来春、平成23年度入試から、大阪府公立高校入試で注目すべき改変がおこなわれます。
要点は3つ、進学指導特色校(文理学科)の設置、普通科総合選択制高校の後期試験への移動、大阪府教育センター附属研究学校(仮称:現大和川高校)の設置です。
最もインパクトの大きい、進学指導特色校(文理学科)についてまとめてみました。
進学指導特色校(文理学科)とは
橋下大阪府知事が主導する改革の一環として、公立高校のうち上位進学校10校を進学指導特色校(文理学科)に指定し(ちまたでは公立トップ10などと略称されています)、府内全域から成績優秀者を集めて大学進学実績を競わせるものです。
大阪府教育委員会の発表内容
(1)10校間の切磋琢磨ときめ細かな進学サポートを目的とする。
(2)定員の半数を文理学科とし(半数は従前通りの普通科)、文理学科1学年4クラス160名は、前期選抜により府内全域から生徒を募集する。
(3)実施対象校は第1学区の北野・豊中・茨木、第2学区の大手前・四条畷、第3学区の高津・天王寺・生野、第4学区の三国丘・岸和田の10高校。
(4)前期入試(2月23日)で選抜し、試験問題は文理学科のみの独自問題。
入試の配点は国語100点+小論文20点、数学120点、英語120点の360点満点。
調査書の配点は3教科1.5倍、理社3倍、実技教科1.5倍で165点満点。
学力検査と調査書の比率は7:3で、普通科に比べ学力検査を重視。
見通しと問題点
(1)10校指定の意味
現在大阪府内では、理数科(定員80名)のある大手前高校、天王寺高校の2校が最難関校です。
世間の噂では、「北野高校出身の橋下知事が、北野の大手前・天王寺超えを意図して企てた」などと言われています(あくまで世間の噂です)。
私がちょっとだけ心配しているのは、10校に入らなかった2番手、3番手校の先生たちの「やる気喪失」です。
このレベルの高校に進む子たちは素直で努力家で、ほんとに『いい子』が多いのに・・・。
この子たちを伸ばしきれなかったら、あまりにも、もったいない。
10校だけでなくて、どこの高校の子もみんなが頑張れるような政策を!というのは夢物語なんでしょうかね。
(2)4クラス160人、前期試験の意味
例えば、今春の高津高校の偏差値は66でした。来春前期試験の文理学科入試における偏差値は、府内全域から「だめもと」で受験する生徒も含めて相当な高倍率になるでしょうから、2〜3ポイント上昇するのではないかと予想します。
ところが学年全体のクラス数は8クラス320人ですから、残りの160人は普通科で、後期試験での選抜になります。
こちらは「後がない入試」なので、受験生も確実に合格できる高校を受験するはずです(10校の後期入試の募集定員は160名、10校以外の募集定員は倍の320人であり、前期に文理学科を受験し不合格になった受験生のうちの相当数は、確実な合格を求めて、10校以外に流出する可能性が高い)。そうなると、前期とは比較にならないくらいに低倍率の入試となってしまいます。
後期試験の偏差値は、今春の入試と比較してよくて現状維持、下手をすると1〜2ポイント低下するのではないでしょうか。
同じ高校の中に、山の形をした正規分布ではない、ふたこぶらくだ型の成績分布の生徒が存在することになるわけです。
文理学科と普通科で先生も完全に分離されるのであれば、それはそれで普通科の子たちは差別されていると感じるでしょうし、同じ先生が教えるのであれば普通科の授業で嫌味を言ったりなんてことが予想されますし、いろいろな弊害が予想されます。
(3)入試科目と配点の意味
大阪府の入試問題の特徴として、国語はほとんど差がつきません。
そうすると、小論文の20点が大きな意味を持ってきます。
小論文ではない、いわゆる作文を書いてしまうとほとんど0点です(現在小論文を入試で課している総合学科の先生がそうおっしゃっています)。
ということは、しっかりした小論文対策が必要になってくるわけです。
英語も、前期試験を受験するようなレベルの子たちだと、ほとんど差がつきません。
その分、英語が多少でも苦手な子は、早々と合格圏外にはじき出されてしまう危険性が高くなります。
結局、合否は数学で決まるというところに落ち着きそうです。
ところが、ちょっと問題が易しいと、このレベルの子たちのほとんどは満点120点中の110点前後に集中してしまいますし、少しでも難しすぎると今度は確実に解ける問題を解いた結果の90点くらいに収斂してしまって、いずれにしても、高校の要望に反して、比率が低かったはずの調査書、内申で決まるという可能性も残ってしまいます。
確実に合格するための対策としては、数学を早めに仕上げて超得意科目にしておくことと、ずば抜けた内申を持って入試に臨むことの2つが肝要だといえると思います。
結論
塾としては、塾内の「よくできる子」を確実に文理学科に合格させる力が塾に備わっているかどうかが問われるようになります。
そのこと自体は、塾の教育力を高める方向に働きますから、塾としては大阪府の今回の改革は歓迎すべきものです。
しかし、塾の人間ではなくて一人の大阪府民として考えたときには、本当にこれでよいのかという危惧の念をぬぐいきれません。
10校の競争をうたうのはよいのですが、最初から10校以外の高校にハンデを背負わせるような競争、10校の中でも文理学科に属さない生徒のやる気をそぐような競争は、真の競争とはいえません。
今の日本にありがちな、平等な競争であるように見えて実は最初から優劣がついている不公平な競争にならないようにと、心から願うばかりです。
(とは言うものの、どんな制度になろうと子どもたちは自分で跳ね返して伸びていく力を秘めています。頑張れ!大阪の子どもたち!)
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要点は3つ、進学指導特色校(文理学科)の設置、普通科総合選択制高校の後期試験への移動、大阪府教育センター附属研究学校(仮称:現大和川高校)の設置です。
最もインパクトの大きい、進学指導特色校(文理学科)についてまとめてみました。
進学指導特色校(文理学科)とは
橋下大阪府知事が主導する改革の一環として、公立高校のうち上位進学校10校を進学指導特色校(文理学科)に指定し(ちまたでは公立トップ10などと略称されています)、府内全域から成績優秀者を集めて大学進学実績を競わせるものです。
大阪府教育委員会の発表内容
(1)10校間の切磋琢磨ときめ細かな進学サポートを目的とする。
(2)定員の半数を文理学科とし(半数は従前通りの普通科)、文理学科1学年4クラス160名は、前期選抜により府内全域から生徒を募集する。
(3)実施対象校は第1学区の北野・豊中・茨木、第2学区の大手前・四条畷、第3学区の高津・天王寺・生野、第4学区の三国丘・岸和田の10高校。
(4)前期入試(2月23日)で選抜し、試験問題は文理学科のみの独自問題。
入試の配点は国語100点+小論文20点、数学120点、英語120点の360点満点。
調査書の配点は3教科1.5倍、理社3倍、実技教科1.5倍で165点満点。
学力検査と調査書の比率は7:3で、普通科に比べ学力検査を重視。
見通しと問題点
(1)10校指定の意味
現在大阪府内では、理数科(定員80名)のある大手前高校、天王寺高校の2校が最難関校です。
世間の噂では、「北野高校出身の橋下知事が、北野の大手前・天王寺超えを意図して企てた」などと言われています(あくまで世間の噂です)。
私がちょっとだけ心配しているのは、10校に入らなかった2番手、3番手校の先生たちの「やる気喪失」です。
このレベルの高校に進む子たちは素直で努力家で、ほんとに『いい子』が多いのに・・・。
この子たちを伸ばしきれなかったら、あまりにも、もったいない。
10校だけでなくて、どこの高校の子もみんなが頑張れるような政策を!というのは夢物語なんでしょうかね。
(2)4クラス160人、前期試験の意味
例えば、今春の高津高校の偏差値は66でした。来春前期試験の文理学科入試における偏差値は、府内全域から「だめもと」で受験する生徒も含めて相当な高倍率になるでしょうから、2〜3ポイント上昇するのではないかと予想します。
ところが学年全体のクラス数は8クラス320人ですから、残りの160人は普通科で、後期試験での選抜になります。
こちらは「後がない入試」なので、受験生も確実に合格できる高校を受験するはずです(10校の後期入試の募集定員は160名、10校以外の募集定員は倍の320人であり、前期に文理学科を受験し不合格になった受験生のうちの相当数は、確実な合格を求めて、10校以外に流出する可能性が高い)。そうなると、前期とは比較にならないくらいに低倍率の入試となってしまいます。
後期試験の偏差値は、今春の入試と比較してよくて現状維持、下手をすると1〜2ポイント低下するのではないでしょうか。
同じ高校の中に、山の形をした正規分布ではない、ふたこぶらくだ型の成績分布の生徒が存在することになるわけです。
文理学科と普通科で先生も完全に分離されるのであれば、それはそれで普通科の子たちは差別されていると感じるでしょうし、同じ先生が教えるのであれば普通科の授業で嫌味を言ったりなんてことが予想されますし、いろいろな弊害が予想されます。
(3)入試科目と配点の意味
大阪府の入試問題の特徴として、国語はほとんど差がつきません。
そうすると、小論文の20点が大きな意味を持ってきます。
小論文ではない、いわゆる作文を書いてしまうとほとんど0点です(現在小論文を入試で課している総合学科の先生がそうおっしゃっています)。
ということは、しっかりした小論文対策が必要になってくるわけです。
英語も、前期試験を受験するようなレベルの子たちだと、ほとんど差がつきません。
その分、英語が多少でも苦手な子は、早々と合格圏外にはじき出されてしまう危険性が高くなります。
結局、合否は数学で決まるというところに落ち着きそうです。
ところが、ちょっと問題が易しいと、このレベルの子たちのほとんどは満点120点中の110点前後に集中してしまいますし、少しでも難しすぎると今度は確実に解ける問題を解いた結果の90点くらいに収斂してしまって、いずれにしても、高校の要望に反して、比率が低かったはずの調査書、内申で決まるという可能性も残ってしまいます。
確実に合格するための対策としては、数学を早めに仕上げて超得意科目にしておくことと、ずば抜けた内申を持って入試に臨むことの2つが肝要だといえると思います。
結論
塾としては、塾内の「よくできる子」を確実に文理学科に合格させる力が塾に備わっているかどうかが問われるようになります。
そのこと自体は、塾の教育力を高める方向に働きますから、塾としては大阪府の今回の改革は歓迎すべきものです。
しかし、塾の人間ではなくて一人の大阪府民として考えたときには、本当にこれでよいのかという危惧の念をぬぐいきれません。
10校の競争をうたうのはよいのですが、最初から10校以外の高校にハンデを背負わせるような競争、10校の中でも文理学科に属さない生徒のやる気をそぐような競争は、真の競争とはいえません。
今の日本にありがちな、平等な競争であるように見えて実は最初から優劣がついている不公平な競争にならないようにと、心から願うばかりです。
(とは言うものの、どんな制度になろうと子どもたちは自分で跳ね返して伸びていく力を秘めています。頑張れ!大阪の子どもたち!)
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