『気楽に古文を読もう』シリーズの第4弾です。公立高校入試で出題された文章を、入試問題と身構えないで気楽に読みましょう。

問題文は『道行きぶり』からとられた一文です。
『道行きぶり』は、九州探題となった今川了俊が、1371年、京都から安芸の国(広島県)、長門の国(山口県)を経て、山陽道を大宰府までおもむくときの旅程をつづった紀行文だといわれています。

問題文は、筆者の今川了俊が、旅の途中、大崎、田島(現在の山口県防府市にある地名)を通過したときの光景を書いた一節です。

意味をさぐりながら、(1)音読を心がける、(2)「何がおもしろい(興味深い)のか」を理解する、の2点に留意して、まず読んでみましょう。

( )内の平仮名は問題につけてあった読み仮名です。
各行の下の小さい活字の部分は、問題に初めからついている注釈です。
また、問題文についていた注を本文のあとにのせています。



本文

神無月(かんなづき)の七日の夜(よ)深く立ちて、
旧暦の十月
なほ干潟の路(みち)を行くに、島々、入江(いりえ)入江どもの、
やはり
いふばかりなく目もあやなる所々うちつづきたり。
           
大崎(おほさき)の浜、田島(たじま)といふ方は、うち煙(けぶ)りたるやうにて、

曙(あけぼの)の空のどかにて、波の音も聞こえぬほどなり。

藍辺(あしべ)の鶴(たづ)の明けぬと鳴く声のどかなり。

大崎の浦吹く風の朝凪(あさなぎ)に田島を渡る鶴の諸声(もろごえ)

そのこなたは、村の煙(けぶり)立ちならびて、
・・・・
こちら側
梅や桜の、時ならぬ花さへ咲きそひつつ、
・・・・・・・・・・・
季節はずれの
朝気(あさけ)の風に匂ひ来るも、春秋を並べたらむ心地しておもしろし。


(注)
大崎・田島=現在の山口県の地名。
朝凪=朝、風がやんで海上の波が穏やかになること。


文の主題(テーマ)を読み取ろう

作者が何に感動したのかを読み取らないといけません。

枕草子などを読んでもわかりますが、昔の人はゆっくりとうつろっていく景色や季節の流れに美しさと同時にはかなさを感じとり、それに感動したのです。

この文章では、道行きの途中の美しい海の景色、明け方の浜辺ののどかさ、そこで聞こえる鶴ののどかな鳴き声、そして朝の空気の中にただよってくる花のほのかな香りなどの、作者が感動した対象を読み取る必要があります。


ワンポイント・レッスン

いふばかりなく」・・・「いいあらわしようがない」、「言い尽くせない」。

目もあやなる」・・・「まぶしいほどりっぱな」。

助動詞「」・・・(1)完了の助動詞。「〜してしまった」、「〜した」で、こちらの用例のほうが多い。(2)打ち消しの助動詞「ず」(=ない)の連体形。
波の音も聞こえぬほどなり。」の「ぬ」は体言の「ほど」に続く打ち消しの助動詞「ず」の連体形。「波の音も聞こえないほどだ。」
明けぬと鳴く声のどかなり。」の「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」。「明けと鳴く声がのどかである。」

諸声」・・・何羽かの鶴が「一斉にあげる声」。

春秋を並べたらむ心地」・・・「春と秋とを並べたかのような気持ち」。
秋なのに、春の花である梅や桜の花が咲いてにおっているのです。

おもしろし」・・・もともと「面(おも)」「白し」で、目の前がぱっと明るくなる感じを表わす。「(景色が)すばらしい、趣(おもむき)がある」。「(音楽が)楽しい」。
古くは風景や音楽がすばらしいときに使われた語です。


せっかく読んだので、ついでに出題された問題も解いておきましょう

次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。

神無月(かんなづき)の七日の夜(よ)深く立ちて、
旧暦の十月
なほ干潟の路(みち)を行くに、島々、入江(いりえ)入江どもの、
やはり
いふばかりなく目もあやなる所々(ア)うちつづきたり
           
大崎(おほさき)の浜、田島(たじま)といふ方は、うち煙(けぶ)りたるやうにて、

曙(あけぼの)の空のどかにて、波の音も(A)聞こえぬほどなり。

藍辺(あしべ)の鶴(たづ)の(B)明けぬと鳴く声のどかなり。

大崎の浦吹く風の朝凪(あさなぎ)に田島を(イ)渡る鶴の諸声(もろごえ)

そのこなたは、村の煙(けぶり)立ちならびて、
・・・・
こちら側
梅や桜の、時ならぬ花さへ咲きそひつつ、
・・・・・・・・・・・
季節はずれの
朝気(あさけ)の風に匂ひ来るも、(ウ)春秋を並べたらむ心地しておもしろし。


(注)
大崎・田島=現在の山口県の地名。
朝凪=朝、風がやんで海上の波が穏やかになること。


問い

1、(ア)うちつづきたりとあるが、どのようなところが続いているのか。次のうち、最も適しているものを一つ選び、記号を書きなさい。

ア とくに言うほどの名所もなく民家の立ち並ぶところ。
イ とても言いつくせないほどすばらしい眺めのところ。
ウ ここで言ってもしかたのないつらい思い出があるところ。
エ だれが言うともなくその辺り一帯が有名になったところ。


(解答)「いふばかりなく目もあやなる所々」が続いていると原文に書いてあるから、答えはイです。

2、本文中の(A)聞こえぬ、(B)明けぬのことばの意味の組み合わせとして正しいものを次から一つ選び、記号を書きなさい。

ア A 聞こえた   B 明けた
イ A 聞こえた   B 明けない
ウ A 聞こえない  B 明けた
エ A 聞こえない  B 明けない


(解答)中学生は古文の文法まで知る必要はありません。「ぬ」の厳密な意味を知らないでよいのです。

空のどかにて、波の音も(A)聞こえぬほどなり」とあるから、「空がのどかで波の音も聞こえないくらいだ」と見当がつきます。

また、「」や「村の煙り」から、夜は明けていることがわかります。

答えはウ。


3、(イ)渡るの本文中での意味として最も適しているものを一つ選び、記号を書きなさい。

ア 飛んでいく  イ 埋めつくす  ウ 住まいとする  工 昔から知る


(解答)「朝凪(あさなぎ)の風の中を渡る」から、ア以外にありません。


4、(ウ)春秋を並べたらむ心地してとあるが、このときの筆者の気持ちについて述べた次の文の(     )に入る内容を、現代のことばで二十五字以内で書きなさい。

村には朝の炊事をする煙が立ち並び、そこに
(     )ことも、春と秋を並べたようで趣深いという気持ち。

(解答)「季節をはずれて咲いた梅や桜の花の匂いがしてくる」(23字)

模範解答は、「季節はずれの梅や桜の花が咲いて、朝の風に匂ってくる」(25字)


(平成22年度大阪府公立高校学力検査後期問題より、配点は80点中13点)


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