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勉強をしている子どもたちが、悩み、知りたい、理解したいと思いながら、今までは調べる方法がなかった事柄を、必要かつ十分な説明でわかりやすく記述したサイトです

還元

science イオン化傾向と酸化・還元、電池

なぜ鉄はさびやすく金はさびないのか、なぜ亜鉛板と銅板を電解質の水溶液に入れると亜鉛板が陰極で銅板が陽極の電池になるのか、中学理科の範囲だとその理由までは習いません。

「なぜ」を習わないままに結果を暗記してもよいのですが、「なぜ」が気になる人もいるでしょう。

この稿では、『イオン化傾向』についてまとめることで、その「なぜ」を解明したいと思います。


イオン化傾向とは

金属は、−の電気を帯びた電子を手ばなして、+の電気を帯びた陽イオンになります(イオンについてはこちらを参照)。
金属には陽イオンになりやすい金属と陽イオンになりにくい金属があり、陽イオンへのなりやすさのことをイオン化傾向といいます。

イオン化傾向を、陽イオンになりやすい順に並べると次のようになります。

K>Ca>Na>Mg>Al>Zn>Fe>Ni>Sn>Pb>(H)>Cu>Hg>Ag>Pt>Au

Kカリウム>Caカルシウム>Naナトリウム>Mgマグネシウム>Alアルミニウム>Zn亜鉛>Fe鉄>Niニッケル>Snスズ>Pb鉛>(H)水素>Cu銅>Hg水銀>Ag銀>Pt白金>Au金

重要なのでいろいろ覚え方が考案されてきたのですが、私は次の覚え方を気にいっています。

貸そうかな、まあ、あてにするな、ひどすぎる借金

Kそう>Ca>Na>Mg>Al>Zn>Fe>Ni>Snる>Pb>(H)>Cu>Hg>Agる>しゃっPt>きんAu

水素は英語でhydrogenハイドロジェンなので「ひ」です。
水素は金属ではありませんが、陽イオンになる代表的な元素のひとつであり、イオン化傾向がからんでくる分野で重要なので、イオン化傾向の暗記の列に加えます。


イオン化傾向を調べる実験

銀イオンをふくんでいる硝酸銀水溶液の中に、銅を入れます。
イオン化傾向
しばらくすると、銅のまわりに銀色の物質が付着し、水溶液は青色に変化します。

銅のまわりに付着した銀色の物質は銀です。

水溶液が青色に変わるのは、銅が青色の銅イオンにかわり、水溶液に溶けたためです。

銅は電子を放出して銅イオンになります。
銅→銅イオン+電子
銅の電離


銀イオンは銅が放出した電子と結びついて銀になります。
銀イオン+電子→銀
銀の析出


銅が電子を手ばなして銅イオンにかわり、銀イオンが電子を受け取って銀にかわったのは、銅のほうが銀より陽イオンになりやすいからです。
つまり、イオン化傾向が銅>銀だからです。

同様に、銅イオンをふくむ青色の硫酸銅水溶液に鉄を入れると、鉄の表面に銅が付着し、青色であった硫酸銅水溶液は鉄イオンが溶けたために鉄イオンの色である緑色にかわります。
鉄のほうが銅より陽イオンになりやすいのです。
イオン化傾向は鉄>銅ということになります。

イオン化傾向の小さい金属のイオンをふくむ水溶液に、イオン化傾向の大きい金属を入れると、イオン化傾向の小さい金属のイオンはイオンであることをやめて金属になって付着します。イオン化傾向の大きい金属はイオンになって水溶液に溶けます。


イオン化傾向と酸化や還元などの化学反応

イオン化傾向が大きい金属ほど空気や酸や水と反応しやすいといえます。


金属と空気の反応

イオン化傾向のきわめて大きいカリウム〜ナトリウムは、加熱しなくてもすぐに空気中の酸素と結びつき酸化されます。

次にイオン化傾向の大きいマグネシウム・アルミニウムは、加熱すると酸化されます。

亜鉛〜水銀は、高い温度で加熱すると酸化されます。

イオン化傾向の小さい銀〜金は酸化されません。

K>Ca>Na・・・加熱しなくても酸化
Mg>Al
・・・加熱すると酸化
Zn>Fe>Ni>Sn>Pb>(H)>Cu>Hg
・・・高温で加熱すると酸化
Ag>Pt>Au
・・・酸化しない



イオン化傾向が大きい=酸化されやすいということは、イオン化傾向が大きい=還元されにくいということです。


さらに、空気との反応以外の例として、イオン化傾向の大きいマグネシウムやアルミニウムなどの金属は、酸化物にふくまれている酸素と結びつき容易に酸化されます(酸化と同時に還元がおこるので、酸化物のほうは酸素をうばわれて還元されます)。

例えば、二酸化炭素に火をつけたマグネシウムを入れると、イオン化傾向の大きいマグネシウムは二酸化炭素にふくまれる酸素と結びついて酸化マグネシウムにかわり、二酸化炭素は酸素をうばわれて炭素にかわります。


金属と酸との反応

とは水素イオンをふくむ化合物であり、イオン化傾向が水素より大きい金属であるカリウム〜鉛を酸に入れると金属は陽イオンに変わり、酸の水素イオンは陽イオンであることをやめて気体の水素になって出てきます。

K>Ca>Na>Mg>Al>Zn>Fe>Ni>Sn>Pb・・・酸に入れると水素を発生
>(H)>
Cu>Hg>Ag>Pt>Au
・・・酸に入れても水素を発生しない



中学生は以上の原則を知っていたらそれで充分ですが、実際に酸に金属を入れたときの反応は次のようになります。

イオン化傾向の大きいカリウム〜鉄は、うすい塩酸や硫酸と反応して水素を発生します。

ニッケル〜鉛は、うすい酸とはほとんど反応しません。

銅〜銀は、硝酸や熱した濃い硫酸とだけは反応して溶けます。

白金と金は、濃い硝酸と濃い塩酸を1:3の割合で混合した王水とよばれる混合液とだけ反応して溶けます。

K>Ca>Na>Mg>Al>Zn>Fe・・・うすい塩酸や硫酸と反応し水素を発生
Ni>Sn>Pb
・・・うすい塩酸や硫酸とは反応しにくい
Cu>Hg>Ag
・・・硝酸と熱した濃い硫酸とだけに反応
Pt>Au
・・・王水とのみ反応



金属と水との反応

イオン化傾向の大きいカリウム〜ナトリウムは、水と激しく反応して水素を発生します。


イオン化傾向と電池

うすい塩酸や硫酸に、導線で結ばれた2種類の金属板を入れたものが化学電池です。

うすい塩酸に導線でつないだ亜鉛と銅を入れたときを考えてみましょう。

イオン化傾向が大きい亜鉛は電子を手ばなして亜鉛の陽イオンにかわり、塩酸に溶け出します。
電子は導線を通ってイオン化傾向が小さい銅のほうへ移動します。
塩酸にふくまれている陽イオンの水素イオンは銅から電子を受け取って気体の水素になって銅の表面に付着します。
亜鉛と銅の化学電池


















亜鉛から導線を通って銅に移動する電子の流れが電流です。
「電子が−極(陰極)である亜鉛から+極(陽極)である銅に移動する」ことを、「電流は+極(陽極)の銅から−極(陰極)の亜鉛へ流れる」といっているのです。


最初に電池をつくったのはボルタです(電圧の単位ボルトはボルタに由来)。
ボルタのつくった電池は、うすい硫酸に亜鉛板と銅板を入れたものでした。


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science 還元

還元

中学理科の範囲では、酸化物酸素をうばわれることを還元といいます(高校範囲では還元の意味が広がりますが、この稿ではふれません)。

自然にある鉱石から金属を取り出す過程で還元を利用します。

鉄は鉄鉱石から取り出します。
赤鉄鉱や磁鉄鉱などの鉄鉱石は酸化鉄のかたまりです。
製鉄所は、酸化鉄である鉄鉱石を炭素のかたまりであるコークス(石炭を蒸し焼きにしたもの)で還元して鉄を取り出す工場です(理科と社会に関係する興味深い記事『鉄鋼製造について』がこちらにあります)。

銅は銅鉱石(黄銅鉱や赤銅鉱)から取り出しますが、鉄より複雑な工程を経てつくられます(黄銅鉱の場合、溶錬炉で硫化銅を取り出し、硫化銅の硫黄分を酸素で取り除き、最後に電解精錬で純度の高い銅になります)。


中学範囲の理科では、化学反応式の簡単な銅を中心に還元を学びます。

酸化銅の還元

酸化銅の炭素による還元

酸化物酸素をうばわれるのが還元です。

酸化銅から酸素をうばうには、銅より酸素と結びつきやすい物質をもちいます。

炭素は、銅より酸素と結びつきやすい物質です。

酸化銅炭素の混合物を試験管に入れて加熱します。

還元の実験
同じ量の酸化銅と木炭(炭素)を乳鉢(にゅうばち)でよく混ぜたものの試験管に入れて加熱します。

試験管の口のほうを下げて(混合物のあるほうを上げて)加熱します。
発生した水で試験管が割れるのを防ぐためです。(この実験の場合、木炭に含まれていた水分が出てくるおそれがあるからと説明されますが、試験管が割れるほどの水が発生するのか、疑問が残ります。)

気体の発生がとまると、ガスバーナーの火を止めますが、必ず石灰水の入っている試験管をガラス管からはずした後、火を止めないといけません。
そうしないと、石灰水がガラス管を逆流して加熱していたほうの試験管内に入ってしまい、試験管が割れるおそれがあるからです。

また、火を消したら、ガラス管をつないでいたゴム管をピンチコックで閉じます。
還元された銅が、空気中の酸素と結びついて再び酸化銅になるのを防ぐためです。

黒色酸化銅は、赤かっ色に変わります。

発生する気体を石灰水に通すと石灰水が白くにごるので、二酸化炭素ができたことがわかります。

酸化銅+炭素→銅+二酸化炭素

酸化銅は酸素をうばわれてに変わります(還元)。

炭素は酸素と結びついて二酸化炭素になります(酸化)。

酸化銅の還元
酸化と還元は逆の反応(酸素と結びつくか、酸素をうばわれるか)ですが、還元がおこなわれているときには必ず同時に酸化がおこっています(酸化還元反応といわれる)。



化学反応式とモデル

酸化銅+炭素→銅+二酸化炭素を化学反応式で書くと次のようになります。

化学反応式炭素原子1個と酸素原子2個が結びついて二酸化炭素ができるので、1個の炭素原子に対して2個の酸化銅が必要です。

原子のモデルをもちいて書くと次のようになります。

モデル化学反応式2CuOの、前の2は酸化銅CuOが2個あることを表しているので、モデル図を書くときは酸化銅2個を上下に離して書きます。
銅原子が2個あることを表している2Cuも、モデル図では銅2個を上下に離して書きます。


酸化銅の水素による還元

水素も銅より酸素と結びつきやすい物質なので、水素をもちいて酸化銅を還元することもできます。

酸化銅を太いガラス管に入れて、ガラス管の左側から乾燥剤(塩化カルシウムなど)を通した水素を送り込みながら加熱すると、黒色の酸化銅が赤かっ色のに変わることを確かめることができます。
このとき、ガラス管内に液体がつき、塩化コバルト紙をあてると青色から赤色に変わるのでができたこともわかります。

酸化銅+水素→銅+水

酸化銅は酸素をうばわれてに変わります(還元)。

水素は酸素と結びついてになります(酸化)。
水素による還元








化学反応式2水素分子は2個の水素原子が結びついており、水素原子2個と酸素原子1個で水ができるので、酸化銅1個と水素分子1個で銅原子1個と水分子1個ができることになります。

モデル2科学反応式のH2の後ろの2は、水素原子2個が結びついて1個の水素分子ができていることを表しているので、モデル図では2個の水素原子をくっつけて書かないといけません。


炭素水素のように、酸素と結びつきやすく、酸化物から酸素をうばうのに使われる物質を還元剤といいます。


酸化鉄の炭素による還元

製鉄所では、高炉酸化鉄(赤鉄鉱、磁鉄鉱)をコークス(石炭を蒸し焼きにしたもの、おもな成分は炭素)と混ぜたものに熱風を送り込んで加熱し、鉄(銑鉄せんてつ)を取り出します。
不純物を取り除くために石灰岩も加えて加熱します。
その後、転炉でさらに不純物を取り除いて鉄鋼にします。

酸化鉄+炭素→鉄+二酸化炭素

酸化鉄の還元








酸化鉄には何種類かあり、このときの化学反応式も複雑なので、中学理科の範囲では酸化鉄の還元の化学反応式やモデル図は出題されません。


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