「公立高校入試で出題された古文を気楽に読もう」の(5)です。
今日取り上げる文章は、室町時代後期の作品『伊曾保物語(いそほものがたり)』の中の一話です。
伊曾保物語は、ギリシャのイソップ(アイソーポス)が紀元前6世紀につくったとされる『イソップ物語』を日本語に翻訳した作品です。
わが国にキリスト教の布教にやってきたイエズス会の宣教師が信者の教化に使おうとして翻訳、出版しました(1593年、豊臣秀吉の朝鮮出兵の頃です)。
当時の日本の話し言葉をもちい、ローマ字で表記された、東アジアで最初の活版印刷物です。
江戸時代になると仮名草子(かなぞうし)の『伊曾保物語』として出版され、広く普及しました(例:「うさぎと亀」など)。
意味をさぐりながら、(1)音読を心がける、(2)「何がおもしろい(興味深い)のか」を理解する、の2点に留意して、まず読んでみましょう。
本文
ある時しやんと旅行におもむかせ給(たま)ふに、下人(げにん)どもに荷物をあておこなふ。
われもわれもと軽(かろ)き荷物をあらそひ捕りて、これをもつ。
ここに食物(じきもつ)を入れたるものあり。
その重きにおそれて、これを持つ者なし。
「さらば」とて、いそほ辞するにおよばず、「なに事も殿の御奉公ならば」とて、これを持つ。
その日の重荷、「いそほに過ぎたる者なし」と皆人いひけり。
日数(ひかず)経て行くほどに、この食物をつねに用(もち)ゆ。
かるがゆへに日に添えて軽くなりけり。
果てには、いと軽き荷物持ちてけり。
「あっぱれ賢き心宛(こころあて)かな」とてそねみ給ふ人々ありけり。
(注)
「しやんと」・・・シヤント。主人の名前。
「あておこなふ」・・・「割り当てた」。「あて」分担して、「おこなふ」持たせた。
「いそほ」・・・イソホ(イソップ)。物語の主人公。
(『伊曾保物語』「荷物を持つ事」)
文の主題(テーマ)を読み取ろう
イソップ物語は教訓をふくんだ寓話(ぐうわ)です。
この話では、イソホ(イソップ)の知恵をほめています。
競って軽い荷物を運ぼうとしたイソップ以外の人たち、それに対してイソップは食物の入った一番重い荷物を運ぶことになりました。
イソップのことを「あほやなあ」と思っていた人たちが、イソップの知恵に最後には「やられた」と思わされる「おち」のおもしろさを読み取らないといけません。
ワンポイント・レッスン
「おもむかせ給ふ」・・・「おでかけになられる」。
江戸時代以前のわが国は身分社会です。身分が上の人に対しては過剰なほどの敬語を使いました。
逆にそのことを利用すれば、古文を読むとき、使われている敬語から誰のことをさしているのかを簡単に読み取ることができます。
「下人(げにん)」・・・「使用人」、「身分の低い者」。
イソップは奴隷であったと言われています。
「さらば」・・・「それならば」、「そうであるなら」。
古文では、「さ」は「そう」の意味です。
他の例:「されば」=「そうであれば」、「それゆえ」。
「辞するにおよばず」・・・「ことわるまでもなく」。
「かるがゆへに」・・・「このような理由で」。
「か(このように)あるがゆへに」が変化した形。「ゆへ」はわけ、理由。
「けり」・・・「〜た」。
「軽くなりけり」=「軽くなった」。
「けり」は古文でよく使われる助動詞です。事実を客観的に過去のこととして記述するときに文末に用います。
「果てには」・・・「最後には」。
「あっぱれ」・・・「なんと」。
「心宛(こころあて)」・・・「目的」、「心づかい」。
「そねみ給ふ」・・・「そねむ」=「ねたむ」、「うらやましがって憎む」。
せっかく読んだので、ついでに出題された問題も解いておきましょう
次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
ある時しやんと旅行におもむかせ給(たま)ふに、下人(げにん)どもに荷物をあておこなふ。
われもわれもと軽(かろ)き荷物をあらそひ捕りて、これをもつ。
ここに食物(じきもつ)を入れたるものあり。
その((1) )におそれて、これを持つ者なし。
「さらば」とて、いそほ辞するにおよばず、「なに事も殿の御奉公ならば」とて、これを持つ。
その日の重荷、「いそほに過ぎたる者なし」と皆人いひけり。
日数(ひかず)経て行くほどに、この食物をつねに用(もち)ゆ。
かるがゆへに日に添えて軽くなりけり。
果てには、いと軽き荷物持ちてけり。
「(2)あっぱれ賢き心宛(こころあて)かな」とてそねみ給ふ人々ありけり。
問い
1、現代かなづかいに改めよ。
(1)あらそひ
(2)いひけり
(解答)
(1)あらそい
(2)いいけり
2、本文中の((1) )に入る言葉として最も適切なものを次から選び、記号で答えよ。
ア 軽き
イ 重き
ウ 古き
エ 新しき
(解答)
イ
3、「(2)あっぱれ賢き心宛(こころあて)かな」とあるが、人々がうらやみねたんだのは何か。最も適切なものを次から選び記号で答えよ。
ア いそほの強力ぶり
イ いそほの誠実な心
ウ いそほの責任感
エ いそほの先見の明
(解答)
エ
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今日取り上げる文章は、室町時代後期の作品『伊曾保物語(いそほものがたり)』の中の一話です。
伊曾保物語は、ギリシャのイソップ(アイソーポス)が紀元前6世紀につくったとされる『イソップ物語』を日本語に翻訳した作品です。
わが国にキリスト教の布教にやってきたイエズス会の宣教師が信者の教化に使おうとして翻訳、出版しました(1593年、豊臣秀吉の朝鮮出兵の頃です)。
当時の日本の話し言葉をもちい、ローマ字で表記された、東アジアで最初の活版印刷物です。
江戸時代になると仮名草子(かなぞうし)の『伊曾保物語』として出版され、広く普及しました(例:「うさぎと亀」など)。
意味をさぐりながら、(1)音読を心がける、(2)「何がおもしろい(興味深い)のか」を理解する、の2点に留意して、まず読んでみましょう。
本文
ある時しやんと旅行におもむかせ給(たま)ふに、下人(げにん)どもに荷物をあておこなふ。
われもわれもと軽(かろ)き荷物をあらそひ捕りて、これをもつ。
ここに食物(じきもつ)を入れたるものあり。
その重きにおそれて、これを持つ者なし。
「さらば」とて、いそほ辞するにおよばず、「なに事も殿の御奉公ならば」とて、これを持つ。
その日の重荷、「いそほに過ぎたる者なし」と皆人いひけり。
日数(ひかず)経て行くほどに、この食物をつねに用(もち)ゆ。
かるがゆへに日に添えて軽くなりけり。
果てには、いと軽き荷物持ちてけり。
「あっぱれ賢き心宛(こころあて)かな」とてそねみ給ふ人々ありけり。
(注)
「しやんと」・・・シヤント。主人の名前。
「あておこなふ」・・・「割り当てた」。「あて」分担して、「おこなふ」持たせた。
「いそほ」・・・イソホ(イソップ)。物語の主人公。
(『伊曾保物語』「荷物を持つ事」)
文の主題(テーマ)を読み取ろう
イソップ物語は教訓をふくんだ寓話(ぐうわ)です。
この話では、イソホ(イソップ)の知恵をほめています。
競って軽い荷物を運ぼうとしたイソップ以外の人たち、それに対してイソップは食物の入った一番重い荷物を運ぶことになりました。
イソップのことを「あほやなあ」と思っていた人たちが、イソップの知恵に最後には「やられた」と思わされる「おち」のおもしろさを読み取らないといけません。
ワンポイント・レッスン
「おもむかせ給ふ」・・・「おでかけになられる」。
江戸時代以前のわが国は身分社会です。身分が上の人に対しては過剰なほどの敬語を使いました。
逆にそのことを利用すれば、古文を読むとき、使われている敬語から誰のことをさしているのかを簡単に読み取ることができます。
「下人(げにん)」・・・「使用人」、「身分の低い者」。
イソップは奴隷であったと言われています。
「さらば」・・・「それならば」、「そうであるなら」。
古文では、「さ」は「そう」の意味です。
他の例:「されば」=「そうであれば」、「それゆえ」。
「辞するにおよばず」・・・「ことわるまでもなく」。
「かるがゆへに」・・・「このような理由で」。
「か(このように)あるがゆへに」が変化した形。「ゆへ」はわけ、理由。
「けり」・・・「〜た」。
「軽くなりけり」=「軽くなった」。
「けり」は古文でよく使われる助動詞です。事実を客観的に過去のこととして記述するときに文末に用います。
「果てには」・・・「最後には」。
「あっぱれ」・・・「なんと」。
「心宛(こころあて)」・・・「目的」、「心づかい」。
「そねみ給ふ」・・・「そねむ」=「ねたむ」、「うらやましがって憎む」。
せっかく読んだので、ついでに出題された問題も解いておきましょう
次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
ある時しやんと旅行におもむかせ給(たま)ふに、下人(げにん)どもに荷物をあておこなふ。
われもわれもと軽(かろ)き荷物をあらそひ捕りて、これをもつ。
ここに食物(じきもつ)を入れたるものあり。
その((1) )におそれて、これを持つ者なし。
「さらば」とて、いそほ辞するにおよばず、「なに事も殿の御奉公ならば」とて、これを持つ。
その日の重荷、「いそほに過ぎたる者なし」と皆人いひけり。
日数(ひかず)経て行くほどに、この食物をつねに用(もち)ゆ。
かるがゆへに日に添えて軽くなりけり。
果てには、いと軽き荷物持ちてけり。
「(2)あっぱれ賢き心宛(こころあて)かな」とてそねみ給ふ人々ありけり。
問い
1、現代かなづかいに改めよ。
(1)あらそひ
(2)いひけり
(解答)
(1)あらそい
(2)いいけり
2、本文中の((1) )に入る言葉として最も適切なものを次から選び、記号で答えよ。
ア 軽き
イ 重き
ウ 古き
エ 新しき
(解答)
イ
3、「(2)あっぱれ賢き心宛(こころあて)かな」とあるが、人々がうらやみねたんだのは何か。最も適切なものを次から選び記号で答えよ。
ア いそほの強力ぶり
イ いそほの誠実な心
ウ いそほの責任感
エ いそほの先見の明
(解答)
エ
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