次の問題は、多くの中学入試対策テキストに掲載されている基本問題です。

例題:図は、半径10cmの円と、その円周上に4つの頂点がある正方形である。斜線部の面積を求めなさい。
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問題自体はたいして難しい問題ではありません。ちょっと勉強をしたら、ほとんどの子が解けるようになります。

しかし、教えるほうからすると、どういう解き方をするのがその子の将来のためになるのか、指導の仕方をいろいろ考えさせられる問題です。


まず、子どもたちに自分流に解かせてみます。

円の面積から正方形の面積をひけば斜線部の面積を求められることは、ほとんどの子がすぐに思いつきます。

円の面積は10×10×3.14で簡単に求められますから、次に、どうやって正方形の面積を求めたらよいかということになります。

まだ、勉強が足らない子、勉強はしていても算数のコツをつかみきれていない子はここで手がとまります。


第一関門

2半径10cmしかわからないので、その10cmを利用して正方形の面積を求めようと思えば、左図のように線を自分で引いて半径10cmを正方形のどこかに持ってこないといけません。

この段階が実は一番大事なポイントで、道にポロンと置いてある「用具」を自分が使える「道具」として拾い上げる行為にあたります。

「問題を解く」とは、自分が使える道具を見つけて、それを利用して問題を解決していく過程です。
道具を見つけないと、どんなに悩んでもその問題は解けません。

10cmの半径を正方形の対角線上にひきなおすことができた人だけがこの問題を解くことができます。

分岐点

私が指導の仕方を悩むのはその次の段階です。

(1)自力で解く子の解き方

3半径10cmを正方形の対角線に移すことができた人は、たいがい左の図の部分がすべて10cmであることに気づきます。

1辺が10cmの直角二等辺三角形が4つあると考えて(10×10÷2)×4で200平方cmと解くか、底辺20cmで高さが10cmの三角形が2つあると考えて(20×10÷2)×2で200平方cmと求めるか、いずれにしても、314−200=114の式にたどりつけるので、正解を求めることができます。


(2)ついつい私が教えてしまうこと

ところが4上の(1)の解き方は、この問題ではたまたま上手くいきましたが、どんな問題でも通用するだろうかという疑問がちょっとだけ残ります。

そこで、よく似た問題だとどんなときでも通用するように、「正方形はひし形の一つでしょう?」、「だったら、ひし形の面積の公式である対角線×対角線÷2で解けるんじゃないの?」と、ついつい私は口を出してしまいます。

10×10×3.14−20×20÷2=114と、かっこよく解かせたくなってしまうのです。


私の悩み

私の中に葛藤があるのです。

「こうやって解くんだよ」と人に教えてもらって解けたって、おもしろくもなんともないにちがいない。
自分で苦労して見つけたことを使って解けたら、そのときの喜びは大きいだろう。
その意味では、(1)の解き方のほうが子どものためになるような気がする。

ところが、(1)の解き方は汎用性を持たないだろう。
よく似た問題が出たらいつでも解けるように、「正方形はひし形でもある」と公式化して(2)の解き方を覚えさせたい。

どちらがよいのか、ずっと悩み続けています。


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