Armonia

Armonia Projectでは5人の少女達が主役の合唱をテーマにした物語を作っております。 ぜひぜひ読んでみてください!

Armonia Projectと申します!

このプロジェクトは、『Armonia』という創作合唱物語を作ろうという目標の元活動しており、以下にあらすじとキャラクターの紹介を記載します。

あらすじ
舞台は合唱弱小県、山形県のとある市。
主人公の和音は中学生の時に合唱が好きになり、高校では合唱部に入りたいと思うが、近くに合唱部がある高校がないと知る。
そこで、和音はある高校に進学し、自分が合唱部を作ろう!と決意するが……?

「若菜ちゃん、大丈夫?」

 第二音楽室に来てから三度鼻をかんだ若菜に少し心配そうに尋ねる和音。

「ああ、風邪でも花粉症でもないんだけど、どうしてもこの時期は鼻がむずむずするんだよなあ」

 ティッシュの減りを気にしながら若菜はずらしたマスクを口元に戻す。

「そうなんだ。クラスでも花粉症っぽい子いるよね」

「そうだな。授業中に鼻をかむ音がするとちょっと笑いそうになるよな。あと、普段眼鏡かけてない人がかけてたりして、なんか新鮮だよな」

「だねー。そういえば、心春ちゃんって授業中は眼鏡かけてるんだよね?」

「はい。そうでないと文字がぼやけて読みづらいので」

 話を振られ、スマホから一旦目を離す。

「でも部活の時とかにはあんまりかけないのはどうして?」

「お二人にはまだ話していなかったですね。実は――いえ、やめておきます」

 そう言って再びスマホに視線を落とす。

「えー、気になる!」

「やめとけ和音。どうせくだらないから」

「くだらないとは失礼な。そこまで言われて黙っていられる私ではありません。実は、私は眼鏡をかけると色々なものが見えるようになるのです」

 若菜の言葉に鼻息を荒くする心春だったが一転、含みのある口調で淡々と話し始めた。

「色々なもの……?」

 好奇と少しの恐怖を覗かせた瞳で和音が復唱する。

「空気中の細菌や、人の悪意などですね。あまり気分が良いものではないので普段はかけないようにしているのですが」

「やっぱりくだらないじゃないか。どうせまたアニメか何かの影響だろ?」

 予想通りの答えにため息をついて一蹴する。

「菌が見えるって作品あったよねー。実写化もされてたっけ」

「まあ若菜さんは眼鏡をかけずとも悪意に満ち満ちているのがよくわかりますが」

「そうか、それならこれから私が何をするかもわかるよな?」

 黒い笑みを浮かべて徐に立ち上がる若菜。

「……逃げるです! うわっ――」

 出入り口に向かって走り出した心春だったが、タイミングよく入ってきた菫にぶつかり抱き止められた。

「あらら、こはるちゃんから抱きついてくれるなんて感激だわあ!」

「違うです! ぶつかっただけです!」

「はは、自業自得だな。って、菫先輩、その眼鏡どうしたんですか?」

 普段は何もない目元に赤い縁の眼鏡がかけられていることに気付き驚く若菜。

「えへへ、昨日さやかと一緒にお買い物してた時につい買っちゃったの」

「そうなんですね、似合ってます!」

「とってもかわいいです!」

 和音からも褒められ、心春を抱く腕に力が入る菫。

「……度は入っていないから伊達なのだけれどね」

「今、なんと?」

 心春がひどく冷たい声で聞き返すと、菫は恐る恐るその名を呼んだ。

「こはるちゃん……?」

「……伊達って言ったわよ」

 意に介さない様子で紗耶香が答えると、心春の様子が豹変した。

「眼鏡はファッションアイテムではありません! 矯正具です! 目が悪い人がかけるからこその良さがあるのです! うっかり家に忘れて目つきが悪くなったり、ここぞという場面であえて外すことで覚醒したりするのは王道ですよ!」

「ご、ごめんね?」

「……ただのあなたの好みじゃない」

 勢いにたじろいだ菫から少し離れ、制服を整えながら心春は再び口を開く。それとなく菫から視線を外して。

「とはいえ、私も推しキャラが眼鏡をかけているグッズが出たら買いがちですし、気持ちはわからないでもないです。似合ってなかったらもっと怒ってたところですが、今日のところはこれくらいで勘弁してあげるです」

「それって……!」

「……素直じゃないわね」

「こはるちゃん大好き! ぎゅーっ!」

「前言撤回です! 即刻外すです! 離れるです!」

 もみくちゃになりながら叫ぶが、その願いが届くのはしばらく後のことだった。

「和音さん、若菜さん、今度Nコンの予選を見に行きませんか?」

 とある日の練習前。心春の発言に和音は首を傾げ、若菜は訝しんだ。

Nコンってまだ二ヶ月も先じゃない?」

 和音の指摘のとおり、合唱同好会が出場を目指すNコンの予選は八月で、今は六月である。

「さては、また何か企んでるな」

「まあまあ、行ってみてのお楽しみということで」

 なぜか得意げにしている心春に、和音は笑みを浮かべた。

「三人でおでかけできるなら私はなんでも楽しいよ」

「たまには心春の悪巧みに付き合ってみるか」

 溜息をつきながら若菜も頷く。和音の純粋な瞳や、まっすぐな言葉に若菜は時折自身を省みる。

「ありがとうございます。それでは詳しいことは後ほどメッセージで送りますので」

 

◇ ◇ ◇

 

「ここが会場です」

 三人が訪れたのは、山形県生涯学習センター遊学館。ホールに加えて七つの研修室と学習室、ギャラリーを持つ総合学習施設である。

「「『NHK杯全国高校放送コンテスト』?!」」

 会場内の案内を見た和音と若菜は驚きに声をあげた。心春が頑なに詳細な情報を教えようとせず、検索することも禁じたため、二人は何も知らずに待ち合わせ場所からここまで連れてこられた。

「はい、合唱以外にもNコンはあるんですよ」

 アナウンス・朗読・ドキュメント・ドラマの審査部門がある大会で、今日は山形県予選が行われる。アナウンス部門では自校のニュースなど、校内放送で使用する原稿を自作し発表する。朗読部門では大会側に指定された五作品から一つを選んで朗読する。ドキュメント部門では偽りさえなければ基本的に内容は自由にドキュメントを制作・発表する。ドラマ部門で自校の生徒のみが出演するオリジナルドラマを。また、ドキュメントとドラマはそれぞれテレビとラジオに分類され、参加者はどちらかを選ぶ。

「こんな大会があるなんて知らなかったなあ」

「どうせ心春のことだからアニメが関連しているんだろ?」

「ご名答ですが、その言い方は少々引っかかりますね。私がいつも漫画やアニメを引用しているとお思いで?」

 眉をひそめ、目を細めて若菜を見る。

「流石にそこまでは思ってないけど、多いとは思っているな。不快にさせたならごめん」

「いえ別に。まあお察しの通り最近みたアニメで知りました」

 あっけらかんと言う心春に、若菜は拍子抜けしてがくりと肩を落とす。

「やっぱりそうじゃないか……」

「調べてみたら大会があるとのことなのでせっかくならと思い」

「そうなんだね」

 三人は観覧席につき、開会を待つ。

 しばらくして朗読部門の発表が始まり、ある学校が選んだ詩に心春は目を輝かせた。

「……これは『ゲシュタルトの祈り』! 声優の金澤花菜さんが主演と主題歌を務めた映画に登場した詩ですね。正直映画としての面白さには首を捻るところがありますが、金澤さんの可愛さや実写での演技という貴重な映像を堪能できるという点では高評価ですね」

 極力周囲の迷惑にならないよう小声でまくしたてた。

「後で聞いてやるからとりあえず静かにな」

 若菜にたしなめられ、少し不服そうにしながらも口を閉じた。

 

◇ ◇ ◇

 

 全ての部門が終了し、会場の外に出た三人は思い思いの感想を口にした。

「すごかったね! 朗読が始まると一気に作品の世界に引き込まれる感じがしたよ」

「確かにそうだな。私はドラマが一番印象に残ったな。同じ高校生なのに、あんなに本格的な映像が作れるなんてって」

「そうでしょう、そうでしょう」

「どうしてお前が嬉しそうなんだよ」

「まあいいじゃないですか。ともかく、お二人に楽しんでいただけたようでなによりです。私もアニメで見たような光景を実際に見られて楽しかったです。それにしてもあの学校、『ゲシュタルトの祈り』をチョイスするとは中々やりますね。結果は残念でしたが、印象に残るという面では私の中では一番でした」

「私たちのNコンも、そうなるといいな」

「何を言っているですか若菜さん。フリー参加とはいえしっかり爪痕を残して一日でも早く同好会から部へ昇格するですよ。明日の練習はもっと厳しくいきますから覚悟するですよ」

「げっ、余計なこと言っちゃったな」

 顔をしかめて肩を落とす若菜。

「頑張ろうね、若菜ちゃん」

「和音さんもまだまだ伸びしろあるですから、ビシバシいくですよ」

「う、うん!」

 緊張の色を浮かべながらも、伸びしろがあるといわれたことが嬉しく、頬が緩む和音。心春もまた、心なしか楽し気な声だった。

「ねえ、またみんなでお出かけしようね!」

「そうだな」

「考えておきます」

 帰りの電車を待つ間、和音はずっとにこにこしていた。

 その翌日。遂にNコンに備えての練習が出来るからと大なり小なり胸を躍らせていたはずの同好会メンバーは、放課後の静まり返った第二音楽室で言葉を失っていた。
「すみません遅くなっちゃって——えっ何これ、どういう状況」
「ああ、るい……お疲れ、日直の仕事だっけ」
 駆け足で扉を開けて飛び込んできたるいに、若菜が声をかけた。けれどその声は、ひどく参った様子だった。
「いやそれより、何でみんなこんなに絶句してるのよ」
「まあそう思うよな。とりあえず、聴いてくれよ……」
 若菜の言葉から一瞬遅れて、心春は再び一つの合唱曲を再生した。
 始まってしばらくは弾むような歌声が響き渡る、そんな楽しげな曲だったが、一分半を過ぎた辺りから突然ラップのようなパートが入り、手拍子や笑い声といった仕草も交えて展開していった。この曲が、同好会メンバーの頭を悩ませるものだった。
「ええと、これって——」
「課題曲なんだってさ、今年の」
 若菜の説明に納得したのか、るいも「確かに……」と小さく声を漏らす。そんな雰囲気を変えようとしたのか、菫が手を叩いて明るく振る舞った。
「で、でも! 素敵よね、新鮮だし」
「……確かに、良い曲とは思うのだけど。やっぱりこれが課題曲というのは……受け入れるにももう少しかかりそうだわ」
 一方で菫と並ぶ経験者の紗耶香も、既に一度聴いている立場からの戸惑いを口にしていた。しばらくして心春が段取りを話し出したが、その声にも始まる前から疲れが窺えた。
「まあとにかくやらないとですね、改めて聴いてみましょう。まずは自分のパートを覚えて歌うイメージを掴むところからです」
 菫が注文しておいた楽譜をるいにも手渡した後、心春は再び曲を再生した。その後、この『僕が僕を見ている』という曲を合唱する上で注意すべき箇所についても、心春の口から語られた。
「ソプラノはやはりあのロングトーンがポイントですね」
「九小節……まあ、長いのは確かね」
「い、いけるんですか、菫先輩? 私一二秒が限界で」
 特に問題とは感じていない様子の菫に、不安を訴えた和音。心春はそれを聞き逃がさず、すぐさま課題を突き付けた。
「一息で一五秒、ひとまずそれが目標です。あとは息継ぎしてもそれがばれないように、二人で声の大きさを調節できれば」
「そうね……私は大丈夫だから、任せてかずねちゃんっ」
 最初は気後れしていた和音だったが、菫の言葉に安心したようで小さく頷く。
「う、うん!」
「その意気です、せっかく申し込んだ念願の舞台ですから。それと次は、ラップですが——」
 和音の返答を確認して更に続けようとした心春だったが、その声は少しずつ尻すぼみになっていく。その場にいたメンバーが不思議がって首をかしげる中、ただ一人勘繰りを入れる声があった。
「……まさか、提出し忘れていないでしょうね。申請書」
 それに対してすぐ応えられず、沈黙する心春。紗耶香の指摘は、どうやら図星のようだった。
「す、すみません。ちょっと失礼します」
 慌てて壁際の鞄から用紙を取り出し、第二音楽室を飛び出していった心春。それを眺めながら、紗耶香は静かに呟いた。
「……手遅れになる前で、まあ良かったのかしらね」

 申請書を生徒会室まで持って行った心春は、第二音楽室に帰ってきた後何事もなかったかのように練習を再開しようとしていた。
「さて、課題曲のポイント二つ目、ソロのラップについてですが──な、何ですか先輩」
「……別に何でもないわ」
 口に出さないだけでその迂闊さを問いただしたがっていそうな顔の紗耶香を他所に、当の心春は話を進めていく。
「このラップの担当は、メロディーの都合上メゾかアルトから選ぶことになるんですが」
「……出来れば避けたいところだけど、歌っていれば親しみも湧くのかしらね」
「これ、つまり一人で歌うんだよな……私じゃ流石に……」
 あまり乗り気にはなれない紗耶香と、自信を持てていない若菜。二人の反応に心春は物申して返した。
「確かに、私からしても挑戦的なパートです。でもこういうのは、胸を張ってやるものです。笑い声もそうですが、中途半端が一番恥ずかしいですから」
 一番の経験者である心春さえ二人に一定の理解を示したのは、ある意味でその不安を柔らげる反応でもあった。とは言え、裏を返せば共通して越えなければならないハードルに違いない。溜息をつく面々だったが、そこへ更にるいが伴奏をする上での疑問を投げかけた。
「そういえば、指揮がいないけどテンポのコントロールってどうするの?」
 テンポの変化が数ヶ所にある曲なだけにもっともな問いだったが、考えが至らなかったようで答えに詰まる心春。するとそれに気づいた菫が助け船を出した。
「るいちゃんは自分でテンポを決められたほうが良い? それとも指示があったほうが良いかしら。私は伴奏に歌を合わせるほうがやりやすいのだけど」
「そうですね、私もそのほうがありがたいです」
 菫がるいと共に主導する中で、ひとまずアカペラの部分以外は歌が伴奏に合わせる形となった。そうして話がまとまったところで、一度合わせようと心春が再び音頭を取った。
 心春の合図に従って始まった曲の冒頭はアカペラで、メゾソプラノが歌詞を歌い、ソプラノとアルトはヴォカリーズという母音のみで歌うパート。しかし、少ししてすぐに心春は止めるよう促す。
「ソプラノとアルトが合ってないですよ。これじゃ合わせるのは全然無理ですね」
 厳しめの口調になって指摘する心春の提案で、まずは二パートごとの練習から行うことに。ソプラノとメゾソプラノ、アルトとメゾソプラノ、心春の手拍子とるいが演奏する二パートのメロディーに合わせて慣れていった。
 その後、各パート一人ずつ歌っての練習では、すんなり歌い切った菫と紗耶香に対し、和音と若菜はしばらく繰り返し歌い続けていた。
「和音さんは合っているので自信を持って歌ってください。若菜さんは……まだ音程もリズムも不安定ですね」
 自分のパートを一人で歌うとなると緊張してしまった和音に、るいのサポートを受けて少しずつ上達していく若菜。二人がそれぞれの課題を克服し、これからといったところでその日の下校時刻を迎えた。
「うう、思った以上に時間取っちゃったな……もっと頑張らないと」
「まあそれは否定しませんが、考えすぎても仕方ないですので」
 落ち込む若菜に心春がフォローを入れる。そして和音もまた、そんな若菜を励ました。
「だ、大丈夫だよ若菜ちゃん。もっと頑張ろ」
「和音さん、貴方は自分の心配も忘れずに」
「は……はーい」
 和音が項垂れながら苦笑いするのを、二年生たちも笑顔で眺めていた。課題は山積みながら、それぞれが自分に出来ることをやろうという決意の元、こうして大舞台へ向けた練習の日々が幕を開けたのだった。

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