ラノベ部屋

ライトノベルを書いてみたり、読んでみたり。

大切な君のために私にできる一番のこと

 翌日、僕は部屋の中にはただ一人うつむく姿がありました。
 鏡に写った自分自身というのはなんという滑稽なことなのでしょうか、その姿を見ながらそういえば最近まともに食事を取っていないことに気がついたのです。
 きっとみんな、心配しているかもしれない、特に小鳩は優しい子だからすごくすごく心配をしているのかもしれない。そう思うと申し訳ない気持ちでたくさんになる。
 でも、立ち上がる気力は湧き上がることはない。自分はなんと情けないことなんだろう、叱咤してみても現状が変わることはありません。
 ただやせ細った自分の目が不思議と炯々としていることに気が付きました。
 なんだろう、この世ならざるものでも見えているのかな――うん、バカバカしい。
 今日もやはり部屋から出るつもりはありませんでした、ただ午後から精神科の先生が来てくださるということで、その時までには身綺麗にしておかないといけない。
 気にしないよと言ってくだされたけれど、せっかく来て貰えているのだから、だから、自分がやらなければいけないことなのだ。
 そう思いながら立ち上がり、ふらふらとした調子のままで部屋を出ると、大学に行っているはずの姉の姿がありました。
「ナツメ!」
「あ、ごめんなさい……な、なあに?」
「ううん、怒鳴ってしまってごめんなさい。母が出かけてしまうというから、その代わりに家に残っているの、あなたも一人になってしまえば心細いでしょう」
 姉さんはそう言いながら微笑みます。
 ひだまりのような優しい笑みのはずが、僕の中に強く突き刺さるような感覚が湧きました。
 恐らく罪悪感というものなのでしょう。
「それで、どうしたのナツメ、お腹すいた?」
「あ、食欲はないかも……そうじゃなくてね、お風呂、入ろうかと思って」
「それじゃあ、お風呂を沸かすわ、下でテレビを見ながら待ってる?」
「テレビか……あんまり見たくないかも、部屋にいるね」
「そう、わかったわ、ゆっくりしているのよ?」
「うん、甘えてしまってごめんなさい」
 僕がそう言い終わらないうちに姉の体に抱きしめられます。
 頭を撫でられながら、汚れてしまうよ? と僕がつぶやくと、あなたはとても綺麗だからという答えが返ってきました。
 やはり姉さんはとても優しい人です。最近身の回りの人たちがみんな心優しい人のように特に思うのです。
 姉さんは僕を部屋に返すとパタパタと階下に向かい、僕が入るであろうお風呂のスイッチをいれる音が聞こえました。耳聡くなったような気がするな、と考え事をしながら、精神科のお薬が処方されているのを思い出します。
「お水は……下に行かないとないか」
 さすがに僕の部屋には冷蔵庫や貯蔵してあるミネラルウォーターなどは存在しません。そのような贅沢な生活は自分には不適切です。
 ドアから抜けだして、階段をゆっくりと降りると、またも姉さんと顔を合わせました。足音を聞きつけてリビングから出てきたのでしょう。
「あ、ごめんね、お薬、飲まなきゃって思って」
「そ、そうだったごめんなさいね、でも、一応食事をしないといけないけれど……」
 と言ってから言葉を留めます。
 なにか溜め込むような、そんな時間の帳が降りる中で、僕は少々緊張をしてしまいました。
「じゃーん、10秒チャージ!」
「あ、ゼリー?」
「お姉ちゃん考えました、ナツメに食欲が無いなら、食欲がなくても食べられるものを買ってくればよいのだと」
 姉は胸を張ります。
 たしかに飲んでも大丈夫そうかな、と思います。
 なので、僕は10秒チャージを受け取ると、その容器が少し冷たいことに気が付きました。
「あれ? もしかしてさっきもこれ、持ってきてくれていた?」
「ううん?」
 冷蔵庫に閉まっていたわりには暖かく、ずっと持っていたわりには少し冷たい10秒チャージを眺めながら、僕は涙がでるような心持ちになります。
 きっと、僕に食べさせるために冷蔵庫から出したり入れたりしていたのでしょう。本当に食べるかどうかはわからないのに。
「ありがとう、姉さん」
「いえいえ、それじゃあ、お水を持ってくるね、廊下は冷えるからお部屋で待ってるんだよ?」
 そう言われたので僕は素直に部屋に戻ることにしました。
 部屋に戻ると、不思議な現象が起こっていました。鞄の中身が引き出されていて、床に散っています。物取りだと思って、硝子窓のカギをチェックしますが何事もない様子。
 とりあえず散らばっていた荷物を元に戻さなきゃと手を伸ばすと、そこに都合悪く姉がやって来ました。
「あ、これはね?」
「掃除ならするわよ? たまには換気してみないと、どうする?」
 何ごとか起こったのを察しながらも、姉さんは黙っていました。もちろんただごとではないということを感じているわけではないので、罪悪感と申しますか、そういったものは感じませんでしたが。
 姉さんは僕にミネラルウォーターの入ったコップを手渡すと床に散らばっていた教科書を片付け始めます。その姿に申し訳無さを覚えながらも、気を使わせてしまってはいけないと考えておとなしく口にお薬を含んで水で飲み込みました。
 姉さんは掃除をしながらおもむろにベッドの下を覗き込むようにします? 僕は首を傾げました、一体何を探しているのでしょう?
「うん、綺麗ね」
「そう? 埃っぽくなかった?」
 なにせしばらく掃除をしていなかったものだから。
「だいじょうぶよ」 
 姉さんは意味深な言葉を残しながら、僕が飲み終わった十秒チャージやお薬の空のゴミを受け取ると、微笑みながらドアから出ていきます。
 姉さんがいなくなると、部屋が心なしか寒くなったような気もします。
「先生が来るまで、寝ていよう」 
 僕は言いながらベッドに横になって目を閉じました。

たいせつなきみのためにわたしにできるいちばんのこと 1

 僕の目の前で大切な人が亡くなりました。
 僕が第一通報者であったことから、僕が一番の彼女の死への目撃者であり、誰にも負けない要素であるんだとほくそ笑みながら、僕はただその自己満足への興奮でしばらくは平気でした。
 周りの人たちは、お葬式や学年集会の中でも、ボーっとして表情一つすら買えない自分自身に対して恐怖感を覚えていたと、それは隣の幼なじみが語ったことではありますが、僕にとって一人の人間の死というのはあまりに残酷で、あまりに現実離れをした事実でありました。
 その事実に対して自分自身があまりに冷酷であったというのは否めないことであり、だんだんと彼女の死に際の衝撃というものがだんだんと薄れていったのも事実です。
 その女の子の名前はコノカさん。彼女は男女を通じて誰からも好かれる人気者でありました。彼女の人気は学年をはるかに超え、先生からも好かれているような生徒でした。
 誰からも眼中にない僕のような生徒からはお付き合いできる関係では到底無く、彼女もまた僕のことなど記憶していないことは確実でしょう。事故の現場にたまたま遭遇したところで、今わの際に彼女が僕の姿を見たということは、不幸に置いてないと思われます。きっと最後はお友達とか、好きな人とか、そんな人を見たかったでしょうから。
 先ほど僕のことなどまるで記憶に無いと言いましたが、彼女は僕に話しかけてくれる数少ない人でもありました。ただそれは、他の生徒の人達のお味噌であり、金魚のフンできな何かだったのでしょう、彼女に近い友人では僕の幼なじみである小鳩がいましたから。
 その小鳩の近い友人として僕に話しかけてくれていただけにすぎない、その事実は彼女が亡くなってから、僕の心のなかをドリルで穴を開けるようにめちゃくちゃにしていきました。
 ただ彼女は小鳩の友人である僕に、贔屓目です。ただ好きな人への贔屓目であるんでしょう、他の人よりもにこやかに対応をしてくれているようでした。そのようなことを誰かに言えば妄想の世界で生きるのはやめろと止めることでしょう。
 それでも僕は、小鳩の近くにいることをやめることはありませんでした。たとえグループの中でなんの役割も持たない置物がいる。そんな立場に甘んじていたとしても。
 コノカさんが僕の目の前で亡くなられたことは変えようのない事実です。それがまた偶然の産物であったことを証明するには、僕はまだ心根がざわついて、もしかしたら僕のせいで彼女は死んでしまったのではないかと思うくらいです。見た目からして女性みたいな外見で、弱々しい僕の姿を見ないように早歩きをしていたら事故にあってしまったのだと、そんなことを考えてしまうのです。
 それでもそんな偶然の出会いに対して、僕の心が胸を躍らせていたというのは紛れもない事実であり、ごまかしようのない出来事なのです。思い返してみても、その時の自分がなんて愚かだったことなのか、いくら詰っても足りません。
 普段は違う道を下校をしているのかと思った、彼女に対して僕が感じた感想であり、それはたしかに事実だったのでしょう。彼女がなぜ僕の目の前を歩いていたのかは彼女自身しかわからないとのことでした。彼女の母親が普段とは違う道を歩いていたことと、彼女に普段とは違う点はなかったのかと、根掘り葉掘り聞かれたことから、もしかしたら僕はとんでもないことをしてしまったのかもしれないと思うようになりました。
 彼女がトラックに轢かれてしまったのはもしかしたら僕のせいではないのかと。僕はもしかしたら彼女を助けることができたのかもしれないと。


 その事実を知ってから僕は学校に登校するということを止めました。それは特に理由があるわけではなくて、周りの人が自分に対して、事故を止めることもできなかった臆病者であるかのように思っていると感じられたからです。
 誰かが自分を見ているのを感じるたびに、実はコノカさんがとり憑いて僕のことを恨んでいるように感じました。そのような恐怖に対して、僕が学校という居場所を捨てるには十分な理由であるように思います。
 僕は自分の部屋のベッドで膝を抱えながら、空ばかりを見つめていました。ここ最近では精神科の先生に見て頂いています。PTSDという症状であるのか、お医者様ははっきりと申し上げませんでしたが、事故に対して深い責任を感じていることは見ぬかれていました。ただそれを解決するには時間がかかるから、まずは学校に行きたくなるまで待ってみようと、そう家族に言ってくれたのです。
「ねえ、ナツメ、あんたまた学校に来なかったじゃないの」
 僕には幼なじみがいるというお話はしましたね、彼女の名前は小鳩。小さい鳩と字を書くわりには元気いっぱいで、コノカさんとは良き親友であるように感じました。実際に中はとても良かったのだと思います。小鳩のお味噌である僕がさり気なく色々なイベントに付いて行っても特に気にされる様子はありませんでしたし。
 小鳩は僕が学校に行かない理由を知りませんし、僕が世間でいうところのうつ症状のようなものを抱えていることも知りません。ただ、事故に対して深い責任を覚えておりそれに苛まれていることは、聡明な彼女からすれば簡単に把握することができたことでしょう。
「……ごめんね」
 僕がそういうと小鳩はいつも困ったような表情を見せます。彼女は優しすぎて僕を困らせるのが大の苦手でした。だからこそこんな僕の幼なじみを何年もやり続けていることができるのでしょう。特に列記するとすれば女の子みたいな弱々しい顔つきをしているくらいしかない僕に対して嫌な顔をせずに付き合ってくれるのは、彼女くらいです。他の男子のクラスメートから僕というのはいない人間か、ものすごく嫌悪されるのかのどちらかです。弱々しいというのは男子の中では壮絶なコンプレックスとなり得るのでしょう。
「あんたさあ、いつまで責任感じてんの?」
 ごまかすように小鳩が言いました。それはまるで僕に対して罪という名の杭を僕の心臓に打ち付けているようでした。何彼女が悪いことは何一つないのですが、僕は俯いて完全に黙ってしまいます。
 そんな僕を彼女は肩を掴んで揺れ動かし、説得をするかのように告げるのです。
「ねえ、助けられなかったんだよ、助けられなかった。あんたは第一目撃者で、もしかしたら助けられる一にもいたのかもしれない、なんて思ってる、でもね、あんたはホント偶然に見かけてしまっただけ、コノカを助けるには距離も時間もなかったんだよ?」
 そういった僕の両頬を優しくてで包みながら語りかけてくれます。その真っ直ぐな瞳は僕を突き刺す槍のようでした。彼女は何も僕を責めているわけでもなんでもないのです。僕が暗く落ち込んでいるなら助けてあげたいの一新で僕のことを考えていてくれている。
「……ごめんね」
「な、なんで、謝るのさ」
「……ごめん」
 僕には謝罪をすることしかできません。うつ気味になってしまったのもきっと自分の心根が弱いせいなのでしょう。世の中のすべての鬱の方がそうだというわけではなく、僕の心がたまたま弱かったから、うつだというだけで他意はないのです。その弱い心根をはっきりと矯正をするつもりなのでしょう。
「しっかりしてナツメ、目を覚まして! あなたならできるから、頑張れるから!」
「僕も頑張ってたら……コノカさんを助けられたかな……? ごめんね……」
「ナツメ……っ! あんたってば!」
 頬を叩かれたと気がついたのは、彼女に叩かれてからしばらくしてから事でした。あまりに呆然として、小鳩を観る景色が軽く涙で滲んでから、その事実を受け入れることしかできませんでした。
「バカ! 大馬鹿よ! あんたってホント馬鹿! 元気に、元気になりなさいよ、なんでも、あたしなんでもするからさ……?」
「……ごめんね」
 僕がそういうと小鳩は泣きながら部屋を出て行きました。追いかける気力というものはまるで僕には存在しなかったのです。

大事な人に愛を捧げよう

 もしもあなたに大切な人がいるならば、大切にする方法を伝授しよう。
「などと言ってみる、その心根やいかに」
 自分自身は死神。
 死者の魂を運ぶがさだめ。
 そのさだめに従わざるものには。
 思い罰がくだされると聞いている。
「でも実際に見たことないから、どうだか知らんね」
 私が生まれたのはおよそ1年ほど前。
 人であった時代を積み重ねるとそれよりも少しだけ増えるのか。
 ただ、今人の世の輪廻から時離れた自分には、人の世の道理など通用しない。
 人の道理など、所詮人の世でしか通用しないからだ。
 それを盲信することほど馬鹿らしいことはない。
「しかしながら、人であった時には、道理というものに敏感であったのだなあ」
 もしも人間であった時代から、人の世の道理などというものが、いくらでも変化していくものだとわかりきっていたのならば、自ら生命を断つこともなかっただろうに。
 自分自身というものは他人とは違っていて、違っていて当たり前であろうのに、違うことに罪悪感を抱いていた。
 それが自己を破壊するほどの衝動でなければ、夜中のちょっとした悲しみに値する程度のものだったのだろうけれど。
「君はなぜ死ぬ、なぜならば君は、君の世界だけを見て世界すべてを見たような気でいるからだ」
 死神というのは魂をすくい取り、創造主のもとに送り届けるのが仕事。
 そして、不的確な魂は死神として再生をするのが仕事。
 不的確かどうかというのは死神自身の判断による、創造主の手をわずらわせることもなく。
 私を死神にした先輩は笑いながらこう言った。
「ほどよく人間に絶望して、人間の条理を超えた世界を夢見ていたから」
 馬鹿馬鹿しい。
 私は世界からどこか遠く置いて行かれた感覚を持っていたから、死にゆくことによって自分自身という体から魂を切り離し、新しい世界へと行きたかったのだ。
 結局私は新しい世界など行けることもなく、こうして現実世界に赴いて死者の魂を回収する仕事に従事している。
「もしもし君よ、君はなぜ死ぬのだ、死ねばなにもかも失うと知らずに、なぜ死ぬのだ、失うことよりも怖いものがあろうものか」
 私は死ぬことで新しい世界を求めた。
 新しい世界を求めた結果がこうして現世に留まることで罪償いをすることならば、そのような馬鹿馬鹿しいこともあるまいて。
 だって私は、
「君も、新しい世界を求めたのだろう、死ぬことが現世よりも素晴らしい世界へと繋がると信じていたのだろう、だが神は、そう慈悲深くはないのだ、なぜならば神は、君に生きることを望んでいたからだ、だが安心してほしい、君は生まれ変わり、新たな人生を歩む」
 私は新しい死者の魂を捕まえて、袋へと詰める。その悲しみ、喜びは計りえない。悲喜こもごもという言葉がある。人間が死ぬことはその言葉に全て反映されている。
 この世の道理から離れた喜びと、二度と現世に戻ることのできぬ悲しみと。
「もしも君に大切な人がいたならば、その人を大事にする方法を教えよう」
 その言葉は消して君には届かないだろうけれど。
「大事にするというのは愛するということだ、信じるということだ。その人の幸せを祈るということだ。そのことは、生きていなければできないことだ」
 私はひとりつぶやいて空を飛ぶ。
 新しい死者の魂を求めて空を飛ぶ。
 私が求めていなくても人は死ぬ。
 神が定めていなくても人は死ぬ。
 それが人間。
 人間ができることは死ぬことばかりではなく、生きていく決意をするということは、得てして死んでから気がつくものだ。 

魔王少女は空を舞う

 薄いチョコレートアイス色の髪の毛は私のお気に入りだ。
 夜空を飛ぶ時にさらさらと舞う姿は、おそらくとても幻想的に映るだろう。
 しかしながら、私が空を飛んでいる姿は決して人間の目には捉えられない。
 人間が説明する超音速というスピードで髪の毛が、ドライヤーで髪の毛を乾かす時のようになびくのかは分からないけど。
 私は、髪をなびかせて夜の星空の下で、踊るように飛んでいる。
 さて、人間が作り出す戦闘機という機械がある。
 彼らの手で創りだされる技術の結晶は、いつの日か魔法を超えるかもしれない。
 だが今のところは、8対2くらいで私の魔法が勝っている。
 なにせ超音速飛行をしてもうるさくない。
 これが地上を走るようなF1カーだとしたらどうだろう。
 夜中に走ろうものなら警察騒ぎになって大変だ。
 もっとも私の姿を視認されでもすれば、それはそれで騒ぎになるだろうが。
 まんまるのお月さまの下で私は背泳ぎをするかのように飛んでみる。
 望遠鏡という物を使えば恐らく私の全体が見えるくらい。
 人間の目も捨てたものではないから、米粒程度には見えるかもしれないが。
 私は米粒ではないので、米粒が空を飛んでいると言われても嬉しくない。
「誰か私の存在に気がついてくれないものかしら?」
 孤独で寂しい、などというわけではない。
 存在しないと認識されているものは、人間世界ではたくさんある。
 幽霊とか魂とか、テレパシーとか魔力の切れ端のようなものまで。
 この世界というのは人間が思っているよりも、沢山の眼に見えないものが存在して。
 視認できるものばかりが有益であるわけではない。
 まあ、自分自身は。
 別の世界では魔王だなんて呼ばれてい私が、人間にとって有益かは、その判断はつかないけれど。
「いつの日か重力が見えるようになって、空に簡単に浮かべるようになれば、魂が空の彼方に向かうという真実にも、人間は気がつく時が来るのかしら?」
 そんな時になれば、ユーラシア大陸は半分くらいになっていて、ガスマスクでも付けなければ暮らしていけないような世界になってそうだけど。
 人間は今だって、自分の手に余る力に溺れている。
 優れた科学力を制御していると思い込んで、その存在に甘えている。
「まあ、それは私も同じか」
 魔法というものを完全に制御していると思っているのは、
 もしかしたら思い上がりであるのかもしれない。
 魔王であるというだけで、魔法が操れているのは常識ではありえないのかも。
 その時どこかから視線を感じた。
 誰かが私を見つめている。
 どこだろう? 目を細めてみる。
「なんぞ、死神か」
「優雅だねえ、夜空を泳ぐというのは気分がいいのかい?」
「死者の魂を連れて空に浮かび上がる感覚は、私の泳ぎよりも気分がいいかい?」
 ニタニタと厭らしい笑みを浮かべながら笑う少女に、私は問いかける。
 彼女は白い髪をなびかせて、サンタが持つような白い大きな袋を持っている。
 その袋に人間の魂が入っているのだ。
「死体には慣れたよ」
「話が飛躍している、気分がいいのかと問いかけている」
「死者の魂を連れて浮かぶにはまだ慣れてないってことさ」
 だったらそのように最初から発言せよ、と私は思う。
 死神というのは、シニカルというか、私の美的感覚からすると非常に厭らしい。
 人間で言うなら、飄々としていて掴みどころのない性格。
 自分が素直で純真可憐なんです、などというつもりはないが。
 人をいつも小馬鹿にしたような死神……いや、こいつは私は苦手だった。
 死神は人間世界にあふれるほどいるのである。
「君は、この世界が好きかい?」
 ふと、死神に問いかけられる。
 その頬はいつもの様に緩んでいて、本気なのか冗談なのか判断がつかない。
 だがその声色は、真剣の切っ先のような鋭さを感じた。
「少なくとも、魔界よりは」
「魔界というのは人間世界よりも厭な世界なのかい?」
「少なくとも、王である自分にとっては厭な世界だ」
 そう言って自嘲するように笑う。
 この人間世界が決して素晴らしくて何事にも変えがたい。
 などといえるほど、私の目から見るだけではこの世界のことはわからない。
 恐らく知識としては、人間としていきて死神になったこいつのほうがよく知っているはずだ。
「やれやれ、王に厭な世界だと言われてしまったら、魔界の住人も可哀想だ」
「それは私の知ったことじゃない、それに君が生きていた時だって、この世界を司るであろう王が何を考えているかなんて興味がなかったろう?」
「そういやそうだ。ただまあ、目の前の現実は、世界と一緒でとても厭だったよ、厭で厭で仕方のない世界だよ、ここは」
「それは君の常識だろう? せめて話すなら私と同じ土俵に上がってものを語れ」
「上から目線で失礼だね、君こそ私と同じ土俵に上がって会話をしなよ、なんていうの、読者目線的な」
 それでは私がこの世界の創造主になってしまうじゃないか。
 私が作者で君が読者だったら、それはとても厭だ。
 作者は読者を選べないなどというが、こんなニヤニヤして何を考えているか分からない少女に自分の思考を読み取られなどしたくない。
「やれやれ、話し合いは平行線だ。お互いに歩み寄る姿勢が見えない」
「人間っていうのは重力から離れたって、重力に引かれた人間とそうでない人間で争うもんだよ、ガンダムアニメで言ってた」
「というより、もはや存在するだけで、その存在同士は争うのだろうさ、だって一人たりとも同じ存在など、ありはしないのだからね」
「魔王さまは随分と、この世界の哲学にお詳しいご様子で」
「こういうのをなんていうか知っているか?」
「なんでしょう」
「個人主義と言うんだ、人間は個別に存在し、誰一人同じ存在などあり得ないという考え方だ。だがその考え方というのは、争いを生み出すモトとなる」
「だったら、誰もが同じ存在だったら、争わないとでも? 仮にクローン人間が何億体とこの世界を覆ったとしても、同じ思考を持つとは思わないし、争うと思うね」
「クローンであろうと個別にその存在を持っているということさ、存在は生まれた時から、争わなければいけない運命にある、なんていうかな、ほら、ガンダムアニメで言ってたじゃないか、人は自分の姿を見るのが厭だって」
「プルとプルツーだね」
「本当に世界平和だとか、恒久の愛などというものが世界を覆う日が来るとしたら、それはこの世界が滅亡するときだろうね」
「はは、それは困る。私という神である存在すら抹消だ、なあ君、もしもそんな日が来るとしたら、私を魔界に連れて行ってはくれないか、話し相手くらいにはなれるよ」
「死んでもお断りだ、この死神め」
「死んだら私が連れて行ってあげるよ、この世界の創造主のモトにね」
 それは死んでも厭だなと私は笑った。

世の中は度し難い

 この世界というものに興味を持ち始めたのが、少し前の話。
 ほんとうに正しいことが何なのか、と思い始めたのがつい先日の話。
 私はこの世界をどうにかしたいとはまるで思っていないけど、この世界とか変わっていくのには大変不格好であることに気がついた。
 今日の朝ごはんは白がゆ、バイトの給料日までそれほど日がない。化粧水と保湿クリームがあれば顔のことはなんとかなる。頑丈に産んでくれた両親に感謝である。
 世間から言えば私はフリーター。安マンションの家賃は両親におんぶにだっこ、本当は独り立ちしたいのに、社会がそれを許してはくれない。
 人から見ればそれは甘えだの、もっと努力すればもっと良い結果が生まれるはずだというけれど、だったら火の輪でもピエロでも何でもやるから給料寄越せ。
「……実際私は、人付き合いというものがものすごく苦手なんだろうな」
 人間はあまり好きじゃない。無知で傲慢で高慢で理解力がなくてクズでバカでゴミでウザくて死ねって感じでアホで強欲で貪欲で軽薄で自己保身ばかりを考えている。口では何事かを言うものの、かと言って誰かの面倒を見るというわけではない。そんなことを言えば、あんただっていい年して扶養家族じゃないかと言われるかもしれないけど、私だって好きで扶養家族のままでいるわけじゃない。働ける口があるなら働きたい。
「本当に世の中はままならないな」
 何故誰も教えてくれなかったのだろうか。この世は甘くなくて、上手く立ち回れないと社会的に弾かれてしまうと。いくら真面目だという評価でも、無能とされればすぐに罵倒されてしまうと。自分のほうが頑張っているのに、という嫉妬心ではなく……いや、嫉妬もかなり含まれているのかもしれないけれど、それにしたって世の中はどうにかしてる……と思う。
 その時チャイムが鳴った。
 少なくとも私の知り合いでインターホンを鳴らすのは私の母親か友人である佳里奈しかいなかった。彼女は名のある文学賞で作家になった人間で、多少私よりも金持ちである。本人曰くフリーターと変りないそうだけど。というか私自身もこの子が作品を書いているという姿を見たことがないから、もしかしたらフリーターなのかもしれない。自己愛が高いような。
「もしもし、佳里奈」
「七衣は相変わらずインターホン取るときにもしもしって言うよね」
 冗談のつもりだったのに本人には不評だったようだ。
 佳里奈を部屋に上げると、私の部屋が遊んだ様子に見えるのは何故だろうか。安月給の安マンションぐらしというのは惨めなんだろうか。自分一人で入ると中々気がつくことはないのかもしれない。 とにかく佳里奈をどこかしらの汚い座布団に座らせて、私は冷蔵庫にあった発泡酒を持ってきた。お互いに酒好きだった。
「あ、七衣、今日はガチの話なんだ」
「え、ガチ?」
「そう、私の社会的な事情」
 仕事の話だろうか。
 いかんせん、佳里奈とは仕事の話というものをしたことがなかった。打ち切られれば来年は無収入という笑い話くらいである。
「実はバイト先でクビになりそう」
「本業は!?」
「いやいや、私作家でございとか言える立場じゃなから、まだ単行本にすらまとまってない短編小説家だから」
 しかしバイト先で何をしたんだろうか。
 佳里奈のバイト先というのは、だれでも出来ると評判のコンビニのアルバイト、しかも朝。彼女は夜行性らしく、昼間は滅多なことでは現れない。吸血鬼か。
「実は、お客から私にクレームが来た」
「……なんで?」
 思い当たらない。不衛生にしているわけでもないし、メイクをしてないわけでもないし、愛想だってある方だ。芸術肌の強いひとって、才能はともかく人間性はちょっとアレ、というのが立場上よく見たことがあるが、彼女はそれに当たらない。ちょっと酒呑むと人格が変わっちゃうくらいである。
「いや、時間があるときには必ずアルコール液で手を洗浄してたら、あいつは潔癖症で客を見下してるって言われた」
 なんだそれ。
 私も笑える理不尽な話はあるけれど、人に話すと、今の職場をやめろと言われかねないのでやめておく。
「本当、何なんだよなあ、他人を見てる暇があったら自分のこと何とかしてろよ、なんでこの国人のことばっか気にするんだよ、何様のつもりなんだよ」
「俺様」
「俺様でもなんでも良いけど、バイトだからって上から目線で説教してくるような相手なんなの、お母さんなの、私を養ってんの? だったらお金寄越せよ、他人にかまってる暇があったら自分磨きとかしてりゃあいいじゃん、なんで他人に構う必要があんのさ」
「だって、社会がそうじゃん」
 言葉では言い尽くせないが、この日本という国は野次馬根性で出来ていると思う。だれだって自分のことを顧みてばかりはいない。他人の悪事にはものすごく敏感であるし、不祥事やスキャンダルという言葉には過敏に反応する。どれも自分のことは棚に上げてである。
 マスコミは真実を報道するなどいいながら、有名人や政治家の追っかけばかりをしているし、何かを暴いたらと思ったら女性問題だったりするし、そんなん誰と交際しようが構わないじゃないか、自分の稼いだ給料の範囲内だったら。
「佳里奈、あー、私から言えた義理じゃないけど、社会は間違ってるよ」
「七衣は間違ってるってよくいうよね」
「間違ってる、私みたいな日陰者は気軽に生きてすらいけないし、自分が抱えているストレスとか何とかで平気で人に当たるし、注意されれば逆ギレする奴もたくさんいる、それが正しいだなんて絶対に思えないけど、その正しくない世界で私たちは生きていかないといけない、人間は手のひら返しをして過去の悪行をすぐに忘れちゃういきものだから、きっと佳里奈が有名になったら手を揉んで近寄ってくるよ」
「……嫌だ、そんな世界」
「だから私はこの世界を全力で嫌うし、憎み続ける。偽善で溢れている。どうしたって生きづらい、でも、この社会を壊せないし、クズだって殺せない、法律で罰せられる、やっぱりそんな世の中は間違ってる、でも私は、この世界で正しくあろうと思っている」
「できるの?」
「やってみる。私自身甘い部分もあるだろうし、きっと、他人から見れば甘いと思われる事情がたくさんあるのかもしれない。でも、他人からの目なんてどうでもいいんだよ、自分が頑張って、努力したと思えばそれでいい、世間や社会がそれを許してくれなくても、それは世の中が完全に間違ってしまっているんだ」
 そう信じたい。
 人は醜くて、愚かで、恥知らずで、居丈高で自己顕示欲が強くて軽薄だけど、その弱さに負けないように生きていかなきゃいけない。
 だってそれは社会に日和るってことだから、社会に埋没したくない私は、いつだって社会が決めた自分勝手なルールに逆らう。
「だから佳里奈、辛かったら一緒にお酒飲もうね」
「割り勘?」
「……私の懐事情による」
「ままならないね」
 清く正しく生きようとしたところでお金はままならない。
 まったく世の中は度し難い。

頑張ってみようと私は思いました

 さて、女子のネットワークというものを皆さんは御存知であろうか。
 このネットワークから外れるということは、男子からも相手にされないということであり、女子からももちろん相手にされないからクラスで孤立することになる。
 この女子ネットワークというのは男子が思っている以上で過酷で、一番たちが悪いのは、彼女たちは自分の流した情報というものを必ず知っていると思いこむことである。
 だから物覚えが悪いとか、人の話を聞けないタイプというのは、必ず女子の中から孤立されることになる。いくら男子がいいと思っていてもそれは変わることはない、一部のイケメンやら人気のある女子の下僕みたいな子なら話は別だけど。要は、要領が悪いのなら、ものすごく有能な人間の傍にいれば自分が不利を被ることはなくなるということだ。
 ……なのだが、私は自分の世界を否定されるという行為が恐ろしく好まなかった。自分がやりたいことを自分のやりたいタイミングでやるのが好きだった。だから誰かと一緒に関わっている暇などは特別なかった。私は自分の夢を追いかけるので精一杯だった。
 が、そうは問屋が卸さなかった。気に入らないのであれば無視すればいいと思うのだけど、女子というのは自分の権力に従わない相手に対してひどく嫌悪感を持つ。情報網に入ってこない生徒のことに対して、例えその情報が嘘であろうとも信じるという稀有な習性を持っていた。だから私の評判というものは最悪だった。どこからでた話かは分からないが週に一度は秋葉原に行って、オタク系の作品を買いあさっているという話だった。ちなみに私が描くのは風景画である。もしかしたら二次元の絵を描いたら少しくらいは評判になるかなと思う程度には、アキバ系文化というものに対して無知だった。だから、成人向け作品を書いているとか、日常に幼女を観察して下卑な想像ばかりしているといううわさ話にはうんざりをしていた。
 ここだけの話ではあるが、その噂は私も困っていたのだが、私の友人でどちらかと言うとマンガチックな人物画を描く友人のほうが困っていた。出所の分からない、また、出所と友人ではないと情報が回ってこない。それは間違っていると噂をしている人間に言ったところで、情報網がその相手に信用されているのであればまったく意味がなかった。
 話は変わるのだが、私は美術室で絵を描いていた。以前遠出して写真を取ってきた山の上の写真である。別に登山をしたというわけではなく、山の上に駅があるのだ。都会では考えられないほど数時間に一本しかない路線に乗り込んで、ひたすら写真を撮っていたのだ、すんごい暇だったから。返って来た時に数分おきに電車に来る場所に立って、ああ、この状況のほうが異常なんだなと思った。私は10分に一度来るバスに乗って家まで帰った。
 電車マニアからすれば秘境駅というわけではないのだが、私にとっては充分に秘境のど真ん中の不便な液という印象だった。生まれてこの方、駅にバスが来ないという状況を体験したことがなかったから、駅前に数台タクシーが停まってるくらいしか特徴のない駅は特別田舎のように感じた。
「お、楚々さん、秘境駅っすか」
「これ秘境駅じゃないですよ、えーっと、何線だったかな」
「確か、長野県まで行ったんだよね」
「ええ、小諸に行くって電車です、始発は小淵沢だから山梨ですね」
 詳しい名前は忘れてしまったが、山梨県までは比較的簡単に付くことが出来た。そこからが大変だった。3分に一本来るような通勤ラッシュの中央線とは違って、滅多なことでは駅のホームがざわつかないのが異常だった。
 後降りるお客は年寄りと登山客しかいなかった。景色目的で降りてくるような私はかなり珍しい部類だった。しかも降り立ったのは駅前から少し歩いたところ。少し歩いて山とかかなりどうかしている。
「すげー田舎ー」
「でも駅があるから田舎じゃないですよ」
「駅なんかどこにでもあるじゃん」
「東京に住んでるからそう思いますけど、地方はそうでもありません」
 私は一度焼津という都市に行ったことがある。海鮮物で有名な街だ。焼津といえば静岡県の? という程度には有名……だと思う。女子校生が好き好んでいくようなところではないと思うけれど。東海道本線に乗ってどんぶらこと行った。
 観光客向けに店舗が広げられているせいか、景色を眺めるというよりも道行く人を眺めるという感じではあったが、待ち合わせた友人と一緒に楽しい思い出を過ごすことが出来た。
「それで、楚々さん。幼女好きなんだって?」
「すんげーですね女子の情報網、なんで先輩に伝わってるんですか」
「楚々さんみたいに、仲良く? なにそれ美味しいの? と言わんばかりにお高く止まってるには自分には才能がないもんでね、人の繋がりって言うものに積極的に関わっていかないとぶれてしまうから」
「人の繋がりとか糞食らえなんですが」
「そう言うなよ、みんな仲良しにしてるんだから、ちょっとくらい関わってやらないと自分が損するだけだよ。世の中厚かましくてウザくて人のことディスるばかりの人のほうが幸せに過ごしてるさ、いい人なんて損するだけ」
「私は特別いい人じゃないですけど」
「いい人じゃん、めったに人の悪口言わないし、アドバイスを求められれば真剣に答えてくれる。創作のことに関しては極めて実直、好感は持たれないけど」
 一言余計です。
 あと愛想が悪いのは今に始まったことではありません、直せと言われたところで変な笑顔の自分自身が出来るだけです。

取り敢えず生きよう、と私は思った

 大学生になって半年が経って夏休みになった。
 ここ最近はずいぶんと暑いなと思いつつ、レポートとかテストなどといった学校行事を受けていたら休み期間になってしまった。最近はろくにスッポも長い休日というものを体験していないものだから、こう数十日間も何もしない日々が続くということに違和感を禁じ得ない。
 休みというのは人間をダメにすると重々感じていた。それは十数年しか生きていない私なりの人生観というか、感じた結果というか、それが正しいものであるのか私も、敬愛しているK先生もわからないけれど、正しいのかもしれないな、とは思っている。
 こんなことを私の姉に言えば、自分にとって正しいと思うことなどこの世に唯一つもない、また、間違っていることなども一つもない、と言われるに決まっている。それがどういう意味であるのかは姉妹でもよくわかっていない。
 大学生というものになった時に、一番最初に感じたことは思ったより勉強をしないなということだった。それは授業時間が高校時代よりも長くなったり、遅くまで授業を続けていないという意味ではなくて、自主性にあまりに欠けるという考えだった。大学生の間には成人式という行事があって、私たちは数年後に大人になる。大人になるというのは、自主的に何かを成しうるようになるということだ。それは言葉を変えれば自立ということになる。
 それでも現代日本における平凡な大学というものは自主性に欠けて、詰め込み式の教育を続けているので私はショックを受けた。課題や教えられる授業というものに嫌悪感すら覚えていた私にとって、ホワイトボードなり黒板なりを使って授業を受けるというスタイルに、私たちは教えられなければ分からないほど子どもではないと反発を覚えた。
 仮にそんなことを姉に相談をすれば、では今すぐ大学をやめて就職でもするがいい、就職をすればそんな考えは捨てられるだろう、なぜなら会社に入ってもなお誰かの指示で動かなければ仕事はこなせないからだ、そこには自立といった言葉は存在したりはしない、自立している人間はむしろ煙たがられる、日本の会社は基本的に謙遜と不眠が努力の指標として求められる。そこには自分の意志などまったく存在しないのである。
 と、ニートの姉が言ってくれる。
 姉はニートでありながら様々なことを知っている。知っているというのは良いことではないと姉は言っていた。知ることは人間にとって必要な欲の一つではあるが、知ってばかりでは何を活かすことも存在しない、知っていることは人のために使い、役に立たせなければ意味が無い、私が言う言葉を決して忘れないようにするなよ、と言っていた。
 その言葉を自分に活かすことはないのだろうかと思う。
 言うは易し行うは難しという言葉が存在するが、私とすれば口は災いの元であるということを深く日本人には伝えていきたい。欧米人のフレンドというシステムに対して私は深い嫌悪を覚える。誰が好き好んでべらべらと話さなければいけないのか。ポジティバーがいれば、ネガティバーだって居るものなのだ、本当に自由のある世界のだというのならば、世界に馴染めない人間が居ても許せる状況を作り出すのを目標にすべきではないか。ポジティバーとか、皆が仲良しとか言っているアメリカは銃乱射が起こり、スクールカーストが存在し、差別問題が根強く残っている。少なくとも人のことを言っている場合ではない。
 本当に世界に存在するために必要なのは、何も日本をアメリカナイズにするような国際認識を持つべきではないだろう、日本は日本文化を大切にし、日本人の美意識を向上させるべきなのではないか。だってアメリカ人はどこいったってアメリカ人だし、中国人はどこに言ったところで中国人だ。サムライや武士道の国だと思ってる人に、ハーイ、イクラデース、等と言ったら卒倒されるのではないかと思っている。
 さて、ニートの姉ではあるが実は小説家として社会に名を出している。だが自称ニートということで私は軽愛をこめてニートと呼んでいる。おい、ニート。少しは社会にでろよニートと言う言葉は愛情があって初めて存在する。そんな姉というのは趣味の秋葉原巡りがある。よくもまあ、あんな有象無象としかいい用のない人類ばかりが累積している町を闊歩できるものだと思うが、姉からすれば、ごまをするどころかちょっとお金を手渡して自分の本を買ってほしい、と言っていた。それはごまをするどころか、買収と呼ばれる行為ではなかろうか。

はじけて消える

 私の友人の胸は大変なことになっている。
 よくピクシブなどのイラスト投稿サイトや、エロゲーなどで乳袋などという表現をされているが。
 袋どころか爆弾でも仕込んでるんじゃねえかと思うくらい友人の胸は大きかった。
 その大きさは手では収まりきれずそれどころか足で踏んづけてもまだ余るんじゃないかと思うくらいだ。
 人体の神秘というものが、まさか自身にもついている胸で感じようとは、過去には想像もしなかった。
 さて、腕立て伏せでもしようものなら胸の重みで筋力が付きそうな感じもする友人ではあるが。
 大きい胸には大きい胸なりの苦労があるもので、度々友人は愚痴を言っていた。
 それを聞きながら、男っていうのは胸しか見てないんだなと常々思っていた
 。実際私も彼女の顔はよく覚えてはいなかった。いや、それだけでかいんだってばよ。
 ブラジャーが実はサングラスと言われても信じてしまうかも知れなかった。
 ちなみに私のサイズは普通だ。
 いや、ごめん誇張した。恐らく人並み以下だと思われる。
 ただ彼女の前でだけは、貧乳の私かっこいいという立場を取らざるを得なかった。
 大人になったら胸を小さくする手術をうけるんだという彼女の顔を見ていると、そうか、お金をかけて私並の乳にするのか苦労しているんだな(笑)みたいな感情がわいてくる。
 正直ざまあと思っている。よくゲームかなんかで胸のないヒロインが巨乳に対してぐぬぬとするシーンがあるが、年をとったら自動的に垂れ下がるんだから漫☆画太郎が描くみたいなババアみてえになるんだなと、最近ではさほど嫉妬も感じなくなってきた。
 さて乳、あ、間違えた。友人の話であるがここから本題に入りたい。
 最近好きな子ができたそうだ。
 私にとってそれは歓迎する事柄だった。
 その胸のせいで男子に対して極端に嫌悪感を持っている友人が、それでも愛しいと思う男性を見つけたというのは素晴らしいことのように思われた。
 私としては、その胸を一発押し付けてやれば、どんな男でも落ちると思っているが甘くはないらしい、
 男なんて言うものは穴の一つでもあればいいと思っていると私なんかは考えているが、そうは問屋が卸さないようだ。
 彼女が好きな人の話を聞いていると、そいつは胸が大好きらしい。
 胸が好きならなおさら巨乳に目を引かれるのかと思ったが、おっぱいのせいで好きになったとか言われても困るんだそうだ。
 そりゃあまあ確かに。私も、貴方の貧乳が好きですとか言われたら100発はビンタしてやる。
 貧乳って言った時点で殺す。私は彼女がいるから相対して小さく見えるだけで、実際にはカップはDだと度々言っている。
 出任せだけど。いやあ、実は私Dカップなんだよねー、そんなに小さいイメージあるー? くらいは言ってのける。ちなみに友人はMとかいう規格外のサイズを誇っている。どれほど指を折ればいいのかわからない、
 ABCD……ああ、やっぱり足りない。足の指を含めれば足りるが、両手を使いきってアルファベットを数えた時点で心が折れる。どうなってんだよアレ。
「紗英、聞いてる?」
 聞いている。話はほとんど聞いている。視線は胸に夢中。
 正直、おっぱいで感情の揺れが表現できるんじゃないかという胸は、プルプルプルプル〜と揺れている。
 彼女の話では、想い人はとても近くにいるけど今の関係を壊したくないから告白したくないのだそうだ。
 私は恋路を応援する度量くらいは持っているが、実際に恋愛したことがない。その行為に意味を感じない。
 人の好き嫌いで人生を左右されるのは好きじゃない。だから私は人を好きになることは一生に置いてないと思われる。
 ここで私が美少女かなんかであれば、難攻不落を誇る鉄壁なヒロインであったのだろうが現実は非情だった。
 彼女には胸では圧倒的な差を付けられて、顔面でもイチローとパンチ佐藤の実績くらい違う。
 なんでも鑑定団で言えば1000円と100万円くらい違う。いや、別に彼女が骨董品というわけじゃないけど。私に価値がないというのは合ってる。
「突然だけど、私、女性の価値というものは胸ではないと常々思ってる」
「おお、紗英やるじゃない!」
 おうともさ。そもそも、貧乳という表現が好きではない。
 巨乳という名のただのデブが出てるアダルトビデオを何本借りたかわからない。
 フォトショ詐欺やパッケージ詐欺は慣れっこだ。最近あまりに信用出来ないので二次元にハマりだした。二次元は劣化しないから大好きだ。
 私は起伏も特にない胸を突き出しながら、思う。 たしかにこの世の中には、胸が大きくてもくびれがある女性はいる。
 でもものすごく豊胸くさいし、何か不自然に膨らんでいるのを見ると人造人間かなんかじゃないかと思う。
 顔がロリロリしてて胸が大きいなんて二次元だけだ。ロリ系AV女優のババア臭さは私は好きではない。
 以前に身長が130センチ台の女優というのを見たことがあるが、全裸になったらただのババアだと思った。私も物好きだなとレンタルビデオ店に直行した。最後まで見た。
 何が言いたいのかといえば、身長が何センチであろうが、バストサイズが何センチであろうが、そんなものは長く見てれば飽きる。
 AV女優だって、グラビアアイドルだって複数年活躍するのは一限りだ。
 顔面で人気が出ても他に何もなければすぐに飽きられる。最近はぽっちゃりなんですぅとかいうデブが流行っているが、デブが好きなら相撲取りでも見てろ。琴欧洲とかオススメだぞ、胸毛が。
「だからその人も、胸以外の部分を好きになってくれると思う、紗耶香のいい部分というものを必ず見つけてくれる人だと思う」
「でもその人、私に限らずだけど絶対におっぱい見てるんだよね」
 なんというおっぱい星人なのであろうか。
 よもや私の胸も見られているんだろうか。Dカップと公称しているが実はAだっていうのがバレているのではなかろうか。
 しかし、そのような男子生徒には覚えがない。彼女とは胸が小さい頃からの付き合いではあるが、割と胸が膨らみ始めるのが早かったせいか、昔から男子というものは胸を見て育つものだと思っていた。
 何かにつけておっぱいおっぱい言っている生き物だと思っていたから、そんな人物がいればすぐに見つけられると思った。
 私自身、彼女の胸が目立ち始めるのを見ていたから、他の女の子もそうでないかと思っていた。
 実際私は膨らみ始める気配すらないが、高校生になれば制服越しにも多少は膨らんで見えるものだと思っていた。
 じっと見つめているわけではないが、たいていのクラスメートの胸のサイズは把握しているつもりだ。そのためか私は洞察力に優れていた、感情の揺れ動きを胸で判断することが出来た。男子は知らない。
「そんなにおっぱいが好きなのか、将来犯罪に走らないか心配だ」
「うん、もう犯罪一歩手前だと思う……」
「何! そんな奴が好きなのか! あ、ああ、すまん、知らない相手とはいえ、他人を悪く言うのは良くないな、それにまだ一歩手前だ、踏みとどまらせてやるのも紗耶香の努めかもしれない」
 しかし、そんな性犯罪者みたいな人間に紗耶香を与えるのは友人としては不安だ。
 下心があるかも知れないし、身体だけが目当てのやつかもしれない。
 それに彼女は犯罪一歩手前だと告白していた。
 ということはかなりその人物を知っているということだ。
 私のように健全に紗耶香のおっぱいが好きという人間ではないかもしれない。ただの巨乳好きではないかもしれない。私みたいに裸がエロスだったらなんでもいいという人間ではないかもしれない。
 いっその事子どもでも大丈夫だよという私みたいに慈愛の篭った人間でない可能性が高い。
「紗耶香、悪いことは言わない。好きになるなら、私のような人間にするべきだ」
「……え?」
「私は恋愛には興味が無い、したがって身体にほとんど興味が無い、愛し合うなら肉体の接触がない方がいい、恋愛というものを直ぐに肉体関係に持って行きがちの人間が多いが、私はそうではない、きっとそのような男子もいるだろう、好きになるなら邪魔にならない人間にすべきだ」
「じゃあ、紗英は好きな人とかいないの?」
「いるわけがないだろう、だいたい恋愛感情なんて邪魔なだけだ、理解できない。愛するならどんな人間も平等に愛すべきだ、ある特定の相手を愛することなんて出来ない」
「じゃあ、おっぱいが大きい子でも幼女でも?」
「ああ、平等に愛するべきだ。ところでナチュラルに私が女の子好きと勘違いしているようだが、私は二次元と若い女の子が好きなだけだ、全てバッチコイではない」
「じゃあじゃあ、私が今ここで脱いだら、見る?」
「何を言っているんだ、見るに決まっているだろう。何、別に不埒な目的があるわけじゃない、ただ、紗耶香が脱いだなという事実確認をするのと、昔からこうも成長をしたのだなと感慨深くなるだけだ、他意はない」
 私が言ってのけると、彼女がため息をついた。
 そんなに呆れられることを言っただろうか、紗耶香の発言のほうがちょっとおかしいと思うのだが。
 私がまるでおっぱいと幼女が大好きな人間みたいじゃないか。
 目的が不埒な輩みたいじゃないか。どうしてそのようなおっぱいを、間違えた。どうしてそのような目を向けるのかわからない。
「紗英って、鈍感だよね」
「失敬だな、まるで人の好意を無視しているかのようじゃないか、生憎だが生まれてこの方告白なぞされたことがない。私は性格が悪いからな、こうして付き合ってくれているのも昔なじみの紗耶香だけだ、大変感謝している」
「いやいや、そうじゃなくて、何で他の女の子から近づいて来られないか知ってる?」
「知らん、興味もない……ああ、ただ、二次元とAV女優は裏切らない、女というくくりで見るなら彼女たちは好きだ」
「紗英が可愛いのと、目がガチで変質者だからだよ」
「何? 私のどこが変質者だと言うんだ、ただちょっと性癖の幅が広いだけだ、誤差の範疇だろう」
「可愛いは無視か」
「私が可愛い? 紗耶香も人が良すぎる。紗耶香のほうがよっぽど可愛いじゃないか、私と違って愛嬌もあれば、人当たりもいい、生まれた時から無表情で感情の表現など忘れてしまった私とはまるで違う」
「いやいやいや、いいから、そこのAVのパッケージと自分の顔を比べてみなって」
「んー?」
 AV女優さんがたくさんいるパッケージを見やる。
 最近は乱交モノが好きだ。女は多いほうが映える。
 数多くのおっぱいも見れるしな。
 私としてはもう少しレベルの高い女優がいるほうが好みだが、そういうのは単体モノで充分に売っていけるのだろう、キカタン女優とはわけが違うということだ。
「彼女たちのほうが綺麗だろう、オカズにもなる」
「マジで言ってる?」
「大マジだ、紗耶香に嘘をついて何になる」
「いやいやいや、紗英はこの部屋に貼ってある、どの美少女ポスターよりも可愛いって」
「正気か? SAN値が0になったか? ああ、アトラク=ナクアのポスターが張りっぱなしだったな、あと、這いよれ!ニャル子さんも、しかし、アト子と初音姉さまは本当によく似ているな、まるで同一人物だ」
「じゃあ、私の言うことを信じない?」
「う、ま、まあ、紗耶香が言うなら、信じることもやぶさかじゃないが」
「でしょう、紗英は可愛い、はい決定、じゃあ今から言う言葉も信じてね」
「ん? また無茶な注文をするのか、寛大な私で助かったな」
「紗英の事好きだから、これから恋人になって」
「……は?」
「あとポスターとかAVとかエロゲーとか全部捨てて、いくらでも脱ぐから」
「ふっ」
 私は鼻を鳴らした。
「ここにあるポスターやパッケージの美少女よりも君のほうが綺麗だ、そんなもので私の心が動かせるものか、ああでも、肉体関係は興味が無い、脱がなくてもいい」
「私さ、腕っ節には自信があるんだ、ほら、胸が大きくてガタイもいいし」
「あ、ああ、確かに力は強……ちょっと待て、にじり寄るな! 私はそういう趣味はない、あくまでも鑑賞するのが好き、肩をつかむな、ひぃ!」
「大丈夫、紗英、きっと、現実の肉体にも夢中になるから……」

姉妹の会話

 残念ながら悲しいことに、夏になっても彼女が出来なかった。
 二ヶ月前の壮絶な「泳いでシェイプアップ」教室へ通ったのは何のためだったのか、
 結局クロールが早くなったことくらいしか利点がなかった。
 私は北島康介を手ぶらで返す訳にはいかない選手ではない。
 室伏広治バリの筋肉は身につかなかったけれど、そこそこいいスタイルはなった気がする。
 他人の目から見ても、美しいと思える程度には、ピカソのゲルニカくらいには価値のある肉体を手に入れたと思う。
 鏡の前に立ちながら、競泳水着姿となった自分を見やる。
 ちょっと若干痩せた吉田沙保里のようにも見えるが、別に私はアルソックの所属じゃない。
 レスリングの衣装も着ていないし。顔面から言ってみれば、前田敦子よりも可愛いとはっきりと言えるくらいには整っていると思う。
 AKBのセンターだって夢じゃない。歌唱力とダンスの能力にパラメータを振り分け忘れたせいで、恐らくオーディションにはかすりもしないだろうけど。
 でも人並み程度にはある胸と、愛嬌のある笑顔が最大の魅力だと思っている。こうして笑えば、一人くらいの女子は落とせる自信がある。
「あ」
 部屋に妹が入ってきた。
 私の姿を見て、甲子園で読売巨人軍のハッピを着た阪神ファンのど真ん中にいるにわかを見たみたいな顔をしている。
 別にこの季節なのだから、部屋で薄着になることは悪くない。それがたとえ灼熱のもとで水着になったとしてもだ。
「お姉ちゃん、いもしない友だちに笑いかける想定をしてるの?」
 私はそんな寂しいことをしているつもりはない。
 ちょっとラスボスになって世界を滅ぼしてもいいかなくらいには世の中を悲嘆している。
 最近のラスボスときたら、何かやたらと格好いいことを言っているけど、結局はてめえは私利私欲でしかねえじゃないかと主人公側がツッコむのがお決まりになりつつあった。
 私もきっと世界を征服しようとすれば、勇者になった妹が、何をしてるんだと怒鳴りこんでくるに違いない。私を止める友達はいないから必然的にそうなると思う。
「夏菜子、私は、ここ二ヶ月自分磨きをしてきた」
「知ってるよ、美味しいと評判の結構に良いデトックス効果のあるサプリメントを大量に飲んで激痩せしたことくらい、家族だもん」
「そうじゃない、なんで私のおとぼけエピソードを話すのかわからない、プールにも言ったし、ジムでトレーニングもした、でも、彼女の一人も出来なかった」
「屋根よりも高い、私のことをお世話してくれるメイドさんとか恋人に出来ないかな、っていうハードルを下げれば一人くらいは出来ると思うよ、お姉ちゃん顔はちょっと可愛いレベルのグラビアアイドルだし」
 ごめん、グラビアアイドルは顔を売りにする商売ではないと思うんだ。
 どちらかというとソフマップあたりで写真を取られてとんでもない不細工顔を晒して話題作りをする方だと思うの。アレは公開処刑だよね。
 とりあえず妹はクーラーの付いている私の部屋に居座ることを決めたようだ、
 本棚から読みかけのタイムリープを取る。容赦なく栞を引っこ抜いてその場においてしまう。
 お前は姉がギロチンにかけられるときでも平然と芋けんぴウメーとか言うタイプか。
 しかし私としてもこれ以上、水着でポーズをとるというナルシストばりのパフォーマンスを取るのをやめて着替えようとする。
 今年の夏も彼女が出来なかったと、ギャルゲーのゲームオーバー曲を脳内に流しながら水着から素肌になる。
「ちょ、ま、カーテン開けながら着替えるのやめようよ!」
 怒鳴られた。まるで先発ピッチャーが大炎上した時みたいにヤジを飛ばすような声だった。
 別にカーテンを開きながら着替えても問題はない、私の部屋の窓はマジックミラー号みたくなっている。嘘だけど。
 だけども好き好んで部屋の中を覗き込むような物好きもいないので別にいいかと思う、今だって妹以外には見られてないし。
「お姉ちゃん、ダメだって、世の中には女なら別にブスでもいいっていう人もいるんだから」
「え、それは思いきり私をdisってんの?」
「お姉ちゃんはまあ、平均点くらいだけど、人によってはちょっとブスじゃねくらいだから、気をつけるべきだと思うよ」
 妹はまず言動についてもう少し気をつけるべきだと思うんだ。
 怒りが湧く、ゲンドウだけに。まあ、私自身としても、脱ぐくらいしか選択肢がなくなってAV女優に転向するグラビアアイドルみたいにはなりたくないし、見られる趣味もない。
 とりあえず、シャツに着替えて、のんびりと過ごそうと思う。まったりと。空からメイドとか降ってこないかな。
「お姉ちゃんせめてパンツはこうよ」
「いいじゃん、誰も見てないんだし」
「私がいるじゃん」
「え、じゃあ何、私が妹の裸を見て興奮するような変態に見えるの?」
「女の子に欲情する時点でかなり人と変わってるとは思うよ」
 失礼な、別に女の子に欲情をするわけじゃない、多少恋愛感情を抱くだけだ。その感情型かぶれば欲情でもするだろうが、女と見ればだれでもいいと思うような下種じゃない。割と面食いな方だと自覚している。
「まあ、妹もそのうち分かるようになる、叶わぬ恋の儚さを」
「お姉ちゃん1クールで嫁が変わるアニオタみたいだよね」
「失礼な、常に新しい恋を探してるだけだ」
「そういうの節操なしっていうんだと思うよ」
 最近ちょっと妹が生意気になってきた気がする。
 あれか、反抗期というものだろうか。ちっちゃな頃から悪ガキで十五で不良と呼ばれたのか、妹はまだ14だ、羽瀬川小鳩と同じ年である。
 あんなふうにあんちゃんって慕ってくれるシスコンの妹も欲しかったなあ。
 私の顔を見れば、お姉ちゃんって本当、イベントCGの後ろ側にいそうな顔をしてるよねとか言わないの。
 そういえばこれくらいの妹になると、ラノベだとエロゲーなんぞをやっているよなあ。
 あいにく私は妹の部屋を出禁処理されているものだから、中身を覗いたことはないが、ある程度のオタクだということは自覚している。母が掃除しに入ってるくらいだから、おっぱいマウスパッドやBLゲーのポスター等は貼り付けてはいないだろうが。
「おねえちゃんさあ」
「うい?」
「いや、妹だけに憂とかそういうんじゃなくて、エロゲーとか持ってないの? なんか暗くて友達がいない女の必須アイテムみたいじゃん」
「暗くて友達がいないのは確かだけど、未成年がエロゲーをやるのは不適切だと思うけど」
「変態の塊で出来てるようなお姉ちゃんに常識諭されるのはアレだわー、会話の途中でライオンが襲いかかってくるくらいに衝撃的だわー」
 失礼だな、ライトノベルじゃ割とリアルが充実しているヤツのほうがエロゲープレイしている確率が高いぞ、現実じゃ絶対に有り得ないけれど。俺ってさあ、エロゲープレイしているんだよねえとかいいつつ、なんかよくわからない陵辱ゲーを挙げられて、恋愛ゲームしかプレイしないオタク涙目みたいなことだってありえない。
「変態が常識守んないでどうするのよ」
「常識守んないから変態なんでしょ?」
「違うよ、常識の範囲内で変態をやってるから捕まらないし、ある程度の普通の生活は送れてるの」
「ふぅん、何か優等生みたいで生意気」
 私を一体どんな存在だと思っているのだろうか。何も四六時中エガちゃんみたいなテンションでいるわけじゃない。あの人だってテレビに出ているからあのテンション。
 だから私が特別だということはなくて、ある程度の変態でオタクだというだけであって、そのどっち付かずな生活のせいでちょっと肩身の狭い思いをしているだけだ。
「お姉ちゃんも、彼女作りたいっていうんなら告れば?」
「アホか! お姉ちゃんが告白したら通報されるだろ!」
「されないよ、普通されないよ」
 そうだろうか。

カレーライス

 もしもこの世界に魔法というものがあるとしたら、人は人を殺すことに何の躊躇いもなかったかもしれない。
 と、カレーライスに入れる人参を切りながらそんなことを思った。
 この人参という作物は妹の大好物だ。うさぎみたいな白い肌で、赤い目をした女の子。
 その特異な外見から少し嫌がらせみたいなものを受けているらしい。
 姉としては、そのような行為は断固として抗議をしたいところだが、担任の現場を見ていないと懐疑的だ。
 お前の仕事が勉強を教えるだけだというのなら、コンピューターソフトでも配布して勉強をさせればいいだろう。
 教師としてのお前の代わりはいくらでもいるけど、私の妹はこの世でたった一人しかいないんだ。
 玉ねぎを刻みながら私は更に思う、妹はテレビに映ったマートンに夢中なようだが、本来はスワローズファンだったはずだ。
 マートンよりバレンティンの方がイケメンだしと言うが、私は外国人のイケメン判定はできない。
 みんな同じ顔に見える。ガングロギャルが誰もかれも同じ部族のようにメイクをしてるのと同じ感じ。
 私は家族以外は、黄色人種かそうじゃないかくらいの区別しか付かない。
 だからクラスメートもたいていは、日本人というカテゴリ以外の存在意義を持たない。
 テレビにいたマートンがヒットを打った。ピッチャーは山本昌広。
 登録名は山本昌。私が生まれる前からプロとして活動しているアスリートだ。
 彼の全盛期はおよそ私が生まれたくらい、最多勝を達成したくらいだ。
 当時には今中慎二……彼は今は中日の一軍投手コーチだけど、昌は彼よりも年上だ。
 なんかおかしなことをやってる。昔オリックスにいた星野伸之投手なんかは、あまりにもストレートが遅すぎていつ引退するのか分からなかった(結局病気で引退した)そうだが、
 彼ならまだ十年くらいはやれそうなものである。横浜の三浦と並んで何時まで経っても引退しないベテランとして記録を残してほしいものだ。
 カレーライスの作り方というものは、なにか特別な方法を使うことはない。
 カレーは万能。何をしたってある程度は食べられる。妹はカレーすらまずく作れる不器用さだが、味には大変うるさかった。
 海原雄山レベルでうるさいと思う。あれはオッサンだが妹は美少女だ。
 美少女に罵られるなら悪くない。ブスとブサイクは何を言ってもうるさい、口を開くな。お前ら無駄に笑い声が大きくて耳に入るんだよクソが。
 テレビではキャッチャー谷繁、ピッチャー山本昌という四十代後半のオッサンと四十代前半のオッサンがバッテリーを組んでいる。
 更にベンチでは小田という三十代後半のおっさんが元気よく声を出している。
 このチームは老人ホームかなんかだろうか。確かに監督の爺さんは誰か病院に連れて行ってあげるべきだとは思うが。
 昨今ではどのチームにも百五十キロをゆうに出すピッチャーがゴロゴロいるが、阪神の先発榎田と中日の先発山本昌と、ハエでも止まりそうなボールを投げている。
 球速だけを見れば、甲子園で投げる高校生の方が立派にプロらしい。なお、甲子園で速球派の投手はプロに入ると活躍できない模様。辻内とか。
 妹は最近、サフランライスという食べ物にハマっている。
 ちょっとビタミンが不足気味だから、ウコンの粉末をご飯に混ぜてくれない? という衝撃的な一言がきっかけで、しかたがないのでウコンの粉末とサフランを混ぜたものを炊き始めた。
 偶然だったのだが、簡単なサフランライスというものは、ウコンとサフランを入れるものらしい。
 私はこの御飯は少し気に入っていない。ご飯が余った時に他の料理に使い難い。
 ご飯が余ったので仕方なくパエリアでも作るかと考えて、
 ソッチのほうが普通に料理を作るより高くつくじゃんという結論に至った。だから私は出来うる限り余りが出ないように料理を作っている。
 このサフランライスにカレーをかけると、なんとなく、ばっちぃなという印象を受ける。
 このカレーという食べ物は色合いがあまり良くないなと思う。この色を見ていると、白い皿が便器か何かに見えてくる。そろそろ食器の色でも変えようかな、でも、青い色のガラスとかだと、なんとなく冷え冷えとして寒い印象を受けるな。
 私は二食分のカレーライスを持って、何か知らないけど見えない壁に手を付けるパントマイムをしている妹に声をかける。
「ごはんできたよ」
「ん、ついうっかり、魔界への門を開いてしまう所だった」
 そうか魔界の門を手で閉めていたんだね、でも残念ながら人間のほうがよっぽど悪魔より悪魔的だよ。
「でも、安心して、魔界ならともかく、この人間界においては私が最強だから」
「うん、分かったからご飯食べようね」
「どうでもいいけど御飯って漢字で書くと御坂って苗字と似てるよね」
 ということは、御坂美琴は御飯美琴と書いてもさほど違和感はないということだろうか。嫌だな、米粒を使って戦うレベル5。レベル5ってFFでいうと初期レベルじゃね? と思わなくもないけど、とりあえずレベル0の私達姉妹は食事をした。
「お姉ちゃん私ヒアルロン酸が足りない気がするから、食事に混ぜて?」
「コラーゲンで我慢しなさい」 
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