2008年08月31日

恐怖のステレオおやじ 【12】

前回からの続きです。



勢い込んでドアチャイムを鳴らしたものの、ステレオおやじは留守のようです。
部屋に戻り窓から駐車場を見ると、ステレオおやじの車はありませんでした。
どうやら、出がけに生徒に声をかけていったようでした。
私の怒りは収まりませんでしたが、ここは一旦落ち着いて、古くからの住人の方に相談に行くことにしました。
何度かこの話しに登場した理事も長年やっている信頼のある人です(仮にBさんとします)。
Bさんとは何度かステレオおやじの件で駐車場などマンションの敷地内で立ち話をしたことがありました。

Bさんは在宅していました。
「お休みのところ突然すいません。」
「いえいえ、全然かまいませんよ。」
「実はちょっと困ったことがありまして・・、ご相談に乗っていただきたくて伺ったんですが」
「え? なにかありましたか?」
「実は3階の○○さんの事で困ってまして」

すると奥の方から奥さんも家事を中断して出てきてくれました。
私はさっきあったことや、普段からのステレオおやじとのやりとりをBさんと奥さんに説明しました。
Bさんは以前からのいきさつは立ち話でご存じでしたが、奥さんは終止「えーー?」、「ほんとに?」、「信じられない・・」と相槌を打って私の話を聞いてくれました。

Bさんは既に私とステレオおやじとのトラブルも含め、N島さんとステレオおやじのトラブルや、その他管理人さんとのトラブルもご存じでした。
また、特にステレオおやじが管理組合の理事長になってから、彼にまつわるトラブルが耐えないことが古参住人たちの間で問題になっているそうでした。
本来ならば管理組合の総会で決めなければならない修繕積立て費の一部使途について、例えば敷地内の植林など一人で勝手に決めて業者を手配してしまったりなど、対人的なトラブル以外にも問題があるそうです。

話しは違いますが、この頃このマンションと1キロくらいの距離にあるマンションに住んでいる札響のヴィオラの同僚と職場でこんな会話がありました。
「荒木んとこのマンション、とんでもないオヤジがいるんだって?」
「うん〜、そうなんだよ。 んで? なんで知ってんの??」
「いやね、こないだマンションの総会出たら話題になっててさ、マンションの名前聞いたらオマエんとこのマンションじゃん!」
それにしても、近所のマンションでも話題になっているとは・・。
管理組合や管理会社は横の繋がりもあるようです。
この話しを聞いた時には思わず笑ってしまいました。
ステレオおやじはすっかり有名人です。


Bさんは
「いや〜、そこまで迷惑かけてたか・・。目が行き届かなくて申し訳ない」
「いえいえ、Bさんに謝っていただかなくても・・」
「いやね、分譲時は○○さん(ステレオおやじの名)もあそこまでじゃなかったんだけどな〜。レッスンにしてもさ、荒木さん教室として使用してないもんね。住居だよね」
「そうなんですよね。私もそう思ってたんですけどね。防音室入れて最大限ご迷惑にならないようにやってるつもりですし・・」
「うん、犬の件にしてもさ、まあ、確かにペット禁止って書いてはいるけど、管理規約ってのは行きすぎを戒めるためのものだからね。常識内でやってる人に、やれ規約違反だ、って言いだしたら誰も暮らせなくなっちゃうからね」
「わたしもそう思います。規約違反っていうなら○○さんのステレオ騒音こそ問題にされるべきだと思うんですけどね」


分譲当時に入居したBさんやステレオおやじたちは、皆さんほぼ団塊の世代の人たちです。
年齢も近いし家族構成も似たりよったりの彼らは、分譲当時は皆さん家族ぐるみの付き合いをしていたそうです。
4000万円のローンを背負ってこのマンションを買い、終の住処として腰を据えている人たちと、中古で買って腰かけで住んでいる私とは同じ区分所有者でもやはりマンションに対する意識が違うようです。
数年後には家を建て替えて引っ越すつもりでいることはBさんには言っていません。
何かと親身になってくれるBさんには少し後ろめたい気持ちもありました。

なので、Bさんの「この問題は少し預けてくれ」という言葉には素直に従うことにしました。


取合えずBさんの言葉に安心しましたが、上階から聞えるステレオ音や、自由にレッスンできない日常の問題が片づいたわけではありません。
相変わらずステレオ音はズ〜〜ンズ〜〜〜〜ンと大音量で聞えてきますし、レッスンも出稽古を増やしたり、芸術の森の練習室に会場を移したりと苦労しながら続けていました。

そんなある日、防音室に入って練習を始めた途端、上から巨大なハンマーで床を叩いたような音が聞えました。
一瞬びっくりして練習を中断しました。
ステレオおやじが床を踏み鳴らしたのかとも思いましたが、防音室を突き抜けて聞えるドンッ!という音はただごとではありません。
しばらくして、中断した練習を再開しました。
するとまた、ドスンッ!という衝撃音が上階から聞えました。
間違いありません。ステレオおやじが床を踏み鳴らしている音です。
私の楽器の音が少しでも聞えたらすかさず床を踏み鳴らしているようです。

後で知った話しなのですが、
この床踏み鳴らしの直前にBさんがステレオおやじに、私のレッスンを妨害しないように言いにいってくれたそうでした。
多分その時に、私の楽器の音が迷惑になるほど聞えているというのは詭弁だろ、ということもステレオおやじに言ってくれたのだと思います。(1Fのご隠居夫婦などに聞いて、私の楽器の音が周囲にほとんど漏れていないこともBさんは既に知っていました)

なので、「聞えてるぞ!」ということを証明するつもりで床を踏み鳴らしたのだと思います。
私はすっかり練習する気をなくして、しばらくパソコンをいじって、ステレオおやじの車がいなくなるのを待ってから練習をしました。


その2日後、その日は休日だったのですが、昼過ぎに防音室に入り練習を始めました。
練習を始めて1分もしないうちに、妻が電話の子機を持って防音室のドアを叩きました。
送話口を塞いで妻が
「ねえねえ、上のおじさんから・・」
「え? ステレオおやじ??」

今度は電話がかかって来ました。
どういうつもりで電話をしてきたのか大体想像はつきますが、こっちもいろいろ言ってやりたいことが溜っています。
私は少し覚悟を決めて妻から子機を受けとりました。

【つづく】
  

Posted by arakihitoshi at 00:55Comments(6) │ │恐怖のステレオおやじ 

2008年08月29日

恐怖のステレオおやじ 【11】

前回からのつづきです。



季節は冬です。
上階からのステレオ音は治まるどころかますます酷くなっています。
夏は窓を空けているので外からも騒音が聞えてくる、というお話しは既に書きましたが、冬も閉鎖された空間の中で上から響いてくるジャズのズンズン音は逃げ場もなく耐えがたいものがありました。


ステレオおやじの家はクリスマスが近くなると、ベランダと窓を電飾で飾りつけます。ベランダの手摺りには半透明のホースの中に電球が入ったような物を這わせ、窓には「MerryChristmas」の光る文字が張り付けられます。
本来ならば楽しげなイルミネーションも、私の目には醜悪な我が儘の象徴に写りました。
マンションの駐車場から「いい気なものだ」と憎々しげに光る文字を眺め上げたものです。

駐車場と言えば、ステレオおやじは車の停め方がやたらと端正でした。
毎日まるで計ったように線の内側にきっちりと車を停めます。
雪かきも、自分の駐車場のエリア内を舐めるように綺麗に雪かきしていました。
どうも生活のある部分に関してはやたらと潔癖症なようです。
なにかと言えばマンション規約を持ち出すあたり、この辺の性格に由来していたのかもしれません。



さて、そんなある日のことです。
私はいつものようにチェロのレッスンをするために生徒を迎える準備をしていました。
今日は夕方に中学生の女の子のレッスンが入っています。
夕方はステレオおやじとハチ合わせる可能性があるので気が進まないのですが、スケジュールの都合で仕方のないこともありました。
ドアチャイムが鳴り、生徒とそのお母さんが定刻に来ました。
レッスンをする防音室に入るとお母さんが遠慮がちに言いました。
「あの・・、先生、このマンションに少し変わった方が住んでらっしゃいますか?」
「え? 何かありましかた?」
「実は、下の玄関のところで年配の男性の方に呼び止められて、”ここのマンションはレッスン禁止だ”って言われて・・・」

私は愕然としました。
まさか訊ねてくる生徒にそういう行動に出られるとはさすがに思いませんでした。
生徒とお母さんに「すいません、ちょっと待っててください」と言って、私は部屋から出ました。
ステレオおやじはまだ近くにいるはずです。
捕まえて厳重に抗議・・、というか怒鳴りつけてやるつもりでした。

階段を降りて駐車場に出ました。
辺りを見回しましたがステレオおやじの姿は見えません。
管理人さんが掃除をしていたので、管理人さんにステレオおやじを見なかったか訊ねました。
管理人さんは私を見て「どうかしましたか?」と不審そうに言いました。
どうやらかなり怒りの形相になっていたようです。
私は管理人さんに、「実は・・・・・」と事情を説明しました。
その時の管理人さんの困ったような諦めたような表情はよく覚えています。
きっとステレオおやじには私よりもずっと酷い目に合わされていたのだと思います。

ステレオおやじとの問題は区分所有者同士で解決するしかない問題です。
立場の弱い管理人さんに何ができるはずもありません。


ステレオおやじの姿は見つかりませんでしたが、生徒を待たせているので取合えず部屋に戻りました。
頭に血の登った状態で何とかレッスンを終わらせ、生徒とお母さんにステレオおやじに呼び止められた時の様子を詳しく聞きました。
ステレオおやじに「おいおい!」
という感じで呼び止められ、かなり嫌な口調で”注意”されたようです。

「おいお〜い、どこ行くんだ?」
「え? あの、荒木さんのお宅ですけど」
「レッスン?」
「はい・・、なの、なにか?」
「困るんだよな〜、このマンションはレッスン禁止だから」
「え?????」

という感じの会話だったようです。(敬語ではなく、かなり失礼な口調だったそうです)

生徒とお母さんには申し訳ないことをしました。さぞ驚いたことと思います。
私も立場がないです。
今日のことは謝って、もうこういう事がないようにするが、万が一また変なおやじに呼び止められたら「自分たちは荒木の友人で、彼のところに遊びに来た」と言ってもらうようにしました。
何とも情けない話しですが仕方ありません。


それにしても、今日という今日は断じて許しがたいです。
直接私に言えばいいものを生徒に、それも事情も知らない中学生の女の子とそのお母さんです。弱いもの苛めというか、卑劣極まりない行為という他ありません。
レッスンが終わり、私はステレオおやじに抗議すべくマンションの階段を登りました。
そして3階のステレオおやじの部屋のベルを立て続けに鳴らしました。


【つづく】




『ザ・マジックアワー』

ザ・マジックアワーを見てきました。
やっぱり三谷幸喜とそのスタッフはすごい。
ひとり映画館のシートにすっぽりと身を預けて、「さあ、存分に楽しませてください」と人生の中の2時間を丸投げしてしまえる安心感があります。
そして今回もその期待は裏切られませんでした。
劇中劇あり、劇中劇中劇あり・・・
わざとらしいセットも、臭い芝居も全て計算づく。
やがて観客でいる自分も劇中劇の中のレイヤーの一枚に取り込まれているような、そんな錯覚に囚われます。

アル・カポネが出てきそうなベタなノスタルジー世界と、これまたベタな人生のほろ苦さを笑いと涙で粋に綴った大人の映画に日常の煩わしさを全て忘れてどっぷりと浸れました。

金曜日まで。映画館で見るのがお薦めです。
  
Posted by arakihitoshi at 00:09Comments(3) │ │恐怖のステレオおやじ 

2008年08月26日

恐怖のステレオおやじ 【10】

前回からの続きです。


さて、見たくないものは見なければ済みます。
触りたくないものには触らねばよく、行きたくない所には行かなければいいわけです。
しかし、音はどうでしょう。音は聞きたくなくても耳に入ってきます。耳を塞いでもたかが知れています。
上階から大音量で鳴り響いてくるジャズの音は全く止む気配がありません。
相変わらず、ド〜〜〜ソ〜ドドソ〜〜〜〜〜〜 と、ドとソの音が強調されたベース音が天井を揺るがし、女声ボーカルやピアノの音などが途切れることなく毎日襲いかかってきます。


このマンションから歩いて10分くらいの場所に母の暮らす私が育った実家がありました。
この原稿を書いている今現在は、この実家を建て直して家族で一戸建に住んでいます。
あの頃は、演奏会のない週末はこの実家に非難していました。
週末は朝から夜まで大音量のジャズが鳴っていますのでとてもマンションにはいられませんでした。
平日の夜は、レッスンや自分の練習のために防音室に籠ることが多いので、少なくとも防音室にいる間はステレオ音からは免れていました。
実家と防音室がなければ、あのマンションには住んでいられなかったと思います。

当時、実家を二世帯住宅に立て替える計画が既にありましたが、資金繰りや工務店探しなど超えなければならないハードルもまだ多く、現実味を帯びていませんでした。
仮に立て替えを計画に移したとしても、実際に転居するまでには最短で2年か3年位はかかりそうです。
ステレオおやじへの我慢も限界に来ていたので、それまでの間どこか借家を探して移る事も視野に入れて考えはじめていました。(ただしその場合、余計な資金がかかるので簡単ではありません)



理事長になってからのステレオおやじは、例えば「布団の干し方が悪い」とか、「車の停め方が悪い」とか言っては、住人に注意に行ったり貼り紙をしたりしたそうです。
私のところにも、ある日ステレオおやじが書いたと思われる紙が部屋のドアに貼られていました。
その紙には、マンションの管理規約の「教室としての使用を禁止する」という部分にマーカーが引かれ、その下に「管理規約を遵守すること。以上」と書かれていました。


自分の騒音は棚に上げて、どうしてそこまでやれるのか・・・。
やはり世の中、恥を知らない人間は強いです。


この頃、色々とお世話になっていた同じ棟の方にステレオおやじの件で相談をしたことがありました。
この方は管理組合の理事も長年やっていた人で信頼できる人です。分譲時からの住人でもあります。
私のレッスンに関しても、依然お話ししたN島さんの家の犬の件でも、とても私たちに同情的で、ステレオおやじの横暴ぶりを非難していました。
ちなみに、私の部屋の楽器の音は、隣や階下の方に確認しても全く気にならない程度、という答えも貰っていました。
隣の部屋の社長さんの奥さんなどは、「ホントは漏れてくる音を聴きたいのに、全く聞えないのよ。残念だわ」という優しいお言葉。やはり綺麗な人は言うことも美しいです。
実際は、隣室にはほとんど聞えない程度、
階下には、少しは聞えるが気にならない程度、
くらいだったようです。


どうやらステレオおやじ問題に、やっとマンション全体の問題に発展しそうな兆しが見えてきました。
なので、意を強くした私は前回の怒鳴りつけられ事件があった後、ステレオおやじに対して気を使うのを止めました。
マンションの廊下で出会っても露骨に無視したり、挨拶の代わりに「ステレオうるさいんですけど」と言わせてもらう事もありました。
要するにイヤな態度に出ることにしました。わずかな礼儀でもステレオおやじに対して使いたくはありません。
もっとも、相手はキレ癖のある人なので一定の注意は必要だとは思いましたが。


こうしてステレオおやじを非難するための周囲のコンセンサス作りに動きはじめました。
しかしそれが裏目に出ました。
そうした動きを察知したステレオおやじはある行動にでます・・・・。
『マンションでのレッスンを諦めざるを得ない状況』とはそのことなのですが、


【つづく】
  
Posted by arakihitoshi at 01:09Comments(2) │ │恐怖のステレオおやじ 

2008年08月23日

恐怖のステレオおやじ 【9】

前回からの続きです。


さて、マンション管理組合の理事長になってから、ステレオおやじの姿をマンションの敷地内で頻繁に目にするようになりました。
洗車したり、見回りの様にぶらついたり、管理人さんと立ち話をしていることも多かったです。
ここの管理人さんはじつによく働く人で、毎日黙々と掃除や芝の手入れに精を出していました。性格も謙虚で優しい人で、うちの子供たちはすっかり管理人さんに懐いて、上の娘はバレンタインデーに手作りチョコを管理人さんにあげていたほどです。
「おじさん、もったいなくて食べられないな〜」と目を細めて笑っていた管理人さんの顔がとても印象的でした。

ある日、『挨拶の仕方が悪い』と言ってステレオおやじが管理人さんを怒鳴りつけた、という噂を耳にしました。
耳を疑いましたが事実の様です。
この頃になると、私もやっと分譲時から住んでいる住人の方々ともある程度交流が出来ていたので、立ち話などでいろいろな情報が入るようになっていました。
怒鳴りつけ事件の数ヶ月後に、ステレオおやじがマンションの管理を委託している会社に、「あの管理人を辞めさせろ」と電話で怒鳴り込んだ話しも耳にしました。
『ステレオおやじの奥さんに口答えしたから』という理由だったようです。
あの恐ろしく無愛想で挨拶も返さない奥さんに、温厚な管理人さんが一体どういう口答えをしたというのでしょうか。言いがかりもいいところです。

結局、管理会社の担当者が分譲時から住んでいて管理組合の役員もやっている方たちに仲裁を頼んだそうで、管理人さんは職を失わずに済みました。

その話しを聞いて、ステレオおやじと路上で立ち話する管理人さんの顔が緊張で引きつっているわけが分かりました。


マンションの敷地内ではこの頃のステレオおやじは全く有頂天です。
ステレオおやじの部屋はマンションの中央の棟の最上階(三階)です。
ステレオおやじは多趣味な人で、ステレオの他にも車、自転車、そしてガーデニングをやっています。
車は依然お話しした高級外車を所有しており、かなり恥ずかしいナンバーを付けて走っています。(数字はここでは書きませんが、付けるのに勇気のいる数字です)
自転車も海外ブランドの高級自転車を所有しており、車同様いつもピカピカに磨いています。
そしてガーデニング。ベランダ一杯に観葉植物等を栽培しており、週に1〜2度ホースで大量に水やりします。
当然水が階下のベランダにも垂れてきて干してある布団を濡らされた事も何度かありました。
ステレオおやじとのマトモなコミュニケーションは諦めていたので苦情は言いませんでしたが、水やりするなら階下のベランダを確認するくらいできないものかと腹が立ちました。

毎日きっちりと定時に帰宅し趣味に没頭するのはいいのですが、あまり協調性がなさすぎると、「あれは出世しないタイプだな・・・」と周囲から陰口を叩かれます。
そんな住人たちの失笑もこの頃は時々耳にしました。

そしてステレオの音は大音量で止むことはありません。
「俺がマンションの主だ!」と言い出しかねないステレオおやじはまるで、マンションの中央、最上階に住む「王」の様でした。ただし裸の王様的ではありましたが・・。


前回、ステレオおやじに「レッスン禁止」と言われましたが、私は相変わらず週に数回のレッスンは続けていました。
そんなある日、H大の学生M田君がレッスンに来た折、ちょうどM田君が私の部屋にチェロを抱えて入ろうという時に、ステレオおやじが前を通りかかりました。
会社帰りのスーツ姿のステレオおやじは私に向かって
「ちょっとちょっと〜、レッスン禁止って言ったでしょ〜」と例の顎を突き出す言い方で言ってきました。
私は最悪のタイミングに一瞬ひるみましたが、
「管理規約読みましたけど、レッスン禁止とは書いてありませんよね?、教室禁止とは書いてますけど」
「おいおい、レッスンしてるなら教室だろ」
「週に1〜2度レッスンする程度では教室とは呼ばないんじゃないですか? 住居だと思うんですけど」
するとステレオおやじは目を吊り上げて私を睨みつけ
「ホントに1〜2度だろうな! 」と大声で怒鳴りました。

ステレオおやじの大声に私もM田君もびっくりしました。
マンションの廊下で、しかも生徒もいる前で大声で怒鳴りつけられてしまいました。
まさか私までも怒鳴りつけの被害者になるとは思いませんでした。
ステレオおやじとの正常な人間関係はこの瞬間に完全に破綻したと言ってもいいと思います。
言葉に詰った、というか絶句した私をあとにステレオおやじは私を睨みつけた目線を外し、階段を登っていきました。

その日のレッスンは頭に血が登ってまともに出来なかった気がします。
しかし、これはまだほんの序の口でした。

やがてマンションでレッスンをするのを諦めざるを得ない事態が起きるのです。

【つづく】

  
Posted by arakihitoshi at 00:30Comments(6) │ │恐怖のステレオおやじ 

2008年08月18日

恐怖のヌカ蚊

【注意】今回はすこし気持ち悪い話しです。【警告】


本当に酷いめにあった。・・・いや、今もあっている。

左手(肘より下)=20カ所
右手( 同上 )=18カ所
左脚(膝より下)=30カ所
右脚( 同上 )=26カ所
胴体(胸と背中)=7カ所
顔       =1ヶ所

計       =102カ所


上の表は、私の身体にできた腫れ物の数である。
小さいもので直径3mm程度。大きなものだと直径2cm位にぷっくりと腫れ上がっている。中に半分に割ったピーナッツがすっぽりと入っているように固くしこっている。
腫れの頂上にはよ〜く見ると小さな穴が空いていて、そこから時おり僅かに茶色い透明液がトロ〜っと流れ出てくる。
腫れはどれも真っ赤で、風呂に入ると赤はさらに鮮やかさを増す。

100ヶ所以上、いや無数といっていいその腫れ物に被われた四肢は、わが姿ながらおぞましい・・。鏡で見るとゾミゾミ〜〜〜〜〜っと全身に鳥肌が立つ。

そして何より我慢できないのは!
痒い〜〜〜〜〜、かゆいかゆいかゆいかゆい、カ・ユ・イ〜〜
のである。


”ヌカ蚊”というやつにやられた。

先週、家族で奥尻島に行った。奥尻の西海岸で海水浴中にやられたらしい。
潜伏期間があるようで、本格的に痒みに襲われたのはその翌日からだった。
奥尻での最終日の夜は痒みでほとんど眠れなかった。
痒みの合間にうとうとして酷い夢を見た。
テトラポットにびっしりと貼り付いたツブ貝の様に、私の身体に隙間なくびっしりとナナカマドの実のような物が生えてきて、手で払うと実はボロボロと剥がれ落ちていく。そしてその跡にジクジクした傷口が残るのだ。
身体中を覆うそのジクジクした傷口にキンカンを思いっきり擦り込んで悶絶する夢である。
・・・最悪な夢であった。


それにしても、この痒みは尋常ではなかった。
通常の蚊の5倍位の痒みだ。それが四肢に100ヶ所以上。発狂するくらいの苦しみだった。
連休中に開いている皮膚科医院を探して、軟膏と痒み止めをもらいなんとか3日間しのいだ。
そして今日、やっとかかりつけの皮膚科に行ってきた。
私はもともとアトピー体質で、おまけに蚊にさされやすい。
私と一緒に泳いでいた妻も足に約20ヶ所刺された。しかし子供たちはほとんど刺されなかったのは救いだった。
妻の20ヶ所の腫れは4日経った今日はほとんど消えてしまっている。
ヌカ蚊の襲撃を一手に引き受けて家族を守ったお父さんの面目躍如である。ということにしておく。

私の腫れも、最初は腕全体がパンパンに腫れ上がって熱を持った状態だったが、それに比べるとだいぶマシにはなってきたが、今も依然として元気に腫れている。

かかりつけ医師によると、ヌカ蚊は小さくて黒いフワフワした虫で、北海道の場合は西側の海岸に沢山生息しており、私の様に刺されると酷い炎症を起こす人も多いそうだ。
言われてみると、小さくて黒くてフワフワした虫が沢山いた。
午後は海水浴の場所を東側の海岸に移したので、1時間程度のわずかな時間に100ヶ所以上刺されたことになる。

山と海が迫った海岸で民家も何もなく、景色と水はとても綺麗だったのだが、最悪な伏兵であった。
アレルギー持ちの人は是非ともご注意されたい。


 
話しは変わるが、『崖の上のポニョ』を見に行った。
私の中での宮崎アニメは「千と千尋」が最期だったな〜、という確信をより強くして帰ってきた。
まあ、いつまでも「ナウシカ」の頃が良かったーー! と言っていても仕方のないことは分かっている。制作者だって年を重ねていけば考え方だって変わるだろうし、時代も変わっていくのだ。作品の質が変わっていくのは当然と言えば当然である。

しかしながらこの作品、いくらなんでも時代に迎合しすぎてはいないか?
「エコと愛とネイチャー、そして人間は愚か。」
そんな月並みな道徳観の焼き直しで作品を作れば・・、そりゃ〜こうなるよな。という感想である。
一方で、最期は神や仏が出てきて愛で地球を救っちゃうストーリーは、スケール的にはデカすぎて作品に収まりきっていない気がした。

港町や船の細かい描写はさすがジブリと思わせたが、キャラクターに個性や魅力が感じられなかった。フジモトやグランマンマーレは手塚治虫の「火の鳥」を間違えて見に来てしまったかと思うほど手塚アニメのキャラに酷似していたように思った。
主役のポニョは全く可愛いとは思わなかったが、これは言ってはいけないお約束なのだろうか・・。

NHK朝ドラ「すずらん」の名子役、柊瑠美ちゃん=「千と千尋」の千尋の声=今回ボートで赤ん坊を連れたお母さんの声。
というのが時代の流れを感じで良かった。「すずらん」から10年経っているのでそろそろ二十歳くらいでしょうか。  
Posted by arakihitoshi at 20:33Comments(4) │ │雑感 

2008年08月09日

天気晴朗なれど風強し・・

今日は知事公館で札響グリーンコンサートがあった。

知事公館でのグリーンコンサートは久しぶりである。以前は毎年やっていたが、今回はたしか7〜8年ぶりである。野外演奏会30回記念(実際はもっともっと沢山やっているが、自主公演の野外コンサートが30回ってことなの・・・かな?)でホクレン主催で開催された。
開演時に2000人以上のお客さんがいて、どんどん増えていたので終演時にはざっと2500〜600人は来ていただいたように見えた。

尾高さんの指揮でフォスターやアンダーソンの名曲、アニメメドレー、そして「宇宙戦艦ヤマト」などが演奏された。
ついに尾高さんがヤマトを振ったか・・、という感慨もひとしおだが、それとは別に
宇宙戦艦ヤマトの曲を聞くと私は世代的に萌えに萌える。

♪銀河をこえて〜 イスカンダルに〜〜〜 は〜るば〜〜〜るのぞむ〜〜〜〜〜
宇ッ宙戦艦 ヤーーチャン マーーチャン
テッテッテテーーーテテテテッテテーー

上の歌詞のチャンの部分を弾く時は、おもわず顔がにやけてしまう・・(笑)

今日は実にすがすがしい晴天で、湿度も低く久々の北海道的な夏の日であった。
ただし風がとても強かった。
風で飛ばされそうになる譜面を押さえるのが大変だった。

『晴朗なれど浪高し・・・、じゃなくて風強し』
「ヤマト」を演奏するには雰囲気ピッタリのお日和りであった。

TVで松本零士がヤマトの曲について語っていたのを見たことがある。
ヤマト映画化にあたって、ヤマトを描いていたときによく聴いていたベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」の第2楽章(葬送行進曲)みたいな曲を書いてほしい、と宮川泰さんに頼んだそうだ。
出来上がった曲に非常に満足した、というエピソードだった。
そう言われてみると、女声のスキャットの入っているテーマ曲や白色彗星のテーマは「英雄」の第2楽章のオマージュとして書かれたとしても納得できる。それにしても素晴らしい出来栄えだと思う。

ヤマトのTV放映が始まったのが1974年なので、小学4年生の私はあまり記憶がない。
第1作目の映画が公開された1977年は私は小学6年生で映画館に行き一気にヤマトに夢中になった。日本中がヤマトブームであった。
鹿児島沖に沈んだ日本海軍の「大和」は”1億総特攻のさきがけ”として悲愴な最期を遂げたわけだが、地球防衛軍連合宇宙艦隊の「ヤマト」は”必ずここに帰ってくる”と凱旋を約束した出撃であった。
実際、ヤマト最大の見せ場はあの一撃必殺、無敵の最終兵器”波動砲”の発射シーンであろう。

実際の大和の歴史において、
もしレイテ沖会戦で僚艦武蔵が沈まなかったら・・・
そして大和の世界最大の46センチ主砲がドッカンドッカン火を噴いていたら・・・

そういうことは誰でもが想像すると思う。

宇宙戦艦ヤマトにおいて、
あの東郷平八郎似の沖田艦長が、「古ぁ代ぃ〜、波動砲だぁ!」と帽子のツバから片目だけ見せて叫び、
古代が、「波動砲発射10秒前ッ! 対ショック 対閃光防御ォッ!」
「10・9・8・7・・・・」
「波動砲ぉ 発射!!」

ドガガガガーーーーーーー

すると憎たらしいガミラスの奴らが驚きの表情とともに
「ぎえ〜〜〜〜」と叫び声も半ばに波動砲の閃光に飲まれて宇宙の闇に消えていくーー!

「そう!! これだよ!!これ!! この時を半世紀待っていたのだよ!!」

という爽快感である。



その翌年。
すっかりアニメ少年になった中学1年生の私は、ヤマトや森雪やメーテルのセル画をせっせと書いてはクラスの友人たちに1枚500円で売っていた。
当時はセル画を書く道具は東映の支社に行かないと売ってなくて描けるヤツもいなかったので、見よう見まねで描いた私のセル画でも飛ぶように売れた。

「さらば宇宙戦艦ヤマト」が公開されたのはその年である。
当然、私はヤマトに少年兵として志願して乗り組んだ。
凱旋を約束して旅だった前回の戦いと違い、今回は日本海軍の「大和」同様、特効作戦であった。
ご存じ、森雪の亡骸を抱いて一人ヤマトに残り、白色彗星に向かってゆく古代・・・、あのシーンに涙が止らなかったのであった。
私は島大介らと救命艇でヤマトを後にしたわけだが、実際のヤマトに乗り組み、白色彗星帝国との死闘で多くの将兵が負傷し死んでいくのを見た私にとって、その後のヤマトの続編は実に興を削ぐものがあった。

「あの時死んだのはナシね」がアリなら何でもアリじゃん・・、と思うのだ。
私のなかのヤマトは「さらば・・」で終わっているのである。


映画「宇宙戦艦ヤマト」と「さらば宇宙戦艦ヤマト」の2編は大人の鑑賞にも耐えうる名作だと思う。
実際の大和の歴史が背景にあることもそうだし、そしてここでも「名作に名曲あり」の言葉を思い出す。

そんなことを考えながら演奏した今日の野外コンサートであった。


<参考資料>
波動砲発射シーン詰め合わせ(You Tube)  
Posted by arakihitoshi at 23:22Comments(11) │ │音楽 | 雑感

2008年08月07日

恐怖のステレオおやじ 【8】

前回からのつづきです。


さて、上階のステレオ音は相変わらず階下の私の住む部屋に鳴り響いています。
夏は窓を開けているので、天井からベース音を中心に響いてくる直接音と、駐車場を挟んで向いにある棟に跳ね返って聞えてくる反響音にダブルで悩まされました。

何故かドとソの音が強烈に聞えるベース音は
ド〜〜〜ド〜〜ソ〜〜〜〜〜ドドソ〜〜・・・ド〜ソ〜〜〜〜〜
という感じで天井を震わせています。

一方、向かいの棟はマンションの駐車場を挟んで10メートルほど離れて建っていますが、ステレオおやじは窓を開け放してステレオを聞くので、ジャズの音が駐車場内を周ってしまって大変な騒音になっています。
ステレオおやじが引っ越してきて最初にこの音は聞いた時は、すぐ隣の公園でどこかの保育園の運動会が始まったのかと思ったくらいです。

三階のN島さんの奥さんは口論の時に「ステレオうるさい」と言っていましたが、よく他の部屋の皆さんは苦情を言わずに我慢していられるな・・、と不思議でした。いや、苦情は言っていたのかもしれませんが。

実のところ、妻ともよく言い合いになったのですが、私にとって上階のステレオ音は我慢と忍耐の限界を越えていましたが、妻は「たしかにうるさいが、数年なら何とか我慢できる」と、私に比べるといささか寛容でした。
私は上階のステレオの音が聞えてくると、ステレオおやじの憎々しげに斜めに歪んだ口元を思い出さずにはいられませんでした。
実際の音もさる事ながら、「なぜ窓を閉めないんだ?」とか、「ステレオが趣味ならなぜ防音に配慮しないんだ?」と相手の身勝手を責める気持ちが、さらに音に対する許容量を低下させていることは否定できませんでした。

生活音かそれとも騒音か、という問題は非常に難しいと思いました。


ステレオおやじにはその後、廊下で会った時などに機会を見て”軽いクレーム”という感じで2度か3度苦情を言いました。
あまり頻繁だと反感を煽るだけなのでとても気を使ってタイミングを測って言ったつもりなのですがまったく逆効果で、ステレオおやじとの関係は悪化する一方でした。

ある時、会社帰りのステレオおやじと廊下で出くわし、こんな会話がありました。
挨拶につづけて、わたしは思い出した風を装ってなだめるように言いました。
「あ、それから○○さん(ステレオおやじの名)。気を使っていただいてはいる様なのですが、最近ステレオの音量がまた大きくなったように思うんですが・・、もう少し配慮していただけると・・」
紺色のスーツ姿のステレオおやじは私が言い終わる前に低い声で話し始めました。顎を突き出すいつもの話し方です。
ステレオ「あなたの所の楽器の音も聞えてますからね。それからあなたレッスンやってるでしょ。ここのマンションはレッスン禁止だからな。」
いきなり思いがけない反撃に会い、私は戸惑いました。ステレオおやじの頭頂部にわずかに残った白髪が頼りなげにフワフワと風に揺れています。
「レッスンといってもたまにですよ。せいぜい週に2〜3回ですよ。」
「週に2〜3回でも禁止は禁止でしょ。練習の音なら少しは大目に見るけど、レッスンは別だから」
「防音室の中でやってるんですよ。そんなに迷惑かけてるとは思えませんけど・・、そこまでおしゃるならステレオの音も気をつけてください。せめて窓を閉めるとかしてもらえませんか?」
「音はお互い様でしょ。神経質なこと言われてもね。あなたのレッスンの音も1階の○○さん(ご隠居夫婦)の家にも聞えて迷惑してるそうだからな。」
「○○さん(ご隠居夫婦)が迷惑だって仰しゃったんですか?、そんなはずはないんですけど」
「まあ、とにかく、レッスンは困るから。不特定多数の人がマンションに立ち入ることにもなるから」
ステレオおやじは斜めに引きつった薄い唇を尖らせて一気に話し終え、私の返事を待たずに去っていきました。


この人の攻撃的な性格は一体何なんでしょう、自分に対する批判は倍にして返えさないと気が済まないようです。
その方法の巧みさと執念には才能さえ感じました。

結局、苦情を言ったつもりがレッスンが禁止だと言われてしまいました。
それと、1階のご隠居夫婦が「迷惑だ」と言うはずはなく、多分老夫婦から「(楽器の音が)少しは聞えますけど」という言葉を引きだして、それを誇張したのだと思います。いかにもステレオおやじがやりそうな手法です。

それにしても、週に多くて数回程度、防音室内でのレッスンを問題にされるとは思いませんでした。「音楽教室としての使用は禁止」という管理規約は確かにありますが、それは「○○ピアノ教室」などと看板も出して、ひっきりになしに生徒が訪れる”音楽教室”としての使用は禁止なのであって、自宅として使用している部屋に時おり生徒が訪れてするレッスンを禁止したものではない、という私の理解だったのですが、ステレオおやじには通用しないようです。

レッスンに関してはまだ後日談があるので後に譲ることにします。


それから、ステレオおやじとの関係は冷えこみ、挨拶しても無視されるようになったので、こちらも挨拶しなくなりました。
妻と娘は挨拶していましたが、とても横柄に挨拶を返してくるので感じが悪いです。


その次の年、あろうことか管理組合の総会で、ステレオおやじが組合の理事長に就任しました。
その年の総会は私は仕事で出席できなかったので、後日配られた議事録で知りました。
ステレオおやじはマンションの運営にやる気満々だったので、なかなかなり手のいない理事長に就任するのは当然の成り行きだったのかもしれません。


理事長に就任してからのステレオおやじの振る舞いはさらに加速していきます。

そしてどうやら、「被害」にあっているのは私だけではなかったようで、だんだんとステレオおやじの異常な行動が浮かび上がってきました。



【つづく】

  
Posted by arakihitoshi at 15:09Comments(0) │ │恐怖のステレオおやじ 

2008年08月05日

恐怖のステレオおやじ 【7】

前回からのつづきです。


ステレオおやじと口論している女性は、ステレオおやじの向かいに住むN島さんの奥さんでした。

このマンションの私が住む棟には3系統の階段があり、それぞれの階段の1フロアーに二世帯づつ部屋があります。
なので、ステレオおやじが住む3階にもステレオおやじ夫婦の他にもう一世帯の部屋があるのです。

ここで、私が使っている階段を共有しているメンバーをご紹介します。

1階
・ご隠居夫婦。人の良い老夫婦が住んでいます。随分と親しくさせてもらいました。子供好きな夫婦で私の子供たち(この後に一人増える)もよく遊びに行かせてもらったり、おすそ分けをしたりされたりしていました。
1階はマンションの構造の関係で1世帯のみです。

2階
・私の家族。
・社長さん家族・・50代の小さな会社の社長さん家族。ご主人は大柄でマンションの管理組合の理事長も長年している頼りになる人でした。すごい美人の奥さんと大きな子供が二人。長男は独立し、長女は同居していました。ここの家族とも親しくさせてもらいました。

3階
・ステレオおやじ夫婦
・N島さん家族・・私と同世代の医者のご主人と奥さん。小学生〜幼稚園の元気な子供が3人。賃貸で住んでいました。


さて、耳を澄まさなくても聞えてくる口論の中身はこんな感じです。

ステレオ「だから、犬はマンションの管理規約で禁止されてるんだから。飼っちゃだめでしょ」
奥さん「ですから、不動産屋さんにも確認して飼ってるんですよ。それに小さな室内犬でしょ。迷惑かけてますか?」
ステレオ「規則は規則ですからね。鳴き声だって聞こえるわけだし、他から見たらあのマンションは犬を飼ってもいい。という風になるんですよ。あなたの家が規則を守らないとマンション中が迷惑するんですよ。」
奥さん「迷惑というなら、お宅のステレオの方が迷惑ですよ。それにベランダで煙草吸うの止めてください。うちに煙が入ってきて迷惑ですよ!」
ステレオ「それは関係ないでしょ。とにかく犬は飼っちゃいけない規則だから」

私は相変わらず毎日天井から聞えてくるジャズの騒音に悩まされていましたし、N島さん一家は同世代で似た家族環境だったので、N島さんの奥さんに内心エールを送りながら口論に聞き入っていました。

確かにマンションの管理規約に犬や猫などペットの飼育を禁じた項目はあります。
どのマンションにもペット禁止の決まりはあると思います。
ですが程度問題で、分譲マンションでは小さな室内犬程度は目をつむるというケースが多いようです。

後で聞いた話しですが、ステレオおやじは東京から数年ぶりに戻ってくるなり、賃貸で住んでいたN島さんに犬の件で毎日の様に執拗に苦情を言ったりドアに張り紙をしたりしていたそうです。
この日はたまりかねた奥さんがついにキレた、ということだったようです。
結局その2〜3ヶ月後、N島さん一家はステレオおやじが原因で引っ越していってしまいました。


この事件があった2ヶ月ほど前、ステレオおやじが東京から戻ってきて初めての管理組合の総会があった時のことです。
管理組合の総会はそれまでだいたい5〜6人の人たちが出席して、あとは委任状で成立していました。
出席しているのは男性ばかりで、主に平成元年の分譲時から住んでいる世帯のお父さんたちです。
マンションの修繕箇所の相談と、あとは世間話が中心の平和な会だったのですが、ステレオおやじの復活(私から見ると出現)で雰囲気が変わりました。

ステレオおやじも分譲時からの区分所有者で、久しぶりに東京から戻ってきてやる気満々でした。修繕箇所や大規模な清掃箇所を次々と挙げていき、修繕積立て費を一気に倍額にする話しを持ち出しました。
「それはちょっと・・・」という場の雰囲気は一切無視という感じでした。
「マンションというのは管理を買っているわけだから。分譲時は三千万、四千万したこのマンションも今は見る影もない」
と言って一歩も譲りません。

確かに、分譲時に入居した世帯の人たちと中古で買って入居した世帯にギャップというか、多少の溝はありました。
バブルだった分譲時は3千数百万〜4千万円したマンションでしたが、私が入居した平成10年には1400万円まで下がっていました。
分譲時に購入した人は10年経った時点でも、ローンの残高が下手をすると当時の実売価格を上まわっているという状況だったと思います。
「おもしろくない」というのが正直なところだったのかもしれません。

しかし、「今は見る影もない」とまで言われると途中入居の私はおもしろくありません。
これからしばらく後の総会でステレオおやじが言った
「分譲時に購入した人は選ばれて入ったわけだけど、中古で購入してくる人はどんな人が入ってくるか分からないからね。マンションのルールは分譲時に入った人間で決めるべきでしょ」
というヘンテコな理屈には唖然としました。
ステレオおやじの途中入居者に対する偏見と差別は露骨で、口論していたN島さんの家の話題になったときも、誰かが「あそこのご主人はお医者さんだっけ?」という言葉にたいして、「ふんっ、勤務医だろ」と吐き捨てる様に言ったのが印象的でした。
「警察官が見回りにきた」と聞けば、「ふんっ、外事警官だろ」と言ってみたり、よく分かりません。
何でもいいからとにかく見下さないと気が済まないようです。


そしてこの後、マンションの管理組合は思わぬ方向に向かっていったのです。


【つづく】  
Posted by arakihitoshi at 00:22Comments(4) │ │恐怖のステレオおやじ 

2008年08月04日

ナウな札幌地名辞典

みなさんはご存じでしょうか。

すすま前

という言葉を・・・・。


今日、私よりかなり年の若い従妹と話していて始めて知りました。
私はヤングのボキャブラリーにはそれなりに詳しいつもりだったので、この言葉を”聞いたことがない”という事実に正直ショックを受けました(゜ロ゜;


そして、みなさんはご存じでしょうか。

ヒロシ

という待ち合わせスポットを・・・。

例えば、あり得ないかもしれないけど、例えばですよ。
あなたが若くて綺麗でそこはかとなく知性も漂うスタイル抜群の美女から

「7時に、ヒロシで待ってます。きっと来てくださいね(ハート)」

というお手紙を貰ったとして、そのヒロシとかいう場所(?)に行くことができますか?

どうです? 少しは危機感を持ったでしょ?


札幌の街がここ10年で大きく変貌を遂げるあいだに、若者と中年の間に埋めがたいジェネレーションのギャップが生じてしまったようです。
同じ街に生活していながら、彼らとはまさにパラレルワールド状態になっていたのです。
従妹に聞くまではこれらの言葉、一つも知りませんでした。
全国に1万人いる私の愛人達の中には20代のギャルも当然いますが、彼女たちからこういう言葉を一度も聞いたことがないというのは、「オヤジに言ってもわかんないから〜」と思われていたからでしょうか・・・。屈辱です(鬱


さあさあ、そこのご同輩、若者相手に「バブルの頃はな〜」なんてまったりと語って嫌われている場合じゃありませんよ。
私と一緒に勉強して、明日からは”ヒロシ”を使いこなしましょう。
そして会社で部下に、「課長〜、やりますね〜〜。この遊び人っ!」と言わせましょう(イメージ)。

今回は私が特別に札幌の街のスポット名新旧対照表を作ってあげたので、しっかりお勉強しましょうね。

(新)すすま前    (旧)ススキノのマクドナルドの前
(新)みつまえ    (旧)三越のライオン前
(新)ヒロシ     (旧)三越の地下入り口前
(新)どおり     (旧)大通り界隈
(新)さつえき    (旧)札幌駅界隈
(新)ロビ地下    (旧)ロビンソン地下、もしくは、ススキノ駅改札前

どうですか? いくつ分かりましたか?

ヒロシ、というのは三越の地下入り口前にある大きなTVの名前らしいです。
なんでそんな人間みたいなヘンな名前がついているのかは不明・・・・

「今日どこで飲む?」
「ん〜、どおりかな、さつえきにする?」
などと使うらしいです。


これを覚えたら、あなたもナウなヤングにバカ受け間違いなし!


P.S.
季刊「ゴーシュ」に連載中の”札響3ちゃんえる「クラヲタへの道」”を、HPでも読めるようにしました。
ただし1号遅れなので、3ヶ月〜6ヶ月遅れの転載になりますが・・。
ぜひご覧くださいませ。
こちら  
Posted by arakihitoshi at 00:46Comments(2) │ │雑感 

2008年08月02日

恐怖のステレオおやじ 【6】

前回からのつづきです。

ステレオおやじは私を見つけると、愛車の高級外車を拭く手を止めて話しかけてきました。
「やあ、こんにちは。今度のポップスコンサートは出るんですか?」

一瞬何を言ってくるのかと身構えた私は拍子抜けしました。
「え? あ、はあ。出ますよ。札響の演奏会は全部出ますから」

この時のステレオおやじからは先日の様な憎々しげな表情は感じとれませんでした。いたって平和です。まあ、多少偉そうではありますが。
ステレオおやじは、「ああ、そう、出るんですか」と小声で言った後に続けます。
「キタラに聴きに行きますよ。」

私は反射的に”対お客さん向け”の善良な笑顔で、
「あ、そうですか。いらっしゃるんですか。ありがとうございます」とかなんとか応対して、ステレオおやじの斜め向かいに停めてある自分の車に乗り込みました。


この態度の変化はどう考えればよいのでしょうか。
こないだは言い過ぎた・・と、彼なりに反省して私との関係改善をはかろうとしているのでしょうか・・。
それならそれでとてもありがたいことです。
この頃の私は、札響の経営破綻と経営改革の時期でとても忙しく、また前年に父が亡くなってその後始末で私的にも忙殺されていました。
そのうえマンションの住人とトラブルを起していられない・・という状況でした。

ちなみにステレオおやじが言った”ポップスコンサート”というのはこの経営改革の一環で自主公演として始まった『札響ポップスコンサート』のことです。


その日の夕方マンション帰るとさらに意外な出来事が待っていました。
ドアチャイムがなり、出てみるとステレオおやじが立っていました。
「ああ、さっき東急ハンズでスピーカーの下に敷く吸音材を買ってきてね、置いてみたから、聴いてもらえますか」
ステレオおやじに言われるままに部屋に戻って、上階から聞える音に耳を澄ましました。(もっとも、耳を澄ますほど小さな音ではありませんが)

ひょっとして、実はそんなに悪い人じゃないのかもしれません。
こないだはたまたまタイミングが悪かっただけかも・・。
音楽好きであることには違いないんだし、根はけっこういい人なのかもしれません。

私も生活の場であるマンションにまで争いを抱え込みたくはないので、そうだとしたらとても助かります。そう思いたいです。


ステレオ音は確かに少し小さくなっていました。ベース音も多少弱まった気がします。しかし元々の音量がデカすぎることに変化はありません。

ステレオおやじが降りてきました。
「どうですか?」
「ええ、たしかに少し静かになった気がします。でも音量自体もう少し絞ってもらえたら・・」
私はイヤな感じにならないように、作り笑顔で言ってみました。
ステレオおやじも作り笑顔で答えてきます。が、さっきよりも多少口元が歪んでいます。
「まあ、しばらくこれで様子見てもらえませんか?。本当はもっと大きな音で聴きたいわけだから」

なんだかよく分からないまとめられ方をしてしまいました。
しかし、階下を少しは気にしているようですし、そのうち他の住人からも苦情が出るかもしれません。


やがて上階からいつものジャズの音が聞えてきました。この日の最初はアップテンポのトリオです。いつも不思議に思うのですが、ベースの"ド"と"ソ"の音だけがやたらと大きく聞えます。どの曲でもそうです。何故なんでしょう・・・。
そんなことを考えながら私は溜め息とともに天井を見上げました。たしかに少し音量は下がった気がします。
ステレオおやじの言うようにしばらく様子をみるしかなさそうです。


そして数週間が経ちました。
ステレオおやじとはマンションの玄関や、たまに近所のスーパーで顔を合わせます。妻や子供が一緒の時もありますし、私一人の時もあります。
「おはようございます」と挨拶すると、「おはよう!」とやたら偉そうに返してきます。
向こうは奥さんが一緒の時もありますが、奥さんはこちらが挨拶しても絶対に返事をしません。恐ろしく無愛想な人でした。

ステレオの音はやはりジワジワと音量を上げて、結局元に戻ってしまいました。
吸音材を入れてもその分音量を上げたのでは意味がありません・・。

そしてある日、仕事からもどるとステレオおやじが住む三階の廊下から怒鳴り合っている声が聞えました。
ステレオおやじが誰か女性と口論しているようです。

私の耳に飛び込んできたその口論の内容は・・・


【つづく】

  
Posted by arakihitoshi at 10:06Comments(2) │ │恐怖のステレオおやじ 
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