、上がったpH値も低下します。



次に酸(H+)の増加でpH値が8.2以下に低下した場合、
これは、2次的な作用がない限り下がりっぱなしなのです。
いくらKH値を高くしても、pH8.2には戻りません!(重要)

よく、H+ + HCO3- ⇔ HCO ⇒ HO+CO という緩衝作用の化学式が出てきますが、
これは上のグラフを見れば分かるとおり、pH値が7.0以下のような場合に当てはまることです。
海水のpH8.2では、全く当てはまりません。



最も分かりやすい例としては、Caリアクターを思い浮かべてください。
COを添加してリアクター内の海水のpHを下げます。
  CO+ HO ⇒ H+ + HCO3-

ここで出てきた酸は、炭酸イオンを消費して重炭酸イオンになりますので、
海水は上のpH7.5のグラフの状態に向かいます。
  H+ + CO3-- ⇒ HCO3-


水に溶存二酸化炭素が存在できるpH7.4あたりから、炭酸カルシウムは溶け始めます。
  CO + HO + CaCO ⇒ Ca++ + 2HCO3-



ここまで低下したpHを回復する塩基(OH)が出てくる要素はありませんよね。
海水は酸を加えれば、どんどんpHが低下するわけです。
pH低下の対策としてKH値(炭酸塩濃度)を高くするのは、受け皿を大きくして
下降スピードを緩和するためであり、
酸に対して、けっしてpH8.2をキープできるわけではないということ分かってください。


「じゃあKHバッファーみたいな添加剤は、pH維持の効果がないのか?」

・・・と思われた方、いいご指摘です。


KHバッファーなどのバッファー剤は、pH8.2を維持するための炭酸イオンが、
適切な割合で含まれているので、失われた炭酸イオンを補充できます。

2

炭酸塩を補給するといっても、炭酸イオンの割合が重要なのです。

淡水用のバッファー剤も売られていますが、それらは重炭酸イオンを主に補給する製品です。



最後に、pH値を8.2に保つ2次的な作用についてですが、
自然の海は、なぜpH8.2程度を保っていられるのか?
炭酸塩は受け皿なので、pHを上昇させる塩基(OH)の要素が別に必要です。

実は、海のpHが高いのは表層だけで、深部は低いのです。
つまり、海面近くの膨大な植物プランクトン達が行なう光合成により出てくる塩基(OH)が、
バッファー剤のような役割を果たしていると考えられます。
  OH + HCO3- ⇒ HO + CO3--

サンゴ水槽においては、豊富にレイアウトされたサンゴの光合成が活発に行なわれれば、
炭酸イオンが供給されないCaリアクターのみでも上記の反応が起こり、
重炭酸イオンが炭酸イオンに変化して、pHが低下しにくいバッファーバランスが取れるのです。


だとしても、水槽は海と違ってpHの低下に弱いわけですから、
なるべく酸が発生しないように心掛けることが一番ですね

自然の海のpH値も産業革命以降、0.1低下したと推定されています。
COガスの増加に伴い、21世紀以内にさらに低下が加速すると予測もされています。
膨大な水量の海でも、pHは低下するのです。



次は、ついでなので、番外編として~炭酸塩(淡水編)~をお届けする予定です。





それでは。