「気楽に公立高校入試で出題された古文を読もう」の(8)です。
今日の文章は、井原西鶴『日本永代蔵(にっぽんえいたいぐら)』です。
井原西鶴は、俳諧の松尾芭蕉、人形浄瑠璃の台本を書いた近松門左衛門と並んで、江戸時代前期の元禄文化を代表する浮世草子の作者です。
西鶴の作品は好色物・武家物・町人物に分類されますが、町人物の代表作が『日本永代蔵』と『世間胸算用(せけんむねさんよう、せけんむなざんよう)』です。勃興してきた町人の生活をいきいきと描写して庶民から支持されました。
(1)音読を心がける、(2)「何がおもしろい(興味深い)のか」を理解する、の2点に留意して、まず読んでみましょう。
本文
ある時、夜更(ふ)けて樋口屋の門をたたきて、酢を買ひにくる人ありけり。
中戸を奥へは幽(かす)かに聞こえける。
下男目を覚まし、「何程(なにほど)がの」と云ふ。
「むつかしながら一文(もん)がの」と云ふ。
空寝入りして、そののち返事をせねば、ぜひなく帰りぬ。
夜明けて亭主は、かの男よび付けて、何の用もなきに「門口三尺ほれ」と云ふ。
御意(ぎょい)に任せ九三郎、もろ肌ぬぎて鍬を取り、堅地に気をつくし、身汗水なして、やうやう掘りける。
その深さ三尺といふ時、「銭があるはづ、いまだ出ぬか」と云ふ。
「小石・貝殻より外に何も見えませぬ」と申す。
「それ程にしても銭が一文ない事、よく心得て、かさねては一文商も大事にすべし。」
(注)
中戸…店と居間を仕切る戸。
何程がの…どれほどですか。
文…通貨の単位。現代の貨幣価値で10円程度。
御意に任せて…ご命令に従って。
尺…長さの単位。一尺は約30.3cm。
文の主題(テーマ)を読み取ろう
町人の商業道徳を説いた文章です。
些少な金額の買い物をしに来た客を下男が相手にせずに帰してしまいます。
店の主人が下男の行いを諭(さと)すのに、店先のかたい土地に1mほどの穴を掘らせます。苦労して穴を掘る下男に「銭が埋まっているはず。まだ出ぬか。」と聞く主人。
当然、小石や貝殻しか出てきません。「それだけ苦労しても銭は一文も出てこないことを心得て、これからは一文の商いも大事にせよ」と主人は叱ります。
「金額の多少で客を差別するな、誠意を尽くせ。」という、現代にも通じる商人としての倫理を教える作品です。
ワンポイント・レッスン
「中戸を奥へは」・・・「中戸をへだてて奥には」。
奥にいる主人に、客が戸をたたく音がかすかに聞こえたのです(だから、翌朝、下男を叱ることができた)。
「むつかし」・・・「わずらわしい」、「面倒である」。
この語が「むづかし」になり、「理解しにくい、困難だ」の意味になりました。
「ぜひなく」・・・「仕方なく」、「やむをえず」。
「御意」・・・(身分が上の人の)「考え」、「意向」。
「気をつくし」・・・「精をだして」、「必死で」。
「やうやう」・・・「やっとのことで」。
枕草子の「やうやう」=「だんだん」と違って、ここでは「やっとのことで」の意味です。
「かさねては」・・・「これからは」。
せっかく読んだので、ついでに出題された問題も解いておきましょう
次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
ある時、夜更(ふ)けて樋口屋の門をたたきて、酢を買ひにくる人ありけり。
中戸を奥へは幽(かす)かに聞こえける。
下男目を覚まし、「何程(なにほど)がの」と云ふ。
「(1)むつかしながら一文(もん)がの」と云ふ。
空寝入りして、そののち返事をせねば、ぜひなく帰りぬ。
夜明けて亭主は、かの男よび付けて、(2)何の用もなきに「門口三尺ほれ」と云ふ。
御意(ぎょい)に任せ九三郎、もろ肌ぬぎて鍬を取り、堅地に気をつくし、身汗水なして、(3)やうやう掘りける。
その深さ三尺といふ時、「( (4) )があるはづ、いまだ出ぬか」と云ふ。
「小石・貝殻より外に何も見えませぬ」と申す。
「それ程にしても銭が一文ない事、よく心得て、( (5) )」
(注)
中戸…店と居間を仕切る戸。
何程がの…どれほどですか。
文…通貨の単位。現代の貨幣価値で10円程度。
御意に任せて…ご命令に従って。
尺…長さの単位。一尺は約30.3cm。
1、傍線(1)「むつかしながら」の意味として最も適切なものを、次から選び、記号で答えよ。
ア 苦しいでしょうが
イ めずらしいでしょうが
ウ こわいでしょうが
エ ごめんどうでしょうが
(解答)エ
現代語とは意味が違うから問われます。
前後の文章を参考に、一番ふさわしい意味を常識で選ぶべきです。
2、傍線(2)「何の用もなきに『門口三尺ほれ』」とあるが、だれがだれのどういう行為に対してそうさせたのか。「酢」という言葉を使い、「…が…の…に対して」の形で、二十八字以内(句読点を含む)で書け。
(解答)「亭主が下男の一文で酢を買いに来た客を帰した行為に対して(27字)」
3、傍線(3)「やうやう」の意味を次から選び、記号で答えよ。
ア いろいろ
イ ゆっくり
ウ ようやく
エ かるがる
(解答)ウ
4、( (4) )に入る言葉として最も適切なものを、文中から抜き出し、一字で書け。
(解答)銭
5、( (5) )に入る表現を次から選び、記号で答えよ。
ア かさねては酢の商いも大事にすべし。
イ かさねては一文商も大事にすべし。
ウ かさねては夜更けの商も大事にすべし。
エ かさねては夜明けの商も大事にすべし。
(解答)イ
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今日の文章は、井原西鶴『日本永代蔵(にっぽんえいたいぐら)』です。
井原西鶴は、俳諧の松尾芭蕉、人形浄瑠璃の台本を書いた近松門左衛門と並んで、江戸時代前期の元禄文化を代表する浮世草子の作者です。
西鶴の作品は好色物・武家物・町人物に分類されますが、町人物の代表作が『日本永代蔵』と『世間胸算用(せけんむねさんよう、せけんむなざんよう)』です。勃興してきた町人の生活をいきいきと描写して庶民から支持されました。
(1)音読を心がける、(2)「何がおもしろい(興味深い)のか」を理解する、の2点に留意して、まず読んでみましょう。
本文
ある時、夜更(ふ)けて樋口屋の門をたたきて、酢を買ひにくる人ありけり。
中戸を奥へは幽(かす)かに聞こえける。
下男目を覚まし、「何程(なにほど)がの」と云ふ。
「むつかしながら一文(もん)がの」と云ふ。
空寝入りして、そののち返事をせねば、ぜひなく帰りぬ。
夜明けて亭主は、かの男よび付けて、何の用もなきに「門口三尺ほれ」と云ふ。
御意(ぎょい)に任せ九三郎、もろ肌ぬぎて鍬を取り、堅地に気をつくし、身汗水なして、やうやう掘りける。
その深さ三尺といふ時、「銭があるはづ、いまだ出ぬか」と云ふ。
「小石・貝殻より外に何も見えませぬ」と申す。
「それ程にしても銭が一文ない事、よく心得て、かさねては一文商も大事にすべし。」
(注)
中戸…店と居間を仕切る戸。
何程がの…どれほどですか。
文…通貨の単位。現代の貨幣価値で10円程度。
御意に任せて…ご命令に従って。
尺…長さの単位。一尺は約30.3cm。
文の主題(テーマ)を読み取ろう
町人の商業道徳を説いた文章です。
些少な金額の買い物をしに来た客を下男が相手にせずに帰してしまいます。
店の主人が下男の行いを諭(さと)すのに、店先のかたい土地に1mほどの穴を掘らせます。苦労して穴を掘る下男に「銭が埋まっているはず。まだ出ぬか。」と聞く主人。
当然、小石や貝殻しか出てきません。「それだけ苦労しても銭は一文も出てこないことを心得て、これからは一文の商いも大事にせよ」と主人は叱ります。
「金額の多少で客を差別するな、誠意を尽くせ。」という、現代にも通じる商人としての倫理を教える作品です。
ワンポイント・レッスン
「中戸を奥へは」・・・「中戸をへだてて奥には」。
奥にいる主人に、客が戸をたたく音がかすかに聞こえたのです(だから、翌朝、下男を叱ることができた)。
「むつかし」・・・「わずらわしい」、「面倒である」。
この語が「むづかし」になり、「理解しにくい、困難だ」の意味になりました。
「ぜひなく」・・・「仕方なく」、「やむをえず」。
「御意」・・・(身分が上の人の)「考え」、「意向」。
「気をつくし」・・・「精をだして」、「必死で」。
「やうやう」・・・「やっとのことで」。
枕草子の「やうやう」=「だんだん」と違って、ここでは「やっとのことで」の意味です。
「かさねては」・・・「これからは」。
せっかく読んだので、ついでに出題された問題も解いておきましょう
次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
ある時、夜更(ふ)けて樋口屋の門をたたきて、酢を買ひにくる人ありけり。
中戸を奥へは幽(かす)かに聞こえける。
下男目を覚まし、「何程(なにほど)がの」と云ふ。
「(1)むつかしながら一文(もん)がの」と云ふ。
空寝入りして、そののち返事をせねば、ぜひなく帰りぬ。
夜明けて亭主は、かの男よび付けて、(2)何の用もなきに「門口三尺ほれ」と云ふ。
御意(ぎょい)に任せ九三郎、もろ肌ぬぎて鍬を取り、堅地に気をつくし、身汗水なして、(3)やうやう掘りける。
その深さ三尺といふ時、「( (4) )があるはづ、いまだ出ぬか」と云ふ。
「小石・貝殻より外に何も見えませぬ」と申す。
「それ程にしても銭が一文ない事、よく心得て、( (5) )」
(注)
中戸…店と居間を仕切る戸。
何程がの…どれほどですか。
文…通貨の単位。現代の貨幣価値で10円程度。
御意に任せて…ご命令に従って。
尺…長さの単位。一尺は約30.3cm。
1、傍線(1)「むつかしながら」の意味として最も適切なものを、次から選び、記号で答えよ。
ア 苦しいでしょうが
イ めずらしいでしょうが
ウ こわいでしょうが
エ ごめんどうでしょうが
(解答)エ
現代語とは意味が違うから問われます。
前後の文章を参考に、一番ふさわしい意味を常識で選ぶべきです。
2、傍線(2)「何の用もなきに『門口三尺ほれ』」とあるが、だれがだれのどういう行為に対してそうさせたのか。「酢」という言葉を使い、「…が…の…に対して」の形で、二十八字以内(句読点を含む)で書け。
(解答)「亭主が下男の一文で酢を買いに来た客を帰した行為に対して(27字)」
3、傍線(3)「やうやう」の意味を次から選び、記号で答えよ。
ア いろいろ
イ ゆっくり
ウ ようやく
エ かるがる
(解答)ウ
4、( (4) )に入る言葉として最も適切なものを、文中から抜き出し、一字で書け。
(解答)銭
5、( (5) )に入る表現を次から選び、記号で答えよ。
ア かさねては酢の商いも大事にすべし。
イ かさねては一文商も大事にすべし。
ウ かさねては夜更けの商も大事にすべし。
エ かさねては夜明けの商も大事にすべし。
(解答)イ
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