昔は(10年前くらいまでかな)、例えば小5で公倍数・公約数を教えるとき(今は「ゆとり」で小6に移行していますが)、学校の先生で、素因数分解を使って解く方法を教える人はほとんどいませんでした。6と8の公倍数を求めるのに、6の倍数を6・12・18・24・・・と書かせ、8も同様に8・16・24・・・と書かせ、最小公倍数の24を求めさせていたように記憶しています。
塾は(商売上、塾でいいことを教えてもらったと親や子に思ってほしいので)、学校では習わないと言って、素因数分解のやり方を威張って教えていました。
(素因数分解を使うやり方とは
)6、8
。。3、4
とし、最小公倍数は2×3×4=24と求める方法です。)

塾では機械的なテクニックを教えなくなった

私はある時期から、素因数分解を最初から教えるのはやめました(倍数・約数の単元を教え終えて、最後におまけでふれることはあります)。
その理由は、訓練不足、問題練習不足から、子どもたちが計算の答えをほとんど記憶できていない、つまり、数に対するセンスが相当悪くなってきている今の子に、早い時期に素因数分解を教えると、かえって子どもたちには害になると感じ始めたからです。

昔の子は、学校でしつこく計算ドリル等をやらされたこともあって、今の子より何倍も計算力を身につけた後で塾に来ていました。6と8の公倍数は24くらいのレベルだと、ほとんど頭の中で答えの24が浮かんでいました。だから、49と252の公倍数を求めるといった、複雑な計算を解くのに(これくらいになると暗算は無理です)素因数分解を教えて、それを使ってもらうことに意味があったのです。

つまり、簡単な計算は暗算でぱっと答えが浮かぶ、その前提があるから、面倒な計算用に機械的な方法(この場合は素因数分解)を教えても、子どもたちには害にならなかったのです。

ところが、今の子は、この前提となる暗算、さらにその前提になる計算練習をほとんどさせてもらっていません。そんな子に素因数分解を教えたらどうなるか、いつまでたっても6と8の公倍数=24が頭に残らず、計算の答えの蓄積なしのままで、機械的な処理だけを繰り返すということになってしまいます。

逆に学校で教え始めた

逆に、学校では、最初からさっさと素因数分解を教える先生が目立って増えてきました(塾通いの経験をしたことのある世代の先生が増えてきたためか、教科書会社の発行する教師用ガイドがそうなっているのか、どちらかが理由だろうと推測しています)。
なぜ素因数分解を使えば公約数、公倍数が求められるのか、その原理の理解は小学生にはほとんど無理ですから(よほどよくできる子は別です)、本当に機械的に処理だけになってしまっています。
これは、計算練習の基礎がない今の子どもには「百害あって一利なし」だと断言できます。

『割合』『速さ』でも同じことが

同じことが、『割合』、『速さ』といった、子どもたちの苦手な単元でも起こっています。
以前、塾は、速さの問題を解くのに、丸を書いてその中を三分してキ・ハ・ジを入れて、この図に数字を当てはめたら悩まなくて解けるよと教えていた。

学校ではまず教えなかった。愚直に、速さ=距離÷時間、距離=速さ×時間、時間=距離÷速さの、3つの公式を使い分けさせていた。

今、塾で、丸をかいて上にキ、下にハ・ジを書いて、速さの問題はこれで解けるなんてやっている講師がいるとしたら、シロートに近いと思ってよい。かえって子どもたちの応用力を削ぎ、何の役にも立たないことは、(少なくとも私の周りの)塾の世界では常識です。昔の、ある程度考える訓練をしていた子どもたちには知識の整理として役に立ったかもしれませんが、今の子には毒薬にしかなりません(と、塾で教えている私は思います)。

「速さ」の問題を解くのに、キ・ハ・ジの図を書いて、それで全問題をなんとか解こうと苦悶している子を見ると(キ・ハ・ジを使うだけで解ける問題なんて、出てくる問題の2〜3割です)、かわいそうにとため息が出てしまいます。