漁夫の利(ぎょふのり)の意味

「二つのものが争っているとき、争いに乗じて第三者が苦労なく利益をえること」を漁夫の利といいます。

貝と鴫(しぎ:鳥の一種)が争って身動きがとれないでいたら、表れた漁師が何の苦労もなしに貝と鴫の両方を捕えることができたという「たとえ話」からできた言葉です。

貝と鴫の争いに乗じて両方を捕えた漁師の話を創作して、無益な争いをやめるように国王を説得した故事からできた言葉です。


故事成語のもとになった出来事・出典

中国の戦国時代(紀元前403年〜紀元前221年:晋が韓・魏(ぎ)・趙(ちょう)の三国に分かれてから秦(しん)が中国を統一するまで)、強国の趙に侵略されそうになった燕(えん)の依頼を受けた蘇代(そだい)(縦横家で有名な蘇秦の弟)が、趙の国に行き、趙の王を相手に、燕を攻めないよう説得したときのたとえ話が出典です(『戦国策・燕策』)。
戦国時代の中国
戦国時代に有力だった七国(秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓)を戦国七雄(せんごくしちゆう)といいます。

時代が進むにつれ、徐々にが他を圧倒する力を持つようになりました。

春秋戦国時代、さまざまな思想を主張して立身出世をめざした学者たちが現れ、諸子百家(しょしひゃっか)と呼ばれました。

諸子百家のうちで、秦以外の六国が協力して秦にあたるべきだという説(合従策:がっしょうさく)を唱えた蘇秦(そしん)に代表される思想家たち((じゅう):縦に並んだ国々が協力するので)と、秦と結んで国を維持するべきだという説(連衡策:れんこうさく)を説いた張儀(ちょうぎ)に代表される思想家たち((おう):横にある秦と結ぶので)を、合わせて縦横家(じゅうおうか)といいました。

蘇代は、蘇秦の弟であり、のために、燕を攻めようとしていたの国王に合従策(趙と燕が協力して強国の秦に対抗するべきだという策)を説いたのです。


『漁夫の利』の原文と書き下し文、現代語訳

(原文)趙且伐燕。
(書き下し文)趙(ちょう)、且(まさ)に燕を伐(う)たんとす。
(現代語訳)趙が、今にも燕に攻め込もうとしていた。

(原文)蘇代為燕謂恵王曰、
(書き下し文)蘇代(そだい)、燕の為(ため)に恵王に謂(い)いて曰(いわ)く、
(現代語訳)蘇代は燕の意を受けて趙の惠王に説いて言った、

(原文)「今者臣來過易水。
(書き下し文)「今者(いま)、臣(しん)来(きた)るとき易水(えきすい)を過(す)ぐ。
(現代語訳)「今日、私は趙に来るとき、易水(趙と燕の国境にある川)を通りました。

(原文)蚌方出曝。
(書き下し文)蚌(ぼう)方(まさ)に出(いで)て曝(さら)す。
(現代語訳)ちょうど(貝の一種、どぶ貝)が河原に出てきて貝殻を開きひなたぼっこをしていました。

(原文)而鷸啄其肉。
(書き下し文)而(しこう)して鷸(いつ)其(そ)の肉を啄(ついば)む。
(現代語訳)すると(鳥の一種、鴫(しぎ))がその貝の肉をたべようとしてついばみました。

(原文)蚌合箝其喙。
(書き下し文)蚌(ぼう)合わせて其(そ)の喙(くちばし)を箝(つぐ)む。
(現代語訳)どぶ貝は貝殻をとじて鴫のくちばしをはさみました。

(原文)鷸曰、『今日不雨、明日不雨、即有死蚌。』
(書き下し文)鷸(いつ)曰(いわ)く、『今日(こんにち)雨ふらず、明日(みょうにち)雨ふらずんば、即(すなわ)ち死蚌(しぼう)有らん』と。
(現代語訳)鴫は貝に言いました『今日も雨が降らないで、明日も雨が降らなければ、貝のおまえは干からびて死んでしまうぞ』と。

(原文)蚌亦謂鷸曰、『今日不出、明日不出、即有死鷸。』
(書き下し文)蚌(ぼう)も亦(また)鷸(いつ)に謂(い)いて曰(いわ)く、『今日(こんにち)出(い)ださず、明日(みょうにち)も出(い)ださずんば、即(すなわ)ち死鷸(しいつ)有らん』と。
(現代語訳)貝も鴫に言いました『今日もくちばしをはずさないで、明日もはずさなかったら、おまえは動けないでここで死んでしまうぞ』と。

(原文)両者不肯相舎。
(書き下し文)両者(りょうしゃ)、相(あい)舎(す)つるを肯(がえ)んぜず。
(現代語訳)お互いが譲らず、離そうとしませんでした。

(原文)漁者得而并擒之。
(書き下し文)漁者(ぎょしゃ)、得(え)て之(これ)を井(あわ)せ擒(とら)えたり。
(現代語訳)漁師が、お互いに争って動けないでいる鴫と貝を見つけて、両方を苦もなく捕らえてしまいました。

(原文)今趙且伐燕。
(書き下し文)今、趙(ちょう)且(まさ)に燕(えん)を伐(う)たんとす。
(現代語訳)今、趙は燕に攻め込もうとしています。

(原文)燕趙久相支、以敝大衆、臣恐強秦之爲漁父也。
(書き下し文)燕と趙久(ひさ)しく相(あい)支(ささ)えて、以(もって)大衆(たいしゅう)を敝(つから)さば、臣(しん)、強秦(きょうしん)の漁父(ぎょほ)と為(な)らんことを恐(おそるる)なり。
(現代語訳)燕と趙が長期にわたって戦い、両国が互いに疲弊すれば、強国の秦が漁師と同じように苦もなく利益を得ることになります、それを私は恐れるのです。

(原文)願王之熟計之也」。
(書き下し文)願(ねが)わくは王(おう)之(これ)を熟計(じゅくけい)せんことを」と。
(現代語訳)お願いです、惠王さま、そこをよくお考えになってください」と。

(原文)惠王曰、「善」。
(書き下し文)恵王(けいおう)曰(いわ)く、「善(よ)し」と。
(現代語訳)惠王は「なるほど、そのとおりだ」と言った。

(原文)乃止。
(書き下し文)乃(すなわ)ち止(や)む。
(現代語訳)兵を出すことをすぐにとりやめた。


蘇代のたくみな比喩に心を動かされて、趙の恵王は燕への派兵を中止したのです。


下は、日清戦争直前のアジアを描いたとされるジョルジュ・ビゴー(日本に滞在していたフランスの画家)の有名な風刺画です。
漁夫の利朝鮮(魚)をねらっている日本(左)と清(右)、そして両国が戦い疲れるのを待っているロシア(上)を描いたものです。
しばしば「漁夫の利」と題して引用されます。







「漁夫の利」を使う例

・アメリカが戦争をしたイラクやアフガニスタンで影響力を増している中国は、漁夫の利を得る世界戦略をめざしている。

・南シナ海の領有をめぐって中国とASEAN諸国の緊張が高まっているが、漁夫の利を得るのはアメリカではないだろうか。


似た意味の語

「鷸蚌(いつぼう)の争い」、「犬兎(けんと)の争い」

「両虎食を争う時は狐その虚に乗る」

「トビに油揚をさらわれる」

英語では、Two dogs fight for a bone,and the third runs away with it.(二匹の犬が骨を争い、三匹目の犬がくわえて逃げる。)





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