新潮45平成24年1月号・「ビートたけしの達人対談」に、ラグビーの松尾雄治さんが登場しています。

松尾雄治さん:昭和29年生まれ。目黒高校・明治大学出身。明治大学で日本選手権準優勝、新日鉄釜石で日本選手権7連覇を含む8度の優勝を達成。日本ラグビー史上最大のスターであった。

私が感動したのは、松尾さんの言葉ではなくて、松尾さんが語った松尾さんの恩師、明治大学ラグビー部元監督の北島忠治さんの言葉です。

北島忠治さん:1996年に95歳で亡くなるまでの67年間、明治大学ラグビー部を指導した伝説的な名監督。人格の陶冶を掲げた愛情のこもった指導で1300人の卒業生を育てた。


松尾雄治さんが語る北島監督の言葉


北島先生の本の最後に、こう書いてある。「本当の勝者とは、四年間一試合も試合に出られずとも、四年間一日も練習を休まず、卒業したものである」と。

北島先生
(の教え)は、もう正々堂々、ずるいことはするなという教えです。


だから「早稲田に勝て」とか、「慶応に勝て」とかそういうことを一度も言われたことはないです。「普段通りに今までやってきたことを思いっ切り、全力で無我夢中で頑張れ」と、それだけでしたね。

北島先生は「試合に勝つことよりも大切なことがある」と言われていたので、「それって何だろう」と、(私、松尾は)ずーっと考えていた。


「試合に勝つことよりも大切なことがある」「それって何だろう」

一時(格差社会が言われ始めた小泉内閣の頃)、「勝ち組、負け組」なる言葉が流行ったことがあります。
私は当時、下品な言葉だなという感想を持ちましたが、では人生で「勝つ」こと以上に何が大事な価値かと問われれば、答えに窮して口ごもってしまいます。

松尾雄治氏は、北島監督の言葉をずうっと考えていて、「それはやっぱり『自分に勝つ』ということなんですよ」との結論に達したそうです。


「正々堂々、ずるいことはするな」

松尾さんはわかってらっしゃるのでしょうが、「自分に勝つ」だけでは、我ら凡人にはわかりにくい。

「勝つより大切なもの」について、もう少し考えてみましょう。

北島監督は、相手の選手が反則で退場したとき、「学生たちに正々堂々と戦わせてやりたい。同じポジションの選手をこちらも退場させて十四対十四でやらせてくれ」と審判に頼んだことがあるそうです。
「相手が一人足りないと、勝っても一生涯『あのとき十四対十五で勝った』ことになるのが不憫でならない」と。

十四対十五の勝利では、「得をした」という卑しい私心が、心のシミ、汚れとなって残るのです。
つまり、ズルをしたり、卑怯な手を使って勝つのがよくないのはもちろんのこと、あとに一点でも心に曇りが残ったら、そんな勝利には何の値打ちもないということです。

だから、本当の勝利は、私心なく「全力で無我夢中で頑張」ったあとの達成感の中にしかない、「全力をふりしぼって最善を尽くす」ことだけが人にできる最上のことであるというのが、北島先生の教えの真髄であり、松尾さんの言う「自分に勝つ」とは以上の意味であろうと、私は理解しました。




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