推敲(すいこう)の意味
文章を書くとき、あるいは書いた後、さらに良い表現にならないか、あれこれ考えて文を練り直すこと。
故事成語のもとになった出来事・出典
中国で漢詩が全盛を迎えたのは唐(618年~690年、705年~907年)の時代です。詩人では、杜甫(とほ)、李白(りはく)、白居易(はくきょい)などが有名です。
唐の詩人の逸話をまとめた書物が、宋(960年~1279年)の時代に出版された『唐詩紀事(とうしきじ)』です。
故事成語「推敲」のもとになった話は、その『唐詩紀事』にのっています。
少しむずかしい文章なので、漢文の前に、だいたいの意味を書いておきます。
「賈島(かとう)という若い詩人が、科挙(役人になるための試験)を受験するために都の長安にやってきます。当時の乗り物であるロバに乗って、詩を口ずさんでいて『僧は推(お)す月下(げっか)の門』という詩句が頭にうかんできました。」
島赴挙至京、騎驢賦詩、得僧推月下門之句。
島(賈島)、挙(科挙)に赴きて京(けい:都の長安)に至り、驢(ろ=ロバ)に騎(の)りて詩を賦し、『僧は推(お)す月下の門』の句を得たり。
「賈島は、『門を推(お)す』の句をやめて、『門を敲(たた)く』のほうがよいのではないか、「敲(たた)く」に変えようかと思いました。ロバに乗ったまま、手で門をおしたりたたいたりの動作をしながら考えましたが、どちらがよいかなかなか決まりません。」
欲改推作敲。引手作推敲之勢、未決。
推(すい)を改めて、敲(こう)と作(な)さんと欲(ほっ)す。手を引きて推敲(すいこう)の勢いを作(な)すも、未(いま)だ決せず。
「どちらの文句がよいかを考えることに夢中になっていたので、気がつかないで都の長官である韓愈(かんゆ)の行列にロバに乗ったまま突っ込んでしまいました(身分の差がうるさい当時、偉い人の行列のじゃまをすることは大変な罪でした)。(護衛の役人に捕らえられた賈島は)あわてて無礼なおこないをした理由を詳しく説明しました。」
不覚衝大尹韓愈。乃具言。
覚えず大尹(だいいん)韓愈(かんゆ)に衝(あた)る。乃(すなわ)ち具(つぶ)さに言う。
「当時の有名な詩人でもあった韓愈は、賈島の話を聞いて、罪をとがめないで、『推(お)すより、敲(たた)くのほうが、月明かりの下で門をたたく音が感じられて余情があってよいのではないか』と助言しました。そして、並んで進みながら、漢詩についてあれこれ楽しく話し合いました。」
愈曰、敲字佳矣。遂並轡論詩。
愈(ゆ)曰(いわく)く、敲の字佳(よ)し、と。遂(つい)に轡(くつわ)を並べて詩を論ず。
上記の故事から、一度書こうとした文章を、「こう書き換えたほうがよいのではないか、いや、こっちの表現のほうがいいかもしれない」とあれこれ練り直すことを『推敲』というようになったのです。
「推敲」を使う例
・読書作文コンクールに応募する前に、何度も推敲を重ねた。
・書いたあと、何度も推敲しないと良い文章にはならないよ。
似た語との区別
校正(こうせい)
校正とは、手書きの原稿と、印刷用に活字に組んだ原稿とをくらべ合わせて、文字の誤りなどを正すことを言います。
誤字や誤植を見つけることなどが目的で、原文の語句自体の変更をするわけではありません。
そこが、どの語句がよいか、あれこれ文章を練り直す「推敲」と違います。
なお、「校正」は漢字の書き取りの問題でよく出題されます。
文章の見直し
「自分の書いた文章をよく見直しなさい」と言われるときの「見直し」には、「推敲(さらによい表現ができないか文を練り直すこと)」も「校正(誤字や脱字がないかを調べること)」も、さらには内容自体の妥当性の再考慮(文章全体の内容が果たして適切かどうかを再検討すること)もふくみます。
添削(てんさく)
他人が、人の書いた文章に手を加えて直すことです。
自分の書いた文章を直すときには「添削」の語は使いません。
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文章を書くとき、あるいは書いた後、さらに良い表現にならないか、あれこれ考えて文を練り直すこと。
故事成語のもとになった出来事・出典
中国で漢詩が全盛を迎えたのは唐(618年~690年、705年~907年)の時代です。詩人では、杜甫(とほ)、李白(りはく)、白居易(はくきょい)などが有名です。
唐の詩人の逸話をまとめた書物が、宋(960年~1279年)の時代に出版された『唐詩紀事(とうしきじ)』です。
故事成語「推敲」のもとになった話は、その『唐詩紀事』にのっています。
少しむずかしい文章なので、漢文の前に、だいたいの意味を書いておきます。
「賈島(かとう)という若い詩人が、科挙(役人になるための試験)を受験するために都の長安にやってきます。当時の乗り物であるロバに乗って、詩を口ずさんでいて『僧は推(お)す月下(げっか)の門』という詩句が頭にうかんできました。」
島赴挙至京、騎驢賦詩、得僧推月下門之句。
島(賈島)、挙(科挙)に赴きて京(けい:都の長安)に至り、驢(ろ=ロバ)に騎(の)りて詩を賦し、『僧は推(お)す月下の門』の句を得たり。
「賈島は、『門を推(お)す』の句をやめて、『門を敲(たた)く』のほうがよいのではないか、「敲(たた)く」に変えようかと思いました。ロバに乗ったまま、手で門をおしたりたたいたりの動作をしながら考えましたが、どちらがよいかなかなか決まりません。」
欲改推作敲。引手作推敲之勢、未決。
推(すい)を改めて、敲(こう)と作(な)さんと欲(ほっ)す。手を引きて推敲(すいこう)の勢いを作(な)すも、未(いま)だ決せず。
「どちらの文句がよいかを考えることに夢中になっていたので、気がつかないで都の長官である韓愈(かんゆ)の行列にロバに乗ったまま突っ込んでしまいました(身分の差がうるさい当時、偉い人の行列のじゃまをすることは大変な罪でした)。(護衛の役人に捕らえられた賈島は)あわてて無礼なおこないをした理由を詳しく説明しました。」
不覚衝大尹韓愈。乃具言。
覚えず大尹(だいいん)韓愈(かんゆ)に衝(あた)る。乃(すなわ)ち具(つぶ)さに言う。
「当時の有名な詩人でもあった韓愈は、賈島の話を聞いて、罪をとがめないで、『推(お)すより、敲(たた)くのほうが、月明かりの下で門をたたく音が感じられて余情があってよいのではないか』と助言しました。そして、並んで進みながら、漢詩についてあれこれ楽しく話し合いました。」
愈曰、敲字佳矣。遂並轡論詩。
愈(ゆ)曰(いわく)く、敲の字佳(よ)し、と。遂(つい)に轡(くつわ)を並べて詩を論ず。
上記の故事から、一度書こうとした文章を、「こう書き換えたほうがよいのではないか、いや、こっちの表現のほうがいいかもしれない」とあれこれ練り直すことを『推敲』というようになったのです。
「推敲」を使う例
・読書作文コンクールに応募する前に、何度も推敲を重ねた。
・書いたあと、何度も推敲しないと良い文章にはならないよ。
似た語との区別
校正(こうせい)
校正とは、手書きの原稿と、印刷用に活字に組んだ原稿とをくらべ合わせて、文字の誤りなどを正すことを言います。
誤字や誤植を見つけることなどが目的で、原文の語句自体の変更をするわけではありません。
そこが、どの語句がよいか、あれこれ文章を練り直す「推敲」と違います。
なお、「校正」は漢字の書き取りの問題でよく出題されます。
文章の見直し
「自分の書いた文章をよく見直しなさい」と言われるときの「見直し」には、「推敲(さらによい表現ができないか文を練り直すこと)」も「校正(誤字や脱字がないかを調べること)」も、さらには内容自体の妥当性の再考慮(文章全体の内容が果たして適切かどうかを再検討すること)もふくみます。
添削(てんさく)
他人が、人の書いた文章に手を加えて直すことです。
自分の書いた文章を直すときには「添削」の語は使いません。
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