親の形質(形や性質)が子に伝わることを遺伝といいます。形質を伝えるのは、細胞のの中の染色体に含まれる遺伝子です。
染色体はタンパク質デオキシリボ核酸(DNA)からできており、デオキシリボ核酸(DNA)が遺伝子の正体です。

(染色体の数は生物によって決まっており、ヒトは46本、チンパンジーは48本、エンドウは12本、アメリカザリガニは200本です。)


無性生殖

雄・雌を必要とせず、1個の個体から新たな個体を生み出すのが無性生殖です。分裂(アメーバやミドリムシなど)・胞子形成(シダ植物やコケ植物)・出芽(ヒドラは体の一部が分かれて新しい個体になる)・栄養生殖(ジャガイモの塊茎やオニユリのむかご)があります。

同じ遺伝子をもった細胞が分裂して新しい個体になるので、子は親とまったく同じ遺伝子をもち、同じ形質を保ちます。

植物の無性生殖の場合、同じ品種のものを大量にふやせる、成長が早いなどの利点があります。
いわゆるクローンは無性生殖です(卵の核を取り除き、そこに別の個体の核を移植し出産、親とまったく同じ遺伝子を受け継ぎ、同じ形質が伝わる)。


有性生殖

雄の精子(精細胞)と雌の卵(卵細胞)の核の受精によって子をつくる生殖の仕方です。減数分裂によって親の遺伝子と子の遺伝子の組み合わせが変わるので、親とは違う形質をもった子が生まれます。


減数分裂

通常の体細胞分裂では、染色体の数が2倍になったあと2個の細胞に分裂します。したがって、新しい細胞の中の染色体の数はもとの細胞の染色体の数と変わりません。
ところが、生殖細胞の細胞分裂では、染色体の数はそのままで2個の生殖細胞に分裂します。したがって、新しい生殖細胞では染色体の数はもとの細胞の半数に減ります(減数分裂)。

染色体に含まれる遺伝子は、必ず2つで1対(この1対の染色体を相同染色体という)になっています。例えば、エンドウにはまるい種子をつくるものとしわのある種子をつくるものがありますが、まるい種子をつくるエンドウの細胞は、1つの細胞の中に1対、2個の、まるい種子をつくる遺伝子を持っています。
生殖細胞に分裂する過程で、同じ形質を伝える遺伝子2個が1個ずつ別の生殖細胞に分かれます。
生殖細胞の分裂

左がもとの細胞。
右が減数分裂した生殖細胞。






それぞれ、遺伝子が半分に減った雄の精細胞と雌の卵細胞が受精によって合体し、もとの親の細胞と同じ数の遺伝子をもった受精卵ができることになります。
遺伝子の数は変わりませんが、遺伝子の組み合わせが変わるので、子は親とは別の形質をもつようになります。


メンデルのエンドウを使った実験

19世紀半ばの人、メンデルは、エンドウを使った実験で遺伝の仕組みを研究し、メンデルの法則を発見しました。
エンドウがもちいられたのは、エンドウが自家受粉をすること(同じ花の中で受粉する)、対立形質(まるい種子をつくるかしわの種子をつくるかなど)の区別が容易であること、からです。
メンデルは7つの対立形質について調べたとされていますが、この稿では、わかりやすいように、まるい種子ができる形質としわのある種子ができる形質とにしぼって話を進めます。

メンデルの実験によると、まるい種子のできる純系のエンドウと、しわのある種子のできる純系のエンドウとをかけ合わせたとき、の世代(雑種第1代)では、すべてのエンドウがまるい種子をつくるエンドウでした。
ところが、子の世代(雑種第1代)の、まるい種子をつくるエンドウで自家受粉をおこなうと、孫の世代(雑種第2代)では、まるい種子をつくるエンドウと、しわのある種子をつくるエンドウとが、3:1の割合で出現しました。

その理由は、次のように理解することができます。


の世代(雑種第1代

減数分裂大文字のAは、まるい種子をつくる遺伝子を含んだ染色体です。もとの細胞には2個1組の相同染色体として存在します。

小文字のaは、しわのある種子をつくる遺伝子を含んだ染色体です。もとの細胞には2個1組の相同染色体として存在します。

それぞれの細胞は、生殖のとき、減数分裂によって、2個のうちの1個の染色体だけをもつ生殖細胞に分かれます。

図からわかるように、まるい種子をつくる親のエンドウと、しわのある種子をつくる親のエンドウとを受精させてかけ合わせるとき、4つの組み合わせができます。

A1とa1、A1とa2の組み合わせと、A2とa1、A2とa2の組み合わせの4種類です。

組み合わせの種類

表組み合わせ










できる受精卵

できた細胞対立形質をもった純系の親をかけ合せたとき、の世代(雑種第1代)では対立形質のうちの一方しか現われないことがあります。
この形質を優性といいます。
染色体には遺伝子が含まれているものの、優性の遺伝子が同じ核の中にあると現われてこない形質のことを劣性といいます。

エンドウの場合、まるい種子をつくる形質は優性、しわのある種子をつくる形質は劣性です。
図で表すとき、優性は大文字で、劣性は小文字で表すきまりです。私の説明では、さらにわかりやすいように、優性(まるい種子)を赤色、劣性(しわの種子)を青色にしました。

図の4種類の受精卵を見たらわかるように、の世代(雑種第1代)のエンドウは4種類ともすべて、優性と劣性の遺伝子を持っています。この場合、優性の形質しか出現しません(優性の法則)。
したがって、子の世代(雑種第1代)では、まるい種子をつくるエンドウしか出現しません。


の世代(雑種第2代

次に、子の生殖細胞どうしが自家受粉によって受精した場合を考えてみましょう。

子の減数分裂子の生殖細胞の減数分裂は左図のようになります。






















この4個の生殖細胞の組み合わせが下の図です。

子の遺伝子の組み合わせ表孫のできた細胞











優性(大文字・赤色)の遺伝子をもった受精卵からは優性の形質しか発言しませんから、4個の組み合わせのうち3個はまるい種子をつくるエンドウになります。
1個の受精卵だけが優性の遺伝子を持たない、劣性の遺伝子だけをもつ細胞です。この1個だけがしわのある種子をつくるエンドウになります。

これで、の世代(雑種第2代)では、まるい種子をつくるエンドウと、しわのある種子をつくるエンドウの比が3:1、つまり優性と劣性の発現する比が3:1であることが説明できます。


重要語句

最後に、遺伝の分野の重要語句をまとめておきます。

形質・・・生物の形と性質の特徴。

遺伝・・・形質が親から子に伝わること。

対立形質・・・対立遺伝子によってもたらされる、1個の個体の中で両立しえない形質のこと。エンドウの場合、まるい種子ができる形質としわの種子種子ができる形質、子葉の色が黄色か緑色か、豆の入ったさやの形がふくれているかくびれているかなどが対立形質の例。

純系・・・対立形質のうちの一方の遺伝子しかもたない生物のこと。対立する形質をもった生物との間に受精がおこなわれない限り、子孫にはその形質しか現われない。

優性(優性形質)・・・対立する形質を持った純系の親どうしをかけ合せたとき、雑種第1代に出現するほうの形質。雑種第1代には優性の形質しか現われない(優性の法則)。

劣性(劣性形質)・・・対立する形質を持った純系の親どうしをかけ合せたとき、雑種第1代では隠れてしまって現われない形質のこと。

減数分裂・・・染色体の個数が半数に減る、生殖細胞だけがおこなう特別な細胞分裂のこと。

分離の法則・・・同じ形質を伝える2個で1対(1組)の遺伝子は、生殖細胞ができるとき別々に分離し、生殖細胞の中にその1個だけが入ること。


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