「公立高校入試で出題された古文を気楽に読もう」の(9)、今日取り上げるのは橘成季(たちばなのなりすえ)『古今著聞集(ここんちょもんじゅう)』です。

鎌倉時代の作品である『古今著聞集』は、平安時代の『今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)』、鎌倉時代の『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』とならんで、三大説話集の一つです。

説話集・・・人々の間に語り伝えられた話(民話・伝説・噂話など)を説話といい、説話を集めたものを説話集といいます。

古今著聞集・・・鎌倉時代、1254年に成立。
3分の1が鎌倉時代、3分の2が平安時代の説話で構成されています。承久の乱から30数年、政治の実権を武士にゆずった貴族の、華やかだった平安時代を懐かしむ気持ちが成立の背景にあると言われています。平安貴族にまつわる話を、事実にもとづいて収集したものが中心です。30編に分かれ、整理の行き届いた構成になっています。

橘成季・・・詳細は不明ですが、下級貴族でありながら、文学、音楽、美術の才能にあふれた才人であったようです。


では、本文を、(1)音読を心がける、(2)「何がおもしろい(興味深い)のか=作者の伝えたいことは何か」を理解する、の2点に留意して、まず読んでみましょう。


本文

伊予の入道は、幼くより絵をよくかきはべりけり。

幼少の時、父の家の中門の廊の壁に、かはらけのわれにて、不動の立ちたまへるをかきたりけるを、

客人
(まらうど)、これを見て、「たがかきて候ふにか」と、おどろきたる気色にて問ひければ、

あるじうち笑ひて、「これはまことしきもののかきたるには候はず。

愚息の小童
(こわらは)がかきて候ふ。」と言はれければ、

いよいよ尋ねて、「然る
(しかる)べき天骨とはこれを申し候ふぞ。

この事、制したまふ事あるまじく候ふ。」となん言ひける。

げにもよく絵見知りたる人なるべし。



(注)
伊予の入道…絵師の藤原隆親。
かはらけ…素焼きの土器。
不動…仏教守護の明王(みょうおう)。


文の主題(テーマ)を読み取ろう

幼少時より画才のあった伊予の入道の逸話を紹介していますが、作者の真意は「げにもよく絵見知りたる人」を誉めるところにあります。

子どもの絵の才能を見抜いた客人の鑑識眼の確かさも誉めているのです。

制したまふ事あるまじく候ふ」にこめられた、すぐれた才能をいつくしむ心情を読み取るべきです。

ひょっとすると、この「客人」はすぐれた芸術家であった橘成季本人かもしれないと想像させる文章です。


ワンポイント・レッスン

かきはべりけり」・・・「おかきになりました」。
「はべり」は丁寧語です。

立ちたまへる」・・・「立たれている」。
「たまふ」は尊敬語です。

たがかきて候ふにか」・・・「誰がかいたのですか」。
「た」=「誰」。

気色」・・・「けしき」と読みます。「表情」、「態度」、「様子」。

まことしきもの」・・・「本格的な絵師」。
「まことし」は、「本格的な」、「本式の」の意味。

愚息の小童(こわらは)」・・・「私の息子である子ども」。

然る(しかる)べき」・・・「すばらしい」。

天骨」・・・「生まれつきの才能」。

制したまふ」・・・「お止めになる」。
「制す」は「制限する」、「止める」です。

あるまじ」・・・「あってはならない」。

げにも」・・・「まことに」。


せっかく読んだので、ついでに出題された問題も解いておきましょう

次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。

伊予の入道は、幼くより絵をよくかきはべりけり。

幼少の時、父の家の中門の廊の壁に、かはらけのわれにて、不動の立ちたまへるをかきたりけるを、

客人
(まらうど)、これを見て、「たがかきて候ふにか」と、(1)おどろきたる気色にて問ひければ、

あるじうち笑ひて、「これはまことしきもののかきたるには候はず。

愚息の小童
(こわらは)がかきて候ふ。」と(A)言はれければ

いよいよ尋ねて、「然る
(しかる)べき天骨とはこれを申し候ふぞ。

この事、
(2)制したまふ事あるまじく候ふ。」となん(B)言ひける

げにも
(3)よく絵見知りたる人なるべし。



1、傍線A「言はれければ」、B「言ひける」の主語はそれぞれだれか。文章中から抜き出して書け。

(解答)
A、あるじ
B、客人


2、傍線(1)「おどろきたる気色」とあるが、なぜおどろいたのか。その理由を句読点を含めて30字以内で書け。

(解答)
「壁に土器のかけらで描かれた不動の絵がすばらしい絵だったから。」(30字)


3、傍線(2)「制したまふ事あるまじく候ふ」とはどういう意味か。最も適切なものを次から選び、記号で答えよ。
ア お許しにならないことです
イ お決めにならないことです
ウ おやめにならないことです
エ お止めにならないことです


(解答)



4、傍線(3)「
よく絵見知りたる人」とは誰のことか。

(解答)
客人




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