「今日も雨か……」
 6月になり、山形県の梅雨入りが発表された。天気予報は連日傘マークで、降水確率は100%。それが外れることはなく、今日もこうして朝から雨が降っている。そんな状況に、私は思わず憂鬱な表情を浮かべていた。
「仁美は雨嫌い?」
 そんな私とは対照的に、明るく元気な真里が問いかける。
「まあね……。雨ってだけで気分は落ち込むし、髪がまとまりづらいから大変じゃない」
 私はそう答え、ため息をつく。心なしか、傘を持つ手すらも気だるく感じる。
「というか、私に限らなくても大体の人は雨嫌いだと思うけど」
「そう? 私は雨好きだよ」
 小首を傾げ、さながら太陽の様に微笑む。
「あなたは特殊なのよ、色々と」
 呆れたと言う様に首を振り、少し遠い目をする。
「なんか、さらっと酷いこと言われた気がするんだけど」
「気のせいよ」
「そっか、じゃあいいや」
 私の皮肉を大して気にしていない様子で真里は軽く受け流した。そして、水たまりを踏み、こう続けた。
「雨の音もさ、音楽だと思うんだよね。雨の強さによって音は変わるし、屋根に当たったり、傘に当たったり、水たまりを踏んだり、物や動作によっても音は変わる。時々雷が鳴って、音が一気に引き締まる。そうやって一つの音楽になる。だから私は雨の日も好きなんだ」
「そう……。面白いこと考えるのね」
 真里はいつも私が思いもよらない言動をする。部員の居ない音楽部に入部しようとしたり、それに友だちを巻き込んで入部させたり、半分くらいはとんでもないことなんだけど、もう半分は心から尊敬している。それを本人に伝えたことはないけれど。
「それに、雨って、私と仁美みたいだなって思うんだよね。土砂降りの雨みたいに突っ走る私を、傘みたいに仁美は必ず受け止めてくれる。仁美が受け止めてくれるってわかってるから私は突っ走れる。仁美、いつもありがとう」
 思いがけない言葉に胸の奥が熱くなった。涙をどうにか堪えて、深呼吸をしてから返事をする。
「突っ走ってる自覚があるなら、もう少し頻度かスピードを落としてくれると嬉しいんだけど……。まあ、そんなこと言っても聞く訳ないのはわかってるから、好きなだけ突っ走りなさい。骨は拾ってあげるから」
 振り回されてばかりだけど、それも案外悪くないかも、なんて。
「それじゃあ、今日の放課後は体育館に乗り込んでゲリラミニコンをしようよ!」
「ダメに決まってるでしょ!」
 前言撤回。これだから真里は目が離せない。良くも悪くも退屈しなさそうね。