「気楽に公立高校入試で出題された古文を読もう」の(7)です。
今日の文章の出典は、松平定信の『花月草紙(かげつそうし)』です。
松平定信は社会科でおなじみですね。
江戸幕府の老中で、寛政の改革をおこなった人です。
徳川吉宗の孫として生まれ、陸奥国の白河藩主となります。田沼意次の失脚後、11代将軍家斉のとき老中となり、1793年に辞職するまで寛政の改革を断行します。
辞職後、自分の体験や感想を1796〜1803年にかけてつづった随筆が『花月草紙』です。
(1)音読を心がける、(2)「何がおもしろい(興味深い)のか」を理解する、の2点に留意して、まず読んでみましょう。
本文
ものを引き延ばして、時失ふ者ありけり。
人の早苗(さなえ)植うるころ、種ほどこしてけり。
葉月のころ、穂の出(い)でたるに、嵐(あらし)吹きてければ、「花散りぬ」と嘆くを、
あまりにもの急ぎし給へばこそあれ。
わが稲は、この頃植ゑにしかば、嵐のわざはひにもあひはべらずと、
人にたかぶりけり。
人の刈り収(おさ)むるころ、少しばかり穂の見えたるが、はや霜の置きてければ、みな枯れぬ。
「ことしはいと早う霜の置きしなり」とて、年をのみ罪していまだ悟らざりしとなり。
(注)早苗・・・稲の苗
葉月・・・旧暦の8月
年をのみ罪して・・・その年の天候の不順のせいにして
文の主題(テーマ)を読み取ろう
しないといけない事を先のばしにして、時機(ものごとのチャンス)を失う人がいるということを、愚かな人のおこないを通して指摘しています。
作者の言いたいことの中心は、冒頭の「ものを引き延ばして、時失ふ者ありけり。」です。
愚かな人は、時機をのがすだけでなく、8月、稲穂が出た頃に嵐がきて心配して嘆く人を見おろして、「あまりにもものごとを急ぐからです。自分は植えたばかりだから嵐の災いにも会わずにすみました。」と馬鹿にします。
当然、人が刈り取る頃にやっと穂が出てきますが、はやくも霜が降りたので自分の稲はみな枯れてしまいます。
それでも愚かな人は悟りません。「今年はとても早く霜が降りたものだ。」と、その年の天候不順のせいにして懲りないままです。
物事を先のばしにしてチャンスをのがす、自分の無知を知らずに人を馬鹿にする、失敗しても自然のせいにして反省することがない、以上3つの過ちをおかして恥じない人の行状を記述することで世の人の戒めとしています。
ワンポイント・レッスン
古文では、格助詞「の」がしばしば主語を表わします。
「が」と言い換えられる「の」は、主語を表わす「の」です。
本文中の、「人の早苗(さなえ)植うるころ」、「穂の出(い)でたるに」、「人の刈り収(おさ)むるころ」、「穂の見えたるが」、「霜の置きてければ」、「霜の置きしなり」の「の」が、「が」と言い換えられる、主語を表わす「の」です。
「種ほどこしてけり」・・・「種をまいた」
「葉月」・・・旧暦の8月ですが、だいたい旧暦の8月は現代の暦(新暦)では9月にあたります。9月は台風のシーズンですから嵐がきたのでしょう。
「花散りぬ」・・・「花が散ってしまった」
「この頃植ゑにしかば」・・・「最近植えたので」
「あひはべらず」・・・「あいませんでした」
「はべらず」は「はべり」の否定形。「はべり」は「ます」「でございます」の意味で丁寧な表現のときに使います。
「霜の置きてければ」・・・「霜が降りたので」
せっかく読んだので、ついでに出題された問題も解いておきましょう
次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
ものを引き延ばして、時失ふ者ありけり。
人の早苗(さなえ)植うるころ、種ほどこしてけり。
葉月のころ、穂の出(い)でたるに、嵐(あらし)吹きてければ、「(ア)花散りぬ」と嘆くを、
あまりにもの急ぎし給へばこそあれ。
わが稲は、(イ)この頃植ゑにしかば、嵐の(ウ)わざはひにもあひはべらずと、
(エ)人にたかぶりけり。
人の刈り収(おさ)むるころ、少しばかり穂の見えたるが、はや霜の置きてければ、みな枯れぬ。
「ことしはいと早う霜の置きしなり」とて、年をのみ罪して(オ)いまだ悟らざりしとなり。
(注)早苗・・・稲の苗
葉月・・・旧暦の8月
年をのみ罪して・・・その年の天候の不順のせいにして
1、文章中の会話の中で、会話を示す「」をつけていないところが1か所ある。その部分の始めと終わりの四字をそれぞれ抜き出して答えよ。(句読点は含まない。)
会話部分は、「と」の前までだと知っていたら見つかりやすくなります。
「・・・・・・」との形になっています。
(解答)あまりに〜はべらず
2、傍線(ア)「花散りぬ」とあるが、散ったのは何の花であるかを答えよ。
(解答)稲の花
3、傍線(イ)「このごろ」とあるが、いつごろのことか。本文中の語句を抜き出して答えよ。
(解答)葉月のころ
4、傍線(ウ)「わざはひ」を現代かなづかいに改めよ。
(解答)わざわい
5、傍線(エ)「人にたかぶりけり」とあるが、これはどういう意味か。最も適切なものを次から選び、記号で答えよ。
(あ)人に対して興奮したようすを見せた。
(い)人に対して恥ずかしそうな表情を見せた。
(う)人に対して批判的なそぶりを見せた。
(え)人に対して得意そうな態度を見せた。
(解答)(え)
6、傍線(オ)「いまだ悟らざりしとなり」とあるが、どういうことを悟らなかったのか。本文中から適切な部分を十字以上十五字以内で「こと」に続くように抜き出せ。(句読点を含む。)
(解答)ものを引き延ばして、時失ふ(こと)
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今日の文章の出典は、松平定信の『花月草紙(かげつそうし)』です。
松平定信は社会科でおなじみですね。
江戸幕府の老中で、寛政の改革をおこなった人です。
徳川吉宗の孫として生まれ、陸奥国の白河藩主となります。田沼意次の失脚後、11代将軍家斉のとき老中となり、1793年に辞職するまで寛政の改革を断行します。
辞職後、自分の体験や感想を1796〜1803年にかけてつづった随筆が『花月草紙』です。
(1)音読を心がける、(2)「何がおもしろい(興味深い)のか」を理解する、の2点に留意して、まず読んでみましょう。
本文
ものを引き延ばして、時失ふ者ありけり。
人の早苗(さなえ)植うるころ、種ほどこしてけり。
葉月のころ、穂の出(い)でたるに、嵐(あらし)吹きてければ、「花散りぬ」と嘆くを、
あまりにもの急ぎし給へばこそあれ。
わが稲は、この頃植ゑにしかば、嵐のわざはひにもあひはべらずと、
人にたかぶりけり。
人の刈り収(おさ)むるころ、少しばかり穂の見えたるが、はや霜の置きてければ、みな枯れぬ。
「ことしはいと早う霜の置きしなり」とて、年をのみ罪していまだ悟らざりしとなり。
(注)早苗・・・稲の苗
葉月・・・旧暦の8月
年をのみ罪して・・・その年の天候の不順のせいにして
文の主題(テーマ)を読み取ろう
しないといけない事を先のばしにして、時機(ものごとのチャンス)を失う人がいるということを、愚かな人のおこないを通して指摘しています。
作者の言いたいことの中心は、冒頭の「ものを引き延ばして、時失ふ者ありけり。」です。
愚かな人は、時機をのがすだけでなく、8月、稲穂が出た頃に嵐がきて心配して嘆く人を見おろして、「あまりにもものごとを急ぐからです。自分は植えたばかりだから嵐の災いにも会わずにすみました。」と馬鹿にします。
当然、人が刈り取る頃にやっと穂が出てきますが、はやくも霜が降りたので自分の稲はみな枯れてしまいます。
それでも愚かな人は悟りません。「今年はとても早く霜が降りたものだ。」と、その年の天候不順のせいにして懲りないままです。
物事を先のばしにしてチャンスをのがす、自分の無知を知らずに人を馬鹿にする、失敗しても自然のせいにして反省することがない、以上3つの過ちをおかして恥じない人の行状を記述することで世の人の戒めとしています。
ワンポイント・レッスン
古文では、格助詞「の」がしばしば主語を表わします。
「が」と言い換えられる「の」は、主語を表わす「の」です。
本文中の、「人の早苗(さなえ)植うるころ」、「穂の出(い)でたるに」、「人の刈り収(おさ)むるころ」、「穂の見えたるが」、「霜の置きてければ」、「霜の置きしなり」の「の」が、「が」と言い換えられる、主語を表わす「の」です。
「種ほどこしてけり」・・・「種をまいた」
「葉月」・・・旧暦の8月ですが、だいたい旧暦の8月は現代の暦(新暦)では9月にあたります。9月は台風のシーズンですから嵐がきたのでしょう。
「花散りぬ」・・・「花が散ってしまった」
「この頃植ゑにしかば」・・・「最近植えたので」
「あひはべらず」・・・「あいませんでした」
「はべらず」は「はべり」の否定形。「はべり」は「ます」「でございます」の意味で丁寧な表現のときに使います。
「霜の置きてければ」・・・「霜が降りたので」
せっかく読んだので、ついでに出題された問題も解いておきましょう
次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
ものを引き延ばして、時失ふ者ありけり。
人の早苗(さなえ)植うるころ、種ほどこしてけり。
葉月のころ、穂の出(い)でたるに、嵐(あらし)吹きてければ、「(ア)花散りぬ」と嘆くを、
あまりにもの急ぎし給へばこそあれ。
わが稲は、(イ)この頃植ゑにしかば、嵐の(ウ)わざはひにもあひはべらずと、
(エ)人にたかぶりけり。
人の刈り収(おさ)むるころ、少しばかり穂の見えたるが、はや霜の置きてければ、みな枯れぬ。
「ことしはいと早う霜の置きしなり」とて、年をのみ罪して(オ)いまだ悟らざりしとなり。
(注)早苗・・・稲の苗
葉月・・・旧暦の8月
年をのみ罪して・・・その年の天候の不順のせいにして
1、文章中の会話の中で、会話を示す「」をつけていないところが1か所ある。その部分の始めと終わりの四字をそれぞれ抜き出して答えよ。(句読点は含まない。)
会話部分は、「と」の前までだと知っていたら見つかりやすくなります。
「・・・・・・」との形になっています。
(解答)あまりに〜はべらず
2、傍線(ア)「花散りぬ」とあるが、散ったのは何の花であるかを答えよ。
(解答)稲の花
3、傍線(イ)「このごろ」とあるが、いつごろのことか。本文中の語句を抜き出して答えよ。
(解答)葉月のころ
4、傍線(ウ)「わざはひ」を現代かなづかいに改めよ。
(解答)わざわい
5、傍線(エ)「人にたかぶりけり」とあるが、これはどういう意味か。最も適切なものを次から選び、記号で答えよ。
(あ)人に対して興奮したようすを見せた。
(い)人に対して恥ずかしそうな表情を見せた。
(う)人に対して批判的なそぶりを見せた。
(え)人に対して得意そうな態度を見せた。
(解答)(え)
6、傍線(オ)「いまだ悟らざりしとなり」とあるが、どういうことを悟らなかったのか。本文中から適切な部分を十字以上十五字以内で「こと」に続くように抜き出せ。(句読点を含む。)
(解答)ものを引き延ばして、時失ふ(こと)
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